ビッグデータは「原因」ではなく「関係」を導き出す

ビッグデータの正体」を読みました。この本で注目すべきメッセージとして「因果関係より相関関係の方が重要視されるようになるだろう」という点があります。

 

因果関係というのはAが起こるからBが起こる、という事象を説明できるもので、相関関係というのはAが上がるとBが上がる、あるいはBが上がるとAが上がる、という関係性だけがわかっているものです。このとき、順番や発生原因を説明することはできません。

では、ビッグデータでは因果関係より相関関係が重視されることになるんでしょうか。

 

相関関係は因果関係より特定することが容易

最大の理由は、相関関係は因果関係より特定することが容易だ、という点です。因果関係を特定し証明する、というのはそんなに簡単ではありません。少なくとも、相関関係を特定するよりは時間も手間もかかります。複数要因が働いている場合は、それを切り分けるためのテストを容易したり、実験することを積み重ねる必要があるからです。

それに比べると相関関係は特定が容易に済みます。関係性だけならアルゴリズムで見つけやすいからです。「なんでそうなるのか?」はわかりませんが、「AをやったらBが上がりやすい」というような関係性はわかるわけです。

 

昔読んだ、神田昌典「成功者の告白」に似たような意味合いのことが書いてあって、非常に衝撃的だったのを覚えています。確か、「成功者には法則がある。ただし、なぜそうなるのかは説明できない。しかし、その原因究明を待っていては、同じ誤りを繰り返す人を救うことはできない。まずは法則だけを書こうと思った」という主旨のことが書いてあったのです。(だいたいの記憶で書いてます。)

個人的には因果関係というのはとても大切だと思っていたので、因果関係を特定するのを待っていては前に進めない、というスピード感と実用性を重視するのは自分にとって新鮮な考え方でした。

 

というわけで、相関関係は解明が早く、実用的に耐えられる範囲であれば、例え因果関係がわかっていなくても、非常に価値があるということです。

 

とはいえ、因果関係が不要というわけではありません。因果関係を特定することで、汎用的なルールがわかり応用の範囲がわかりますし。そもそも、人は因果関係を特定したい性質がある、とカーネマンは言っています。それが故に何でも因果関係を結びつけてしまい、時に間違えてしまうわけですが。

 

関連書籍

 

人間は情報をどう処理するか、心理学から分析した大著。

過去の書評:心理と行動の関係が理解できる「ファスト&スロー」 | Synapse Diary

オープンデータの市場規模はどの程度か?

オープンデータの市場規模や経済波及効果はどの程度なのでしょうか。調べてみると、このあたりに数字が見つかりました。

オープンデータ社会(68)公共データ活用による経済効果、市場規模:『ビジネス2.0』の視点:ITmedia オルタナティブ・ブログ

コンソーシアム概要 | オープンデータ流通推進コンソーシアム

EUの試算を転用した推測になっているようですが、市場規模や5000億~1兆円程度、経済波及効果としては5兆円ぐらいはありそう、というところが相場感のようです。

 

これはどの程度のインパクトなのでしょうか。市場規模マップで規模感を把握してみました。

市場規模マップ (HTML5版)
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こうやって全体をみると、製造業とか建設業というのは本当に大きな産業だな、と思ったりするわけですが、5000億~1兆円あたりだと市場規模の種類ランキングとしては40番目ぐらいです。そこそこ大きい感じがしますね。内容としては、マーケティングや情報提供などの分野がインパクト大きいようです。

経済波及効果でみると(経済波及効果を市場規模で比較して意味があるのかもよくわかりませんが)、上位20位ぐらいの規模感になります。それぐらい、全体の経済を押し上げるかもしれない、という期待はあるようです。

 

この3年ぐらいでオープンデータのルール整備などを加速させて、普及させていく方向で政府は動いているようなので、今後この分野でさらにいろんなビジネスチャンスが生じるかもしれない、という期待はあります。あとはもっとたくさん、ビジネスにつながるような事例や企業が登場してこれば。

オープンデータ社会(71)公共データ民間開放(オープンデータ)の推進のための実施スケジュール:『ビジネス2.0』の視点:ITmedia オルタナティブ・ブログ

ビッグデータは選挙結果を高い精度で予測できる

参議院選挙が終わりました。ネット選挙が解禁された初めての選挙なわけですが、ビッグデータを利用した選挙予測に関するレポートが発表されていました。

ASSIOMA(アショーマ) » ヤフーのビッグデータによる選挙予測から学ぶこと

結論からすると、事前に高い精度で議席数などが予測できるようです。予測ができると、他の人の行動を促すような結果になるかもしれません。ただ、これはあくまで予測であり、予測した将来が「可視化」されることで、「その将来を変えよう」と思う人も増えるかもしれない、という期待もあります。

公職選挙法の違反行為のひとつに「人気投票の公表」がありますが、ビッグデータによる予測はこれに該当しないんでしょうか。世論調査はセーフになっていますけど。

 

ひとまず、ネット選挙が何かを変えたかといえば、ホームページ管理や広報が盛んになって、セキュリティ対策などの業者が儲かった、というところ以外は、あまり劇的な変化を感じることは難しかった気がしています。

kabu.nsjournal.jp » 取材の現場から 空振りだったネット選挙 お試し期間で需要探る企業も

 

過去の書評:ネット選挙 解禁がもたらす日本社会の変容 | Synapse Diary

マイクロソフトが都市プラットフォームになろうとしている

マイクロソフトが、ITソリューションによって都市問題を解決する取り組みを発表しました。

ITで都市問題を解決へ–マイクロソフトが世界で展開する「CityNext」の可能性 – ZDNet Japan

これを読んで感じたのは、マイクロソフトは、新たなプラットフォーム戦略を打ち立てようとしている、ということです。「都市」というものを新たなプラットフォームの単位として、都市問題に紐づく公共エリアの事業に対して様々なマイクロソフト製品やサービスを打ち込んでいく戦略です。

プラットフォームは、以下の特徴があり、今回のマイクロソフトの提案はこの特徴に合致していると思います。

1.2つ以上のグループを結びつける 2.あるグループは他のグループを必要としている 3.グループ単独では得られない価値を創出している 4. グループ間の相互作用に外部ネットワーク効果(いわゆる口コミ)を創出し、新しい価値を創造するしくみを担っている
プラットフォーム戦略の本質(平野敦士カール) – ガジェット通信

都市には様々な機能があり、たくさんの事業が関連し合っています。それをITという軸で再編成しようとしていると思います。

 

ところが、これを聞いたときに「IBMも似たようなことを提唱してなかったっけ?」と思い出しました。Smarter Planetです。

IBM スマートな都市 The Smarter City – Japan

改めて、IBMの先見性に驚かされます。

 

今後のIT企業の主戦場のひとつとして、都市などの公共機関が活発になるんでしょうかね。もっと都市が効率化するのであれば、個人的には大歓迎です。

中古本を買うならAmazonマーケットプレイスじゃなくてブックオフオンライン

Amazonでたくさんお金を落としている自分ですが、最近ふと中古本ならブックオフオンラインで買った方が安いんじゃないか、ということに気づきました。

 

Amazonマーケットプレイスとブックオフオンラインの違い

Amazonで中古本を買う場合は、中古本の送料としてプラス250円かかります。(かからない場合もあります。)しかも、C to C取引なので送料は本ごとにかかります。ここがデメリットなんですね。値段が1円になっていても、実質251円で買っているわけです。

一方で、ブックオフオンラインなら1回の注文で1500円以上なら送料無料です。なので、うまく買えば送料分が圧縮できるためAmazonで買うより安く抑えることができます。

 

買ったのはこの3冊です。3冊分足して1,505円です。もちろん送料無料。

デメリットは、ビジネス書に関しては在庫が少ないことですね。まあ、中古本という時点でビジネスモデル上中古本をそろえるのは難しいので。そういう意味では、Amazonマーケットプレイスは、C to Cであることが中古本品揃えの増大に寄与している仕組みだと思います。

ただ、ブックオフも郊外型だけでは限界がきているようで、都市型・複合型の施設を増やしたり、ネット販売を増やすことでマルチチャネル化したり、新しい販売形態を模索しているようです。MBAのビジネスケースで学習しました。

というわけで、ネットプレイスとしてどちらが魅力的な市場になれるか、という今後の動向には個人的に興味がありますが、AmazonマーケットプレイスはCtoC、ブックオフオンラインはBtoCなので、その違いを顧客に対するメリットにどこまで還元できるか、がキーポイントになります。現状、どちらもメリット・デメリットがありますが、新書や本以外のネットショップを包含しているAmazonの方が分があるかな、というのが現状かと思います。

 

ブックオフオンラインの在庫を見つけやすくする

というわけで、ブックオフオンラインの欠点は在庫の有無なので、見つけるのがちょっと面倒なんですね。特に僕はAmazonの欲しいものリストで読みたい本を登録しているので、いちいちブックオフオンラインのサイトで検索するのは面倒くさいのです。

というわけで、便利なChrome拡張機能を紹介しておきます。

 

Amazookoff

アマゾンとブックオフの両方のページで、双方の価格と在庫を表示することができます。

Chrome ウェブストア – AmazookOff

Amazonの欲しいものリストにも表示されました。

 

電子書籍サーチ

以前紹介した電子書籍サーチですが、ブックオフオンラインの値段も合わせて調べてくれます。

電子書籍サーチ – 電子書籍と紙書籍の価格比較と検索サービス

わざわざクリックするのは面倒ですが、電子書益と合わせて調べたい人には良いと思います。

 

ブックオフがんばれー。

オープンガバメントとオープンデータ

オープンガバメントとオープンデータは言葉として似ていますし、使われる場面も似ていますが、オープンガバメントに内包される形でオープンデータは存在する、と理解しています。

で、Googleトレンドで両方のキーワードを見ていると、こんな感じです。

 opengovernment

 opendata

日本の人たちはオープンデータの方に興味・関心が高いようです。実際に、中央省庁でも具体的に議論されているのはオープンデータの方ですし。

オープンガバメントが達成すべき本当の目的

地方自治職員研修の増刊として、自治体イノベーションに関する特集が記載されていました。

 

いろいろな記事が記載されているのですが、特に気になったのは「オープンガバメント」に対する考え方です。アメリカやヨーロッパを中心にしてオープンガバメントに関する動きが拡大していますが、欧米と日本では公共に対する考え方や社会に根付いている価値観が異なるので、オープンガバメントの中身だけ導入してきても難しいかもしれない、ということです。

 

違うのは「住民参加」に関する意識

欧米と日本で何が違うのかといえば、「住民参加」に関する意識です。欧米は民主主義として住民の権利を「勝ち取ってきた」という意識が根底にあり、できるだけ自分たちで政治に参加するという考え方が神道しています。

なので、FixMyStreetなど自分たちで行政運営に参画するようなサービスが登場するわけです。

一方で、日本は「行政に頼るもの」という考えの方が強く、住民の参加は「意思決定まで」という感じです。具体的に住民参加を高める、ということは住民側の「やることが増える」という結果にもつながります。それを肯定的に捉えるか否定的に捉えるか、ということではないでしょうか。

これを書きながら、少し前にあった千葉市長のTwitterでのやり取りを思い出しました。

隣の家の蜂の巣は誰が駆除すべきか? 〜千葉市長と市民の討論〜 – Togetter

ちょうど最近見たTEDの動画では、若者の政治参加が必要だと説いていました。いかに人々に政治参加の機会を作るのか、が重要な視点になってくるのでしょう。

 

 

それは、別の記事でも触れられています。

地域の行政は全て役所の役割として一方的に任せてしまうと役所に対する声の大きい人の意見だけが通ったり、受益者としての市民の権利意識が強くなりがちで、結果的に不平等であったり高コストな社会を生み出しやすいといった弊害が出てきます。これからの日本にはリタイアした人も、現役の人も、社会におけるそれぞれの立場から、声の大小ではなく、オープンデータという客観的な事実に基づいて、自分の住む地域の行政をウォッチし、意見し、参加すべきです。他の誰でもない、自分自身が参加意識を持つことが必要です。

オープンガバメントのキモは地域再生 | オープンデータとオープンガバメントを推進する Open Knowledge Foundation Japan

 

オープンガバメントは産業振興やコスト削減、透明性の向上が中心に語られることが多い気がしますが、本質的には民主主義の仕組みとしてのレベルアップを求められている気がします。

地方と都市で広がるデジタルデバイド

「インターネットは都市部と地方の格差を縮めたか – グダちゃん日報」を読みました。

都市と地方でデジタルデバイドは歴然と存在しており、経済的にも文化的にも違いを生んでいる、というものです。今更デジタルデバイドかよ?という感じもします。実際、Googleトレンドでみると明らかにデジタルデバイドは話題にならなくなっているわけで。

デジタルデバイド

 

都市と地方のデジタルデバイドは確かに存在する

まず試しに、自分のブログの訪問者の地域を調べてみたところ、全体の3分の1は東京都。。。そして、だいぶ離れて大阪、神奈川、愛知、埼玉、福岡、千葉と続きます。何となく都市部で人口が多いところからのアクセスが多くなっていました。人口比率で考えれば当然ですが。

一方で、「IT・情報・通信|新・都道府県別統計とランキングで見る県民性 [とどラン]」で見ると、明らかに都市部と呼ばれる県は各種で高い数値を示しており、地方に行くほど数値は低くなっています。

インターネットそのものは格差を縮める可能性を持っていますが、ICTを使いこなすためにはリテラシーと呼ばれる類の知識が必要です。一方で総務省の調査では、年齢の高さや所得の低さがデジタルデバイドを生んでいる、となっており、所得の高い人の方がITリテラシーを身に着けやすい状況にあると推測されます。

www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h23/pdf/n2020000.pdf

これが意味するところは、富めるところに富が集中する、という都市と地方の経済格差を強化している可能性がある、ということだと思います。

 

どうすればデジタルデバイドは解消されるか

スマートフォンやタブレット端末の普及は、デジタルデバイトの解消につながるのだと言われてきました。この記事で書かれているように。

タブレットPCとスマートフォンで社会はきっと変わる(大西宏) – BLOGOS(ブロゴス)

確かにスマートフォンの普及率は2013年3月時点ではまだ4割程度ですし、今後一層の普及に少し期待はしていますが、問題はもっと深くて、端末や環境だけで解消するのではない気がしています。

【知ってるつもり?】2013年3月のスマホの普及状況をちゃんと把握しよう! | スマートフォンECラボ

総務省の調査では、所得格差が原因でITリテラシーが育成されなかったり、ITの利用環境が整わないことが多いようです。となると、その点を解消する施策が必要になるのですが、全体として行政にはお金や人材の面で余裕がなくなっているところも多く、手がまわらないのかもしれません。あるいは、デジタルデバイドそのものが認識されていないのではないか、と。

マイクロソフトなどIT系の企業は、こういうデジタルデバイド解消の取組を行っていたりします。IT市場が広がることで、自分たちのビジネスチャンスも増えるので。こういう民間資本を投入する仕組みが必要になる気がしますね。

出生率アップにまでつながったMSのデジタルデバイド解消プログラム – ZDNet Japan

 

オープンデータ、オープンガバメントなど、行政機関もITを中心に開かれようとする動きがあります。市民レベルで考えたときに、どの程度ITの恩恵を受けられる人がいるのか、という視点は、再度議論として盛り上がったりしないものですかね。

KindleもいいけどBookLiveもいいんじゃないんかな

僕はKindleのヘビーユーザーです。もう紙の書籍をゆっくり読む時間より移動などの細切れの時間で読むことの方が多く、紙の方が中古で安い場合でも電子書籍で買うようになっています。それぐらいはまっている感じです。

そして最近、Bookliveも使い始めました。それはKindleにはないいろんな利点があると気づいたからです。

Kindleには日経BP社の電子書籍がない

理由は定かではありませんが、Kindleには日経BP社の電子書籍がないんですよね。 例えば、これとか。

これとか。

品揃えは各社によって違うようですが、日系企業が手がけている紀伊国屋、楽天、Bookliveなどでは揃っています。なので、Kindle一本だけだとこういう本が電子書籍では読めないわけです。それだけでも、他社のサービスを利用する必要性を感じます。

 

Bookliveには雑誌もある

日経BP社の電子書籍を入手するだけなら、紀伊国屋や楽天でも良いのですが、Bookliveではビジネス系の雑誌も読めます。

ニュース・ビジネス・総合 – 雑誌の検索結果 – 電子書籍ストア BookLive!

東洋経済、ダイヤモンドにはじまり、一橋ビジネスレビューとかThinkとかWiredとか。まだ雑誌の購読は試してないですが、恐らく雑誌レイアウトをそのまま電子化しているので、iPhoneなどディスプレイが小さいものは向かない気がします。

やっぱりタブレットをそろそろ購入するタイミングかなー。

 

ポイントを事前に購入すると還元率が高い

これが最も選ぶ理由としては大きいですかね。Bookliveはポイントを事前に購入することができて、それに応じて高いポイント還元を得られます。

ポイント購入 – 電子書籍ストア BookLive!

事前に購入するポイントを選ぶことができますが、毎月定額コースを選ぶと最大で20%(1万円購入の場合)、最小でも10%(500円購入の場合)の還元率です。

定額コースでなくても、個別で購入することも可能です。その場合は最大7%(1万円購入の場合)、最小5%(2000円購入の場合)の還元率です。

電子書籍をよく買う人にとっては素晴らしい制度だと思います。

 

また、各社によって同じ電子書籍でも販売価格が違う場合があります。そういうときは、このChrome拡張機能で調べると便利です。(Bookliveはいまいちちゃんと検索されないようですが。。。)

電子書籍サーチ – 電子書籍と紙書籍の価格比較と検索サービス

僕はAmazonのほしい物リストにたくさん読みたい本を登録してあるので、Amazonから離れるのは難しいですが、他の電子書籍サービスもうまく使い分けていけたらと思います。

 

ちなみに、電子書籍ストアの利用調査が最近発表されていました。Kindleが圧倒的で、Bookliveは結構苦戦しています。がんばれ。。。

電子書籍ストア利用率、「Kindleストア」が49.4%でトップ~OnDeck調査 -INTERNET Watch

ITプロフェッショナルは社会価値イノベーションを巻き起こせ

NTTデータと野村総研の共著ということで、業界に関わる人間としては読んでおくべきだろうと思いっ購入しました。読んだ感想は、「IT業界の窮状をどう打破するのか」をとても考えさせられました。IT産業自体は成長を続けていますが、3Kに代表されるような、あまり恵まれた職業というイメージはなさそうです。

 

本書の中で登場するのですが、受託系はスマイルカーブの典型で、SEの単価がどんどん下がってしまっています。電機産業や建設業界など市場として苦戦しているところは、同じような問題を抱えていますね。

 

必要なのはビジネスモデルごとの転換

これに対しては、マインドの変換と社会制度の移行が必要なんじゃないかと思います。本書の一節を引用しますが、

日本企業が得意とする業務改革は、TPSに代表されるように現場を改善していくことだ。既存の仕組みを微調整しながら、生産性を上げていく改革手法である。その一方で、組織やビジネスモデルを大きく変えるような改革には、なかなか踏み込めない。これに対して、欧米の先進企業は経営環境が変化すると、組織やビジネスモデルを変革することを厭わない。

ということで、ビジネスモデルが陳腐化してしまっても、日本はなかなか転換できないという問題が指摘されています。これは、マインドとしてやはり定量化しやすい部分を頑張ってしまうという点もあると思います。わかりやすいですし。一方で、雇用環境が影響する部分もあるでしょう。解雇しづらい企業側の立場からすると、思い切って人を削ったり配置転換することが難しくなります。このあたりは、以前日本経済を考える際に、労働環境に問題があるのではないかと書きました。

日本の景気は賃金が決める | Synapse Diary
アベノミクスで日本はどこへ行く? | Synapse Diary

 

IT業界はどこを目指すべきか

IT業界においては、特に受託の場合はビジネスモデル的に限界があると思われます。これを打開するためのアプローチとして、アンゾフのマトリックスで考えてみます。

アンゾフのマトリックス

わかりやすいのは、エリアを広げて同じソリューションで稼ぐこと(③)。ただ、人はそんなに簡単に場所を変えることが難しい面もありますし、ソリューション自体にそれほど革新性や排他性がなければ、新しい場所にも同業他社がいるので、進出は難しいかもしれません。次に考えられるのは、既存市場の中で新しいソリューションを生み出すこと(②)。本書もここをイメージして書かれています。潜在化された顧客ニーズを捉え、解決策を提案していく形です。

また、財務上公共機関が社会的問題解決を担うことが難しくなってきている現状では、CSRの考えを発展させて、企業が社会問題解決の一旦を担うことを期待されている、ということが書かれており、とても印象的なメッセージでした。

 

ICT投資を呼び起こす解決策が必要

ICT投資は経済発展に対して寄与する可能性があるジャンルなのですが、アメリカと比べると日本はあまり伸びていません。

企業が付加価値を感じていない結果として、情報化投資は伸びなくなりました。特に日本の民間情報化投資は、ここ20年ほど伸び悩んでいるのです。1995年を基準にすると、5倍近くに増えている米国に対して、日本は2倍にも達していません。効果が表れれば「また投資をしよう」と経営者は考えるはずです。その効果を十分に実現できていないとすれば、私たちはITサービス産業の一員として責任を感じなければなりません。

ICT投資は、作業効率などの生産性を重視したバックエンド系の投資は一回りしていて、マーケティングやUI・UXなど定量的な指標では計測しづらいフロントエンドの投資が中心になっています。そういう中で、投資を呼び起こすようなソリューションが生み出せていないというのは、寂しい限りです。

 

本書の中に具体的な解決策があるわけではないですが、問題意識やアプローチについては賛同できます。

ITプロフェッショナルは社会価値イノベーションを巻き起こせ――社会価値を創造する“デザイン型人材”の時代へ