上下巻2冊セットをようやく読み終わりました。行動経済学は数年前から流行っているし、今更感があるかもと思いながら読みましたが、杞憂でした。非常に示唆が多い内容でした。
もちろん、他の行動経済学本に登場する内容も結構あります。アンカリングなどは以前読んだ「予想通り不合理」でも登場していました。
タイトルの元にもなった「システム1」と「システム2」の考え方などは、個人的にはとても新鮮でした(原題は「Thinking, Fast and Slow」)。自分の思考のクセやパターンが客観的に見つめられて、いろいろ発見がありました。
上下巻あるので書かれていることもそれなりにあるのですが、個人的に気になった事項だけここに書き留めておこうと思います。
部下は叱って育てるべきか。褒めて育てるべきか。
カーネマンは、人材育成の面でも非常に面白いことを言っていました。上司が部下の失敗を叱るとその後改善しやすいのも、理論として説明できる、と。それは部下の仕事に対する「バラつき」であり、叱るときは下降線の近くにいるのだろうと思われます。次以降は確率論では平均に回帰するので、叱った状態から改善する確率は非常に高いのだ、と。
ここから言えることは、確率に左右するような行為は、上司は叱っても褒めても意味がない、ということです。もっと重要なことを見ましょう。そうではないところを指摘したり指導するのは意味があるのだと思います。
人の予測はどの程度有効か。ビッグデータは何のためにあるか。
人は規則性のないものを予測することは、実際苦手なんだそうです。まあ、当然ですよね。一方で、人間は因果関係を見出そうとする性質があるらしく、規則性がなくても因果関係を説明しようとして、一見理屈が通っていると信用してしまうのだとか。
ここから考えるのは、人間が直感によって因果関係を見出したり仮説を作ることは、機械ではなかなか真似できない優れた機能である反面、やはり情報が不足していたり経験や規則性がない事象を予測するのはあまり上手ではない、ということです。
そして、事実から規則性を導き出す点については、アルゴリズムの方が優位性が高いのです。ここに、ビッグデータなど、実際のデータを用いた分析で補完したり検証することは非常に重要だ、ということです。
ビッグデータというとバズワード化してしまった感じがありますが、要は「人間の予測はあてにならない場面が多いから、事実に立ち返って検証しろ」ということです。
最後に、ダニエル・カーネマンのTEDの講演を貼っておきます。本の終わりのあたりの一部が理解できます。