アベノミクスで日本はどこへ行く?では、日本経済によって賃金格差や労働市場に問題があるんじゃないかと述べられていた。というわけで、賃金格差についてもう少し具体的に述べられた本を読んだ。
物価と比較して賃金がどうなっているかが重要
今、アベノミクスでは消費者物価指数2%を目標に政策が打ち出されているが、物価が上昇するということはインフレになり、いろいろ買うのに困る事態になるのでは、という懸念を唱える人もいる。これは、単純に物価と賃金の関係にあり、物価が上がれば賃金も同程度か、あるいはそれ以上上昇する必要がある。しかし、これまでの日本は違った。
一九九七年から二〇一一年までのあいだ、年平均〇・九二%のペースで下落しました。ちょうど、消費者物価(コア指数)の四倍のスピードで下落したことになります。物価の下落よりも賃金下落のほうがずっと激しかったという事実には、重大な意味があります。
本書を読めばわかるが、これまでの日本では、物価の下落以上に、賃金が低下していた。
賃金格差の解消が必要
経済として復活するには、賃金が上昇しなければならない、という以下の内容が本書の主張だ。
いまでもまだ国際的には貿易依存度が低い日本経済が、本当の意味で復活するには、どうしても国内消費の全体的な拡大が必要です。そのためには、①賃金デフレを脱して、賃金が平均的に上がることと、②賃金格差が縮小して、消費に使う比率が高い人たちにおカネが回ることが、最重要ポイントだといえます。
これは、「アメリカの世界戦略に乗って、日本経済は大復活する!」でも述べられていた、物価が上がれば賃金が上がるわけではない、という論点ともつながる。全体として賃金が上がり、消費が旺盛になって、経済が浮上してくるというものだ。
そのためには、賃金格差が鍵になる。今、正社員という既得権が邪魔になって、正規・非正規や、男性・女性、子育て世帯・それ以外の対立軸で、賃金格差が発生している。全体で富める状態ではなく、一部の富める人たちと貧しい人たちの格差を生み、消費の増大感を阻害している。
いろいろ興味深い事実が、数字とともに示されている。例えば、日本は国際的に見ると勤続年数に応じた賃金上昇率が高いとか。これは、労働市場における人材の移動を硬直化する、あるいは年齢による格差を生じさせている、と見ることができる。
日本企業は、長年続けて働いた労働者に対して、高い賃金を支払いすぎている。国際的な感覚では、そう指摘できます。企業にとってはこれがかなりの重荷であるために、だんだんと非正規雇用比率を高めているという事情もあるでしょう。その意味でも、勤続年数の長短による賃金格差が国際的にみて過大であることは、弊害が大きいといえます。
また、子育て世帯の圧迫や、特に大人一人で子どもを育てる世帯の相対貧困率の低さは、何となく知っていても、実際の数字を見ると改めて驚く。
大人が二人以上いる子育て世帯では、相対的貧困率は一〇・五%です。OECD平均は五・四%で、その約二倍で順位が二二位ですから、悪い値です。 さらにとんでもなく悪いのが、大人がひとりの子育て世帯の相対的貧困率で、なんと五八・七%です。ひとり親だけで子育てをしている世帯の約六割は相対的貧困の状態にありながら、子供を育てているのです。……OECD平均は約三割ですから、その約二倍です。
今後の政治は、これらの格差を解消していくような政策を打っていくことになるのだろうか。
都市部に人口を集中させる
今後の日本は都市部に人口を集中させる、という必要性が述べられている。それは、日本のGDPの大半を占める第三次産業の生産性向上が必要だ、という理由に基づく。
サービス業では〝稼働率〟が大切だと、先ほど説明しました。人が密集すれば、サービス業の稼働率は高まります。人口の密集の度合いを示す指標として「人口密度」があります。この人口密度が高まることで、第三次産業(広い意味のサービス業)が発展し、国内需要が主導する経済成長のスピードが高く維持できる。昔もいまも、この論理は強力に働きます。
これは、僕も非常に賛成する。人口が減少していく今後を考えると、生産性を向上させていくためには物理的に集積する必要があると思う。東京が魅力的な都市であり続けているのは、人口が増えて集積が高くなっているからだと思うし。
実際に都市における集積効果については、この動画を見ると良いだろう。
都市および組織の意外な数学的法則
というわけで、今後の経済については、物価だけでなく賃金にも注目していく必要がある。