NTTデータと野村総研の共著ということで、業界に関わる人間としては読んでおくべきだろうと思いっ購入しました。読んだ感想は、「IT業界の窮状をどう打破するのか」をとても考えさせられました。IT産業自体は成長を続けていますが、3Kに代表されるような、あまり恵まれた職業というイメージはなさそうです。
本書の中で登場するのですが、受託系はスマイルカーブの典型で、SEの単価がどんどん下がってしまっています。電機産業や建設業界など市場として苦戦しているところは、同じような問題を抱えていますね。
必要なのはビジネスモデルごとの転換
これに対しては、マインドの変換と社会制度の移行が必要なんじゃないかと思います。本書の一節を引用しますが、
日本企業が得意とする業務改革は、TPSに代表されるように現場を改善していくことだ。既存の仕組みを微調整しながら、生産性を上げていく改革手法である。その一方で、組織やビジネスモデルを大きく変えるような改革には、なかなか踏み込めない。これに対して、欧米の先進企業は経営環境が変化すると、組織やビジネスモデルを変革することを厭わない。
ということで、ビジネスモデルが陳腐化してしまっても、日本はなかなか転換できないという問題が指摘されています。これは、マインドとしてやはり定量化しやすい部分を頑張ってしまうという点もあると思います。わかりやすいですし。一方で、雇用環境が影響する部分もあるでしょう。解雇しづらい企業側の立場からすると、思い切って人を削ったり配置転換することが難しくなります。このあたりは、以前日本経済を考える際に、労働環境に問題があるのではないかと書きました。
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IT業界はどこを目指すべきか
IT業界においては、特に受託の場合はビジネスモデル的に限界があると思われます。これを打開するためのアプローチとして、アンゾフのマトリックスで考えてみます。
わかりやすいのは、エリアを広げて同じソリューションで稼ぐこと(③)。ただ、人はそんなに簡単に場所を変えることが難しい面もありますし、ソリューション自体にそれほど革新性や排他性がなければ、新しい場所にも同業他社がいるので、進出は難しいかもしれません。次に考えられるのは、既存市場の中で新しいソリューションを生み出すこと(②)。本書もここをイメージして書かれています。潜在化された顧客ニーズを捉え、解決策を提案していく形です。
また、財務上公共機関が社会的問題解決を担うことが難しくなってきている現状では、CSRの考えを発展させて、企業が社会問題解決の一旦を担うことを期待されている、ということが書かれており、とても印象的なメッセージでした。
ICT投資を呼び起こす解決策が必要
ICT投資は経済発展に対して寄与する可能性があるジャンルなのですが、アメリカと比べると日本はあまり伸びていません。
企業が付加価値を感じていない結果として、情報化投資は伸びなくなりました。特に日本の民間情報化投資は、ここ20年ほど伸び悩んでいるのです。1995年を基準にすると、5倍近くに増えている米国に対して、日本は2倍にも達していません。効果が表れれば「また投資をしよう」と経営者は考えるはずです。その効果を十分に実現できていないとすれば、私たちはITサービス産業の一員として責任を感じなければなりません。
ICT投資は、作業効率などの生産性を重視したバックエンド系の投資は一回りしていて、マーケティングやUI・UXなど定量的な指標では計測しづらいフロントエンドの投資が中心になっています。そういう中で、投資を呼び起こすようなソリューションが生み出せていないというのは、寂しい限りです。
本書の中に具体的な解決策があるわけではないですが、問題意識やアプローチについては賛同できます。