話題の経済書「21世紀の資本論」は、格差拡大への警鐘である

今、経済界で話題沸騰のトマ・ピケティの「21世紀の資本論」。以前から名前は知っているものの、ちゃんと理解していませんでした。何がそんなに注目を集めているか、週刊東洋経済の特集を読んで確認しました。

 

 

このままでは不平等の格差は拡大していく?

ピケティの主張が注目されているのは、資本主義社会では格差が拡大していくという点です。それはイコール、中間層の消滅です。

以前から大前研一さんも中間層は崩壊していると説いていますので、その主張自体はあまり目新しいものではないのですが、注目されているのは過去300年という長期間でのデータに基づいた実証をしており、その結果から資本主義社会の仕組みそのものに、格差を拡大させる仕組みがあると説いている点です。

経済的には、「資本収益率が経済成長率より常に高い」ということを示しています。簡単に言えば、資産に投資して得られる収益の方が、経済成長による恩恵より大きいので、働くより資産へ投資した方が効率よく儲けられる、ということです。

 

未来予測は完璧ではない

話題になっていることで、賛否両論が渦巻いています。

【オピニオン】「21世紀の資本論」ピケティ氏は急進的なのか – WSJ
話題の「21世紀の資本論」、重大な欠陥も  :日本経済新聞
ピケティ『21世紀の資本論』はなぜ論争を呼んでいるのか(2/6) | nikkei BPnet 〈日経BPネット〉:日経BPオールジャンルまとめ読みサイト

ピケティの本は、過去の統計データからひとつの事実を紐解きました。が、それが未来でも同じように起こるとは限らない、というのがいろんな専門家の意見のようです。例えば、資本収益率が経済成長率より過去が高かったからと言って、未来もずっと高いとは限らない、というようなことです。

また、ピケティは政策提言も行っていますが、そこでは税率の引き上げを指しています。しかし、税率を引き上げたら資本収益率も経済成長率も低下してしまうのではないか、という意見もあります。

 

とはいえ、格差が拡大しているのも事実

日本だけみても、相対貧困率は上昇しています。確かに格差が拡大しているデータがあります。

平成22年国民生活基礎調査の概況|厚生労働省

アメリカで「21世紀の資本論」が注目されているのも、格差が大きな問題として捉えられているからでしょう。

個人的なポイントは、

  • グローバル化による労働コストの均質化(=先進国の単純労働者の賃金低下)
  • 人口減少による社会保障のゆがみ(高齢者に配分される)
  • 日本企業の雇用確保(=株主配分の減少による投資の低下)

3番目の点に関しては、雇用確保とのバランスは微妙な問題だなって思ってます。過去にそういう記事も書きました。

日本の景気は賃金が決める

ただ、格差が拡大していくと社会が不安定化し、閉鎖的な政策が支持されたり、憎悪の対象が生み出されたします。なので、経済的なバランスを取るというのは非常に重要だと思っています。

 

さて、ピケティの議論は今後どこに向かうんでしょうか。翻訳版は秋に発売予定だそうです。

今日はこのへんで。

ビットコインなどの仮想通貨はなぜ普及しているのか

Mt.GOXの民事再生法申請など、いろいろ話題になっているビットコインですが、いくつか気になるところを書いておきます。ビットコインがなぜ話題になっているのか、というのはこの本を読めば理解できると思います。(Kindleオーナーライブラリーで読める人は無料です。)

貨幣を管理する主体が存在しない

本書では、なぜ貨幣は貨幣であるのか。資産価値はどのように担保されるのか、という根本的なところから書かれていました。ビットコインは、端的にいえば貨幣を管理する主体がいないことが特徴です。ではどうやって貨幣としての信用を担保するのかといえば、ビットコインの取引に参加する無数のネットワークコンピュータです。

要は、貨幣と同じ仕組みをデジタル上で実現する仕組みが仮想通貨であり、そのひとつがビットコインというわけです。

ちなみに、金がなぜ昔から資産として認められているのか、この本で初めてちゃんと理解できました。

 

仮想通貨はビットコインだけではない

先ほど触れましたが、ビットコインは数ある仮想通貨のひとつに過ぎません。それ以外にもたくさん発生しています。ただ、その中で一番主流となる可能性を秘めていたのがビットコインというわけです。

ちなみに、ビットコイン自体はオープンソースから始まっているので、「ライトコイン」などいろいろ改良された派生版の仮想通貨が登場してきています。

Litecoin – Open source P2P digital currency
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最近では「オーロラコイン」が盛り上がってきているようです。

急成長する仮想通貨オーロラコイン―発明者がアイスランド国民に付与へ – WSJ.com

 

今後も仮想通貨は普及していく

なぜ仮想通貨であるビットコインが普及してきているかといえば、従来の通貨とくらべて信用が高い場合があるからです。日本円は安定していますが、それ以外でも海外では不安定な自国通貨があります。そういう場合は、ビットコインにもそれなりにリスクはあるものの、自国通貨に比べてまし、というケースがあるわけです。

さらに、海外送金に関してもビットコインは手軽です。国によっては海外送金自体を制限されていたりしますし、送金手数料もビットコインの方が安いので、海外送金の手段としても利用されているようです。

日本政府も課税を検討しているそうですが、いろいろ課題は山積です。ただ、デジタル決裁は今後確実に普及する分野と見られています。Googleも出資していることで注目されているRippleなど、いつでも手軽に決裁できる基盤が求められるからです。

あのGoogleも出資?次なるビットコインが話題に! – NAVER まとめ
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というわけで、今後も仮想通貨は普及していくでしょう。そのとき、どの通貨が主導権を握るかが今後の注目です。ビットコインが有力視されていましたが、今回の騒動でまたわからなくなりましたね。

 

ビットコインに関連する技術は応用が期待される分野

ビットコインで使われている技術は、それ以外にも応用が期待されます。仮想通貨では、通貨を使ったときにAからBへいくら移動したということが、確実に保証される仕組みが必要になります。それを応用して、電子書籍など電子的な権利の移転を行える仕組みが実現できる可能性があります。

ビットコインの応用で、電子書籍を譲渡可能にするアルゴリズム – Togetterまとめ

それ以外にも、冒頭に紹介した本の中でもいくつか可能性が挙げられています。

また、ビットコインの機能であるP2Pを用いて世界中の誰でも閲覧可能かつ改ざん不可能な履歴簿を実現するということ自体もコイン以外の用途の可能性があると思います。知らぬが仏や嘘も方便というものも当然ありますから、改ざんできない記録簿が本当に人々の幸せに繋がるかどうかは分かりませんが、改ざんできない記録簿という仕組みを活用すれば、粉飾決算、学歴詐称、カルテ改ざんによる医療ミスの隠蔽などを防ぐ仕組みが実現できるようになるかもしれません。これまでP2Pというと、ファイル共有や計算の負荷分散などが主な用途でしたが、P2Pでデータに不正が無いか多くの目でチェックするというビットコインの概念だけも、他分野への応用の余地が多くあると思います。

そう考えると、いろいろ電子上の取引にはもっと多様性をもたらせられる可能性があるわけで、楽しみになってきます。

 

参考:
ネット仮想通貨「ビットコイン」は安全か | 読んでナットク経済学「キホンのき」 | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト
ビットコインは決済システムとして有望-ウォール街の見方 – Bloomberg
ビットコインをめぐる5つの誤解を解く | ビジネス | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

東京都知事選とGoogleトレンド

東京都知事選がいろいろニュースになっています。僕は選挙権があるわけではありませんが、どの候補者に関心が集まっているのか、Googleトレンドで探ってみました。

Google トレンド

Googleトレンドで、候補者5人の検索ボリュームを比較した結果が以下です。比較するワードは5つまでしか指定できなかったので、候補者が全員になっていないのはご勘弁ください。


ちょっとグラフではわかりづらいのですが、1月だけの検索ボリュームを相対的な数字で示したのが以下になります。(1/30に調べた時点の数字です。)

google_trend_1m

これだけでも十分面白いのですが、Googleトレンドは期間を指定して検索することもできます。 過去30日間でグラフを示すと、以下のようになります。

どの候補者が話題として盛り上がっているのかが、時系列でわかりますね。ちなみに、1/28時点の数字はこんな感じです。(1/30に調べた時点で、最新日が1/28でした。)

google_trend_0128

1ヶ月全体で見た数字と比べると、少し印象が変わりましたね。

最後に、過去7日間の推移を見てみます。

ここで注目するのは、平均ボリュームです。1ヶ月というスパンでみたときと、1週間のスパンでみたときに、相対的な順番が変化してきています。時間とともに、関心の対象が移っているといえるんじゃないでしょうか。

過去の選挙でも、検索ボリュームと得票率には相関関係があると分析されています。

ビッグデータは選挙結果を高い精度で予測できる | Synapse Diary

また新たに、ビッグデータによる選挙との関係性が分析した記事が、選挙後に登場するでしょう。そのとき、上記のような遷移が、実際の選挙にどう反映されるのか非常に興味深いところです。

レイヤー化する世界

佐々木俊尚さんの新刊。Kindleオーナーライブラリーにあったので、気軽に読んでみようと思った次第だったのですが、正直予想以上の衝撃を受ける良書でした。

古代の歴史から本が始まったときは「この本、どうなるんだ?」と思いましたが、歴史から紐解く価値観や社会の仕組みを紐解いており、そして現在の社会がどうなっているのか、未来の社会がどうなっていくのか、というストーリーへつながる運びは、壮大な時間軸から導かれる楽しさと、納得性を与えるに十分なものでした。

ジャンルとしては、少し前に読んだ「未来予測」と似ていると思います。「価値観の変化」や「場の創出」などは、共通するテーマです。

学校の歴史ではヨーロッパが常に世界の中心と錯覚してしまうかもしれないが、中世まではヨーロッパは世界からみて辺鄙な場所。それが世界の中心に踊り出ることで変わった世界の仕組み。その背景にあった、印刷技術による宗教の弱体化。

これらの歴史をひとつの流れとして捉えることで、みえてくる価値観と仕組みの変化があります。

 

国家や行政の役割は変わろうとしている

本書では、超国籍企業の話が出てきます。国家という枠組みを飛び越えてしまう存在として。それ以外にも、クラウドソーシングなどで物理的な距離は分散してしまっているし、個人の単位でも国境を飛び越えやすくなっています。

超国籍企業については、「企業が「帝国化」する」が面白いです。
社会に入る前に読むのがおすすめ。「企業が『帝国化』する」 | Synapse Diary

そうなると、国の権威や財政というのは、相対的に低下します。ただその半面、グローバル化によって世界が平等になりつつあり、富が分配され、先進国は相対的に貧しくなっています。そして、国家に頼ろうということになるわけです。

ただ、行政も国民の生活を支える力が低下しているので、別の枠組みが求められています。それが「小さな政府」から出てきたアンチテーゼである「大きな社会」であり、「新たな公共」であり、「オープンガバメント」です。ざっくりまとめてしまえば、これらはいずれも行政単独ではなく、民間やコミュニティの力を利用し、行政機関はプラットフォームになろう、というアプローチだと思っています。

 

今後のパブリックサービスはどうなるか?

今後の行政機関はどう事業を展開していくべきでしょうか。ひとつのヒントは、やはり本書に書いてある通り、「場」の創出にあると思います。「場」を作り、「場」の上に集まる人たち全体に利益を与える仕組みにすることが、特に基礎自治体などのレベルではひとつのアプローチになるのではないでしょうか。

これまで構築されてきた様々な社会的スキームが、いろいろほころびを帯びてきています。どこかで転換しなければならないと思いますし、今は価値観を含め変化している時なのだとすれば、形になって表れるのも近いのかもしれません。

そして、それを実現するためにも、いろいろ実験する場が必要なのだと思います。

「神が世界をこう定めている。それは聖書に書かれている」と考えるのではなく、「世界はどう定められているのかわからない。だから自分たちでひとつひとつ実験して証明しながら確認してみよう」と考えるようになります。この考え方こそが近代科学の出発点でした。

ICT産業のスキル・ノウハウは日本社会の発展に寄与できる

ここ最近はずっと、日本でもオープンデータが話題になっています。内閣官房でもオープンデータは議論が進んでいますし。

世界でもオープンデータは随分前から議論されたり、実際に行動につながっています。最近だと、EUがオープンデータに関する規則を整備している。

欧州議会、オープンデータに関する規則を認証 | エンタープライズ | マイナビニュース

 

さて、そのオープンデータに関連してTEDに面白いスピーチがあったので紹介しておきます。

 

GitHubとオープンデータ

興味深いなと思ったのは、GitHubの考え方とオープンデータを結びつけていることです。GitHubというのは開発者界隈以外はあまり知られていないのかもしれませんが、開発したプログラムを一元的に保管するためのサービスです。

プログラムを複数人で開発する際は、ちゃんとバージョンを管理しないとどれが最新版で、どれがバグを修正したものか、というのがぐちゃぐちゃになってしまうので、バージョン管理の仕組みが発達しています。

バージョン管理というのは、基本的には1つの正しいプログラムを管理する、という考え方に基づくのですが、GitHubというのは、これまであったバージョン管理の仕組みから考えを変えて、複数人が派生したプログラムまで追跡・管理できるようになっています。

GitHubはWebの発達、オープンソース文化の進展と関連があるのですが、それは今回の本題ではありません。

 

IT業界のノウハウが社会に還元されていく

冒頭のテーマに戻ると、この動画の主旨はGitHubと同じように、政策や法律についても履歴をたどれるようにする必要があるのでは、ということです。日本でも「Code for Japan」が始まるようですし、こういうIT系の考えが政策や行政運営に反映されてくるのかな、と思いました。

ITやWebサービスでは、きっちり考えをまとめてやるよりは、まずは最低限の形にしてから改善していく、というアプローチがあります。それ以外にも、プロジェクト管理や品質管理など、IT界隈では業務プロセスに影響を与えるような枠組みがたくさん開発され、体系として整理されてきています。こういう発展している産業の技術が、社会に波及していく形が今後はもっと加速するのかな、と期待しています。

 

日本のICT産業の投資水準は低い

一方で、ICT産業のGDP寄与率は高いものの、電子政府など国のICT評価は低く、GDP比率に対するICT投資の割合も先進国の中で最低の水準にあります。

ICTが導く日本再生の道筋|総務省(PDFファイル)

なぜ進展しないのかというと、ICT投資の効果に関する経営者の理解が低い、IT技術者の数が足りない、などいろんなことが言われていますが、とりあえず低い水準にあるのは間違いないわけです。これを打開していくことが、日本の産業発展に寄与するはずです。

 

というわけで、IT企業が努力していく以外でも、IT技術者の教育、Code for JapanなどNPO法人の取り組みなど、様々なアプローチで社会の発展が図れると良いな、という、別に結論があるわけではない記事になりましたが、個人的な願望を書いておきます。

企業における内部留保の増加と賃金の関係について

今日もファミリービジネスについて書こうと思っていましたが、今朝、日本共産党の記事を見かけていて、「内部留保を動かして、賃上げを」という言葉があったのが気になったので、急遽そちらを記事として書いてみます。

実際、日本共産党のHPにも政策として書かれています。

「デフレ不況」打開のために、賃上げと安定した雇用の拡大が必要です。大企業が溜めこんでいる260兆円もの内部留保のほんの一部を使うだけで、賃上げを実現することができます。8割の大企業では、内部留保のわずか1%を使うだけで、「月1万円」の賃上げが可能です。

1、労働・雇用(2013年参議院選挙各分野政策)

これについて論点はいくつかありますが、整理してみましょう。

 

内部留保は「企業の預貯金」ではない

この論争があるときに良く言われていることですが、内部留保というのは企業の預貯金ではありません。Wikipediaによると、次のように表現されています。

内部留保(ないぶりゅうほ)とは、企業が経済活動を通して獲得した利益のうち、企業内部へ保留され蓄積された部分のことである。社内留保、社内分配とも呼ばれることもある。

内部留保 – Wikipedia

ここで注目すべきは「企業内部へ保留され蓄積された部分」で、その形態は問われないということです。もちろん現金として持っても良いわけですが、固定資産や有価証券で保持しても良いわけです。つまり、必ずしも現金で保持しているわけではないので、内部留保を人件費へ回せ、というのは言葉の使い方としてずれていると思います。

 

賃上げは利益減少になり、市場プレッシャーと相反している

ただ、実際内部留保の中には現金の割合も多いようです。で、内部留保における現金を人件費へ回すと、損益計算書上では利益が減少します。別に利益が減っても労働者の給料が増えるからいいじゃないか、という考えもあるとは思いますし、特に反対するわけではないのですが、株式市場は企業の業績のひとつとして利益を評価するわけで、経営者としては利益を確保する、という役目から逃れられるわけではありません。

また、人件費についてはどこか特定の企業が労働者から不当に搾取しているわけではなく、多くは市場原理で決まっているんじゃないでしょうか。優秀な人材は高給で獲得したり維持しますし、業界・業種によってもある程度給料の相場が形成されているので、簡単に変わるものではない気がします。

それでも労働者の給料を上げる必要がある、と国が命ずるのであれば、企業は利益の創出分を減らすことになります。そうなると、上場しているような大きな企業であれば、日本国外に労働資本を求めてもおかしくない気がします。

 

日本企業の内部留保は本当に多いのか

最後に、日本の内部留保が本当に多いのか、という話です。少し前のデータになりますが、みずほ総研が調査レポートを発表していました。

日本企業は利益をため込みすぎているのか

このレポートを読むと、欧米企業と比べると決して大きすぎるというわけではなく、人件費比率や労働分配率も日本は高くなっています。これは、日本企業は世界でみると雇用を維持する方向に頑張っている、と言えるんじゃないでしょうか。そして、日本の労働市場の特徴とも言えます。

 

というわけで、内部留保というのは企業が再投資するための原資なわけですから、積極的に投資を行うようにするのか、あるいは株主に配当するのか、自社株買いするのか、という選択肢を行えば良いんじゃないかというのが、ファイナンスの考え方だと思います。

「内部留保額が200兆円もあるから、雇用に回そう」ではなく、なぜ内部留保がたまるのか、賃金はなぜ上がらないのか、という原因を考える方が先な気がします。

参考:
内部留保って何? – 池田 信夫 (アゴラ) – Yahoo!ニュース
内部留保の問題点について – カンタンな答 – 難しい問題には常に簡単な、しかし間違った答が存在する
賃金と配当と内部留保のこれ以上ない簡単な整理: hamachanブログ(EU労働法政策雑記帳)

自治体が光ファイバーを導入することで雇用を生み、経済効果を生み出せるのか

Google Fiberのようなギガビットのネットワークが実現したら、街にはどのような変化が表れるんでしょうか。この記事では、ギガビットのネットワークは既にトレンドになってきており、いろんな都市で導入されてきていることを示しています。

Google or Not, Cities Pin Hopes on Gigabit Networks

いろいろ効果が提唱されていますが、面白かったのは「Smart City Lights」という取り組みです。夜でも常に明るくするのではなく、センサーに反応して必要なときだけライトが付く、というものです。動画を見た方が早いでしょう。

 

Chattanooga, Tenn., Expanding ‘Streetlight of the Future’ Installation

あとは、冒頭の記事の中では、経済効果についても期待されているようです。「Silicon Valley」という言葉も登場してきますし、高速回線が整備されることで、ソフトウェア会社が移転してきたり、遠隔でも作業できる人が街にとどまったり、ということで人を惹きつける効果もあるようです。

アメリカ全体でも、インターネット回線の普及を拡大させていく方針のようです。アメリカはブロードバンド市場が寡占状態になっており、料金高止まり、サービスレベルの停滞を招いているようで、これを打開する動きのひとつとして、自治体による独自のネットワーク整備が注目されています。

いっぽう、高速通信網が地域経済の活性化などに役立つとみた一部の自治体が、民間事業者に頼らずに、独自にギガビット光ファイバー網を構築する例も出てきている。クロフォード氏はその一例として、自治体主導の通信網整備が雇用創出に役立ったというテネシー州チャタヌガの例を挙げている(米国では自治体が電力網を保有・管理する例も多く、そうしたインフラを使って光ファイバー回線を提供)。またこれに関連する話として、CNETでは約17万世帯に光ファイバー回線を導入したチャタヌガではフォルクスワーゲン(Volkswagen)やアマゾン(Amazon)といった大企業の事業所誘致に成功した結果、3700以上の新規雇用が創出できたと伝えている。

米FCC委員長:2015年までに「全米50州にギガビット・ファイバー・コミュニティを」 – WirelessWire News(ワイヤレスワイヤーニュース)

 

昔は道路や電車などの交通網が中心でしたが、最近はネットワーク回線やスマートグリッドなどの社会基盤インフラの違いが、企業誘致やコミュニティ形成の源泉になっている、ということですかね。

アメリカと日本では条件が違いますし、日本では「インフラより利用率(アプリケーション)」という方向性で進んでいると思われます。鶏と卵の話じゃありませんが、インターネットテレビなど大容量コンテンツも普及してきている中で、日本は今後どういう動きになるんでしょうか。

地方都市で起業するのは厳しいと思うけど、可能性もあるんじゃないか、という話

今日のテーマは地方で起業することについて。

岐阜に住み始めてから、常にこれについて考えています。やはり、都市と郊外、東京と地方ではビジネス環境は違う、と言わざるを得ません。そして、この記事は、地方での起業における現実と挑戦を示しています。

地方で起業にチャレンジする現実

 

大きなトレンド

都市に人口が集中しているのはまぎれもない事実です。これは、特に人口が減少していても傾向は変わりません。むしろ、減るところは減り、増えるところは増える、という集中度合いが増している気がします。

過去は、地方が都市部に若者を供給する、という構図でしたが、出生率や産業発展によって地方でも人口は増えていました。しかし、人口減少時代に突入すると、都市部に若者を供給する構図はあまり変化がなく、地方は人口を減少していく、という流れになっています。

なぜ都市部に人口が集中するのか、といえば、単純に仕事が多く「稼げる」からです。特に、物質的な豊富さが満たされた後は、第三次産業に労働人口がシフトし、サービス業が多くなりました。サービス業は地理的制約を超えることが苦手であり、人口集積することによって効率性が高まります。

やはり、知識や人柄を伝達する手段は直接的なコミュニケーションが主体です。

 

アンチテーゼ

その一方で、物理的制約を乗り越える方法で、地方に注目する考え方も登場しています。

ひとつは、コミュニケーションコストの劇的な低下です。ネットワーク通信などのインフラが充実していれば、テレビ会議などを行うことが可能です。これは、移動費を削減しつつ、密なコミュニケーションを行うことが可能です。SkypeやGoogle Hungoutも登場してきていますし、商用でも組織間で円滑にコミュニケーションを行えるアプリケーションは既に実用レベルです。自分の机にあるPCから、離れた場所の会議に参加することが可能です。

ふとつめは、冒頭の記事にあるように、移動費そのものが低下傾向にある、ということもあります。近年、LCCが日本でも続々登場しましたが、現実的に移動費が低下しています。いざというときは低コスト・短時間で移動できる、という点は地理的制約を緩和します。

そして、地方は競争が激しくないという現実があります。競合が少なく、物価も低い。そういう点で有利に運びやすいという面があります。

 

スウィートスポット

昔、このブログでも岐阜にあるIT拠点としてのソフトピアジャパンについて書きましたが、そういう「スウィートスポット」のように、ところどころ集積拠点があり、それらがネットワークや輸送手段によって結ばれることが、地方経済の生きる道のような気がしています。

ソフトピアジャパンという「日本版シリコンバレー」 | Synapse Diary

そして、必要なときは都市部に移動できるような拠点作りが必要になるんじゃないでしょうか。

オフショアが成立するのは同じ理由です。アウトソースされる側に拠点があり、そこで機能が集積されており、かつ物価が安いからです。あとの問題は、アウトソースする側とされる側のインターフェースの構築です。そこを、一定のルール作りや遠隔からのメールや電話、テレビ会議などのコミュニケーション、最後は実際に移動してのコミュニケーションになります。

地方で起業する場合も、アウトソースを狙え、というわけではありませんが、状況は似ていると思うわけです。

 

今後は地方分権が進んでいくと言われています(ずっと前から言われていて、あまり進んでいない、という見方もありますが)。東京の一極集中が世界でみても一大産業集積地であることを考えると、安易に東京を批判するつもりはありませんが、地方はどういう役割で日本で生き残っていくのか、というのは今後も課題なんじゃないでしょうか。

心理と行動の関係が理解できる「ファスト&スロー」

上下巻2冊セットをようやく読み終わりました。行動経済学は数年前から流行っているし、今更感があるかもと思いながら読みましたが、杞憂でした。非常に示唆が多い内容でした。

 

もちろん、他の行動経済学本に登場する内容も結構あります。アンカリングなどは以前読んだ「予想通り不合理」でも登場していました。

タイトルの元にもなった「システム1」と「システム2」の考え方などは、個人的にはとても新鮮でした(原題は「Thinking, Fast and Slow」)。自分の思考のクセやパターンが客観的に見つめられて、いろいろ発見がありました。

上下巻あるので書かれていることもそれなりにあるのですが、個人的に気になった事項だけここに書き留めておこうと思います。

 

部下は叱って育てるべきか。褒めて育てるべきか。

カーネマンは、人材育成の面でも非常に面白いことを言っていました。上司が部下の失敗を叱るとその後改善しやすいのも、理論として説明できる、と。それは部下の仕事に対する「バラつき」であり、叱るときは下降線の近くにいるのだろうと思われます。次以降は確率論では平均に回帰するので、叱った状態から改善する確率は非常に高いのだ、と。

ここから言えることは、確率に左右するような行為は、上司は叱っても褒めても意味がない、ということです。もっと重要なことを見ましょう。そうではないところを指摘したり指導するのは意味があるのだと思います。

 

人の予測はどの程度有効か。ビッグデータは何のためにあるか。

人は規則性のないものを予測することは、実際苦手なんだそうです。まあ、当然ですよね。一方で、人間は因果関係を見出そうとする性質があるらしく、規則性がなくても因果関係を説明しようとして、一見理屈が通っていると信用してしまうのだとか。

ここから考えるのは、人間が直感によって因果関係を見出したり仮説を作ることは、機械ではなかなか真似できない優れた機能である反面、やはり情報が不足していたり経験や規則性がない事象を予測するのはあまり上手ではない、ということです。

そして、事実から規則性を導き出す点については、アルゴリズムの方が優位性が高いのです。ここに、ビッグデータなど、実際のデータを用いた分析で補完したり検証することは非常に重要だ、ということです。

ビッグデータというとバズワード化してしまった感じがありますが、要は「人間の予測はあてにならない場面が多いから、事実に立ち返って検証しろ」ということです。

 

最後に、ダニエル・カーネマンのTEDの講演を貼っておきます。本の終わりのあたりの一部が理解できます。

 

ファスト&スロー (下): あなたの意思はどのように決まるか?

岐阜ではどの程度人口集中が起こっているか

昨日の記事の続き。

岐阜における都市の集中化の程度が知りたくなったので、調べてみた。平成22年の国勢調査結果から、人口増減率(平成17年度からの比較)と人口密度の関係をグラフにプロットしたのが以下。

岐阜県市町村別の人口密度・人口増減率の関係 
統計表一覧 政府統計の総合窓口 GL08020103より作成)

 

当然、地理的関係によるので一概に決めつけることはできないけれど、人口密度が高いところに人が集まる傾向が見て取れる。ちなみに、岐阜県全体としても人口減少は続いているので、都市に人口が集中しているのだろう。

気になるのは、中心地である岐阜市はあまり人口が増えていなくて、その周辺である瑞穂市や岐南町が増えていることかな。