Apple Music、AWA、LINE MUSIC、Spotifyなど、音楽ストリーミングサービスが熱いですね。これについて、ちょっと書いておこうと思います。いろいろな論点がありますが、ここで取り上げるのは「音楽ビジネスの今後」について、です。
音楽市場のバリューチェーン
音楽市場をバリューチェーンで表すと、次のようになります。
参考:バリューチェーンで見る(2): 内田和成のビジネスマインド
これまで、製作のところでメディアがレコード→CDと変わってきました。また、デジタルになってからはハードとしての製作部分が抜けて(パッケージデザインなどはありますが)、流通がインターネットプラットフォームに変わりました。AppleがiTunes Storeを発表したのも随分昔ですが、そのときはこのバリューチェーンが大きく変わる、という意味で大きな衝撃でしたね。
デジタル音楽の躍進
iTunesなどのデジタルミュージックがプラットフォームで売られるようになったのは、ナップスターの登場が大きいと言われています。デジタル化された音楽は、インターネットを通じて簡単に共有できるようになりました。そうなると、これまでお金を払っていた音楽が無料で入手できるようになります。音楽の価値観が根底から揺さぶられた出来事でした。
Napster – Wikipedia
この動きに目を付けたのがAppleであり、スティーブ・ジョブズでした。買いやすいインターフェース、CDという物理的媒体からの解放という消費者の利便性を向上させると同時に、音楽を提供するアーティストやレコード会社にも「音楽は有料」という形を成立させました。
そうなると、バリューチェーンとしてはこうなります。ハードの製作部分が中抜きする感じですね。パッケージのデザインなどの製作は残っていますが。
そうやってデジタル音楽の割合が高くなっていきました。そして、2014年にはデジタル音楽がCDなどの音楽ソフトの売上を上回ります。
国際レコード産業連盟(IFPI)は4月14日、「デジタルミュージックレポート2015」を発表し、2014年のインターネット等を介したデジタル音楽配信の売上が、初めてCDなど音楽ソフトの売上を上回ったことを明らかにした。
2014年世界のデジタル音楽配信、CD等の売上を抜く、IFPI発表 2015/04/17(金) 14:22:26
そして、ストリーミング配信の登場。これは、消費者マインドの変化と関係あります。
消費者のマインド変化
スマホが普及し、YouTubeなど無料で聴ける音楽が多く利用されることで、「時々、好きな音楽を買って楽しむ」から「いつでも好きな音楽がタダで聴ける」ものに変化します。
これを、佐々木俊尚氏は「電子書籍の衝撃」で、「音楽のアンビエント(環境)化」と説明しました。つまり、環境に溶け込むほど音楽が自然なものになる、ということです。
これは消費者マインドを変化させ、音楽の「所有欲」を低下させます。自分の経験で言うと、昔CDを買うと、所有欲が満たされ、とても大事に音楽を聴いていましたが、今はそういう感覚がだいぶ薄くなってしまいました。別に所有しなくてもいいかな、と。そういう流れから、ストリーミング配信による音楽サービスが登場します。
バリューチェーンでみれば、「流通」にあたる業者が交代する状況です。
消費者のニーズがそのように変わったので、各社がこぞってストリーミングサービスを開始しています。当たり前ですよね。客の多くがストリーミングに移っていくのに、乗り遅れれば衰退していくのを待つばかりです。
日本市場はその中の大きな例外ですけどね。CD販売が成立する稀有な市場です。
日本でストリーミング型音楽サービスが普及しない3つの理由 | ライフハッカー[日本版]
それでも、日本は大きく売上が減少しているようですが。
世界規模の音楽売上をまとめた年次レポートをIFPIが公開、2013年は音楽売上が3.9%ダウン、音楽ストリーミング売上は50%以上拡大
流通業者が業界発展の鍵を握る
ストリーミング配信への流れが加速していく中で、これが音楽業界全体の発展になるか、というとどうでしょう。
以下の記事に書いてある通り、音楽の単価はどんどん下がっています。ストリーミングによってもっと下がる可能性が考えられます。
LINE MUSICやAWA、Apple Musicに見るストリーミングのその先と所有欲 – Jailbreak
バリューチェーンでみると、プラットフォームを支配する流通業者が強くなる、という構造です。こうなると、製造する人(=音楽を作る人)たちにとって良くないのではないかと思えてきます。売る方が力が強くなり、製造する方の力が弱まってしまうからです。すると、業界全体が価格志向のユーザーニーズに引っ張られ、業界全体が縮小してしまう恐れがあります。
これを解消する手段のひとつとして、流通業者が上流(コンテンツ作成)に踏み込むというアプローチがあります。動画配信のHuluやNetFlix、Amazonがオリジナルコンテンツを作成してますね。
Hulu、独自コンテンツ配信へ–第1弾は木梨憲武さんのアートバラエティ – CNET Japan
フジテレビと米・Netflix(ネットフリックス)がオリジナルコンテンツの制作で合意 – とれたてフジテレビ AmazonもNetflixに対抗し、今月からオリジナル作品の配信を本格化
別業界でも、セブンイレブンはプライベート製品を作っていくことで成長させています。
流通業者が自らリスクをとって製品をつくり、販売していくことで、製造する側にもお金が多く流れるようになりますし、品質の向上も期待できます。
デマンドサイドだけでなく、サプライサイドもWinにならなければ、業界全体は発展しません。そういう流れを音楽業界がどう作っていけるかは注目です。