サッカーのクラブ経営を費用分解から考える

Jリーグの各クラブは収益結果が公開されているので、固定費・変動費で分析してみることにしました。対象は、2005年から2012年の8年間です。データ元は以下。

Jリーグ公式サイト:about Jリーグ

 

Jクラブの費用はほとんど変動費化されている

実際に分析した結果が以下のグラフです(単位は百万円)。

クラブ全体(サンプル数:275)
クラブ全体(サンプル数:275)

特徴としては、変動費率がほぼ1に近いってことと、ほとんど固定費がないってことです。変動費率は(変動費÷売上高)で計算されるので、変動費率が1に近いってことは、売上の大半は変動費で消える、ということです。

また固定費が小さいという点について。実際は人件費もひとつの固定費ですし、クラブハウスなどもあるので、固定費がないってわけではないはずです。ではどういうことかといえば、これは推測ですが、人件費はほとんど「変動費化」されている、ということだと思います。選手や監督の入れ替わりも激しいですし、年棒制でどんどん見直されていきますしね。

こういう状況なので、クラブ経営って本当難しそうだなってことがわかります。

 

J1とJ2では、J1の方が経営は安定化しやすい

また、J1とJ2の違いについても見てみましょう。2005年から2012年までなので、いくつかのクラブがJ1とJ2を行ったり来たりしていますが、ひとまず当時J1だったらJ1に、J2だったらJ2にカウントしています。

J1だけ(サンプル数:144)
J1だけ(サンプル数:144)
J2だけ(サンプル数:131)
J2だけ(サンプル数:131)

見比べると、J1の方が売上も高く、変動費率は小さく、固定費は大きくなっています。J1の方が市場として大きく、固定費がかかる分、変動費は小さくなっているのだと思われます。

また、J2の方が値のバラつきも大きくなっています。規模が小さいこともあって、やはりなかなか経営が安定させづらいのかもしれません。

ちなみに、Jリーグはテレビ放映権やグッズ販売権利収入などを一括で管理していて、クラブごとの収益構造にも含まれています。ここを大きくしないとダメなんじゃないの?という議論もあるわけですが。

少なすぎる「Jリーグ配分金」。各クラブ総収入の10%、NFL70%、プレミア75%(週プレNEWS) – スポーツ – livedoor ニュース

もちろんJリーグ自体も全く手をこまねいているわけではなくて、アジア進出などの手を打ってはいるのですが。

Jリーグの赤字クラブが多い現状と、今後の打開策について | Synapse Diary

 

というわけで、各クラブの努力としては、自己収益を安定化させること、費用を変動費化させることが重要です。

J2クラブの財政状況と賢い経営を考える

サッカーのJ2クラブチーム(2012年時点)の、費用対効果などを検証してみました。クラブ運営はどこに向かっていくべきか、というのが今回の記事のテーマです。

 

投資(人件費)に対する効果(勝ち点)の関係について

サッカー雑誌でもたまに検証がありますが、サッカークラブの投資対効果として、人件費に対する勝ち点を見るのが挙げられます。クラブチームの投資は殆どが人件費(サッカー選手など)に充てられるから、というのが理由です。

というわけで、実際に2012年のJ2クラブの勝ち点対人件費の組み合わせを見てみました。それが以下のグラフです。

勝ち点対人件費(J2 2012)

何となく右肩上がりにはなっていますが、非常にバラつきが大きくなっているのがわかります。高い人件費をかければ良いチームになるかといえばそうではない、というのが良くわかります。

 

勝ち点と利益の関係について

クラブ運営は、山形を除いて全て株式会社です。となると、勝ち点はクラブの最終目標ではなく、利益確保が重要になる、という見方もあります。利益がないとゴーイングコンサーンも難しいわけですから。

というわけで、2012年のJ2クラブの勝ち点対当期純利益(損失)の組み合わせを示したのが以下のグラフです。

 勝ち点対当期純利益(J2 2012)

勝ち点が多い方が何となく利益を出しているようにも見えますが、こちらもバラつきが非常に大きくなっています。あんまり関係ないと思った方が良いかもしれません。

 

勝つことが全てなのか

結局数字を見てわかるのは、勝ち点を多くとっても利益との因果関係は低い、ということです。少なくとも現状の数字を見る限りでは。とはいえ、プロモーションやブランド構築という意味では、勝っていく、昇格する、日本代表に優秀な選手を送り込む、というところももちろん重要だとは思います。

話は変わりますが、先週のFOOT×BRAINはブンデスリーガ特集でした。その中で、クラブチームは順位が低迷しても観客数が減らないクラブがあると言っていました。その理由は、明確にクラブの哲学があるから、という説明でした。

日本でも、野球でいえば阪神とか、サッカーでも浦和とか、ある種ブランドを構築しているチームが存在します。近年では、若手育成に力を入れて攻撃的なサッカーを展開しているセレッソなんかも面白いです。

実際、順位と観客動員数もやはり明確にはリンクしないわけでして。
2012年Jリーグ 観客動員データ ~J2

確かにスポーツで勝つことは素晴らしいですが、勝負事でもあるので、それと経営は微妙な関係にあるとも思います。長く続いていくこと、発展を維持していくことを考えると、クラブとしての哲学やブランドイメージを構築していくことの方が重要な気がします。

 

世界的にも、リーグ全体で黒字なのはブンデスリーガぐらいだと言われていますし、UEFAはファイナンシャル・フェアプレーという制度を導入するほど、クラブの財政健全化を高めることが重要課題になっています。Jリーグでもクラブライセンス制度が導入されていて、財政健全化も注目されています。

というわけで、何とか20周年まできてJリーグが今後も健全に発展するためには、財務的観点でも検証が必要ではないか、と。

スーパーホテルのマーケティング戦略

スーパーホテルに宿泊してきました。以前から名前は知っていたんですが、実際に宿泊してみてそのすごさがわかりました。実際にマーケティング戦略の観点から紐解いてみたいと思います。宿泊前にこの本を読んでいったのですが、一層滞在を楽しむことができました。

 

 

「寝る」ことにフォーカスする

マーケティングの基本は、ターゲットとポジショニングを決めることです。スーパーホテルはビジネスホテルなので、ターゲットは出張するビジネスマンが大半になります。そこで注目したのが「寝る」という行為でした。ビジネスホテルの場合、基本的には滞在時間のほとんどが睡眠時間に充てられることから、「快眠」を提供することにフォーカスしたのです。

「ぐっすり」最優先

このフォーカスが、いろんなアイデアとなってビジネスを形成していきます。まず、広いベッドにして、快眠を促すパジャマやスリッパ、選べる枕を提供する。また、睡眠に入りやすいよう全体を暗い照明にする。さらに環境に優しい珪藻土の天井にするなどのこだわりも見せます。さらに、天然を設置しているホテルもあるようです。

確かに、実際宿泊してみた感想としては、寝心地は良かったと思います。比較的深い眠りを得られたんじゃないでしょうか。

 

一方で、大胆にコストも削減します。ラグジュアリーホテルを目指すわけではないので、コストを成立させなければいけません。宿泊してみるとわかりますが、冷蔵庫には飲み物は入っていませんし、入室したときは空調も入っていません。お風呂には節約のためのお風呂の目安線が入っています。

この高さまでお湯を入れて下さい。
この高さまでお湯を入れて下さい。

また、人件費もできるだけかからない工夫があります。ベッドは足がありません。確かに低いベッドでした。別にそれで困るわけではありませんし、清掃の効率はこれで非常に上がるそうです。さらに、ホテルのフロント業務でもチェックアウトがありませんでした。

ホテルのフロント業務がもっとも忙しいのは、お客さまがバラバラにいらっしゃるチェックインの時間帯ではありません。いっせいにチェックアウトされる朝8時です。

というわけで、快眠を提供するというコンセプトで、見事に差別化に成功したわけです。

 

健康と安心でターゲットを拡張する

スーパーホテルでは、無料の朝食も売りになっています。実際食事してみましたが、無料とは思えない充実度でした。朝ご飯をしっかり食べる、という行為が健康的な感じがしますし、とても良いサービスだなと思いました。

そこで驚いたのは、女性や子どもが結構いたことです。今が夏休みで休日だったこともあるかもしれませんが、それでもビジネスホテルにこんなに女性や子どもが宿泊するものだろうか、という新鮮な光景でした。

本の中でも、健康的な食事やサービスを提供すること、オートロックを整えることで、健康と安心を求める女性や家族をターゲットに広げています。確かに、宿泊分は安く済みますし、悪いことではない気がします。

 

これらのサービスを成立させるのは従業員のオペレーション力

こうやって、マーケティング上成功しているスーパーホテルですが、それだけでずっと勝てるわけではありません。サービス業は人が関わる要素が大きく、ビジネスモデルだけで成功するのは難しいと言われています。「俺のイタリアン、俺のフレンチ」でも書かれていましたが、「仕組みで勝って人で圧勝する」です。

本の後半では、いかに理念を浸透させ、各自が考えてサービスを提供する人になってもらえるか、ということが書かれていました。やはりサービスは最後は人。目標管理制度が導入されていますし、常にサービス改善について議論されているようです。名物の「おかえりなさいませ」の挨拶も、従業員の発想から取り入れられたものだそうです(本当にそう挨拶されました)。

 

また、「先義後利」という言葉も本の中に登場しました。ヤマト運輸でも「サービスが先、利益は後」という考え方がありましたが、それと通じるものです。スーパーホテルも、社会的に意義のあるサービスにしよう、という思いが見られます。

こういうのをみると、オペレーション力を高めるためには、人を育てる仕組み作りと、自社のサービスが社会的に意義がある、というメッセージを発することが重要なんだな、と改めて感じます。

 

 

メンタルヘルスケアは現代人には必須の知識

これを書くと、自分も年をとっているんだな、と感じてしまいますが、あまり仕事で無理がきかない体になってきました。一時的に無理してパフォーマンスを上げるより、継続してコンスタントにパフォーマンスを維持する方が大切だな、という気持ちが高まってきています。

また、これまでも組織の中でうつ病で休職したりする人もいました。チームや組織を管理する立場になれば、こういう人を未然に出さない配慮や対応も求められます。管理職やナレッジワーカーは、メンタルヘルスに関する内容を知っておくべきだと思っています。

というわけで、この本を読み、メンタルヘルスに関する理解を深めようと重いました。

 

現代の人やナレッジワーカーに多いメンタルの問題がいろいろわかって興味深い内容でした。まずは個人的な問題ではなく、管理や対応を誤れば誰でもメンタルに問題を抱える可能性がある、というところを理解することから始めましょう。

 

少しずつ疲れて、いつの間にか取り返しがつかなくなる

昔からうつ病と言われた症状と、今現代人によく起こる症状は、本質的には変わらないのですが、微妙に出来事が違うようです。それは、少しずつ疲れていき、いつの間にか自分では冷静な判断ができなくなるのです。

そうなると、自覚症状があまりないのと、周囲も気づきにくくなる、という点が特徴です。そして、しっかり休んだり根本的な対応を行わず、少しずつ疲れていくのです。

これを防ぐためには、ちゃんと自分で疲れに気づく努力をすること、周囲もメンバーの小さな変化に気づいていくことが重要になってくるのです。そして、早めに休養などの是正措置を講じて、継続的にパフォーマンスを出せるようにするのです。

 

休むのも仕事だと認識する

僕も結構頑張ってしまう傾向にありましたが、やはり「仕事を頑張ってなんぼ」という考えが根底にありました。しかし、一度からだを壊してから考えが変わりました。体を壊してしまうと、働けなくなるし、気持ちも沈んでくるし、全く良いことはありません。その時反省したのは、「こうなる前に日頃から対応が必要だ」ということです。

本書でも同じような主張をしています。

途中で仕事を止めることに抵抗する隊員もいる。しかし、長期戦を戦うためには、短期的な感情に流されず、しっかり疲労をコントロールしなければならない。隊員にとって、休養することは、頑張ることと同じ、いやそれ以上に必要な「仕事」なのだ。

ということで、自分の状態を理解し、適宜ストレスコントロールすることがポイントです。

 

本書を読んで、改めていろんな人にこういう知識を理解しておくことが重要だな、と思いました。組織をうまく機能していくためには、人の構造も理解しなければいけないと思うのです。

大人は、体力・知力の飛躍的な伸びはない。今の「自分」を愛し、認め、上手に使いこなす能力が必要になる。また、世の中は、不公平や不平等、理不尽にあふれ、努力しても報われないことが多い。それでも、めげずに、生きていかなければならない。

というわけで、完璧さではなく、現実をうまく受け止めながら、継続的にパフォーマンスを発揮できるようにしましょう。

オープンソースとクラウドホスティングでHP運営費用を削減

アメリカのジョージア州で、オープンソースとクラウド利用によって、コスト削減を達成した、という記事がありました。

Georgia Saving Millions with Open Source Technology

ちょっとメモ程度にさくっと思ったことを書いておきます。

 

5年間で470万ドルの削減効果

オープンソースCMSの「Drupal」の利用と、自前のサーバからクラウドホスティングへの利用に切り替えたことで創出、という内容になっています。自前のサーバは20ほど。スケーラビリティもなくなっていたので、クラウドホスティングで拡張性も実現した、となっています。

ホームページで20サーバってどんだけ大きいんだ?と思ったら、州で見ると人口1,000万人ぐらいいるんですね。(ちなみに、東京都が1,300万人ぐらい。)

ジョージア州 – Wikipedia

年間1億円ぐらいの削減効果、というのは結構大きいですね。

ちなみに、日本の自治体クラスになると、拡張性などは災害時などよほどトラフィックが集中するとき以外は求められない気がします。

 

CMSはDrupal

Drupalってどこかで聞いたな、と思ったら過去にこのブログで書いてましたね。

行政機関で普及が広まっているコンテンツ管理オープンソース「Drupal」 | Synapse Diary

冒頭の記事に書いてあったホスティングサービス「Acquia」のホームページによると、アメリカ政府の24%でDrupalが利用されているそうです。

ちなみに、実際のジョージア州のサイトは以下です。

Georgia.gov
[scshot url=”http://georgia.gov/”]

 

モバイル対応が急務

冒頭の記事では、コスト削減の次はモバイル対応だ!って書かれています。ホームページへのトラフィックの15~40%程度がモバイルからになってきていて、アクセシビリティとしては急務なんじゃないかと思います。

レスポンシブデザインという言葉は叫ばれていますが、まだまだ普及していないのが現状なのではないかと。

 

民間の小売なんかではオムニチャネルという言葉で、複数のチャネルをシームレスにつなげるという考え方が登場しています。ホームページも単なる情報掲載からどんどん進化している、という感じですね。

小売・ネット業界大注目「オムニチャネル」基本のキから事例まで – NAVER まとめ

ビッグデータの資産価値をどう評価するか?

前回の記事で、「ビッグデータの観点で見れば、データを保有する企業に優位性がある」と書きました。そうなると、データを保有する企業を、財務上の観点からどう評価するか、というのが資本市場では問題になります。

 

ビッグデータを会計上どう評価するか

「保有するデータ」というのは、ソフトウェアなどと同じように無形資産に該当しますが、決まった評価は難しいものです。しかし、「ビッグデータの正体」によれば、無形固定資産は年々大きくなっているとのことです。

純資産額と時価総額の差額部分は「無形固定資産」に当たる。米国では1980年代半ばに上場企業全体の時価総額の40%ほどが無形固定資産だったが、2000年代の幕開けごろには4分の3を占めるまでに比重が大きくなった。無形固定資産には、ブランドや人材、戦略など、有形ではないが、形式的に財務会計の対象となる資産がすべて含まれる。

つまり、有形物でない資産というのを認めないと、市場における取引を可視化できないほど、無形資産の重要性は高まっている、ということでしょう。「データ」についてもまさにそういうもののひとつに加わってきている、ということです。

 

無形資産への投資は市場の環境と関係がある

話はビッグデータだけでなく無形資産全般に及びますが、米国と比較すると日本の無形資産の割合はまだまだ小さいようです。その要因のひとつとして、市場環境の違いが挙げられます。

無形固定資産は、バランスシート上は計上が認めらますが、金融機関側の担保する資産としては価値がありません。売却などの価値の転換や評価が難しいからです。一方で、アメリカは直接金融が主流となっており、リスクマネーを市場から調達することが可能です。なので米国企業は積極的に無形資産に対する情報開示を行い、資金調達を行っています。これがアメリカと日本の無形資産の違いに表れているのではないか、ということです。

詳しいことは、このレポートに書いてあります。 www.energia.co.jp/eneso/keizai/research/pdf/tokushu201203.pdf

このように、無益資産の重要性は年々高まってはいますが、会計規則や投資環境によって違いが出ている、というのは面白い見方です。

ちなみに、上記レポートでは、まだ無形資産の経済成長への寄与は、有形固定資産に比べて小さい、とも述べられています。

 

この無形資産への流れは非常に考えを刺激されるものではありますが、同時に企業に対する見方もシンプルではなくなってきている、というのがあるかもしれません。

Facebookの企業価値は低迷していると言われていますが、それでもまだPERは175倍をつけています(Googleは25倍程度)。今後収益性が上がるだろう、という確率の高さを信じての価格だとは思いますが、今後どうなるのかはわかりません。

ただ、財務諸表などの数値からは評価がとても難しくなっているんじゃないかと思います。

ビッグデータで勝つのはどのような企業か?

ビッグデータについていろいろ書いてきましたが、今後の企業の優位性について考えたことを纏めておこうと思います。

 

ビッグデータを取り巻くプレイヤー

ビッグデータに関連する職業として、データサイエンティストなどいろんな人たちが注目されています。シンプルに考えても、

  • データを収集する人
  • データを保持する人
  • データを販売する人

がいそうです。

データを収集する人は、TwitterやFacebookなどプラットフォームを構成し活動履歴を収集するタイプもいますし、センサーなどからデータを収集するメーカーなどもいます。

データを保持する人は、データを収集する人と同じ場合もありますし、複数社からデータを統合して保持する場合もあります。Tポイントなんかが該当するでしょうか。

データを販売する人は、集められたデータを加工し分析したものを売ったりします。

 

一方で、少し古い調査結果ですが、ビッグデータを活用する上での問題点がどこにあるのか、というのが以下の記事で書かれていました。

ビッグデータ活用の取り組みが進んでいない理由として、「具体的に何に活用するかが明確でない(61%)」「投資対効果の説明が難しい(45%)」を課題としてあげている回答が多いことに加え、より具体的な課題として「担当者のスキル不足(45%)」「ビジネスとデータの両視点で検討できる人材の不足(36%)」「担当者の人数不足(32%)」「受け皿となる組織が存在しない(29%)」のように、ビッグデータ活用を推進できる体制が整っていないことが明らかになりました(図5、複数回答)。

約6割の企業がビッグデータの活用を組織的な検討課題と認識 一方、推進体制の未整備が活用の進まない要因に~ビッグデータの利活用に関する企業アンケート結果~ | 野村総合研究所(NRI)

いろいろ書いてありますが、データを収集したり加工することはあまり問題点ではなく、どちらかというと分析アプローチを発見することに難しさがあるようです。

 

価値の源泉は「ノウハウ」から「アイデア」、そして「データ」へ

ビッグデータの正体」では、価値の源泉について以下のように書かれていました。

互いにライバル関係にある複数の自動車メーカーからデータを集め、価値を高めた情報を〝商品〟として提供する。自動車メーカー1社では、そこまでの価値を生み出せない。メーカー1社でデータを集められる車両数はせいぜい数百万。そのデータでも渋滞予測は可能だが、予測精度も低く、網羅的でもない。品質を上げるにはデータ量が必要だ。また、すでにノウハウからアイデアへと価値がシフトしていて、現在はデータへと移行しているからだ。

ビジネスの価値は、相対的に製造技術などのノウハウではなく、デザインや新しいアイデアの方が高まっています。サムスンが高い技術力で戦ってもAppleのブランドに打ち勝つことができない、というのが好例かと思います。

しかし、情報化社会が進み、情報処理技術が高度化して大量のデータを扱えるようになり、さらにセンサーなど社会にあふれている物事をデータとして取得できるようになると、データそのものの価値が上昇します。

ビッグデータの正体」では、今はデータを活用するアイデアを持つ人が注目されているが、最終的にはデータへ移行するだろうと言っています。これはつまり、データを大量に集めようとすると、特定領域で独占状態になるからだと思います。

FacebookやTwitterが注目されるのは、それ以上に大量のソーシャルデータを保有しているサービスがないからです。COOKPADでも、それに勝るようなレシピサイトがないからです。ほぼデータを独占していると言ってよいでしょう。

つまり、ビジネス上有用と思われるデータを保有することが、もっとも競争性を獲得することができる、というのがビッグデータの世界です。

 

 

それにしても、ビッグデータの盛り上がりっぷりは、Googleトレンドをみてもすごいなーと思ってしまいますね。

ビッグデータは「原因」ではなく「関係」を導き出す

ビッグデータの正体」を読みました。この本で注目すべきメッセージとして「因果関係より相関関係の方が重要視されるようになるだろう」という点があります。

 

因果関係というのはAが起こるからBが起こる、という事象を説明できるもので、相関関係というのはAが上がるとBが上がる、あるいはBが上がるとAが上がる、という関係性だけがわかっているものです。このとき、順番や発生原因を説明することはできません。

では、ビッグデータでは因果関係より相関関係が重視されることになるんでしょうか。

 

相関関係は因果関係より特定することが容易

最大の理由は、相関関係は因果関係より特定することが容易だ、という点です。因果関係を特定し証明する、というのはそんなに簡単ではありません。少なくとも、相関関係を特定するよりは時間も手間もかかります。複数要因が働いている場合は、それを切り分けるためのテストを容易したり、実験することを積み重ねる必要があるからです。

それに比べると相関関係は特定が容易に済みます。関係性だけならアルゴリズムで見つけやすいからです。「なんでそうなるのか?」はわかりませんが、「AをやったらBが上がりやすい」というような関係性はわかるわけです。

 

昔読んだ、神田昌典「成功者の告白」に似たような意味合いのことが書いてあって、非常に衝撃的だったのを覚えています。確か、「成功者には法則がある。ただし、なぜそうなるのかは説明できない。しかし、その原因究明を待っていては、同じ誤りを繰り返す人を救うことはできない。まずは法則だけを書こうと思った」という主旨のことが書いてあったのです。(だいたいの記憶で書いてます。)

個人的には因果関係というのはとても大切だと思っていたので、因果関係を特定するのを待っていては前に進めない、というスピード感と実用性を重視するのは自分にとって新鮮な考え方でした。

 

というわけで、相関関係は解明が早く、実用的に耐えられる範囲であれば、例え因果関係がわかっていなくても、非常に価値があるということです。

 

とはいえ、因果関係が不要というわけではありません。因果関係を特定することで、汎用的なルールがわかり応用の範囲がわかりますし。そもそも、人は因果関係を特定したい性質がある、とカーネマンは言っています。それが故に何でも因果関係を結びつけてしまい、時に間違えてしまうわけですが。

 

関連書籍

 

人間は情報をどう処理するか、心理学から分析した大著。

過去の書評:心理と行動の関係が理解できる「ファスト&スロー」 | Synapse Diary

これからの時代にマーケターに求められる能力は?

MBAではマーケティングが必ず講義に含まれています。それだけ売る、という行為とマーケティングの関係は重要なものだということです。MBAに通って初めて、「マーケター」という職種があることを知りました。そういった職種に対してもう少し理解を深め、今後のマーケターというかマーケティングにはどういう要素が求められるのか、というところを考えてみたいと思います。

というわけで、「マーケターを笑うな!」を読みました。

 

マーケターがよく行うアプローチが書かれていたり、マーケターの「これまで」と「これから」が纏まって書かれていました。

 

マーケターの要素は経営と近づいている

まず企業側の目線で、変化しているポイントを挙げます。

マーケティング自体が、ICT技術の登場・進化によってチャネルが増えたり、広告効果が可視化されることで、より科学的に語られるようになっています。昔からマーケティングとは経営の中核に据えられるものである、ということは言われていましたが、社会が成熟し複雑化する中で、マーケットインのアプローチが重要視されてきており、マーケティングが経営と近づいています。

ただ、現実はまだマーケティングと経営の距離はあるようです。本書でもこう述べられています。

大切なことは、日本の多くの企業経営においては、まだ「マーケティング・コンセプト」が実行されていないということだ。そんなことはない、という反論もあるだろうが、では役員の誰が「マーケティング責任者」なのかというと、あいまいな企業が多い。

 

一方で、自治体であっても、マーケティング・コンセプトを明確にすることから始まり、施策を統一的に実行することで、新しい方向を打ち出せるようになるわけです。流山市は、まさにそういう良い事例だと思います。

30代人口急増! 流山市、”異端”の街づくり (東洋経済オンライン) – Yahoo!ニュース

 

情報の非対称性は解消されつつある

次は、顧客側の変化です。こちらもICTの進展によって、かつては存在していた販売と顧客の情報の非対称性は小さくなっています。そして、モノが溢れてきている中で、価格競争が激しくなっています。本書では、価格競争が完全な悪ではないですが、あまり良くないものであると述べています。

たしかに価格戦術には一時的な効果があるので中毒化しやすい。しかし、長い目で見ると企業を蝕んでいく。

人々の生活が多様化する中で、求められるのは「インサイト」であり、それは昔から変わらないものだと言われています。買う人たちの生活パターンを洞察し、「買う理由」を明確に打ち出していく。そういう行為がこれからも必要になります。

また、情報の非対称性が小さくなったことで、小手先の売り方は通用しなくなりつつある、と思われます。純粋に、買い手にとって役に立つものを売る、という長期的に信用を得ていく売り方が求められるのでしょう。

 

というわけで、マーケターはこれまで以上に社会に必要な存在になるんだと思います。ただ、それが活かされる形や場所は、少しずつ変化しているので、それに合わせて対応していく必要があるでしょう。

 

関連書籍

 

神様コトラーによるこれからのマーケティングに関する解説。企業は長期的思考を重視するようになる、と主張しています。

過去の書評:マーケティング3.0 | Synapse Diary

ビッグデータ時代の個人情報保護とは?

Suicaの乗降履歴データを日立に提供していた問題がありましたが、ビッグデータの時代を迎えて、個人情報保護やプライバシー保護に関して、発想や法整備などを転換しなければいけない時代になっているように感じます。

Suicaデータの外部提供にみる情報化社会とコンプライアンスの問題 | Synapse Diary

 

個人の特定は非常に容易になっている

日本でもたくさん発生していますが、SNSやブログなどの情報を組み合わせて、あっという間に個人を特定できる状況が生まれています。それだけ個人に関する情報はインターネット上にあふれている、ということです。

自分からたくさん情報を吐き出していたりしますし、企業に意識している・していないに関わらず提供している場合もあります。インターネットを中心にして、情報の取得・管理コストが低下していることで、これまでにないほど自分の情報が外に出ています。

ビッグデータがバズワードになってしばらく経っていますが、本格的に社会に浸透するのはこれからです。個人に関する情報は、個人はどう守り、企業はどう取り扱うべきでしょうか。

 

二次利用にこそビッグデータの価値がある

ビッグデータというのは、情報を蓄積しながら、派生的にデータの利用価値を高めていくことにひとつの神髄があります。当初は想定していなかった形で、どんどんデータの利用範囲を広げていくのです。

これは非常に経済価値を高める有用な手段であり考え方であるとは思うのですが、欠点もあります。「ビッグデータの正体」に書かれていましたが、今の個人情報保護やプライバシー保護の考え方というのは、情報を提供する前に用途などを説明し同意を得た上で収集することになっています。

つまり、「用途を明示」し「事前に承諾を得る」ということは、「とりあえずデータを収集」し「後で二次利用を考える」という部分と完全に反するわけです。今の考え方では、二次利用を行おうと思ったら、再度提供してもらった個人に承諾を得る、という行為を行わなければいけません。さらに、承諾する人としない人でデータの取扱いも分けなければいけないのです。これは非常にコストになりますし、現実的ではないような気がします。

 

「事前の承諾」は事実上形骸化しているのではないか

Suicaの件でも改めて考えさせられます。データの利用に関する決まり事は約款のような小さな文字でびっしり書かれたところに含まれており、事実上個人が「事前に承諾した」という形をとったことになっていないのではないのか、ということです。

ビッグデータは誰のものか(真相深層)  :日本経済新聞

現時点では、JR東日本はデータ提供を謝罪するとともに、データ利用の拒否を受け付けています。これを読むと、JR東日本が一方的に悪いような印象を受けますが、まさにグレーゾーンに落ちたように見えます。

 

ビッグデータの正体」では、価値観の転換が必要、と説いています。二次利用を社会的に許容するのであれば、やはり個人に責任を求めるのは限界があり、企業側が責任を持って取り扱うことをもっと強化すべきである、というところです。さらにそれだけでは不十分なので、会計士や弁護士などと同様に、個人情報の取扱やデータ処理、アルゴリズムなどをチェックする「アルゴリミズスト」なる専門家が社会的な役割として必要になるだろう、と言われています。

つまり、個人で全てをチェックするのは無理、企業も完全にフォローするのは難しい、というわけで第三者的な機能を社会的に構築すべき、ということです。今はまさに法律も社会的な認識も十分に追いついているとは言えない、過渡期と言えるでしょう。