地震によって戸籍情報が消失されてしまったや、公共機関のWebサイトで迅速な情報提供をする手段として、改めてクラウドサービスの有用性が注目されている。が、企業でも行政でも、クラウド化の浸透スピードはなかなか上がらない場合が多い。技術的な理由もあるけれど、まず最初に引っかかるのは「ガバナンス」の問題だ。これを考える上では、これまでの情報システムと組織の関係の変遷をみてみるとわかりやすい。
導入初期
コンピュータの最初は、大型のコンピュータを何台か購入し、そこにいろんな業務処理を詰め込むタイプだった。これは、「情報システム課」みたいなのが調達や管理などを一手に担い、ユーザはただ利用するのみだった。
パソコンの出現とオープン化
パソコンが出現すると、ユーザが処理できる部分が増えてくる。すると、システム側とユーザ側で処理する部分を分けよう、という考えが生まれる。いわゆる、クライアントーサーバ型が出てくる。
そして、大型コンピュータに専用ソフトで固めるメインフレーム的な利用ではなく、OracleやWeblogicなど、ハードウェアに依存しないソフトウェアの利用が普及する。これによって、大型コンピュータではなく、システムの用途や特性ごとにハードウェアを分けられるようになった。
こうなると、これまで「情報システム課」みたいなところが一手に担っていた調達や管理などを、少しずつ業務を行う各課に移していくようになる。業務を行う各課が、各自でシステムを調達・管理せよとなる。
クラウド化による再統合の流れ
クラウド化は、ハードウェアやソフトウェアを統合・集約する効果も含まれている。しかし、各課に散らばってしまった予算や調達の権限がハードルとなり、「このシステムとこのシステムのハードウェアを統合しよう」ということが難しくなる。
全体の情報資産を一元的に可視化することができなくなり、乱立した情報システムをそれぞれが構築し、運用する。そして、各課がそれぞれの都合に合わせて、システムを再構築したりハードウェアを入れ替えたりする。こうなると、統合などの最適化は進まなくなる。
ITガバナンスの強化
というわけで、クラウド化を進めるための最初の一歩は、組織に散らばったITに関する権限の再集約です。もう一度、散らばってしまった権限をCIOなどの役職もしくはそれに付随する組織に集めること。けれど、政治と同じで既得権益を剥がすというのは、大なり小なり抵抗が生じるのが組織というもの。そういう部分で、大きなうねりを生み出せず、てこずっているところも多いのでは。
さて、最近目にした静岡大学のクラウド導入は、ITガバナンスを取り戻した例としてとても良いと思う。
静岡大学が情報システムをクラウド化 Amazon EC2も活用 – ITmedia エンタープライズ
各研究室などで行っていた調達をやめ、「情報基盤センター」に権限を集約した。ただ、仮想化が実現されるので各研究室もアプリケーションだけは独自調達して、仮想環境上で構築できる。こうすることで、権限の集約と各自の自由度のバランスをとっている。
静岡大学は、これによって1年あたり6億円ぐらいのITコスト削減を実現するそうだ。そして、緊急連絡など災害系のシステムは国内に災害が遭った場合を想定して海外のクラウドを利用、財務・人事など外部に流出するのに適さないものはプライベートクラウドを構築、それ以外は安い国産サービスを利用、という使い分けも分かりやすい。
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情報システムのクラウド化を進めるためには、まずは組織におけるIT権限の集権を。