日本の景気は賃金が決める

アベノミクスで日本はどこへ行く?では、日本経済によって賃金格差や労働市場に問題があるんじゃないかと述べられていた。というわけで、賃金格差についてもう少し具体的に述べられた本を読んだ。

 

 

物価と比較して賃金がどうなっているかが重要

今、アベノミクスでは消費者物価指数2%を目標に政策が打ち出されているが、物価が上昇するということはインフレになり、いろいろ買うのに困る事態になるのでは、という懸念を唱える人もいる。これは、単純に物価と賃金の関係にあり、物価が上がれば賃金も同程度か、あるいはそれ以上上昇する必要がある。しかし、これまでの日本は違った。

一九九七年から二〇一一年までのあいだ、年平均〇・九二%のペースで下落しました。ちょうど、消費者物価(コア指数)の四倍のスピードで下落したことになります。物価の下落よりも賃金下落のほうがずっと激しかったという事実には、重大な意味があります。

本書を読めばわかるが、これまでの日本では、物価の下落以上に、賃金が低下していた。

 

賃金格差の解消が必要

経済として復活するには、賃金が上昇しなければならない、という以下の内容が本書の主張だ。

いまでもまだ国際的には貿易依存度が低い日本経済が、本当の意味で復活するには、どうしても国内消費の全体的な拡大が必要です。そのためには、①賃金デフレを脱して、賃金が平均的に上がることと、②賃金格差が縮小して、消費に使う比率が高い人たちにおカネが回ることが、最重要ポイントだといえます。

これは、「アメリカの世界戦略に乗って、日本経済は大復活する!」でも述べられていた、物価が上がれば賃金が上がるわけではない、という論点ともつながる。全体として賃金が上がり、消費が旺盛になって、経済が浮上してくるというものだ。

そのためには、賃金格差が鍵になる。今、正社員という既得権が邪魔になって、正規・非正規や、男性・女性、子育て世帯・それ以外の対立軸で、賃金格差が発生している。全体で富める状態ではなく、一部の富める人たちと貧しい人たちの格差を生み、消費の増大感を阻害している。

いろいろ興味深い事実が、数字とともに示されている。例えば、日本は国際的に見ると勤続年数に応じた賃金上昇率が高いとか。これは、労働市場における人材の移動を硬直化する、あるいは年齢による格差を生じさせている、と見ることができる。

日本企業は、長年続けて働いた労働者に対して、高い賃金を支払いすぎている。国際的な感覚では、そう指摘できます。企業にとってはこれがかなりの重荷であるために、だんだんと非正規雇用比率を高めているという事情もあるでしょう。その意味でも、勤続年数の長短による賃金格差が国際的にみて過大であることは、弊害が大きいといえます。

また、子育て世帯の圧迫や、特に大人一人で子どもを育てる世帯の相対貧困率の低さは、何となく知っていても、実際の数字を見ると改めて驚く。

大人が二人以上いる子育て世帯では、相対的貧困率は一〇・五%です。OECD平均は五・四%で、その約二倍で順位が二二位ですから、悪い値です。  さらにとんでもなく悪いのが、大人がひとりの子育て世帯の相対的貧困率で、なんと五八・七%です。ひとり親だけで子育てをしている世帯の約六割は相対的貧困の状態にありながら、子供を育てているのです。……OECD平均は約三割ですから、その約二倍です。

今後の政治は、これらの格差を解消していくような政策を打っていくことになるのだろうか。

 

都市部に人口を集中させる

今後の日本は都市部に人口を集中させる、という必要性が述べられている。それは、日本のGDPの大半を占める第三次産業の生産性向上が必要だ、という理由に基づく。

サービス業では〝稼働率〟が大切だと、先ほど説明しました。人が密集すれば、サービス業の稼働率は高まります。人口の密集の度合いを示す指標として「人口密度」があります。この人口密度が高まることで、第三次産業(広い意味のサービス業)が発展し、国内需要が主導する経済成長のスピードが高く維持できる。昔もいまも、この論理は強力に働きます。

これは、僕も非常に賛成する。人口が減少していく今後を考えると、生産性を向上させていくためには物理的に集積する必要があると思う。東京が魅力的な都市であり続けているのは、人口が増えて集積が高くなっているからだと思うし。

実際に都市における集積効果については、この動画を見ると良いだろう。
都市および組織の意外な数学的法則

 

というわけで、今後の経済については、物価だけでなく賃金にも注目していく必要がある。

アベノミクスで日本はどこへ行く?

内容は、先日読んだ「アメリカの世界戦略に乗って、日本経済は大復活する!」と重なる部分が結構ある。最近経済をちゃんと勉強しようと思っているんだけど、この本も今起こっている事象を理論と合わせて説明してくれる点で、非常に理解が深まって良い感じ。これで200円とか。

アベノミクスはマーケティングの勝利

今株が上がっているのも、円安が進んでいるのも、アベノミクスのおかげとは言いづらい。

株高の原因は、去年秋からの急激な円安です。これは安倍さんのおかげじゃなくて、去年8月にECB(欧州中央銀行)のドラギ総裁が、南欧諸国の国債を無制限に買って支援すると表明したのがきっかけで、9月ごろからユーロが上がり始め、続いてドルが上がり始めた。リスクを避けて円に逃避していたリスクオフの資金が、欧米に戻り始めたのが円安のきっかけです。

ただ、タイミングは非常に良かったし、マーケティング的勝利なんだろうな。「景気のキは気分のキ」といわれる通り、新しい情報が入るとそれが織り込んでマーケットは動く。それが実質的なものではなくても。

 

インフレは嬉しいことなんだろうか?

今、日本はインフレを目指していろいろ政策が行われている。本当にこれは嬉しい結果につながるんだろうか。

まず、「デフレが景気を悪くしている」というのは確かに疑問だ。デフレは結果に過ぎないし、日本は輸出大国ではなくなっているし、確実に世界は一物一価の方向に進んでいる。デフレが起こるのは必然的な流れとも言える。

興味深いのは、インフレが実質的な賃下げであること。

だから日本の労働者の賃金は高すぎるわけです。中国と差が縮まらないと競争力の差は縮まらない。だからそれをやるためには賃下げをすることが望ましいんだけど、賃下げというのは非常に難しいですから、インフレによって実質的に賃下げをする。そういうことによって雇用を増やすというのが、本当のインフレの狙いなんですね。

確かに世界中で物価が下がる一方で、名目賃金を下げるのは難しい面が伴う。そうであれば、インフレを起こすことで実質的な賃金を下げ、これにより国際競争力を強化する。理論的には確かに成り立つが、テレビのニュースなんかではこういう説明を見た覚えがないな。

本当の原因はどこにあるのか?

本の中で話はどんどん進んでいき、最後は労働市場に焦点が当てられる。これが非常に面白かった。

欧米では、産業別労組が賃上げ要求するのに対して、企業がそのコストを転嫁してインフレにし、高コストの労働者をレイオフする。その労働者が賃金の安い成長企業に転職する、という形で新興国との賃金格差が是正されてきました。

それに対して日本では、企業別労組が経営側と痛みを分かち合って賃下げする代わりに雇用を守るという形で単位労働コストを下げてきました。どっちが社会的コストが大きいかというと、欧米のほうが失業率も高くなる。日本は、少なくとも企業の中にいる社員は守られる。

つまり、日本は賃上げやベアを諦める代わりに、失業率を下げていた。ただ、マクロな目線でみれば、雇用を硬直化して、若年層や非正規雇用に転換されていたり、成長産業に人材が移動しないというデメリットも抱えている。

 

世界のトレンドは物価下落だ。そして、途上国の低賃金競争に勝っていくためには、付加価値の高い成長産業に人を配置していくための労働市場改革が必要になる。ああ、自分の頭がつながった感じ。

アベノミクスで日本はどこへ行く? (アゴラオリジナル)

アメリカの世界戦略に乗って、日本経済は大復活する!

経済というのは、因果関係が複雑で、実証例もそんなに多いわけではないことから、未だに多くの論争を生む学問だ。そういう学問の中では、理論も重要かもしれないが、ストーリーの理解も同じぐらい必要になる。本書はストーリーとして今や今後の経済をどう読み解くかを教えてくれる。

 

インフレだから景気が良くなるわけではない

この本にある主張は、デフレが不況の要因ではないし、インフレにすれば景気が良くなるわけではない、ということだ。

グローバル経済下では、「所得の上昇→消費の拡大→物価の上昇」というプロセスは成り立ちますが、安倍政権が想定する「物価の上昇→所得の上昇→消費の拡大」という従来のカビ臭い経済理論は成り立ちません。そのことは、この本を読み進めるうちに明らかになっていくでしょう。

統計の世界でよく言われるのは、相関関係と因果関係は違う、ということだが、まさにそういうことだ。むしろ、所得が上がる前にインフレがきてしまうことで、経済にダメージを与えてしまう可能性の方が高くなってしまう。

一方で、株高やドル安になっても、中小企業や一般国民にはその恩恵がほとんどもたらされませんでした。むしろ、金利低下や物価高による副作用のほうが大きかったと言えます。金利低下が銀行の貸し渋りを招き、苦境に陥る中小企業を増加させましたし、ガソリン価格の高騰に代表される物価高は生活コストを上昇させ、一般国民の生活をいっそう苦しくしました。

いわゆる、企業が富むことや、株式を保有する人たちが富めば、労働者も富んでくるという「トリクルダウン理論」が言われているが、それがどこまで効果があるのか、リーマンショック後のアメリカはどこまで効果があったのかは意見が分かれている。

 

シェールガス革命のインパクト

本書のストーリーの根幹になっているのは、シェールガス革命だ。そのインパクトが、自分が思っているよりもとても大きかった。シェールガスが今後普及してくると、アメリカは天然ガス・原油ともに世界一の生産量になると見込まれている。

国際エネルギー機関(IEA)によれば、アメリカは2015年までに天然ガスでロシアを抜き、2017年までには原油でサウジアラビアを抜き、両方の資源の生産量で世界一になる見通しです。その流れに乗り、アメリカの企業や家計では、割高な石油の代わりに安価なシェールガスを使う動きが広がってきており、海外に依存するエネルギー消費量が減少傾向の途上にあります。

これによって、エネルギーコストが安くなることで、価格勝負ができるようになる。それによって、生産量が増え、雇用が増えるという好循環が発生し、アメリカが景気を浮上させる。その波に日本が乗っていけば、日本も再度景気を浮上させることができるのではないか、ということだ。

この本を読むと、経済というのは外交戦略と切っても切り離せないことがよくわかる。

そして、日本にとってもエネルギーコストの影響は国家レベルでみても大きくて、貿易収支が赤字になるどころか経常収支が赤字になることも予想される。その場合の影響は以下の通りだ。

つまり、日本が経常赤字国に転落すれば、国内の貯蓄や資金が不足し、国債発行による資金調達を海外からの資金に頼らざるをえなくなります。仮に日本の経常収支が赤字に陥れば、最悪の場合、日本国債の利回りが急騰し、日本が財政危機に見舞われるという事態も想定しなければなりません。

アメリカのシェールガス革命によってエネルギーコストが低下すると、経済的にはデフレになると言っている。つまり、コストが下がるので全体として物価が下がるからだ。ただ、重要なのはインフレかデフレかではなくて、実質賃金と物価の関係であり、物価より実質賃金が上回っていれば、人は生活豊かに感じるだろう、ということだ。

世界経済の歴史を遡れば、インフレの時代よりもむしろデフレの時代のほうが長かったことが明らかになっています。インフレになるのは戦争か財政難といった一時的な現象であり、それ以外の平和の時代や技術革新による生産性が向上する時代には、デフレが通常の経済状態なのです。とりわけ、18世紀後半から19世紀にかけてのイギリスの産業革命の隆盛期や、19世紀後半の大デフレ期(グレートデプレッション)においては、技術革新による供給能力の飛躍的な進展が世界的なデフレをもたらしました。

 

最後に本書の中では、興味深い記載がある。

たしかに、地方の生活インフラが向上した現在の日本では、都会よりも地方のほうが暮らしやすく生活の豊かさを感じる部分は少なくありません。とりわけ、子育て世代にとっては、地方のほうが豊かさを実感できることと思います。米欧の有力企業の多くが本社を地方に置いている事実を見ても、日本企業はもう一度、地方に目を向けた経営、雇用を考えてみるべきではないでしょうか。

個人的にも、地方の方が生活しやすい面を感じることがある。今後は日本でも地方が活況になるのかもしれない。

アメリカの世界戦略に乗って、日本経済は大復活する!

コンパクトシティを実現するためには何が必要か

人口減少時代で町並みはどう変わっていくか、という話。これまでは日本はどんどん土地を拡大していて、郊外にショッピングセンターができて、商店街が機能を失っている、というのは良く聞くことで、それに対するカウンターがコンパクトシティという考え方。

簡単にいえば、人が活動する場所を狭い場所に集積させて、利便性や効率性を高めようということ。間延びした公共交通機関や公共インフラのメンテナンス費用も低減できるし、徒歩などの近い距離圏で生活を済ませることができる。

 

北海道伊達市の例

北海道の伊達市は、コンパクトシティを実現した快適な居住環境が実現されており、移住が多いそうだ。その理由が市のホームページに書いてある。

(伊達市ホームページ あなたの憧れを実現するまち 伊達に住もうより)

 

小冊子も作られているし、これほどマーケティングが明確な都市もそんなに多くないんじゃないかな。実際、人口は15年ぐらいで徐々に増加している。

(伊達市ホームページ 人口の推移(平成7年~)より作成)

 

コンパクトシティを実現するためには何が必要か

伊達市の場合は、コンパクトシティを実現するにあたって、病院を街の中心に移動させている。考え方としては、「まちなか集積医療」というのがあって、詳細な以下で読むことができる。

www.nira.or.jp/pdf/0907report.pdf

 

病院は、人が距離を理由に選ぶ要因が強く、人が集まりやすい。また、病院はサービス業であり、集積することで、情報や人の移動が密になり、分業も促進されるため、サービス品質も効率も向上することが期待される。人が集積することで、都市全体の効率が向上することは、TEDの動画でも紹介されている。

都市および組織の意外な数学的法則 | Synapse Diary

 

また、この「とれいん工房の汽車旅12ヶ月」というブログでは、コンパクトシティという発想は悪くないものの、街の中心を成すためにはたくさんの「機能」を中心地へ戻す必要がある、ということを述べている。

「市役所や警察署、病院、中学や高校などの公共施設も、旧来の市街地にあった施設が手狭になったこともあり、郊外への移転が次々と行われてきた」ことで、街の中心性は失われた。中心市街地活性化もコンパクトシティも理屈としては分からないわけではないが、現実問題、都市の”核”としての機能が失われたところに人々が帰ってくる保証はない。そこまで思い入れのある人は少ない。魅力あるコンパクトシティにするには、巨額の財政出動が必要だ。それを支持する市民はあまり多くないだろう。

“中心”が存在しない日本の都市にコンパクトシティは似合わない。 – とれいん工房の汽車旅12ヵ月

 

これは、「商店街を活性化させよう」とか「郊外のショッピングセンターを規制しよう」というのではなく、人が住む上で必要なたくさんの機能、特に公共機関などの社会インフラを街の中心部に設けることが、改めて都市部に人を寄せることになるんじゃないかと思う。公共機関もそうだし、既に郊外に広がってしまった建物や人々をどうするかは、コンパクトシティを考える上ではとても重要な課題になるだろう。

商店街はなぜ滅びるのか

商店街というのは、どんどん衰退している印象がある。岐阜にも柳ヶ瀬商店街という、岐阜市の中心に位置する商店街があるが、決して繁盛している様子にはみえない。いろいろ活性化に関する取組が行われているが、人口減少や郊外の大型ショッピングセンターなどとの競争によって、厳しい状況は続いているのだろう。

この本では、そもそも商店街が生まれた背景から、その後の社会情勢と商店街の変遷が理解できる。知らないことばかりだった。

 

商店街の歴史

工業化が発展していく流れの中で、第二次産業によって労働者を吸収するとともに、それでも雇用者となれなかった農村出身者などが零細の小売業者となった。小売が零細のため品質が悪く、また雇用環境も安定しなかった。これを解消するひとつの手段として、「商店街」が生まれた。商店街は昔からずっとあったものではなくて、近代的な社会構造の変化とともに生み出されたものだというのが、本書の主旨だ。

その後、小売や流通の規制が緩和され、スーパーや百貨店が高い生産性を達成していく中で、商店街は政治に保護を求め、保守傾向を強める。それでも今度はコンビニが登場して、商店街を切り崩していく。コンビニが普及していったのも、時代背景と合致していて、ちょうど流通や小売の構造が変わっていって、零細小売業者の生活が厳しくなっていた。一方で、酒などの販売利権は零細業者に付与されており、コンビニはそれを獲得することにメリットがあった。

 

商店街は、零細である専門店を集約して生活に便利な消費圏を構築していたのだけれど、大型スーパーの台頭と、利便性が高く雑多なものが置かれているコンビニで、商店街としての強みは喪失してしまった。まともに比較すると、以下の記事のようになるわけで。
潰れゆく商店街から学ぶ「売れないお店の法則」 | お土産屋さんブログ

 

とはいえ、零細小売業者から転換したコンビニ店主も、結構楽ではない状況だったりする。
インテリライフ2ch : コンビニ経営者 「助けて!年中無休で辛い!糞高い上納金!もう死にそう!」

 

商店街の今後の動向

商店街については、いろいろな観点からみる必要がある。小売や流通の生産性が低い商店街を保護するのは、資本原理に抵抗することになる。実際、2010年現在でも、卸・小売業の労働生産性は製造業などと比べると低いと言われている。対米比で、製造業は70%であるが、卸小売は42%になっている。
公益財団法人日本生産性本部 – 労働生産性の国際比較2010年版 (生産性研究レポートNO.023)

 

一方で、商店街というのは各経済圏の中心に位置していることが多く、これが衰退することで町中の消費体験が低下する、あるいは郊外の大型店に引っ張られて街としての形成が危うくなるという構図がある。

とまあ、いろいろ問題はあるのだけれど、全国10000以上ある商店街に行政も取組を行っている。
中小企業庁:FAQ「小売商業対策について」

 

この問題は経済的な保護の面もあるのだろうけど、どちらかといえば都市政策の分野で考えられるべきところなのかね。昔の田園都市構想とか、そういう都市デザインと関連しているような気がしました。

人口も減っているし、僕は田舎や郊外で生活するのはどんどん厳しくなって、都市に集まる傾向が続くと思っているんだけど、そういうときに、商店街を抱える都市の中心は、どういう町並みであるのが良いんだろうか。

ミッシングリンク

情報通信産業に関する「ミッシングリンク」を整理した一冊。これが結構面白かった。

日本の情報通信関連企業は、グローバル競争の観点からすると、決してうまくいっているとは言えない。その原因は、いろんなところに存在する「ミッシングリンク」だ、というのが著者の主張だ。

 

情報通信産業の大きさとトレンド

日本の情報通信産業というのは、GDPの10%弱を占めており、製造業が20%前後であることを考えると、その半分程度の規模。主要な産業の中では小さい方ではあるものの、GDPを構成する立派な一つの産業であることは間違いない。

しかし、日本の情報通信関連企業については、決して良い状況とはいえない。

米国企業の2009年の収益が70%(2000年比)増加しているのに対し、日本企業の場合は17%の増加(同期比)にとどまっており、米国に比べると低調といわざるを得ない。

日本の情報通信関連企業は、グローバルな競争にうまく入り込めず、業績が低迷しているということだ。

 

コンテンツはハードやソフトと切り離されている

この数年ずっと同じ傾向になっている気はするのだが、ハードやソフトの発展によって、最もユーザに近いコンテンツの部分の自由度が高くなってきている。それをこの本で、以下のように表現されている。

ハードとソフトの紐付けの関係がほどけてきて、1つのコンテンツを様々な媒体を介して流通することが可能になってきたのである。

まさにKindleがそれで、Kindleの端末だけでなく、PC、Mac、iPhone、Androidなど様々な媒体で同一コンテンツを扱うことができる。

このように、ハードやソフトの制約が低くなることによって、モノを中心に構築するエコシステムではなく、特定の企業がサービスやプラットフォームを提供し、その周辺に様々なプレイヤーが関わる新しいエコシステムが生まれている。で、モノを提供する企業は、「エコシステムに参加する人」になってしまっている、ということが実際に起こっている。

このエコシステム構築にはいろいろアプローチがあるし、一方で簡単にはいかないのが現状ではあるのだけれど、通信会社であるAT&TがAPIで決裁機能を提供する事例が紹介されていて面白かった。日本でも、「もう通信会社って中抜きだよね」と言われているけど、考え方次第でまだまだ主要プレイヤーになれる可能性があるんじゃないか。

 

IT投資に対する米国と日本の違い

クラウドサービスの利用率について、米国と日本の違いが述べられていた。

日米間で比較して興味深いのは、メールシステムなどの情報系システムについては、導入率は日米でそれほど違いがないということ。日米間で大きく異なるのは基幹系システムの導入率で、米国が日本の約2倍となった。米国の企業は「まずは使ってみてメリットを実感してみよう」という攻めの姿勢が強い様子がうかがえる。

米国ではITバブルが弾けた一時期を除き、景気の良し悪しに左右されることなく一貫して情報通信関連投資が伸びている。他方、日本では景気が下振れすると情報通信関連投資が下振れする局面が多く見られる。米国では情報通信関連投資が「次の飛躍に向けた戦略的投資」であるのに対し、日本では依然として「コストセンター」と見られている面があるといえるだろう。

基幹系システムに対するスタンスの違いは大きい。基幹系システムについては、その名の通り業務の根幹に位置づけられるもので、自社特有の内容を含んでいる場合もあるし、これを変更することの業務への影響も大きい。これを変更するのは、経営効率やコストの面でリスクも孕んでいる。ただ、逆にここを積極的に変えていくかどうかが、経営のスタンスを決めるんじゃないだろうか。

 

それ以外にも、アジアなどの新興国とIT戦略の関係、国と民間の規制に対するアプローチなど、総務省大臣官房企画課長というだけあって、多面的なアプローチから情報通信産業を取り巻く状況が整理されている。

情報通信産業は、サービス業ほどではないが、他産業に比べると比較的付加価値率の高い業種と言われる。この業種は、今後どうやって生き残っていくんだろう。

岐阜市の消費者物価指数(平成24年9月分)

岐阜市の9月の消費者物価指数が発表されていた。

 

岐阜市の消費者物価指数の結果

 平成24年9月の岐阜市の総合指数は、平成22年を100として99.4となり、前月と同水準、前年同月比で0.4%下落となった。
生鮮食品を除く総合指数は99.5となり、前月と同水準、前年同月比で0.3%下落となった。
食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合指数は98.0となり、前月比で0.2%下落、前年同月比で0.9%下落となった。

岐阜県 : 岐阜市消費者物価指数 月報201209

というわけで、グラフにしたものが以下。

岐阜市の消費者物価指数(平成24年9月)
(岐阜県 : 岐阜市消費者物価指数 月報201209を元に作成)

 

相変わらずエネルギーが物価を押し上げている。先月からの比較では、衣料系の伸びが大きくなっている。

日銀では物価指数のめどを1%になっているが、日本全国のコアCPIは実際1%どころかマイナスになっている。総合CPIとコアCPIに大きな乖離はなく、消費者物価指数を上下させる主な要因がエネルギー系になっていて、それを除くと物価は下がり続けている状態だ。

岐阜県の大型小売店販売額(平成24年8月)

岐阜県の大型小売店販売額の8月分が発表されていたので、確認。 小売店販売額はそのときの景気動向と一致すると言われていて、今後の消費動向を考える上での指標として使われる。

というわけで、平成24年8月の大型小売店販売額。

岐阜県 : 岐阜県の大型小売店販売額 月報201208
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● 大型小売店販売額:242億円
前月比は2.0%増
前年同月比は、全店ベースで2.6%増、既存店ベースで2.5%増となった。

● 商品販売額別の動向
・ 衣料品の前年同月比は、全店ベースで0.6%増、既存店ベースで0.6%増
・ 飲食料品の前年同月比は、全店ベースで2.5%増、既存店ベースで3.5%増

岐阜県 : 岐阜県の大型小売店販売額 月報201208

というわけで、前月比は全体として上がっている。飲食料品の方が高い傾向を示している。

 

1年間の推移は以下の通り。

大型小売店の販売額_201208

 

季節によってある程度トレンドがあり、これから年末に向けたは低調な傾向が続く。特に、今年は夏が暑かった分、秋冬の衣料が低迷するかもしれないと言われているので、本当にそういう経過をたどるのか状況をみてみよう。

岐阜県の景気動向指数(平成24年7月分)

最初の経済指標を見始めてからはや1ヶ月。最初に記事を書いたのが景気動向指数だった。今回は7月分。

サマリは以下。

7月のCI(平成17年=100)は、先行指数:92.9、一致指数:99.6、遅行指数:91.3となった。  先行指数は、前月と比較して2.7ポイント上昇した。3か月後方移動平均は1.03ポイント下降し、 4か月連続の下降、7か月後方移動平均は0.03ポイント下降し、4か月ぶりの下降となった。  一致指数は、前月と比較して1.5ポイント上昇した。3か月後方移動平均は0.90ポイント下降し、 3か月連続の下降、7か月後方移動平均は0.04ポイント下降し、10か月ぶりの下降となった。   遅行指数は、前月と比較して4.8ポイント下降した。3か月後方移動平均は0.93ポイント下降し、 6か月ぶりの下降、7か月後方移動平均は0.40ポイント上昇し、5か月連続の上昇となった。

岐阜県 : 景気動向指数 月報201207

6月から先行・一致ともに指数が上昇する結果となった。消費者物価指数鉱工業生産指数大型小売店販売額などの指標をみる限り、横ばいから上昇傾向になることが読み取れたので、予想通りという感じか。

7月までの岐阜県の一致指数は、以下の通り。


www.pref.gifu.lg.jp/kensei-unei/tokeijoho/kohyoshiryo/keizai/keiki/2012/keiki201207.data/keiki_2012_07_syou.pdfから抜粋)

 

実際、一致指数の寄与度をみると、機械工業生産指数、鉱工業出荷指数、手形交換金額が6月から大きく改善することで、全体の値を上げている。(大型小売店販売額は若干改善しているものの、寄与度は小さい。)

東海三県の消費者物価指数を比較する

岐阜市の消費者物価指数に加えて、地域によってどれぐらい違いが出るのか調べてみた。以下のグラフは、各地域のコアCPIを並べたもの。対象は東海三県と東京都にした。

 

岐阜市以外のソースは以下。

名古屋市:名古屋市消費者物価指数(平成24年8月分) | 愛知県
三重県:三重県消費者物価指数の公表(平成24年7月)
静岡県:統計センターしずおか/静岡県消費者物価指数 平成24年9月報(平成22年=100)
東京都:東京の物価 平成24年8月分 統計表

 

やはりというか、地域によって違うもんだな。

全体的に高いのは三重。低いのは東京都。トレンドはどこもほぼ同じような形を描いているけれど、起伏の幅が結構違う。

 

名古屋市と岐阜市は距離もそんな遠くないはずなんだけど、平成24年4月ぐらいから指数が乖離してきてる。