情報通信産業に関する「ミッシングリンク」を整理した一冊。これが結構面白かった。
日本の情報通信関連企業は、グローバル競争の観点からすると、決してうまくいっているとは言えない。その原因は、いろんなところに存在する「ミッシングリンク」だ、というのが著者の主張だ。
情報通信産業の大きさとトレンド
日本の情報通信産業というのは、GDPの10%弱を占めており、製造業が20%前後であることを考えると、その半分程度の規模。主要な産業の中では小さい方ではあるものの、GDPを構成する立派な一つの産業であることは間違いない。
しかし、日本の情報通信関連企業については、決して良い状況とはいえない。
米国企業の2009年の収益が70%(2000年比)増加しているのに対し、日本企業の場合は17%の増加(同期比)にとどまっており、米国に比べると低調といわざるを得ない。
日本の情報通信関連企業は、グローバルな競争にうまく入り込めず、業績が低迷しているということだ。
コンテンツはハードやソフトと切り離されている
この数年ずっと同じ傾向になっている気はするのだが、ハードやソフトの発展によって、最もユーザに近いコンテンツの部分の自由度が高くなってきている。それをこの本で、以下のように表現されている。
ハードとソフトの紐付けの関係がほどけてきて、1つのコンテンツを様々な媒体を介して流通することが可能になってきたのである。
まさにKindleがそれで、Kindleの端末だけでなく、PC、Mac、iPhone、Androidなど様々な媒体で同一コンテンツを扱うことができる。
このように、ハードやソフトの制約が低くなることによって、モノを中心に構築するエコシステムではなく、特定の企業がサービスやプラットフォームを提供し、その周辺に様々なプレイヤーが関わる新しいエコシステムが生まれている。で、モノを提供する企業は、「エコシステムに参加する人」になってしまっている、ということが実際に起こっている。
このエコシステム構築にはいろいろアプローチがあるし、一方で簡単にはいかないのが現状ではあるのだけれど、通信会社であるAT&TがAPIで決裁機能を提供する事例が紹介されていて面白かった。日本でも、「もう通信会社って中抜きだよね」と言われているけど、考え方次第でまだまだ主要プレイヤーになれる可能性があるんじゃないか。
IT投資に対する米国と日本の違い
クラウドサービスの利用率について、米国と日本の違いが述べられていた。
日米間で比較して興味深いのは、メールシステムなどの情報系システムについては、導入率は日米でそれほど違いがないということ。日米間で大きく異なるのは基幹系システムの導入率で、米国が日本の約2倍となった。米国の企業は「まずは使ってみてメリットを実感してみよう」という攻めの姿勢が強い様子がうかがえる。
米国ではITバブルが弾けた一時期を除き、景気の良し悪しに左右されることなく一貫して情報通信関連投資が伸びている。他方、日本では景気が下振れすると情報通信関連投資が下振れする局面が多く見られる。米国では情報通信関連投資が「次の飛躍に向けた戦略的投資」であるのに対し、日本では依然として「コストセンター」と見られている面があるといえるだろう。
基幹系システムに対するスタンスの違いは大きい。基幹系システムについては、その名の通り業務の根幹に位置づけられるもので、自社特有の内容を含んでいる場合もあるし、これを変更することの業務への影響も大きい。これを変更するのは、経営効率やコストの面でリスクも孕んでいる。ただ、逆にここを積極的に変えていくかどうかが、経営のスタンスを決めるんじゃないだろうか。
それ以外にも、アジアなどの新興国とIT戦略の関係、国と民間の規制に対するアプローチなど、総務省大臣官房企画課長というだけあって、多面的なアプローチから情報通信産業を取り巻く状況が整理されている。
情報通信産業は、サービス業ほどではないが、他産業に比べると比較的付加価値率の高い業種と言われる。この業種は、今後どうやって生き残っていくんだろう。