地方で事業を行う上で、どういう要点が必要なのかという点に興味を持っています。そこで、以前から知っていた「気仙沼ニッティング」のことをもっと知りたくなって、この本を読みました。
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気仙沼ニッティングとは
気仙沼ニッティングとは、気仙沼に本拠地を置く、手編みセーターを販売する会社です。
震災の後に、ほぼ日のプロジェクトとして始まり、法人化しました。
気仙沼ニッティングは、気仙沼を拠点とし、 お客さまに手編みの商品をお届けする会社です。 2012年6月にほぼ日刊イトイ新聞で 震災支援のプロジェクトとして始まり、 2013年6月に株式会社として独立しました。
立ち上げ時期の内容についても、ほぼ日のウェブサイトに掲載されています。
ほぼ日刊イトイ新聞 – いいものを編む会社。ー気仙沼ニッティング物語
優れたデザインと、手編みならではの味わいが特徴で、価格もなかなかに高級になっています。
本書はその創業ストーリーであります。
戦略ストーリーができている
最近「ストーリーの競争戦略」を読み返しているせいではありますが、この気仙沼に行ってイングも非常に戦略としても1人を感じるんですよね。
気仙沼で手編みニットを作る理由、価格、商品ラインナップ、販売やマーケティングの手法。それらひとつひとつが密接に絡まっていて、1つのストーリーを構築しているように感じてなりません。
たとえば気仙沼ニッティングの商品は、一般的なセーターから考えれば非常に高額ですが、それをこのような理由で述べています。
「とりあえず気仙沼の人たちがすぐ簡単に編めそうな商品をつくって、手ごろな価格で出してみて、売れるか売れないか見てみよう」という姿勢だったら、きっといつまでたっても気仙沼ニッティングの商品の品質は上がらなかったことでしょう。それに、きっと売れなかったとも思います。「気仙沼の人たちがすぐ簡単に編めそうな商品」というのは、「日本中の人たちが誰でもすぐ自分で編めるもの」でもあるからです。
長期的に続いていく競争性を確保するためには、差別化が大きい点を作るのはとても重要なことです。
僕も最初は「10万円以上もする手編みのニットって、誰が買うの?」と思っていましたが、顧客層や購買理由はこの本を読めば「なんとなく」わかります。この「なんとなく」というのが重要です。それこそは、ひとつひとつで構成されているストーリーの一部だけを見ても、本当のところは外部からはよくわからないからです。ただ、ヒントはあります。
手編みのうれしさってなんでしょう。これは、後々ずっと考えていくことになる課題です。たとえば手編みには、ひとつひとつの編み目に空気がふくまれるためふっくらしてあたたかい、といった機能的な利点もあります。長持ちする。着る人の身体になじみやすい。どれもよい点なのですが、手編みの一番のうれしさというのはやはり、「だれかが自分のために編んでくれた」ということそのものです。オーダーメイドなら、その豊かさを、たっぷり感じることができます。自分のために、いまカーディガンを編んでくれている人がいる。その豊かさをしっかり感じてもらえるようにしたいと考えました。
これを読むと、製品に付随するものとして、それ以上の「何か」を購買者に与えているんじゃないかという気がしてきます。
また顧客層に関しても、都市部が多いわけではないと書かれています。その内容は本書を読んで欲しいのですが、想定した顧客以外のところから幅広くニーズを獲得できているのも、この「ストーリー」を構成する重要なパーツになっていると思います。
本書の最後のあたりでは、ネット販売を中止にするならもっとウェブサイトの力を入れて拡大するべきだと言うアドバイスをもらい、このように記述しています。
たしかにそうすれば1~2年は売上が急増するかもしれません。しかし100年続く事業には育てられないでしょう。それは、気仙沼ニッティングがこれまで丹念に仕事をすることでお客さんから得てきた信頼を、短い時間で使い切るような話だからです。信頼は、築くのには時間がかかりますが、なくなるときはあっという間です。経営を捉える時間軸の長さによって、いまやるべきだと考えることは変わるのでしょう。
最初、気仙沼ニッティングのウェブサイトを見たときは、モバイル対応もされていないし、SimilarWebで見た時もそれほどアクセスがあるようでないようなので、ほんとにこれでネット販売してるのかなっていう素朴な疑問を持ちました。しかし、きっとこの会社ならではの優先順や成長スピードがあり、確実に信用を積み重ねながら経営されているのでしょう。
ということで、良い企業にはストーリーがあるんだな、と再確認した一冊でした。いつか気仙沼ニッティングで注文してみたいな、と思いました。
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