日本を観光立国にするポイント3つ

日本の地方都市は、観光で稼ぐことはできるだろうか。

この本は仮説思考をベースにした本なのだけれど、地方や中小企業に向けた内容が多く、特に観光戦略について考えさせられた。

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観光産業を推進する目的は、外貨を稼ぐことに集約される。これを考えたときに、どうやって地方は観光戦略を立てるべきなのだろうか。今、日本の観光戦略に不足しているものは何だろうか。

観光に関する統計データを整備する

スペインでは、観光統計データも州、主要都市ごとに観光客数、国籍、宿泊日数などを把握して毎月公表。法令によりホテルや主要観光施設には詳細な報告を義務付けられていることで実現しています。そして、このデータに基づき観光状況を検討し、政策に反映させています。P.97

統計データを集め、提供することはひとつ重要な要素だろう。データがあって初めてわかることがあるし、データが公表されることで、いろんな人がそれを判断材料にできる。データに頼りすぎるのもよくないが、データは思い込みや誤解を排除し、新しい発見を与えてくれることがある。公共機関として重要な役割だ。

観光ルートを把握する

中国人観光客の観光ルートの定番は、関西空港から入国し空港近くのホテルに1泊。2日目は大阪、京都を観光し、滋賀県大津や岐阜県大垣などの比較的安価な宿泊地に宿を求めます。宿泊費の節約でしょう。P.162

東京で外国人を見かけたときは、みんな成田に到着して東京で宿泊するもんだと勝手に思っていたけど、こうやって具体的に示されると、なるほどと思うと同時に、言われてみないと気づかないもんだなと思う。

具体的なルートを知ることで集客の仕方も変わるし、意外なところで収益チャンスが生まれるもんだなあと感心。

観光者に受ける製品を考える

この本を読むまで全く知らなかった、海外で売れる商品をつくる地方企業というのがたくさんある。そのうちのひとつとして挙げられているのが以下。

古くから刃物の町として知られている岐阜県関市の刃物雑貨メーカー、グリーンベル。P.165

ここ。「ガイアの夜明け」でも取り上げられたそうな。

グリーンベル 匠の技

ルーペ付き爪切りなどが、中国人観光客に売れているのだそう。普通に自分の生活とか価値観を起点に考えていると、どういうものが売れているのかわからないものだなあ。

この本は地方企業の生き残りに関して、事例が豊富でかつ読みやすい。海士町のストーリーなどは読み物として楽しい。日本が観光によって外貨を稼ぐことができれば、閉塞感ある地方経済も新しい道が出てくるんじゃなかろうか。

ネーミングライツの適正価格について考える

完全にタイミングを逸した感があるけれど、京都会館のネーミングライツが、ロームという半導体企業によって50年50億円で落札された。その長い期間と金額の大きさに驚いたんだが。

異例の命名権50年間52億円 京都会館に半導体「ローム」 – MSN産経ニュース

一方で、「日産スタジアム」のネーミングライツは、最初の5年間の契約が満了し、契約更改されたが、年間4億7000万円から1億5000万円に、金額が大きく減った。このあたりにネーミングライツの値付けの難しさがあるように思える。

[N] 「日産スタジアム」ネーミングライツ継続へ

命名権は、1990年後半にアメリカで広がり、日本では2000年代から注目を集め、自治体等の公共施設の赤字補填の手段として注目を集めた。自治体側としても、こういう手続上の理由もあり、事例が増えていったものと思われる。

命名権 – Wikipedia

ちなみに地方自治法において命名権売却は「公有財産の処分」にあたらないため、各自治体の議会での議決は必要ない

「適正な価格」をどう測るか

わかりやすいのは、何か定量的な指標を見つけることだ。過去、フルキャストが宮城スタジアムのネーミングライツを獲得したの効果について、算出している。年間2億円の費用に対し、メディア露出量として4.4億円、2倍以上の効果があると試算されている。

スタジアム命名権のお値段と効果 – Spooky Data Spooks – Yahoo!ブログ

検索キーワードに対するヒット件数、というのもひとつの指標なのかもしれない。

ネーミングライツの費用対効果

AEDを製造するフグタ電子が、「千葉市蘇我球技場」の命名権を獲得したのは、施設内にAEDを配備して商品アピールをするため。こういう具体的なアピール方法もある。

 

定性効果をどう捉えるか

一方で、必ずしも定量的には測れない効果もある。「東京スタジアム」の命名権を購入した味の素は、若年層など普段は味の素と接点が少ない人たちに名前が触れることで、「親近感」が得られたという。

冒頭のロームについても、具体的な費用対効果というよりは、京都会館という地元に根付いた文化施設と企業イメージをリンクさせ、企業名や企業イメージを向上させることが狙いだろう。

そういう意味では、命名権を獲得したい企業と、施設のイメージとの親和性が重要なファクターになる。施設そのものがどういうファクターを持っているか、ということ。そして、そのファクターに魅力を感じる企業がどれぐらいいるのか、というのも価格を考える上で重要だろう。

 

期間はどう設定するか

これまでの日本の事例では、3~6年での設定が多いようだ。3年で変わる名称というのはどうか、という疑問もあるが、一方で契約期間を長くすることは、企業が経営リスクの面から嫌がったり、自治体側としても企業の倒産リスクから嫌がったりするので、これぐらいが落とし所なのだろう。

ただ、名称というのは長く続くからこそ愛着が生まれる、という気もするけどね。

 

考えてわかったこと

命名権というのは、ひとつの広告形態であり、広告効果を定量的に測ることは限界がある、ということ。しかし、そこに魅力を感じる企業はいるし、地方で小さくても、地元にイメージが定着している施設などでは、命名権を獲得したいと思う地元企業もいる、ということ。

自治体にとってひとつの収入獲得手段であることは変わらないけれど、ひとつのブームは既に去り、施設のイメージファクターを見極めるとともに、企業とマッチすることが求められてるんだろうなあ。

デービットキャメロン「政府の新時代」について考える

TEDでみたデービッドキャメロンの「政府の新時代」という動画が結構面白い。ポイントを整理してみる。情報革命と行動経済学を活用することで、行政の新しい形を示している。ここでも軽く触れたけど、やっぱり見返すと面白いので、もう少し掘り下げてみる。

 

デービッド・キャメロン: 政府の新時代 | Video on TED.com

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政府の「これまで」と「これから」

政府の形はこれまでの歴史で、「Local Power(地方分権)」→「Central Power(中央集権)」と変化してきていて、今は民衆に力が与えられる「People Power」の時代になりつつあるようだ。つまり、民衆に力を与えることと、それが故に民衆を理解することが求められる時代になる。

 

新時代の政府に求められるポイント

透明性(Transparency)

政府には透明性が求められる。予算や事業の内容は、いつでもWebで閲覧できるようにしなければいけない。プレゼンの例で出ているのは、ミズーリ州。実際に見てみたけど、確かに情報公開がすごい。州の事業が一覧で公開されていて、どの会社にいくら支払ったとか、詳細に辿れるようになっている。

 

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事業名をクリックしていくと、事業者名が出てくる。わかりやすい。

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本でも、行政機関や自治体によって情報の公開度は異なる。これは自治体の人員やかけられるコストという面もあるのだろうけれど、リーダーや市民からの勢いで進む場合も多い。

予算の公開度が高いのは、大阪府かな。事業ごとに計画内容や予算検討の経緯が公開されていて、誰でもみれる。自分の住んでいる自治体や国は、本当に透明な情報公開が行われているだろうか。

 

選択肢(Choice)

民衆が、公共サービスにもっと選択肢を持てるようになる。わかりやすいのが病院。治療内容や手術の実績なんかを公表し、自分にとって合っていて、安心できる公共サービスを自分で選ぶことを可能にする。公共機関が保持している情報で、公開されていないものは沢山ある。それらを公開することで、今まで選ぶ余地がなかったり、受けてみるまで内容がよくわからなかった公共サービスに選択肢が生まれる。

 

説明責任(Accountablity)

ここでは、犯罪に関する情報を地図にマッピングすることが例に挙げられている。「ニューヨーク市の地図サービスがすごい」でも書いたけど、地図上にいろんな情報をマッピングして公開することは、ひとつのトレンドとして生まれつつある。地図情報がこれまで重かったり、ライセンスが高かったのだけれど、ライセンスが安くなったり、Google Mapsみたいに動的に情報をマッピングする技術が発達したおかげだ。

 

情報を公開することで、現状を正確にタイムリーに伝えることができ、民衆が政治に対して関心を高め、行動に起こすことを呼び起こす効果が期待できる。

 

あとは、電気の利用料金も公開することで、行動経済学的アプローチから制約などの動機付けを行うことを提案している。情報公開は、うまく人々の動機を呼び起こすこともできる。情報革命と行動経済学という組み合わせのアプローチというのは、とても勉強になる。

 

考えてみてわかったこと

先進国では財政不足という共通の悩みを抱えているし、情報革命や行動経済学の発展は、世界で同じように恩恵を受けることが可能だ。つまり、この動画で語られている形は、日本でも通用するひとつの可能性だと思う。

 

また日本では、今後の政府や地方政治の形がうまくみえずにもがいているように見える。一方で、名古屋や大阪で、ひとつの方向性を示す人も登場してきている。リーダーに必要なのは、ビジョンでありコンセプトだ。ひとつひとつの政策を語るのではなく、歴史的な流れを踏まえながら、これからの形を示してくれる。そういうリーダーが求められている気がする。この動画のように。

 

それにしても、一国の首相がこういう講演でビジョンを語れるのはとても良いことだ。

共通番号(国民ID)のすべて

先日、病院に行ってきた。数ヶ月に1回は行く病院なのだけれど、毎回氏名、年齢、住所、病歴etc.をひと通り書かされる。5分程度で書けるので大した負担じゃないと言われればそうなのだけれど、「顧客管理ぐらいしといてくれよ」と正直思ったりする。

でも、2015年から始まろうとしている共通番号が導入されると、こういう事態も防げるようになるだろう。というわけで、共通番号に関するヘビーな一冊。だいたいこれで主要な論点を網羅されてるんじゃなかろうか。

 

共通番号(国民ID)のすべて
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名前などの文字では情報は一元管理できない

年金の名寄せ問題は記憶に新しい。未統合記録が約5000万件存在することに驚き、連日のように糾弾されていた。組織体質のせいだとか、システムが古いとか、データの記入間違いがある、とか言われていたけれど、外字の問題に触れた主張は、この本が初めてだ。

外字というのは、JISなど一般的に使われる標準文字では表せないもので、一般的に使うパソコンなんかではそういう文字は取り扱えない。ただ、公共機関は戸籍情報などのために旧字や異体字なんかを正確に扱う必要がある。そういうのは、外字として文字イメージを別途個別に作成し、データとして登録可能なようにシステムをつくりこむ。こういう部分が、名寄せを厄介にさせる。

外字は、都道府県CIOフォーラムでも議題にされるほど、自治体システムで共通して解消すべき課題になっている。

都道府県CIOフォーラム 第8回 春季会合 – 都道府県CIOフォーラム:ITpro

番号がないと国民が不利益を被る場合がある

年金問題がわかりやすい例だけれど、仕組みや情報の取扱いが不十分なことで、国民の権利が損なわれる可能性があることを、ちゃんと認識しなければいけない。

あと、定額給付金や子ども手当が、収入などの条件に関わらず一律なのは、世帯収入などの条件を一元的に把握する仕組みがないからだ。これをひとつひとつ確認して配布するより、条件に関わらず一律でばらまいてしまった方が事務コストが圧倒的に安い。だから、一律になってしまうのだ。(それでもメディアは、収入が多い世帯に対して給付するのは不公平だ、と報道している場合が多いけれど。)

今の番号制度の検討も、「給付付き税額控除」を実現することが目的のひとつになっている。垂直的な公平性を確保する上でも、番号制度は寄与する。

国の再配分機能は低下している

国などの公共機関には、再配分による格差是正機能があるが、相対的貧困率がメディアで話題になったことからもわかるように、再配分機能は低下しているようだ。以下は、OECDの2008年の報告から抜粋。

給与と貯蓄から得られる所得の格差は、1980年代半ばから30%拡大したが、同時期においてOECD諸国の平均は12%増だった。日本よりも大きく拡大したのは、イタリアだけであった。

1985年以降、子供の貧困率は11%から14%に増加したが、66歳以上の人の貧困率は23%から21%に減少した。これは、依然、OECD平均(13%) を上回っている。

http://www.oecd.org/dataoecd/45/58/41527388.pdf

本の中では、OECD25カ国で公的移転は下から3番目、税による再配分効果は最下位となっている。つまり、租税や給付による再分配機能が低下していて、国内での格差拡大を招いている。番号制度を導入することで、「給付付き税額控除」などの垂直的公平性を実現することを期待されている。

セキュリティや個人情報保護の懸念をどう回避するか

この本では、第三者機関の設置やアクセスログの確認する仕組みを作ることが述べられていた。実際に政府もその方向で検討しているようだ。

番号制度の要綱決定、事業者の罰則も強化 政府実務検討委 – SankeiBiz(サンケイビズ)

住基ネットはセキュリティ上強固であり、かつ合憲であることが実証されているが、共通番号は本人確認に用いられる、かつ所得情報などともひもづけられるので、漏洩リスクは大きく捉えるべきだろう。

「番号になるなんて嫌だ」とか「漏洩したら大変だ」ではなく、理論的に他国の事例なども参考にしながら注視すべきだろうと思う。そういう意味で、この本に書いてある各国の事例は、非常に参考になる。どれも国の背景や事情を念頭に設計されている。

クロヨンやトーゴーサンピンなんて本質的でない

共通番号や納税者番号の議論になると、クロヨン問題が解消するような捉え方があるが、それは恐らく難しいだろう。少額の決裁まで全部補足することは、いくら番号制度を導入しても不可能に近い。だから、小規模事業者や個人事業主の所得が事細かに補足されることは、少なくともすぐには実現できないだろう。

そもそもサラリーマンも年間65万円の給与所得控除をもらっている。全員が年間65万円もスーツとか本とか、自分の仕事に必要な経費として投資しているだろうか。というわけで、サラリーマンは補足されやすい代わりに、こういう控除を結構もらっているんだな、ということを知った。

共通番号が税の分野に導入されると、金融資産などの一元把握が可能になり、税収が上がると言われている。この本の試算では、16.7兆円だそうだ。これが本当なら、子ども手当の財源だって余裕だ。

というわけで、検討自体は着々と進んでいるし、Twitterでも#kokuminIDでそれなりに盛り上がっている様子。いろいろチェックしていかないと。

2015年に共通番号制度がやってくる

2015年1月から番号制度が開始される。今のところ発表されているスケジュールはこんな感じ。

2011年4月までに「社会保障・税番号要綱」の取りまとめ。

2011年6月中に「社会保障・税番号大綱」(法案)の取りまとめ。

2011年秋に番号法成立の想定。

2014年6月に番号とICカードを配布。

2015年1月に番号制度開始。

番号制度は、財源不足で悩みつつ、捕捉率を上げるために人員を増やすことも難しい行政が税収を上げる手段としの面と、来るべき消費税増税のときに生活用品の税率控除だったり低所得者の給付を正確に行えるようにする仕組みの面があると思っている。具体的なメリットは、次の点だろう。

税金の捕捉率があがる

消費税は、仕入れ・流通の過程でどんどん流れていくので、どの業者がいくら消費税を預けたかを把握する必要がある。それにインボイスを使えば、正確に税金を補足することができるようになる。これは、現在税務の事務負担軽減のために簡易課税を認めていたりすることも関係する。

ちなみに捕捉率が上がると、いわゆる「クロヨン問題」が解消され、2兆だとか10兆だとかの税収向上が見込めるとの試算がある。

インボイス方式

東京新聞:共通番号制 深めたい税の公平論議:社説・コラム(TOKYO Web)

給付や税額控除に複雑で柔軟な制度を導入できる

共通番号制によって、個人がかけた医療費の把握も一元化される。また、税と社会福祉がシステム上連携するので、所得額や納税額、支払った医療に応じて正確な給付を行うことが可能になる。また、減税のメリットを得られにくい人に対する「給付付き減税控除」なども正確に行うことができるようになると言われている。

あと、個人や企業の所得を正確に把握できるようになると、複雑な税率設定も行えるようになる。これによって、細かく設定された条件に応じた税額控除が行える。

行政CRMが実現できる

市民が受けられる行政サービスというのはいくつもあるのだけれど、実際はシステムが縦割りの状態で充分に横の連携をしていないことから、個人が受けられるサービスを正確に把握できていない。しかし、共通番号によって横の連携が実現すれば、行政側から、受けられる給付制度や行政サービスについてプッシュ通知することができるようになる。

民間でCRMが流行った頃から行政CRMの考え方自体はあるのだけれど、共通番号制度をきっかけに再燃するかもしれない。

ちなみに、システムの構築には企画・構想を含めると4年ぐらいかかるから、2015年1月に間に合わせるのは難しそうだなあ。というわけで、全ての自治体が一斉に使えるようになるわけではないと思う。

原発には冷静な感情と議論を

日曜に原発デモが複数箇所で行われたようだ。大手メディアがほとんど触れていないのが不思議。

鎌倉のデモについては、この記事や写真が参考になる。

Refinement — the small photolog in Kamakura 反原発デモ in 鎌倉

Anti-nuclear demonstration in Kamakura, 20110410 – a set on Flickr

原発に対して不安になる気持ちは想像できる。危ない施設が近くにあった場合、そしてそれが後世も残ってしまうことは避けたい。放射性物質という目に見えないものがいつの間にか害を与えているという感覚も、不安を増しているのだろうと思う。自分だって、近くにいれば避難を考えるし、安全な食品を選ぼうとするだろう。原発なんかに頼るより、再生利用可能エネルギーがあるなら、そちらを選びたいとも思うはずだ。しかし、これまで原発の恩恵をうけて、安定した電力が供給されてきて、それが経済活動を支え、快適な生活の一部を担ってきた現実とも向かわなければいけないと思う。

確率論でいえば、原発のこのような事態は、享受できるメリットと比較して受け入れがたいものだろうか。100%安全なことなどこの世にはないわけで、いくらかの確率でリスクを受け入れる必要がある。自動車であっても飛行機であってもそうだし、原発であってもそういう観点からも検証されるべきだと思う。

僕は専門家でも何でもないけれど、こういうデモが不安から来る感情だけではなく、これまでの経緯に対する理解と確率に基づく論理的な主張であることを願う。

そして、斉藤和義が原発を批判する動画をアップしたようだ。

とてつもない日常 : 「ずっとウソだった」に関する私見

メッセージが少し安っぽいし、深みがないとは思う。安易というか。ただ、メディアとは違った存在として、社会へ影響を与えるような人が社会的メッセージを発することは、いろんな人の反応や議論を巻き起こすものなんだと思ったよ。実際、この動画が注目され賛否両論の意見が出てきている。人はだれかと議論して気付かされることがたくさんある。無関心と無知こそが、一番厄介な問題なんじゃないかと最近は思う。

名古屋発どえりゃあ革命!

これを読んで、河村名古屋市長がどのような方向性を目指しているのか、何となくわかった気がしたのでメモ。

減税=小さな政府

なぜ減税か。ポピュリズムという批判もあるが、減税の根底にあるのは「小さな政府」。

お金というのはひとつの制約事項であるが、逆にこれが潤沢にあると制約は外れていく。そして、組織というのは大きくなればなるほど、コスト圧縮の制約は働きにくくなる。これは行政機関に限った話ではない。

コストを削減するためにどうするかといえば、トップが旗を振って制約をかけたり、予算制度でキャップを設けて制約を作ることで、末端までコスト圧縮の力が働くようにするのが通常だ。あとはその力が強いか弱いかだけ。

名古屋市政では減税の財源を行革などから捻出しようという計算のようだが、これもコストのキャップがあってこそ改革が本格的に実行に移される、という作用を考慮したものだ。シュンペーターの「不況なくして経済発展なし」ではないけれど、制約があってこそイノベーションが生まれる。その考えが根底にあるように思える。

権力の分散・縮小化

より住民に密着した自治を達成するため、国・県から基礎自治体へ、そこからさらに住民側へ権力を分散しようとしている。基礎自治体よりも小さい自治単位として委員会をつくり、そこで住民自治を行うようにして、住民自治の受け皿をつくったのが象徴的だ。

大きい組織では動きが硬直しやすく、細かいレベルでの決定ができなくなり、非効率になる。その流れを受けて地方分権が叫ばれているのだけれど、名古屋市のような人口200万人レベルになると、基礎自治体という単位では細かい自治が難しいのかもしれない。もっと行政区を細かくして、裁量を委ねていく。このあたりは大阪都構想とも思想が似ている。

それにしても、これだけ注目される人も珍しい。やり方に是非はあるとしても、注目され対立軸が生まれるのは政治にとって良いことだと思っている。対立軸を設け、その点を争うことで違いが明確になるし、投票する側も自分が望むのは何か、を具体的にイメージし、選択することができるようになる。

首長は議会から不信任案が出されて可決されない限り解散できないことや、減税すると起債が禁止されるなどの制度は、これを読んで初めて知った。こういう実態は、やはり多くの人が知らないものだ。大村愛知県知事との対談内容や、市議会との対立から辞職に至るまでのエピソードも含め、住民自治を再考するとともに、ひとつの読み物としても面白かった。

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水ビジネスと自治体の水道事業について

水ビジネスと国内の上下水道事業の運営状況に興味を持ったので2冊読了。1冊目は水ビジネス全般、2冊目は自治体関係者向けかな。

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水資源の希少性

最近、中国から日本の山林を買う動きが出ているとニュースになった。

なぜ人気? 中国人、日本の森林を相次いで買収 (MONEYzine) – Yahoo!ニュース

表面上は材木資源の確保になっているが、本当は水資源が狙いなのでは、と言われている。

「バーチャル・ウォーター」という考え方で捉えられているが、飲料水のみならず、食品や機械などあらゆるモノに水が関連し、必要になる。日本は水資源が豊富で、比較的高品質な水が提供されているが、世界では水資源が貴重な国がたくさんある。資源だけでなく、その汲み上げ、管などの運営管理の技術も大切な要素だ。つまり、水ビジネスは特に国外でニーズがとてもあるのだ。

国内では水事業の育成が遅れている

日本の漏水率は諸外国に比べて低く優秀だ。国内平均で7%、東京都では3.6%に及ぶ。(諸外国は20%超。)また、水処理に必要な膜技術なども高く、一部メーカーや商社が海外進出している。しかし、世界の水メジャーのような上下水道の運営管理を一体に引き受けるような事業ではない。

理由は単純で、国内で民間が上下水道を引き受けて運営するような民間委託の事例が少ないからだ。その要因は、行政の縦割りにある。

水に関係している省庁の数は13にも及ぶ。例えば、下水道は国土交通省、上水道は厚生労働省、工業用水は経済産業省、農業用水は農林水産省、環境規制や浄化槽は環境省などが管轄している、といった具合だ。(水ビジネス)

こうなると、事業は管轄単位に分割され、市場規模が小さく非効率になりやすいのではないか。これでは企業側としてメリットが生じない。

国内も今後は民間委託・広域化が進む

今後の予想として、上下水道事業は次の問題点が指摘されている。

・水道管の更新タイミング

水道が普及した昭和30年代後半から整備された施設が、今後一斉に更新時期を迎える。それは2020年~25年がピークらしい。

・自治体の水道事業体が小規模かつ技術者不足

小規模自治体は、今後は財源と人材不足に悩まされることになる。

全国1800自治体の内、給水人口5万人以下の自治体は約7割を占めている。それに加え、中小水道事業では、もともと職員が少ない。給水人口10万人未満の平均技術職員は約5人であり、少ない職員で料金徴収から修理まで手がけている。(水ビジネス)

戦力となる技術者(計画、建設、維持管理までトータルに管理できる技術者)たちは、現在50歳以上のベテランが45パーセントを占めている。(水ビジネス)

このような状況から考えると、自治体としては民間委託が有力オプションになる。このような状況を考えれば、民間であれば人的資源を投入しつつ規模を拡大してスケールメリットを出すと思うが、自治体では地理的・法的・財政的制約によって、身動きが取りづらい。そこで民間委託をして、民間が自力でスケールメリットを追求するか、自治体自身が広域化することが予想される。

ITシステムも、地方では一人のSEが近接する複数の自治体を担当することで、スケールメリットを活かしている。指定管理者制度も整ってきているので、民間委託を進めることが、自治体・民間・住民にとってメリットが出るのではないだろうか。

公共事業は今の日本を救わない

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僕は土木工学を学んだことがあるので、社会インフラの重要性は認識しているつもりだし、その分野の人が今の状況に対してどういう論理を展開するのか、非常に興味を持って読んでみた。「公共事業=悪」という世間のイメージに対するアンチテーゼを提唱された勇気には、敬意を表したい。ただ、如何せんロジックに欠点がみられるので、そこだけは反論してみよう。

 

ケインズ政策の是非

本書の中では、有効需要が不足した状態では、公共投資を行い需要を創出することが景気回復に有効である、といういわゆるケインズ政策が肯定されている。(実際、今の日本は30兆円ぐらいの需給ギャップがあり、有効需要が不足している状態である。)

 

有名なニューディール政策が景気回復に寄与したかどうかは、まだ是非が分かれている。結局は、その後の大戦参加による軍需が景気回復の要因だったのではないかという見方もあるのだ。ニューディース政策の例をもって、公共事業への財政投資が有効だという結びつけは、少し安易ではないか。

 

ケインズ政策が有効なのは、「一時的な景気の落ち込み」と言われる場合に限られるだろう。リーマンショック後、諸外国が景気を持ち直し始めても、日本だけがデフレを続けている。今の日本は安易な公共投資に走らず、構造転換を促す仕組みが求められている。(このあたりは、「闘う経済学」に詳しい。)

 

必ずインフレになるという前提

景気循環論のような観点で述べられているのだと思うが、「デフレの後にはインフレになる」というのでは、説得力に欠ける。日本は何年のデフレに苦しんでいるのだろう。

 

日本の景気動向は、海外の情勢や日銀の金融政策によって左右されており、人的要因で動いている部分が多いと思われる。

 

また、インフレに入ったら国債の利率が上がってしまい返済が益々逼迫することが懸念されるが、本書ではそれを増税で穴埋めすると書いてある。しかし、増税や財政圧縮というのは、実現するのは簡単ではない。賃金を上げたらカットするのには激しい抵抗が生じるように、「下方硬直性」が働くからだ。今回の税制大綱でも金持ちから取る、という政治力学が働いたように、一度与えたお金は「利権」になり、それを剥がすのはとても大変な作業になるのだから、増税を前提とした政策は非常に危険だと言わざるをえない。

結論からすれば、やはり本書が主張するような公共事業への大型投資は、僕は賛成できない。土木工学が社会にとって必要であり、有意義である点は認めるし、主張されている耐震工事の有用性や、港湾の国家戦略の重要性については非常に共感する。しかし、公共投資の理由に景気のカンフル剤も含めるのは、違うと思うのだ。

僕が土木工学を学んだときに感じた違和感は、今ではもう少しはっきり人に説明できる気がする。土木工学を行う人が、政治や経済に対して距離があるのだ。どこまで技術を研究し、追求していっても適当な需要予測に基づいてムダな空港がわんさか作られてしまう。個人的には、土木工学と並行して、経済学についても十分に学びたかったと今は思う。

【書評】経済古典は役に立つ

経済学に興味を持ったら、まず最初にこの本を読むと良い。それぐらい、わかりやすい。「アダム・スミスの国富論が書かれたのが、なぜあの時代だったのか」を説明してくれる本に、初めて出会った。

リーマン・ショックのように市場も失敗することがあるけれど、それ以上に政府が失敗する確率の方が大きい。そして何より厄介なのは、政府の方が下方硬直性が高いということだ。

 

日本は今大きな下方硬直性と直面している。世代間格差、特定業界、議員報酬、公務員の人員削減など。これまでいろんな経緯があったとはいえ、時代に合わなくなったと思われても、今の政治はこれらの既得権益を引き剥がせずにいる。それぐらい、既得権益というのは強大なものなんだね。

この本によれば、オペレーション・リサーチの研究でも市場の方が効率的であることは実証されているようだ。それに、民間と政府の従事者数を考えれば、トータルで処理する情報量は圧倒的に民間の方が多いだろうし、競争の原理から来るサービス向上は政府と比べるまでもない。

だから、僕は市場の方が効率的であると信じているし、公共セクターは可能な限り役割を限定して、民間が自由に活動できる土壌を整備・管理する役割に専念するべきだと思っている。(特定事業に補助金を出すなんて意味がわからないし、ちょっと前に話題になったTPPだって、こんなに反対の声が大きい日本の状況を知ったら、アダム・スミスは泣くかもしれない。)

 

それにしても、やっぱりこの人の本は読みやすく、多くの気づきを与えてくれるから好きだなあ。