公共事業は今の日本を救わない

公共事業が日本を救う (文春新書)
公共事業が日本を救う (文春新書)

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藤井 聡
文藝春秋
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僕は土木工学を学んだことがあるので、社会インフラの重要性は認識しているつもりだし、その分野の人が今の状況に対してどういう論理を展開するのか、非常に興味を持って読んでみた。「公共事業=悪」という世間のイメージに対するアンチテーゼを提唱された勇気には、敬意を表したい。ただ、如何せんロジックに欠点がみられるので、そこだけは反論してみよう。

 

ケインズ政策の是非

本書の中では、有効需要が不足した状態では、公共投資を行い需要を創出することが景気回復に有効である、といういわゆるケインズ政策が肯定されている。(実際、今の日本は30兆円ぐらいの需給ギャップがあり、有効需要が不足している状態である。)

 

有名なニューディール政策が景気回復に寄与したかどうかは、まだ是非が分かれている。結局は、その後の大戦参加による軍需が景気回復の要因だったのではないかという見方もあるのだ。ニューディース政策の例をもって、公共事業への財政投資が有効だという結びつけは、少し安易ではないか。

 

ケインズ政策が有効なのは、「一時的な景気の落ち込み」と言われる場合に限られるだろう。リーマンショック後、諸外国が景気を持ち直し始めても、日本だけがデフレを続けている。今の日本は安易な公共投資に走らず、構造転換を促す仕組みが求められている。(このあたりは、「闘う経済学」に詳しい。)

 

必ずインフレになるという前提

景気循環論のような観点で述べられているのだと思うが、「デフレの後にはインフレになる」というのでは、説得力に欠ける。日本は何年のデフレに苦しんでいるのだろう。

 

日本の景気動向は、海外の情勢や日銀の金融政策によって左右されており、人的要因で動いている部分が多いと思われる。

 

また、インフレに入ったら国債の利率が上がってしまい返済が益々逼迫することが懸念されるが、本書ではそれを増税で穴埋めすると書いてある。しかし、増税や財政圧縮というのは、実現するのは簡単ではない。賃金を上げたらカットするのには激しい抵抗が生じるように、「下方硬直性」が働くからだ。今回の税制大綱でも金持ちから取る、という政治力学が働いたように、一度与えたお金は「利権」になり、それを剥がすのはとても大変な作業になるのだから、増税を前提とした政策は非常に危険だと言わざるをえない。

結論からすれば、やはり本書が主張するような公共事業への大型投資は、僕は賛成できない。土木工学が社会にとって必要であり、有意義である点は認めるし、主張されている耐震工事の有用性や、港湾の国家戦略の重要性については非常に共感する。しかし、公共投資の理由に景気のカンフル剤も含めるのは、違うと思うのだ。

僕が土木工学を学んだときに感じた違和感は、今ではもう少しはっきり人に説明できる気がする。土木工学を行う人が、政治や経済に対して距離があるのだ。どこまで技術を研究し、追求していっても適当な需要予測に基づいてムダな空港がわんさか作られてしまう。個人的には、土木工学と並行して、経済学についても十分に学びたかったと今は思う。

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