創造的なアイデアを生み出す組織をつくるためには

日本が世界に誇る経営学者、野中郁次郎さんの「知識創造企業」を読みました。野中さんといえば、第二次対戦の日本軍を分析した「失敗の本質」が有名ですね。

 

「知識創造企業」は、先に英語で出版され、その後日本語で出版されたものです。「知識経営」という考え方を中心に、知識をマネジメントし、創造するためにどう組織を形成すれば良いかが、実例とともに詳細に分析されています。

 

 

知識を生み出せる組織を作るにはどうしたら良いか

知識経営といえば、暗黙知と形式知が、個人や組織をどう流れていくかを表したSECIモデルが有名です。最初にこのモデルを知ったのは「リクルートのナレッジマネジメント」という本でしたが、知ったときの衝撃といったらありませんでした。

 

そこから刺激を受けて書いたのが、「IT産業が労働集約型から知識集約型に転換するために必要なこと」という記事で、未だにこのブログでアクセスが多いです。

そんなSECIモデルですが、注目されるべきは知識を「形式知」と「暗黙知」に分けて、それぞれの知をどう育てていくかを整理していることです。欧米では「知識=形式知」という考え方が中心でしたが、暗黙知を強みとする日本企業の隆盛から、暗黙知を含めた知識のマネジメントが必要という結論になっているわけです。

SECI

そして、本書ではSECIモデルを実現するための組織構造についてもどうあるべきかが述べられています。そのためには、官僚型の組織とタスクフォース型の組織をハイブリッドにすることが有効と分析されています。形式知を共有したり、それを学習するのは官僚型が向いていますが、暗黙知を共有したり、それを形式知に変換するには官僚型のような定型的な業務の中では生み出しづらいのです。

このあたりの組織設計や設けるべきルールについて、シャープの実例などが細かく描かれており、具体的なイメージを抱きやすくなっています。

 

知識を経営に活かしたいと思う企業には、有益なエッセンスがたくさん含まれている

本書の中に、たくさん有益なエッセンスが含まれていました。

  • 知識創造に必要な3つの特徴

知識創造の三つの特徴を示唆している。第一に、表現しがたいものを表現するために、比喩や象徴が多用される。第二に、知識を広めるためには、個人の知が他人にも共有されなければならない。第三に、新しい知識は曖昧さと冗長性のただなかで生まれる。

  • 暗黙知を移転させるためには、社員のあいだに「共通基盤」を創る必要がある

ここで言及しておきたいもう一つの組織的条件は、冗長性である。西洋のマネジャーは、不必要な重複や無駄という意味合いを持つ冗長性(redundancy)という言葉を好ましく思わないだろう。しかし、冗長性を持つ組織を作ることは、知識創造プロセスのマネジメントにとって非常に重要である。なぜならそれは、頻繁な対話とコミュニケーションを促進するからである。冗長性は、社員のあいだに「認識上の共通基盤」を創り、暗黙知の移転を助けるのである。組織成員は情報を重複共有してこそ、お互いが四苦八苦しながら表現しようとしていることをわかり合える。この情報共有という冗長性によって、新しい形式知が組織全体に広まり、一人ひとりのものになるのである。

  • 暗黙知を形式知に変換する方法

どうすれば暗黙知を形式知に効果的、効率的に変換できるのだろうか? その答えは、メタファー、アナロジー、モデルの順次使用である。

 

他にもたくさんあります。どうやって自分の組織に活かそうか、読みながらいろいろアイデアが生まれるでしょう。

 

経営論的には、外部環境より内部環境にフォーカスされた理論

「経営戦略全史」を読めばわかりますが、ナレッジ・マネジメントはどちらかといえば組織の内面に注目した理論です。外部の環境変化などに対する要素はあまり含まれていません。

経営戦略を学び直して、本当の意味で理解するための「経営戦略全史」 | Synapse Diary

なので、先ほどシャープが実例として取り上げられていると書きましたが、現在のシャープの苦戦状況をみると複雑な気持ちになります。経営というのは、何かに優れているだけでも十分ではないんだなと改めて思うわけです。

そのほかにも、テイラーから始まる科学的管理法は、経営者・管理者に責任と権限を集中させることになり、知識の創造を組織一体で行う流れとは異なったという欧米的経営手法と日本の経営手法の対比に関する分析は、「なるほど」と気付かされる示唆でした。

 

どんな企業であれ、組織の中で知識をどう生み出していくか、どう展開し事業に活かしていくか、という点では課題を抱えていると思います。本書は、それを解消するヒントになるでしょう。

組織という組織は、遅かれ早かれ、すべて知識を創りはじめる。しかし、大多数の組織ではいまだに運だけにたよっていい加減に知識が創られており、そのプロセスを予測することができない。その知識創造のプロセスをシステマティックに管理するのが、知識創造企業の特徴なのである。

 

 

この記事に興味を持たれた方には、こちらの記事を次に読まれるのがおすすめです。

https://synapse-diary.com/?p=3516

スターバックスが大学生の学費を負担する理由

アメリカのスターバックスが、大学生の学費を負担する制度を発表し話題になってます。なんでこういう制度を設けるに至ったのかを考察したいと思います。

スターバックスが発表した制度としては、学費の2年分を負担するのが基本のようです。

スタバ、従業員の大学授業料肩代わり 就業義務なし「向学心支援は最高の投資だ」 秋から  – MSN産経ニュース
超太っ腹! 米スターバックスが「従業員のために大学の学費を肩代わりするプロジェクト」を発表 | ロケットニュース24

 

アメリカの学費は高騰している

上記の記事にも書いてありましたが、今回の制度にはアメリカの大学の学費が高騰しているのが背景にあります。で、なんで高騰しているのかといえば、官僚主義によって管理者の給与をはじめ、運用コストが上昇していることが原因です。

アメリカ暮らしのファイナンシャル・プラニング Smart&Responsible » アメリカ大学 学費高騰のミステリーの裏には・・・

そして、起業ブームと合わさって大学の価値そのものに議論が呈されていたり、カナダへ流出するような状況も生まれています。

学費高騰が続くアメリカ名門大学に意外な「敵」が! コンサルティング会社が設立をもくろむ新たなビジネススクール  | 田村耕太郎「知のグローバル競争 最前線から」 | 現代ビジネス [講談社]

学費の高騰も影響して、大学生そのものがアメリカからいなくなるんじゃないかという感じです。

 

スターバックスのオペレーションは学生アルバイトが前提

これも前述の記事に書いてありましたが、スターバックスの全従業員(アルバイト含む)13.5万人のうち7割が大学生か就学希望者とのことです。つまり、大学生のアルバイトがオペレーションの前提になっているので、安定的に労働力として確保する必要があります。

特にスターバックスの場合は、接客サービスにも力を入れていますし、教育にも熱心です。なので、せっかく教育した人にすぐ辞められるのは得策じゃありません。

 

スターバックスの経営へのインパクトは?

前述の記事によると、一人の学生に対してスターバックスが負担するのは3万ドル程度のようです。

大学で一単位取得にかかる費用は約500ドル(約5万)と高額で、スタバ従業員が2年分の学費を負担してもらえれば、約3万ドル(約300万円)を節約できるのである。

超太っ腹! 米スターバックスが「従業員のために大学の学費を肩代わりするプロジェクト」を発表 | ロケットニュース24

仮に5000人対象になったとすると、1.5億ドルぐらいになります。

一方で、2013年の決算報告書を見ると、売上は149億ドル、利益は24億ドルです。

Starbucks Fiscal 2013 Annual Report – FINAL.PDF(PDF)

なので、5000人対象の場合は6%ぐらいの利益が吹っ飛ぶぐらいの規模感ですね。それでも学生を安定的に確保したり、企業全体のイメージアップに寄与するのであれば、宣伝効果としても良いのかもしれないなあと。アピール上手だなって思いました。

 

ちなみに、日本でも大学の学費は上昇していますね。急上昇という感じではないので、すぐにスターバックスが同じ制度を日本で展開するってことにはならないと思いますが、大学の価値ってなんだろうなーっていろんな人が思うときは来るのかもしれません。

国立大学授業料|年次統計

 

ヤフーが社員にフォロワーシップを求める理由

Yahooの勢いが止まらないですね。先日発表されたブックオフとの提携も、非常に面白い取り組みが始まったなって感じました。

Yahoo! JAPANとブックオフが資本・業務提携 / プレスルーム – ヤフー株式会社

 

以前のヤフーはどちらかというと保守的なイメージで、新しいインパクトを生み出す印象は薄かったのですが、最近はバンバン新しい取り組みを生み出している感じです。

で、そのあたりの経緯は以前このブログで記事にしました。

爆速経営 新生ヤフーの500日 | Synapse Diary

そして、「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」に、ヤフーの組織改革として「フォロワーシップを重視している」という箇所がありました。フォロワーシップというものを前面に掲げている組織、というものを僕は初めて知りましたし、経営戦略と組織設計は密接な紐付きもあります。なので、もう少し「なぜヤフーにフォロワーシップが求められるのか」をヤフーの最近の置かれている状況などから考察してみようと思います。

 

 

ヤフーが置かれている状況

ヤフーの過去5年の業績は、以下の通りです。好調ですね。特にここ2年は売上が過去3年より大きく増加しています。

社長が交代する以前から、ヤフーの業績は上昇しており、古参のIT企業はいつの間にか保守的な組織体質が出来上がってしまっていました。

これを打開するために、ヤフーは社長交代を行い、「課題解決エンジン」というミッションを掲げて「爆速」で進もうとします。

ただ、これらを実現するためには、内部の組織も戦略に合わせて変更する必要があります。適切な権限と評価制度が組織に組み込まれていないと、いつまでも社員の意識は変わらないからです。

これに対する答えが、マトリックス型組織とフォロワーシップです。

 

社員が主体性を発揮できる組織へ

硬直化した組織から、社員が主体性を持つように変えるためによく行われるのが、権限移譲と階層のフラット化です。

かつてジャックウェルチが就任したGEもそうですし、星野リゾートも今の社長が就任してからは大きく従業員に権限移譲しています。星野リゾートの組織設計に関しては、この本に詳しく書いてあります。

 

そのため、ヤフーではサービスマネージャーという役職を設け、人と予算の権限を与えます。一方で、専門性も育てるためにラインマネージャーも設け、マトリックス型組織にしたのです。マトリックス型組織は、柔軟性が高い一方で、リーダーが二人になるため、リーダーより下の社員一人一人に高い判断能力が求められます。そこで、評価制度の中にフォロワーシップの観点を盛り込んで、主体的な行動を評価できるようにしました。

ちなみに、フォロワーシップとは、組織全体やリーダーを支える行動を行うだけでなく、時にリーダーに代わりチームを引っ張る主体性も求められることが、意味として含まれています。

したがって、リーダーはビジョンを持って引っ張る、フォロワーはその方針に従って支えるというのが一般的な組織のイメージではありますが、同時に、フォロワーが組織を引っ張る、リーダーがそのフォロワーを支えるという組織も、その混在型組織も十分にあり得ます。先に出てきた「強く指示を出す」というアクションは、リーダーがやっても、フォロワーがやってもリーダーシップに違いありませんし、「現場が強い組織」とは、フォロワーがフォロワーシップと同時にリーダーシップも発揮して、自らやメンバーを引っ張る組織というとらえ方のほうが自然ではないでしょうか。
フォロワーシップとは何か [リーダーシップ] All About

 

まとめ

ヤフーは外部環境として、スマホの流れに対応するため、スピーディに事業を遂行していく必要がありました。

それを実現するための組織設計として、サービスマネージャーに権限移譲するためにマトリックス型組織にして、組織の中に主体性を持たせるためにフォロワーシップを評価制度に導入しました。4500人という大所帯を変えていくことは簡単な作業ではないと思いますが、それでもこれを遂行しなければならない、と判断されたのでしょう。

 

ヤフーはどんどん新しい取り組みを発表しています。それらの結果を見ても、改革はうまくいっているようです。最近のヤフーは躍動感があって、見ていて面白いですね。

 

文明の発達の違いはなぜ起こるのか

随分前に話題になった「銃・病原菌・鉄」を読みました。知的な刺激受けっぱなしな内容でした。ちょっとボリュームがあったので、他の本に浮気しつつで読み終わるのに時間を要しましたが。

 

本書は、世界を見たときに文化の発展に違いが生じた理由を解き明かすもの。具体的には、こういう疑問を解消してくれます。

ヨーロッパ人が持ち込んだ病原菌の犠牲になったアメリカ先住民や非ユーラシア人の数は、彼らの銃や鋼鉄製の武器の犠牲になった数よりもはるかに多かった。それとは対照的に、新世界に侵略してきたヨーロッパ人は、致死性の病原菌にはほとんど遭遇していない。この不平等なちがいはなぜ起こったのだろうか。

そしてそれが本のタイトルにある「銃・病原菌・鉄」になるのですが、要因はもっと奥深いところまで分析されています。結論としては、以下の文に尽きます。

私ならこう答えるだろう。人類の長い歴史が大陸ごとに異なるのは、それぞれの大陸に居住した人びとが生まれつき異なっていたからではなく、それぞれの大陸ごとに環境が異なっていたからである、と。

というわけで、ヨーロッパが文明を発展させ、他の国を侵略したりしたのには理由があることがわかります。そして、環境によって文化に発展に違いが生じるのだとすると、現在でも活かせる教訓はなんでしょう。

 

人が集まり、そして競争する

仮想でもリアルでも良いのですが、文明を発展させるためには、人が集まり、分業して作業効率を上げていく必要があります。歴史でみれば、それが農耕であり家畜です。農作物の生産性が向上したから、組織が発展し、農作業以外の専門的な作業を担う人も登場しました。

人が集まり都市が形成されれば、インフラ効率などあらゆる生産性が向上すると言われています。

都市および組織の意外な数学的法則 | Synapse Diary

つまり、人を集約し分業を進めることで、全体の生産性は向上するというわけです。これは農業だけの話ではなく、組織全般に言えることです。

 

そして競争も重要な要素になります。ヨーロッパと中国では、文明の発達は中国の方が早かったのに、ヨーロッパの文明が発達した理由も説明されていました。

また、国内の政治状況に対応するために、既存の進んだ技術を後退させていった多くの国々を思いださせるが、中国は国全体が政治的に統一されていたという点でそれらの国々とは異なっていた。政治的に統一されていたために、ただ一つの決定によって、中国全土で船団の派遣が中止されたのである。

逆にヨーロッパは、地域としては人や知識が交流しやすかったものの、国は多数が群がっており、どこかの国が失敗しても、別の国でイノベーションが起こる、ということが起こりやすい状況でした。中国は、統一されていたが故にひとつの判断の誤りが、全体を停滞させる結果につながったということです。組織にダイバーシティが必要な理由のひとつも、このあたりにあります。

 

人が集まること、そしてその中に競争環境があることは、組織・文化が発展していく上では重要なことだ、というのが本書では歴史的な観点から立証されています。

 

移動によって環境を変えることができる

グローバルでは、地域・言語・文化を超えて移動できる人が、最先端の場所で活躍できるようになっています。それぐらい、世界の労働市場は流動的になっています。

Human Resource Managemenの講義を受けて | Synapse Diary

日本はただでさえ、日本語という言語の壁が生じやすく、かつ保守的だとも言われています。環境の要因によって文明の発展が変わるのだとすると、人は移動できる方がいざというときに有利だということです。

人が集まる環境を作ることも、同じぐらい重要だとは思いますけどね。

 

普及するためのドライバー(要因)を考える

本書では、東西に伸びたユーラシア大陸の方が、南北に伸びたアフリカ大陸やアメリカ大陸に比べて、農業が普及しやすかった点が挙げられています。これは、東西であれば気候の違いが生じにくく、どこかで確立された農業手法を適用しやすいからです。

目からウロコでした。必ず、普及していくためのドライバーとなるものがあるんだなーと感心したのです。日本でみても、本州は南北に伸びているところと東西に伸びているところがあります。これによって、有利になることも不利になることもそれぞれの地域であるのでしょう。

何かを広めようと思うときに、それを促進させる要因や阻害させる要因というのは、環境にあるのかもしれません。

 

上記の考え方は、今後の働き方や仕事への取組み方に対しても使えるものなんじゃないかなーと。

 

社員の自主性を育てる組織をつくるためには

様々な変化が素早く起こるビジネス環境では、自発的に物事を考え、行動を起こす人材が重要になります。また、そのような人材は時に、イノベーティブで大きな利益をもたらしてくれる場合もあります。

では、社員が自発的に考え、行動する組織というのは、どうすれば作れるのでしょうか。年末年始に、この「シャドーワーク」という本を読んで、そんなことを考えていました。

「シャドーワーク」という単語がわかりづらいですが、いうなれば「業務外の活動」のことです。ただし、完全なプライベート活動とも違います。仕事に関連するが、正規の活動ではないことを指します。

 

各個人に自主性を求めることのジレンマ

この本を読むと、組織をマネジメントすることと、各個人の自主性を高めることには、ジレンマがあることがわかります。

組織をマネジメントするためには、、、

  • ルールによる規律を設ける
  • マニュアル等による手順を統一し、生産性・品質を向上させる
  • 上から下に伝達される

一方、各個人が自発的に作業するためには、、、

  • ルールに縛られずに発想し、行動する
  • 社内の評価基準から逸脱する(→評価されない)
  • 上からの命令ではなく、自分でモチベーションを高める

ということで、真逆の方向になります。特に、社内のルールに縛られないように行動してもらうことがとても重要なポイントです。「こうあって当然」という先入観を打破し、新しいビジネスを創りだすためには、既存のルールからはみだす人が必要になります。問題は、組織ではこういう人は評価されないんですね。ルール外なので。

「じゃあ、評価基準に入れてしまえば良いじゃないか」という考えになりますが、そうなると「上から下に命令される」形になって、個人の自発性が損なわれます。ここにジレンマがあります。

 

原理・原則によって、組織の柔軟性を高める

結局、冒頭の問いに対する答えは「原理・原則を高める」ことだと僕は理解しました。組織は、集権と分権のバランスで出きています。どこまでを会社で統一して、どこまでを権限移譲するのかのラインを設計するのが、組織戦略です。

ただ、あまりに権限移譲してしまうと、企業のガバナンスが弱くなります。各自が勝手なことをやってしまい、企業のブランドを失墜させたり、大きな不利益を生じさせる自体は防ぎたいわけです。かといって、集権化が行き過ぎると、組織の柔軟性が失われ、企業全体の競争力が低下します。

本書では、このように表現されています。

1つ目の問題点は、環境は常時変化するし、そのスピードはどんどん速くなっているということである。このために、与えられた役割、想定したプロセス、生み出すべき予定のものが変わってしまうことが、しばしば起こるようになった。こうした変化に即座に対応しないと、推奨される行動をとっても報われず、既定路線では意味がなくなり競争から脱落してしまうリスクが高まっている。 こうした環境変化に対応するには、きっちり決まった組織の仕事の枠組みでは、なかなか対応しにくい。誰かが別のことを考えないといけないわけだ。ところが、そうした別のアプローチは、しばしば組織の既定路線、想定内のこと以外の行動をともなうために、マネジメントとぶつかり合うことになる。

そこで、これを解決する手段として「原理・原則」が必要になります。IKEAやZapposなど、企業理念による経営が注目されているのも、ガバナンスを高めるための武器として、企業理念という「原理・原則」が存在するからです。それによって、マネジメント側からすれば、組織運営におけるリスク発生を低下させると同時に、各個人に創造性を発揮してもらうことで、サービス品質を向上させているのです。

ひとつの例として、ルイス・ガースナーの言葉が紹介されています。僕は、非常に感銘を受けました。

彼は1994年に来日しているが、その際に開かれた記者会見のなかで、質問に答えて、「私の信念、経験からいえることは、ルールでがんじがらめになった組織は基本的に弱いということです。偉大な組織は原則にのっとって、みんなが行動する組織です。つまりルールではなく、原則にのっとって動く組織です。ルールだけ守っていれば、成功したと思いがちです。しかし、これは内部の尺度であって、外部の市場とかお客様といった尺度ではありません」と、述べている。

柔軟性のある強い組織は、原則に従って行動できる組織です。

劇的に変化する外部環境の中で、モチベーションが重要だ、とかブラック企業だ、とかいろいろ組織に関する話題が登場しています。ひとつの絶対解があるわけではありませんが、本書にかかれているような仕組みが組み込まれている組織は、強く変化しながら進んでいけます。

 

最後に、本書にかかれていた好きな言葉を紹介して締めます。

人事部の仕事は、「労を惜しまないような楽しさを仕事のなかにどれだけ仕掛けていけるか」、「前向きな意味で『自分の仕事』と受け止められるように社員をサポートできるか」だと思うと、荻野は語る。

 

自分用のマニュアルを作成すれば、生産性は飛躍的に向上する

「無印良品は、仕組みが9割」を読みました。この本では、主にMUJIGRAMと呼ばれるマニュアルの有効活用など、仕組み化することで、組織の生産性が劇的に向上するということが書かれていました。

マニュアルは、作業の生産性を向上させる上でとても有効

この本に書かれている、マニュアルの活用については、とても同意です。僕も日頃から、業務を標準化したり、底上げするためには、作業や考え方を可視化することが重要だと思っています。現場でマニュアルがない、ということがよくありますが、そういう場合はうまく知識が蓄積されず、強い組織にはならないのです。

一方で、「マニュアル人間」と言われるように、なんでもマニュアルに決めてしまうと、それ以外はやらない、創造的にならないなどということも言われます。僕はその点については違うと思っていて、重要なのは「マニュアルを見直す作業」が、仕組みの中に含まれていれば、創意工夫も生まれるし、マニュアル人間にはなりません。重要なのは、「見直す」や「最新化する」プロセスをルール化してしまうことです。

そういう思いが、この本にはたくさん書かれていて、「そうそう、そうなんだよ」と思いながら、読み進めていました。みんな、この本読んでマニュアル作りましょう。

 

自分用のマニュアルも作ってみる

この本には、最後の章に「自分用のマニュアルも作ろう」と書かれています。家事など、身の回りの作業でもマニュアル化すると、生産性が上がったり、家族で情報共有が進むということです。これに影響されて、自分用のマニュアルも作ってみることにしました。初めてからここ数日運用していますが、それなりに良い調子です。どういう点で有効かというと、

  • 繰り返し作業する必要があるけれど、いつも思い出すのに時間がかかる
  • やった方が良いと思っているけれど、何となく着手できない

というような作業です。繰り返し行う作業は、定型化することで、生産性が上がっていきます。また、なんとなく着手しづらい作業は、作業ステップを細分化しておいて、作業着手へのハードルを下げる効果もあります。

僕は、そういう自分のためのマニュアルを、Evernoteに書き溜めていくことにしています。まだ少ないですが、少しずつ溜めていって、生産性を高める努力をしていこうと思います。

 

まずは行動することで、思考も変わっていく

無印良品は、一度業績が悪化し赤字になるのですが、その後はV字回復を果たします。そのときに、様々な新しい仕組みを導入し、組織改革を行っていったのです。組織改革では、必ず抵抗勢力が生まれます。人間はやはり変化をするのが苦手で、先に感情的な拒否反応が出てしまうものです。

そこで、無印良品では先に仕組みを整備してしまって、あとはそのルールに従って作業してもらうことにしました。最初は反対意見も出てくるのですが、次第に仕組みに慣れたり、効果を実感するにつれて、反対意見もなくなっていったのでした。

 

ここで面白いと感じたのは、「とにかく、行動する」ことを優先して、そのための仕組みを整備したことです。人は、行動すれば変わるきっかけをつかむことがあります。よく、笑顔の表情を作ると、感情としても楽しくなると言われていますが、それと同じようなことでしょう。先に行動が生まれると、感情が後から付いてくる。そういう人間の特性も、何かを変えるときには重要になります。

これは自分に対しても同じです。自分を変えたいと思っても、なかなか変えられないものです。そういうときは、まず行動してみる。そして、行動するためのきっかけがマニュアルです。あまり深く考えず、マニュアルに従って行動してみたら、少しずつ自分も変わっていくかもしれません。

 

というわけで、みんなマニュアルを作りましょう。この本を読んで。

【MBA書評】情報法コンプライアンスと内部統制

だーくろと共同テーマで書いているMBAの書評について、久々に書こうと思います。前回はリスクマネジメントについて書きました。

【MBA書評】ケースで学ぶERMの実践 | Synapse Diary

今回はそれに関連して、コンプライアンスに関する本を取り上げようと思います。

コンプライアンスとか内部統制というのは、どちらかというとネガティブな要素が目に入るので面白みを感じない人は結構いると思うのですが、経営においては非常に重要になっています。バイトテロ、という新しいコンプライアンス事象も登場していることですし。

コンプライアンスというのは、日本語に訳すと「法令遵守」とされる場合がしばしば見かけます。もちろん定義によって異なるのですが、僕の理解では法律以外にも、社会通念上のモラルや基準などについても範囲に含まれる、と考えています。

本の概要

本書では、これまでのコンプライアンスが発展してきた経緯と、事例が掲載されています。特に、法治の限界が露呈してきたことによって、企業がその穴埋めを担うためにコンプライアンスが発展してきた、という観点で描かれているのが印象的です。

コンプライアンスというテーマについて、体系的に学習することができます。

本の読みどころ

ビッグデータ、オープンデータなど、IT技術の進展と合わせて、情報資産の活用が叫ばれていますが、それに伴ってプライバシー情報の管理など、新しいコンプライアンスの問題が浮上しています。

TカードやSuicaなどの事案がありましたが、最近は特に法整備の方が遅れてきており、グレーゾーンをどう判断して対応していくのかが、企業側の対応として求められています。そういう意味では、これまでの流れを把握しつつ、企業をリスクに晒さないための体制を構築しておくことが求められます。

【MBA書評】ケースで学ぶERMの実践

だーくろと共同テーマで書いている「MBA書評」ですが、これまでの書評は以下の通りです。

【MBA書評】企業分析入門 | Synapse Diary
【MBA書評】コーポレートファイナンス | Synapse Diary
【MBA書評】ビジネスインサイト|だーくろのブログ
【MBA書評】成功するビジネスプラン|だーくろのブログ

今回は結構ごっつい系の本について書きますよ。企業経営を行う上では、リスクマネジメントというのは外せない項目になっているわけでして、その考え方や取組内容は知っておかなければいけません。

特に、リスクマネジメントの世界も発展していて、ERMという企業全体でリスクマネジメント体制を構築することが重要になっています。

というわけで、今日の一冊はERMを構築するための理論と実例を集めた本です。

本の概要

分厚い本であるが故に、たくさん事例が掲載されています。なので、ERMを構築する、というあまり馴染みがないことに対しても、実際の企業例と照らし合わせながら確認することができるので、理解はしやすい本だと思います。

リスクを把握し、評価し、対策する。それだけといってしまえばそうなのだけれど、それが組織構造にも影響を与えるし、財務インパクトも予め計測しておいた方が良い、ということになります。そういう、リスク管理を中心にして、企業経営上考えなければならない要素が書かれています。

 

本のみどころ

リスクは基本的には「確率×インパクト」で把握するものですが、さらに残余リスクと許容リスクの考え方、リスクの保有・移転・回避などのアプローチなど、リスク対策の基本を深く理解することができました。感覚的にわかっていることも、理論的に学習すると思考と応用が深まるというものです。企業グループ内のリスクをまとめてヘッジするための「キャプティブ」という存在も、この本で初めて知りました。

さらに、投資や財務へのインパクトについても、具体的な計算方法を含めて学習することができます。これらが企業評価に加わることで、より現実的な価値に換算することができ、業績予測やデリバティブなど様々な領域とつながっていきます。

 

リスクマネジメントというと面倒、というイメージもありましたが、科学的にリスクを管理する仕組みが理論上存在していて、自分の中では新しい発見でした。

組織を発展させるためには、共通言語を普及させよう

今、MBAで管理会計を勉強しています。管理会計というのは、財務やファイナンスとはちょっと違って、マネジメントを主体とした分析ツール、という位置づけだと理解しています。というか、そう教わりました。

なので、財務会計の費目の概念と捉え方を混同すると、何のための分析なのかがわからなくなっちゃうんですね。そのときに必要なのは、「管理会計とはこういうために使うもの」という共通理解です。これがないと、議論しようにも成立しないわけです。

同じことが、ビジネススクールで学ぶ数多あるフレームワークにも言えます。4Pとか3Cとか嫌というほどフレームワークが登場して、見よう見まねで使ってみるわけです。ビジネスモデルキャンバスを知ったときも、少し感動しました。

 

ただ、実際会社とか現場に戻ると同じように使ったりフレームワークそのものを理解することができる人がいるわけじゃないので、フレームワークやMBAの知識を前提とした議論はできないんですね。会社というのは、やはり知らない間に前提となる知識や価値観が備わっているので、集団で行動する際に効率が高まるんじゃないか、と改めて認識しました。

 

そうなると、組織の中で必要な知識や価値観を浸透させる、という行為が一番重要で、一番最初にやらなければいけないことだと思うわけです。議論を噛み合わせるためには、そういう知識の伝達を行わないと、いつまでも情報がアップデートされず、前に進めなくなるなあと考えた一日でした。

プログラマ35歳限界説を考える

今日は、プログラマ35歳限界説について。
プログラマは35歳が限界どころか、死ぬまで上達しつづけるのでは – モジログ

僕はプログラマではないけれど、ITコンサル業界に入ったときから、この話は出ていました。上述の記事では、プログラマは年齢とともに成熟できるはず、と書かれていますが、問題はそこではないと僕は理解しています。

 

技術の変遷が激しく、知識や経験を成熟させづらい

僕が社会人になった頃は、オープン化やオブジェクト指向なんて言葉は既に普及し尽くされた感じで、これからはWebベースで、とかSOAによるアーキテクチャが重要だと言われていました。また同時に、セールスフォースなどのSaaSも登場し始めていた覚えがあります。

今は仮想化技術が普及期を迎えており、クライアントの興味も相対的にアプリよりハードウェアやネットワークなどに関心が高まっている気がします。

また、クライアントサーバ型からWebに移り、自前からクラウドに移ることで、開発言語や開発をサポートする環境も変わってきています。これを考えたときに、全くついていけないとは思いませんが、キャッチアップして成熟させていくことは難しい、というのはわかると思います。

市場全体で見た場合に、人が成熟するスピードより早く技術や市場が変化してしまうので、継続的に自分を成長させながら市場に適用するのが難しい、というのは35歳限界説のひとつの要因でしょう。

 

年齢とともに管理職になるのが必然

技術者として生きていくのであれば年齢は関係ないですが、おおよその企業の組織設計は、年齢とともに管理者になっていきます。そういう役割を求められていくと、必然的に管理者としての能力や仕事が求められてきます。

管理者としての要素が入ると、どうしてプログラマが限界を迎えてしまうのか。分かりやすいイメージとしては、プログラマが「職人」であり、管理者の適性を持っている人が少ない、ということでしょうか。これは本当でしょうか。確かに、僕が見てきた中でも、適性がある人といない人がいて、適性がある人の方が少なかったイメージはあります。ただ、これも確率論の世界なので確かなことは言いづらい感じがします。

逆に、ちゃんと管理職になってしまうと、もうプログラマとして現場でコーディングするようなことはできなくなる、ということの方が正解かもしれません。

 

日本では、IT技術者が不足しているとか、技術力でアメリカに負けている、ということを良く言われたりします。シリコンバレーから世界を制する企業がどんどん登場している事実からしても、それはその通りなのかもしれません。個人的には、ITゼネコン的体質が多い市場が、こういう状況を生んでしまっている、という至極当たり前の問題意識を持っていたりします。特に受託開発で食べているような中小SIerは、自分たちで新しいビジネスモデルを構築し、プログラマ単価の積み上げでない料金モデルを作る必要があるんじゃないか、と思う今日このごろです。