日本が世界に誇る経営学者、野中郁次郎さんの「知識創造企業」を読みました。野中さんといえば、第二次対戦の日本軍を分析した「失敗の本質」が有名ですね。
「知識創造企業」は、先に英語で出版され、その後日本語で出版されたものです。「知識経営」という考え方を中心に、知識をマネジメントし、創造するためにどう組織を形成すれば良いかが、実例とともに詳細に分析されています。
知識を生み出せる組織を作るにはどうしたら良いか
知識経営といえば、暗黙知と形式知が、個人や組織をどう流れていくかを表したSECIモデルが有名です。最初にこのモデルを知ったのは「リクルートのナレッジマネジメント」という本でしたが、知ったときの衝撃といったらありませんでした。
そこから刺激を受けて書いたのが、「IT産業が労働集約型から知識集約型に転換するために必要なこと」という記事で、未だにこのブログでアクセスが多いです。
そんなSECIモデルですが、注目されるべきは知識を「形式知」と「暗黙知」に分けて、それぞれの知をどう育てていくかを整理していることです。欧米では「知識=形式知」という考え方が中心でしたが、暗黙知を強みとする日本企業の隆盛から、暗黙知を含めた知識のマネジメントが必要という結論になっているわけです。
そして、本書ではSECIモデルを実現するための組織構造についてもどうあるべきかが述べられています。そのためには、官僚型の組織とタスクフォース型の組織をハイブリッドにすることが有効と分析されています。形式知を共有したり、それを学習するのは官僚型が向いていますが、暗黙知を共有したり、それを形式知に変換するには官僚型のような定型的な業務の中では生み出しづらいのです。
このあたりの組織設計や設けるべきルールについて、シャープの実例などが細かく描かれており、具体的なイメージを抱きやすくなっています。
知識を経営に活かしたいと思う企業には、有益なエッセンスがたくさん含まれている
本書の中に、たくさん有益なエッセンスが含まれていました。
- 知識創造に必要な3つの特徴
知識創造の三つの特徴を示唆している。第一に、表現しがたいものを表現するために、比喩や象徴が多用される。第二に、知識を広めるためには、個人の知が他人にも共有されなければならない。第三に、新しい知識は曖昧さと冗長性のただなかで生まれる。
- 暗黙知を移転させるためには、社員のあいだに「共通基盤」を創る必要がある
ここで言及しておきたいもう一つの組織的条件は、冗長性である。西洋のマネジャーは、不必要な重複や無駄という意味合いを持つ冗長性(redundancy)という言葉を好ましく思わないだろう。しかし、冗長性を持つ組織を作ることは、知識創造プロセスのマネジメントにとって非常に重要である。なぜならそれは、頻繁な対話とコミュニケーションを促進するからである。冗長性は、社員のあいだに「認識上の共通基盤」を創り、暗黙知の移転を助けるのである。組織成員は情報を重複共有してこそ、お互いが四苦八苦しながら表現しようとしていることをわかり合える。この情報共有という冗長性によって、新しい形式知が組織全体に広まり、一人ひとりのものになるのである。
- 暗黙知を形式知に変換する方法
どうすれば暗黙知を形式知に効果的、効率的に変換できるのだろうか? その答えは、メタファー、アナロジー、モデルの順次使用である。
他にもたくさんあります。どうやって自分の組織に活かそうか、読みながらいろいろアイデアが生まれるでしょう。
経営論的には、外部環境より内部環境にフォーカスされた理論
「経営戦略全史」を読めばわかりますが、ナレッジ・マネジメントはどちらかといえば組織の内面に注目した理論です。外部の環境変化などに対する要素はあまり含まれていません。
経営戦略を学び直して、本当の意味で理解するための「経営戦略全史」 | Synapse Diary
なので、先ほどシャープが実例として取り上げられていると書きましたが、現在のシャープの苦戦状況をみると複雑な気持ちになります。経営というのは、何かに優れているだけでも十分ではないんだなと改めて思うわけです。
そのほかにも、テイラーから始まる科学的管理法は、経営者・管理者に責任と権限を集中させることになり、知識の創造を組織一体で行う流れとは異なったという欧米的経営手法と日本の経営手法の対比に関する分析は、「なるほど」と気付かされる示唆でした。
どんな企業であれ、組織の中で知識をどう生み出していくか、どう展開し事業に活かしていくか、という点では課題を抱えていると思います。本書は、それを解消するヒントになるでしょう。
組織という組織は、遅かれ早かれ、すべて知識を創りはじめる。しかし、大多数の組織ではいまだに運だけにたよっていい加減に知識が創られており、そのプロセスを予測することができない。その知識創造のプロセスをシステマティックに管理するのが、知識創造企業の特徴なのである。
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