様々な変化が素早く起こるビジネス環境では、自発的に物事を考え、行動を起こす人材が重要になります。また、そのような人材は時に、イノベーティブで大きな利益をもたらしてくれる場合もあります。
では、社員が自発的に考え、行動する組織というのは、どうすれば作れるのでしょうか。年末年始に、この「シャドーワーク」という本を読んで、そんなことを考えていました。
「シャドーワーク」という単語がわかりづらいですが、いうなれば「業務外の活動」のことです。ただし、完全なプライベート活動とも違います。仕事に関連するが、正規の活動ではないことを指します。
各個人に自主性を求めることのジレンマ
この本を読むと、組織をマネジメントすることと、各個人の自主性を高めることには、ジレンマがあることがわかります。
組織をマネジメントするためには、、、
- ルールによる規律を設ける
- マニュアル等による手順を統一し、生産性・品質を向上させる
- 上から下に伝達される
一方、各個人が自発的に作業するためには、、、
- ルールに縛られずに発想し、行動する
- 社内の評価基準から逸脱する(→評価されない)
- 上からの命令ではなく、自分でモチベーションを高める
ということで、真逆の方向になります。特に、社内のルールに縛られないように行動してもらうことがとても重要なポイントです。「こうあって当然」という先入観を打破し、新しいビジネスを創りだすためには、既存のルールからはみだす人が必要になります。問題は、組織ではこういう人は評価されないんですね。ルール外なので。
「じゃあ、評価基準に入れてしまえば良いじゃないか」という考えになりますが、そうなると「上から下に命令される」形になって、個人の自発性が損なわれます。ここにジレンマがあります。
原理・原則によって、組織の柔軟性を高める
結局、冒頭の問いに対する答えは「原理・原則を高める」ことだと僕は理解しました。組織は、集権と分権のバランスで出きています。どこまでを会社で統一して、どこまでを権限移譲するのかのラインを設計するのが、組織戦略です。
ただ、あまりに権限移譲してしまうと、企業のガバナンスが弱くなります。各自が勝手なことをやってしまい、企業のブランドを失墜させたり、大きな不利益を生じさせる自体は防ぎたいわけです。かといって、集権化が行き過ぎると、組織の柔軟性が失われ、企業全体の競争力が低下します。
本書では、このように表現されています。
1つ目の問題点は、環境は常時変化するし、そのスピードはどんどん速くなっているということである。このために、与えられた役割、想定したプロセス、生み出すべき予定のものが変わってしまうことが、しばしば起こるようになった。こうした変化に即座に対応しないと、推奨される行動をとっても報われず、既定路線では意味がなくなり競争から脱落してしまうリスクが高まっている。 こうした環境変化に対応するには、きっちり決まった組織の仕事の枠組みでは、なかなか対応しにくい。誰かが別のことを考えないといけないわけだ。ところが、そうした別のアプローチは、しばしば組織の既定路線、想定内のこと以外の行動をともなうために、マネジメントとぶつかり合うことになる。
そこで、これを解決する手段として「原理・原則」が必要になります。IKEAやZapposなど、企業理念による経営が注目されているのも、ガバナンスを高めるための武器として、企業理念という「原理・原則」が存在するからです。それによって、マネジメント側からすれば、組織運営におけるリスク発生を低下させると同時に、各個人に創造性を発揮してもらうことで、サービス品質を向上させているのです。
ひとつの例として、ルイス・ガースナーの言葉が紹介されています。僕は、非常に感銘を受けました。
彼は1994年に来日しているが、その際に開かれた記者会見のなかで、質問に答えて、「私の信念、経験からいえることは、ルールでがんじがらめになった組織は基本的に弱いということです。偉大な組織は原則にのっとって、みんなが行動する組織です。つまりルールではなく、原則にのっとって動く組織です。ルールだけ守っていれば、成功したと思いがちです。しかし、これは内部の尺度であって、外部の市場とかお客様といった尺度ではありません」と、述べている。
柔軟性のある強い組織は、原則に従って行動できる組織です。
劇的に変化する外部環境の中で、モチベーションが重要だ、とかブラック企業だ、とかいろいろ組織に関する話題が登場しています。ひとつの絶対解があるわけではありませんが、本書にかかれているような仕組みが組み込まれている組織は、強く変化しながら進んでいけます。
最後に、本書にかかれていた好きな言葉を紹介して締めます。
人事部の仕事は、「労を惜しまないような楽しさを仕事のなかにどれだけ仕掛けていけるか」、「前向きな意味で『自分の仕事』と受け止められるように社員をサポートできるか」だと思うと、荻野は語る。