事実から社会の仕組みを読み解く – 【書評】競争と公平感

大竹 文雄¥ 819

タイトルに魅かれて買ってしまった。社会では競争しなければいけないが、一方で公平性も求められる。それをどういう観点で、どういうバランス感覚で築いていくべきなのか、と。

この本は、これまで読んできたのと同様、格差社会は小泉・竹中時代のものではないことを説くし、正規社員を待遇すると一層非正規社員が増えて経済が停滞する危険性を説く。

競争は国を豊かにする

この本で登場する調査では、日本人は市場競争が国を豊かにすると思う割合が低く、かつ貧困者を救済するのが国の役割であると思っている人は少ないという。理解に苦しむ。競争は辛いから避けたいけど、弱い人は自業自得ということになっているのだろうか。

資本主義に含まれている「競争」をすることが、なぜ国を豊かにするかをもっと明確に認識すべきかもしれない。自分もそこまではっきり自覚はなかったし。

競争することが国を豊かにすると思うか思わないかは、勤勉よりもコネや汚職が重要だと認識するかに決まるそうだ。そしてそれは、不景気を経験したかどうかと因果関係があるとのこと。

男女平等の難しさ

体力が重要な要素を占める職業のみではなくなり、仕事内容での男女差は小さくなっているように思う。それでも未だに昇進格差は確実にある。著書には男女による競争意識の違いが書かれている。競争に対する執着や嗜好が男女で異なるという仮説だ。

細かい内容は読んでもらうとして、個人的にもこれは感じる部分がある。コンサルティングという会社だと、体力的要素は低いといえば低い。(徹夜続きのときに耐えれる必要はあるけれど。)それでも上にいけばいくほど女性の管理職の比率が減ってしまうのは、いろんな要因はあるものの、女性が男性に比べて昇進や競争に対する執着心が低いからだと思う。

別にこれは悪いことではない。ただ、こういう特性を捉えた上で女性が活躍する場所を増やせる企業が今後は勝っていくのだろうな。日本では、高等教育を受けた女性の就業率は7割満たない。GDPの向上要因の1つである労働量は十分に活かされていない。

高等教育受けた日本女性 就業率、30カ国中29位 男女共同参画白書 :日本経済新聞

世の中にはいろんな主義・主張があるが、それは事実に基づくことが重要だと竹中平蔵は言っている。そして、そこから社会の仕組みを読み解き、修正を加えていくのだろう。

【書評】日本の大問題が面白いほど解ける本

この高橋洋一という人は、一見難しいことをわかりやすく説明するのが本当に上手い、と毎回感心する。

政治にはいろいろな課題があるのだけれど、読んでいて改めて地方分権は不可避と感じた。

例えば、

・八ツ場ダムのような、ある特定地域の問題に国が積極的に関与するのは、政治上適さない。レベニュー債などを用いて、適正な損益チェックのもと、関係ある地域行政の範囲で行うべき。

・電波行政で、テレビ局の利用料が全体から見たときに少なく、一方で放送事業に関わる支出はその何倍もある不思議。東京のキー局が全国のローカル放送をコントロールしている状況に、周波数オークションで風穴が開けられれば、地域に密着した情報が増える。

・消費税などの増税は、税の目的や、国税と地方税の区分けを考える必要がある。例えば、消費税は景気に左右されない安定した税収が見込める一方で、誰が払ったかの追跡が難しい。

上記のようなことを考えていくと、自ずと地方自治に至る。

民主党政権の施策には、中央集権的・社会主義的な要素が多く反映されている。グローバルの流れや政治・経済の本質を踏まえた上で、継続してチェックしていく必要がある。

ちなみに蛇足になるけれど、周波数オークションが行われても、すぐにテレビ局に影響が与えられることはないだろう。周波数オークションは新たに周波数帯域が割り当てられる場合に行われるので。ただ、テレビ局に対する電波使用料が安すぎるので、値上げしようという議論はあるようだ。

電波利用料 – Wikipedia

経済の基礎を復習-【書評】経済超入門

何となく理解したつもりの経済も、改めて基本から学び直した方が良いと痛感したので、「金融日記」で薦められていた本書を購入。

<bclass=”h1″>目次

◆Chapter1ゼロからわかる経済学

『まずはこれだけ考え方の基本6』
1経済学は「選択」に関する学問2選択で重要なのは「機会費用」
3需要と供給の基本グラフ4ミクロ経済学vsマクロ経済学
5新古典派vsケインズ派6IS曲線とLM曲線

『知ればトクする経済学用語16』
1ケインズの美人投票2比較優位3合成の誤謬
4メニューコスト5逆選択6非ケインズ効果
7乗数効果8価格の弾力性9サンクコスト
10現状維持バイアス11ナイトの不確実性12経済の外部性
13流動性の罠14クラウディングアウト15効率的市場仮説16賃金の下方硬直性

『覚えておきたい経済学の偉人10』
アダム・スミス/カール・マルクス/カール・メンガー/ジョン・メイナード・ケインズ
/ヨーゼフ・シュンペーター/フリードリヒ・ハイエク/ロナルド・コース
/ミルトン・フリードマン/ジョン・ナッシュ/ダニエル・カーネマン

◆Chapter2経済学でニュースを読む

『もう難しくない国際ニュース8』
1オバマ医療保険の「市場の失敗」2強欲ウォール街の「モラルハザード」
3企業合併の「規模の経済」4スーパー安売り競争の「囚人のジレンマ」
5失業率悪化の「フィリップス曲線」6バラマキ政策の「中立命題」
7マグロ乱獲の「共有地の悲劇」8保護主義関税引き上げの「死荷重」

『注目の異端児・行動経済学』『金融危機でマルクス復活?』
『学者の予測が外れるワケ』
『「陰気な科学」の未来を探して』

◆Chapter3世界経済の今を知ろう

『ギリシャ危機は広がるか』
『そうだったのか世界経済15』
1中国経済2株価3金融規制4政府の借金5米失業率6ドル安
7デフレ8ジンバブエ9金利10ドバイ・ショック11貿易12北朝鮮デノミ
13iPadvsキンドル14ネット有料化15自動車
『ある経済記者の告白』
『日本経済[近未来予測]』

 

恐らくは、ニューズウィークの焼き直しも多分に含まれているんだろうけれど、池田信夫の経済用語説明や池上彰の海外ニュースを事例にした経済事象の解説は秀逸だった。

IS-LM曲線、新古典主義、ナッシュ均衡。
なぜ人民元の切り上げがニュースになるのか。不景気時の公共投資にはどれくらい効果はあるのか。

本書を読めば、これらをちゃんと説明できる。
経済予測はいろんな人が外しているので、正解があるものではないのかもしれない。少なくとも現時点では。それでも、ちゃんと経済学を理解していれば、政治家や評論家がおかしなことを言っていても、疑問を持つことができる。世の中の事象を洞察する一助に、この本は今後もなってくれるはずだ。

【書評】日本はなぜ貧しい人が多いのか

最近統計モノを読む機会が多い。読むたびに、事実を基に分析することの重要性を再認識する。ここに何かを書くためにメモしたんだけど、メモだらけになった。知らない事実が多かった。

公的扶助給付額は際立って高いが、公的扶助が実際に与えられている人は少ない。

公的扶助の給付額は、主要先進国の中で高い一方で、生活保護水準以下の所得で生活している人は15%で、実際に生活保護を受けている人は0.7%なんだそうだ。

また、市場所得で見た場合の相対貧困率は低いが、可処分所得で見ると不平等になる。これは、日本の社会制度が、公的扶助をうまく配分できていないという事実を表していると思う。

今ある分配の仕組みを見直すだけでも、改善される余地はある。

子ども一人を育てるコストは1億円ぐらい。

子どもを育てるコスト=働いていたと仮定した場合にあきらめる所得。そう考えると、子ども一人当たり1億円のコストがかかる計算になるらしい。子ども手当でも、とても足りない。こういうコスト感覚は、みんな気づき始めてるんじゃないのかな。共働きの方が生活は楽になるし、子ども一人持った途端に、時間とお金への制約が劇的に増える。

労働生産性の低い産業を輸入する。

各産業の労働生産性も計算されているんだけど、繊維産業などが効率悪い部類になっている。岐阜でも、昔は繊維業が盛んだったけど、海外の安い製品などに押され、最近は見る影がなくなったという話を聞いた。

労働生産性の伸びにくい産業から、労働生産性の高い産業に切り替え、これまでの産業は輸入することで、国の産業は伸びる。これは、経済学の基本。

官民賃金格差が高い県ほど、民間の平均所得が低い。

これは少し驚いた。こういう事実があるらしい。これは、地方の財政が公務員の給与に反映されていないことを示している。

こういう事象があると、地方で優秀な人材は公務員を目指すようになり、地方産業に人が集まらなくなる。すると、余計地域産業は発展しない方向に向かってしまう。

確かに、自分が就職活動するときも、公務員志向が高い人が多かったなあ。公務員が悪いとも思わないけど、公務員志向が高まる仕組みは、地方経済にとって勿体ないとは思う。

公共投資に必要なアプローチ

日本はなぜ貧しい人が多いのかを読んで、企業や団体に公共投資するよりは、個人に資金を投入した方が効果が大きいのでは、という提言があったので、今後の公共投資について思考実験してみる。
バラマキ政策の限界
バラマキなどの公共投資は、未だ有効だと感じる人が周囲にいたりする。これは、ケインズの有効需要を喚起するために、借金をしてでも公共が投資するが有効である、という考え方が背景にある。
これは、乗数効果を期待しているのであるが、近年は乗数効果もどんどん下がっているので、バラマキ政策には限界があることが、経済学の観点から判明している。
公共機関の事業については、PDCAサイクルがうまく回っていないことが多いのではないかと思う。特にCとAをうまく回す仕組みが整備されていない。
ある事業の効果を測定し、それを評価し、改善策を構築した上で実施する。その一連の流れを作ることが、継続的な事業体を作る重要な要素である。
地域内乗数効果という考え方

公共投資を評価する指標として、地方自治体が行った公共投資がどの程度地方振興に寄与しているかを示す、「地域内乗数効果」がイギリスで考案されている。これが結構興味深い。
今でもよくあることだが、地方自治体の発注では、地元企業のみを対象に、もしくは地元企業を含めたJVに仕事を発注する場合がある。(大体は予定価格が低い場合だが。)
これは、地元への技術振興の狙いもあるが、どうせお金を使うなら地元へ、という考え方も含まれている。
あとは、地元の団体やNPOに助成金を出したりする。
そういう税金として投入されたお金が、どれくらい地元に還元されているか、を測る指標が地域内乗数効果である。考え方はシンプルで、公共投資で投入したお金が、地元にどの程度残るか、である。
例えば、払い先の企業が地元外から資材を調達していたり、人材を確保していたら、せっかく投入したお金も地元には残らないことになる。
(詳細は、次のPDFがわかりやすい。http://www.tku.ac.jp/~koho/kiyou/contents/economics/241/8_fukushi.pdf 
ただ、これを実際に測定することは、結構面倒くさい。いざやるならば、大変な労力が必要とされると思う。しかし、公共投資を評価する上で、有効な指標となると思われる。
サンプリングでいくつか指標を取得してみることで、公共投資の有効性を測れるし、地域からのお金の流れや産業の流れが見えて、現状分析の一助になることも期待される。
企業やグループより個人に目を向ける
乗数効果の低下が示しているように、無理やりお上が仕事を作る時代は終わったのだと思う。それでも人を支える役割が公共機関にはある。
今後の流れは、企業に投資し個人への波及を期待する間接投資より、個人を直接支える直接投資だと思う。例えば、民主党の子ども手当てには仕組みとして不十分感がいろいろあるが、それでも個人に目を向けて、そこに直接資金を投入することが、投資対効果を高める結果になると思う。
またこのとき、投資対効果が見えやすい仕組みを作ることが重要だ。地域内通貨やバウチャー制度はその観点から良いアイデアだと思う。
実際に現場で使われている、公共投資の評価方法については、余り体系だったものがない気がするけど、どうだろう。知ってる人がいれば、ぜひ教えてください。

「働かざるもの 飢えるべからず」出版記念講演をきいて思うこと

Ustreamで動画があったので、聞いてみました。基本的にはベーシックインカムの話。
(Ustreamで再検索したら見つけられなかった。。。削除されたかな?)

自分の中では、金持ちに5万円与えても社会にとってインパクトはないけれど、貧しい人が手にした5万円は、その人にとって大きな価値を生むし、それによって社会にとっても利益を生むはず、ということ。

つまり、全体に基礎的なインカムを再分配することが、社会にとっても有効は資源活用になるんだという発想。こういう社会設計を考えられる人、というのは日本にどれくらいいるのかな。でも、こんなに最近ネット上でベーシックインカムの話を聞くと、時代の流れとして社会に受け入れられる日も遠くないのかもな。個人的にはベーシックインカムは賛成。

@assamtea @kuze_takahiro @katsuragawa_m @fuchan_gifu @megumeru とやった勉強会でも話が出たけど、社会全体の生産性を考えれば、本当に生産性をプラスにできているには全体の1割。これは昔から変わらない。これを受け入れて、残りの9割も含めて全体で生活をできる社会、という基盤作りを真剣に求められる時代になる気がするなあ。
 

働かざるもの、飢えるべからず。
小飼 弾
サンガ
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あわせてどうぞ。

 

【書評】未来思考

未来思考 10年先を読む「統計力」
神永 正博
朝日新聞出版
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以前よりいろんな統計に興味を持つようになった。数値からあぶり出される事実が、意外であり、また確かな根拠があることを教えてくれる。何でもそうだけど、情報があって分析があって、そしてやっと判断ができる。もちろん情報が不足している状態で意思決定をしなきゃいけない場面もあるだろうけど、世の中にはいろんな指標がある。それをもっと活用すれば、面白い結果が出てくるとも思う。
 
さて、面白いことが書いてあったので、気になることを列挙してみる。いろいろ考え込んでしまったな。
 
 
少子化対策ってなんだろうねえ
 
少子化対策なんてよく言われるけど、何やってるんだろう。この本をみれば、対策が不十分か的を外しているとしか思えないぐらい、低空飛行を続けている。海外も交えていろんな例も出されているけど、制度を変えることで少子化を打開できそうなのは、以下。
 
・婚外子を認める
 フランスがよく例に出される。結婚以外での子どもの権利を認めてあげることで、女性が子どもを中絶する理由は減るかもしれない。ただ、日本社会では結婚⇒出産みたいな流れ以外を「おかしい」と捉える人が多いので、導入してもあまり効果がない気がする。
 
・母子家庭への補助を増やす
 母子家庭になると、相対的貧困率が低い状況に陥りやすいのは、統計からも自明になっている。こういう状況に対して、セーフティネットの構築をすることで、「もし離婚したら」とか「子ども産んだら生活やっていけない」と思う人も、減るのかも。
 
原理的に考えると、人は不安を覚えると妊娠・出産を控えるそうだ。だから、この国が不安よりも希望が大きく、不安要素を少しでも小さくするような制度設計をすることが、少子化対策になる。
 
 
人口は都市部に集中している
 
この本の中で、一番考え込んでしまったのが、都市部に対する人口集中の統計。
三大都市圏でみれば、東京がひとり勝ち。大阪は数年前から減少気味。名古屋は製造業(トヨタ)の気迫で横ばい。他にも北海道と東北の例があり、県外移動があり、県内でも都市部(仙台とか札幌)に移動しているのが、数値としてはっきり出ている。
 
こういう結果をみると、人の合理的判断として都市部に集中しているんだろうな、ということがわかる。職業機会も多いだろうし、商業施設が集まれば買い物は便利。医療施設や行政施設も集中していれば、利便性やサービスレベルが向上しているとも思われる。
 
そういう都市部への集中が起こるときに、どういう街づくりが良い姿なのか、考え込んでしまった。確かに、費用対効果で考えれば極力コンパクトな街であることは望ましい。移動コストや社会基盤インフラの固定費などを、極力小さく保ちながら、市民に提供することが可能になるからだ。
 
こういう合理的判断をすると、20年後や50年後はどうなるんだろうか。日本は、みんな東京が稼いだお金を分配することで、社会を保っているんだろうか。違う仕組みが必要な気がしてならない。いろんな場所で、経済圏として独立する必要がある気がする。集中と分散。そのバランスを行政はとれるだろうか。
 
 
なんか、この本を読んでると、人口は少なくなるわ、地方は疲弊しているわで、気持ちが苦しくなってくる。どうしたもんかねえ。ただ、こういう事実からこそ、何かが見えてくる気もするんだよなあ。

まんがで読む共産党宣言

共産党宣言 (まんがで読破)
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六本木で働いていた元社長のアメブロでこのシリーズが何回か書かれていたので、試しに購入。

こんなの、と言っては大変失礼だが「共産党宣言」という本を、普段の生活でまともに読んでみよう、という人がどれぐらいいるだろうか。そういう意味で、「まんがで読む」シリーズはその敷居を大きく下げてくれるのは間違いないだろう。やはり視覚効果というのは、理解を促す上で大きい。

本の内容も、ストーリー仕立てで、資本家に酷使される労働者が、どういう思考を持ったり、いろんな考え方が混入された時代を経て、今の時代があるということが描かれていてわかりやすい。

今でも政治や経済などでは、「マルクス主義」という言葉が見られるが、その根源となった本の内容がさくっと読めるのだからありがたい。この内容がどういう形で役立つかは別として、このシリーズはいろいろ読んでみても良いな、と思った次第でした。


あわせてどうぞ。

「事業仕分け」に今後期待すること

 「事業仕分け」が始まって、報道でもネットの世界でも盛り上がりを見せてる。(前から思ってたけど、「ネットの世界で盛り上がっている」という表現は、何を指すんだろうね?自分でもイメージで使ってみるけど。)
 
細かい内容は専門家でもないので任せるとして、気になった点を書き留めておく。
 
 
「全体像」はどこか
 
報道を見て、「事業仕分けをしています」ということは分かるが、どれを対象に行っているのだろうか。

まず問題なのは、仕分けの対象になったのは概算要求に出ている約3000の国の事業のうち15%足らずの447事業にすぎないということだ。
事業仕分けという人民裁判 – 池田信夫 blog

これを理解した上で、この「事業仕分け」という作業を見なければいけない。
 
 
「ゴール」とは何か
 
今までの自民党政治の無駄に切り込む、という謳い文句もあり、実際に切り込みを始めた「事業仕分け」。1時間程度の議論で、廃止・予算削減・民間への委譲など、バサバサと結論が出ていく。劇場型で、見ている側としては面白いが、切られていく方がつらいこともあると思う。
 
さて、Twitter上で議論が出ているもののひとつに、基礎研究などの短期的には結果が出づらい分野をどう評価するか、ということがある。
 
これが混迷する理由は、この事業仕分けの目的や、そもそも国が打ち出すビジョンが不明確だからだ。いろんな角度で見れば、いろんな結論が導き出せるのは当然である。企業戦略でも、長期的な視点でどこに投資するかは常につきまとう課題だが、科学的根拠や論理的思考だけでは明確な答えは導き出せないので、経営者が企業の今後のビジョンと照らし合わせて、必要な分野への投資を決断するのだ。
 
事業仕分けの目的は、報道を見る限り自分は知らない。それが事前に、はっきりと出るのがよかったかな、とは思う。
「財源不足は国家喫緊の課題であるため、全体の事業から●●%の削減を目指すことが、目的。長期的視点など今回は優先しない」とか。PDCAサイクルを回すためにも、「事業仕分けの目的」も、「一定の役割を果たせた」という抽象的な概念ではなく、「何%達成だから十分」というような定量的かつ客観的な評価を後々してもらいたい。
 
 
それでも前進している
 
今回の事業仕分けにはいろんな意見も出ているし、進め方や評価の仕方に課題も多く見つかっているだろうと思う。ただ、これだけ透明な場で、国家事業について議論され、結論が出されていく状況が作り出されたことは、国民にとっても大きな前進だと思う。
 
今まで情報が見えないことが、結果的に国民の無関心を招いていたかもしれないし、何を始めるにしても、最初から完璧な仕組みというものはないのだから。
 
そして透明な場が作られたことによって、新しい動きが出ていることも興味深い。@ksorano が、Ustreamで事業仕分けをリアルタイム配信したことで、Twitter上で議論が進み、まとめサイトみたいなものも作られた。メディアはこの速報性という面では勝てなかったし、新しい情報伝達の形が見えた気がする。
 
 
評価をするのは誰でもできるが、新しい何かを始め、作り上げていくことの方がよっぽど難しい。今回の新しい一歩を喜びつつ、次につなげて欲しいと願う。


あわせてどうぞ。

政権交代バブル

竹中平蔵さんの新刊。ちょっと前の「闘う経済学」と重複する内容もあるけど、基本的には民主党に政権交代した後の、民主党への提言というタイムリーな内容。経済的観点からの政策や、官僚との付き合い方など、経験者らしい詳しい提言が含まれている。

日本の所得捕捉率について

恥ずかしながらこの本で初めて知ったのだが、所得捕捉率(国が所得を把握している率)はかなり低いそうだ。用語として、「クロヨン」とか「トーゴーサンピン」などと言われるらしい。

クロヨン – Wikipedia

事業によって不公平が発生している現実から考えると、消費税は平等かもしれない。ただし、低所得者に対してはある程度加味する必要があるとは思うけれど。

本書では、納税者番号制の導入をうたっている。プライバシーの問題で導入が見送られているらしいが、システム屋の発想からいえば、データベースでID振って管理するのが最も簡単であり、いろんな場面で現状導入されている。自分がどこかの企業に渡した個人情報は、既にID管理されているし、ユーザはそれを気づいていないか、もしくは気にしていないと思う。実際、WebサービスではIDやユーザIDを登録するし。当然のことだ。なぜ反対されているかは不明。

本の内容から少しずれたけど、内容はタイムリーではあるけれど、何分新書ということもあって、若干内容が薄い。どちらかというと、「闘う経済学」の方をすすめる。

参考:団塊世代Aの暇つぶしブログ : 所得捕捉率

闘う経済学―未来をつくる「公共政策論」入門
竹中 平蔵
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