| ジェフリー・ムーア¥ 2,100 |
「キャズム」のジェフリー・ムーアの著書。今更ながら読んでみた。企業にはイノベーションが求められているのは変わらないのだけれど、この本が秀逸なのは「企業タイプ」を整理した上で、それに合わせてどのように資源配分すれば良いかを探っているところ。
自分の本当の「コア」とは何か
本書の中でタイガー・ウッズの例が出てくるのがわかりやすい。CMやスポンサーとの提携の方が、本業のゴルフより稼いでいるんだけど、それでもゴルフに集中すべきか?と。みんな「当たり前」だと思うだろうけど、きっとこれが企業になると、「こんだけ稼いでいる事業なんだから、これに集中すべき」みたいになっちゃうんだろうな。
自分のブランドや競争力が何を源泉としているかは、とても良く考えないといけない。
コンプレックス・システム型とボリューム・オペレーション型
本書ではビジネスモデルを2つに大別している。
コンプレックス・システム型のビジネス・アーキテクチャでは、複雑な問題を解決するコンサルティング的要素が大きい個別ソリューションが提供される。大企業を主要顧客とするビジネスはコンプレックス・システム型だ。P.38
いわゆるBtoBだよね。多数同時の問題解決が難しいので、個別に注力することになる。
これとは対照的にボリューム・オペレーション型のビジネス・アーキテクチャは、標準化された製品と商取引により大量販売市場でビジネスを遂行することに特化している。企業顧客を対象にすることもあるが、ビジネスの基本は対消費者である。P.38
これがBtoC。それぞれに、対象とする問題の複雑度と、それに対する作業効率性がある。ここまでの整理はわかるんだけど、それぞれのタイプが、どういう資源配分をしたらイノベーションを起こせるのかを考察しているところに、この本の価値がある。
コンプレックス・システム型とボリューム・オペレーション型は相互依存関係にある
ボリューム・オペレーションはコンプレックスシステムが作り出した市場カテゴリーをコモディティ化する。コンプレックス・システムが次のレベルの複雑性を作ることで対応する。P.61
コンプレックス・システム型というのは、複雑な問題に対する解決策を編み出す。それが他の組織で適用できるような普遍性が生まれると、どんどんコモディティ化していく。すると、ボリューム・オペレーション型企業が参入してきてコストが下がり、コンプレック・システム型の企業は効率性が下がるので勝負できなくなる。
すると、コンプレックス・システム型はまた複雑な問題を見つけて対処する、ということを繰り返す。つまり、コンプレックス・システム型は常に複雑な問題を解決するよう努めるし、そのときコモディティ化された技術を利用した解決策を出すこともあるので、ボリューム・オペレーション型の企業と協業することになる。
イノベーションを起こすためにどこに注力すべきか
結論を言えば、コンプレックス・システム型企業とボリューム・オペレーション型企業のどちらも破壊的イノベーションにより成功することができる。もし、あなたの会社がコンプレックス・システム型であれば、顧客のニーズが大きい破壊的テクノロジーにフォーカスし、自社の製品リーダーシップの能力を顧客インティマシーの能力で補完するべきだ。一方、ボリューム・オペレーション型であれば、既に確立した市場において破壊的ビジネスモデルで勝負した方が成功する可能性が高いだろう。この場合には、製品リーダーシップの能力をオペレーショナル・エクセレンスの能力で補い、製品を早期に安定供給できるようにすることが重要になる。P.104
無駄にカタカナ語が多いので読みづらいのだけれど、要はコンプレックス・システム型は、まだ市場がないようなところに先進的な技術を用いて解決策を提示することが肝要。
ボリューム・オペレーション型は、市場がある程度あり、コモディティ化される技術と業務遂行力でイノベーションを起こす、というわけ。
自分の企業は何に注力すべきか
これを読んで見えてくるのは、まず自分の企業に合った「問題の複雑度」を見極めなければいけない。IBMがPC事業を売ったのは、PCがコモディティ化して、問題が複雑でなくなってしまったからと捉えることができる。問題が簡単であれば単価が低くなってしまったり、ビジネスモデルが変わってしまう。
SIerが複雑な問題を解決せずに、サーバ機器を入れて、パッケージ製品を導入して、運用保守でお金を稼ぐようなモデルになれば、それはおのずと単価も下がっていく。新しく複雑な問題を見つけて、そこに解決策を提示していかにと、SIerやITコンサルは生き残れない気がするよね。
あと、市場や技術がどの程度成熟されているかを考える。市場が成熟するということは、市場が既に大きい代わりに、成長性が低かったり、コモディティ化されてしまってイノベーションの余地が低かったりする。
これを読むと、例えば複数の事業を抱えている企業はどう整理すべきかとか、自分の企業や係わる市場がどの程度の成熟度なのか、という点でいろいろ刺激的。ちょっと読みづらい本だけどね。