グルーポンは生き残り、クーポン購入サイトから変わろうとしていた

今日は、グルーポンを調べようと思います。

「ナンバーセンス」という、統計の嘘などを見抜くための本の中で、グルーポンのことが書いてあったので、久々に気になりました。

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日本だと、数年前におせち事件とか記憶にありますが、今はどうなってるんでしょう。

 

創業当初のグルーポン

グルーポンは、店からクーポンを発行してもらい、ユーザーがそのクーポンを買う。そのとき、一部マージンをもらうというのがグルーポンのビジネスモデルでした。

期間限定で、インターネットで購入することで、圧倒的な割引率を実現し、フラッシュマーケティングを呼ばれました。

フラッシュマーケティング – Wikiwand

 

正直、グルーポンが最初に登場し騒がれていたとき、僕にはその凄さがよくわかりませんでした。

グルーポンの特徴は、クーポンを必要とする人と、客を獲得したい店をマッチングさせるところに意味があります。

ただ、クーポンというのは安売りであることには違いないので、下手すると店のブランドを下げたりしますし、新規顧客を獲得してからの維持をするのが大変だったりします。なので、グルーポンのビジネスモデルがどこまで永続性があるのか、というのは疑問を持っていました。

冒頭で紹介したナンバーセンスでも、「グルーポンはメールを送るだけで、それ以外何も生産していない」と書いています。

単純な仕組みだが、実態はわかりにくい。株式市場は最も活気のあるIT系スタートアップともてはやしたが、はたしてそうなのだろうか。少なくとも今のグルーポンは、積もり積もった赤字の波が、洪水警戒ラインをいつ越えてもおかしくない。そもそも創業から1年半で、既に5億ドルの累積損失を計上していた。同社の資産報告書をめくると、キャンベルスープやエトナのような企業とは似ても似つかない。商品もサービスも、送信するメール以外は何ひとつ生産していないのだ。顧客のターゲットを絞った広告を出し、営業担当が業者を訪ねてクーポンの契約を取りつけ、ライバル会社を真似して迅速に拡大する。それがグルーポンだ。

ただ、そんなグルーポンが今でも続いているんですよね。

 

今のグルーポンは何が変わったのか

グルーポンの売上高の推移を見てみましょう。ここ3年間で売上は伸びています。一方で、営業利益率は落ちてます。

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グルーポンは、共同購入クーポンサイトの先駆けとなり、今はグッズ販売や韓国企業の買収を展開しています。海外展開に積極的ですね。

現在のグルーポンは好調なグッズ販売事業や、韓国のクーポン共同購入サイト「チケットモンスター」の買収で一時は撤退していた韓国市場で再起を図るなどで業績は順調で、株価も好調に推移している様子が伝えられています。

いろいろあったグルーポンが消滅せずに生き残れている理由とは? – GIGAZINE

 

さらに、クーポン購入から電子商取引サイトへの転換が図られています。

クーポン共同購入サイトからより幅広い電子商取引サイトへの転換 を目指すグルーポンにとってドル高が障害となっている。同社は売上高 の約40%を米国外で得ている。1-3月(第1四半期)の売上高実績は 7億5040万ドルと、アナリスト予想平均(7億6110万ドル)を下回っ た。ドルはこの1年でユーロに対して24%上昇、対円でも17%上げた。

米グルーポン:4-6月売上高見通し、アナリスト予想下回る

 

四半期決算でみると、こんな感じです。売上は順調に推移しているように見えますが、利益率は低いところで推移していますね。

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まとめ

グルーポンの現状をまとめると、以下のようになりますかね。

  • 共同購入型クーポンサイトとして先駆けになり、資金調達を行えた
  • その結果、クーポンサイトはすぐにレッドオーシャンになったが、先行者利益で乗り越えた
  • 買収等を行い、海外展開を積極的に行う
  • クーポン購入サイトからECサイトへ転換を図り、新しいプラットフォームの構築を狙う

 

ちなみに、ナンバーセンスでグルーポンについて書かれているのは、フラッシュマーケティングの効果を測るときに、「これぐらい集客効果がある」として出される数字はちょっと怪しいよ、ということを言及しています。世にはびこる数字の真実を考えるのに、面白い一冊です。

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コンビニのゴミ箱が店舗内に設置される理由

最近、セブンイレブンのゴミ箱が、外ではなく店内に設置されるようになっていることに気づきました。僕が見た限りだと、新しい店舗から順次そうなっているように見えます。

これはどういう理由でしょうか?いくつか考えてみたいと思います。

 

家庭ゴミの持ち込み抑制

一番最初に思いつくのが、家庭ゴミの持込抑制です。

結構気軽にいろんなゴミを捨てる人がたくさんいて、それによってゴミの量が増えることが理由かもしれません。ゴミの量が増えれば、事業者としてゴミの処分費が必要になりますから、コスト増です。

また、ゴミの量が増えることで、不衛生な環境を作ってしまう点も考慮されてるかもしれません。

 

コンビニコーヒーの普及

コンビニコーヒーは市場が着実に拡大しています。2013年から2014年までで、50%以上市場が伸びたようです。

富士経済が1月に発表した調査結果によると、2014年のコンビニコーヒーの市場規模は前年比52.8%増の1,756億円で、2015年は1,930億円まで拡大すると予想されている。

コンビニコーヒー市場が前年比52.8%増で急拡大 一方、缶コーヒーは脂肪燃焼系など独自路線へ:MONEYzine:株/FX・投資と経済がよくわかるWebマガジン

コンビニコーヒーを利用するとわかりますが、カップを開けたり、砂糖やミルクを入れるため、ゴミ箱が必要になっています。コンビニコーヒーによってどうせ小さなゴミ箱を設置するなら、これを機に全部店舗内に入れてしまえ、と考えたのかな、というのが僕の想像です。

あと、ローソンはイートインを進めているから、中にもゴミ箱がありますね。

 

コンビニは店舗効率をあげるため、無駄なスペースは生まないように設計されています。そのコンビニが、ゴミ箱を店舗内に設置するってことは、それだけ意味があるわけです。

コンビニはどんどん変化していくわけですが、今後はゴミ箱が店舗の外から撤去されていくんだと思います。

 

プラットフォームが長期的に繁栄するために必要なこと

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最近、「ニコニコ哲学 川上量生の胸のうち」という本を読みました。

今やKADOKAWA・DWANGOの社長である川上さんのインタビュー記事で構成されていて、いろいろ面白い考えが披露されています。

その内容の中で、プラットフォームに関する発言が出てきて、「ああ、やっぱりそうだよな」と思ったので書いておこうと思います。

その一部がこちら。

コンテンツをつくらないプラットフォームは、最初はとりあえず、既存のプラットフォームよりも安くコンテンツが手に入る場所にするんです。そして、プラットフォーム自体の競争力を強くしようとする。オープンなプラットフォームっていうのはそうなっちゃうんですよね。みんな自由とか公平とかよくわからない倫理観でオープンを支持するけど、本当はそんなの地獄でしかないんです。

任天堂がファミコンで実現したプラットフォーム戦略

ビジネススクールに通っているときに、任天堂のケースを学びました。ファミコンやスーパーファミコンなどゲーム業界で一時代を築いた任天堂のプラットフォーム戦略の強さに驚いたものです。

任天堂は、スーパーマリオなど、プラットフォームとなるゲーム機と、そのゲーム機で動くコンテンツの両方を手がけました。それによって、プラットフォームの魅力を高めよう、という面と、コンテンツの価格を適正にしよう(値崩れを防ごう)という両方が実現されました。

だから、プラットフォームを運営するものは、プラットフォームとコンテンツの両方を手がけた方が、プラットフォーム全体が長期的に繁栄するというのが、冒頭に紹介した発言の主旨でしょう。

AppStoreやGoogle Playはプラットフォームとしてどうか

今や世界で巨大なプラットフォームとなったAppStoreやGoogle Playはどうでしょうか。AppStoreもGoogle Playも、AppleやGoogleもアプリを提供していますが、基本無料です。プラットフォーム全体の収益性はどうなっているんでしょうか。

最近のレポートによると、ダウンロード数はGoogle Playの方が多いものの、売り上げでみるとAppStoreの方がGoogle Playより70%多くなっているようで、収益性という面ではAppStoreの方が成功しています。

 

ニュース – [データは語る]Appleの「App Store」、売上高で「Google Play」との差広げる:ITpro

Google Play対App Store、売り上げではApp Storeが圧勝 – iPhone Mania

 

AppStoreについても、本書で触れられています。

僕はAppStoreはあまりよくないプラットフォームだと思っています。あれは、クリエイターがブランドをためる仕組みが、プラットフォームの中に組み込まれていないんですよね。そうすると、クリエイターは常にゼロからの競争を強いられる。

確かにAppStoreはアプリが中心に設計されており、Amazonと似たようなコンテンツの見せ方になっています。楽天などは店単位に設計されていて、店の中でどういう商品が扱っているのかがわかりやすくなっています。

これは、AppStoreやGoogle Playがグローバルでオープンなプラットフォームにしているために、開発者をある程度絞り込んだり制限することには限界があるので、仕組みとしてクリエイターを自然に認識して、ブランディングできるようにすることが必要だ、ということだと思ってます。

 

プラットフォームをつくるというのは、非常に有益である一方で、ちゃんと消費者もクリエイターにも配慮して、全体でメリットを生み出し続けないと長期的に繁栄しない、という運営の難しさがありますね。

 

最近でた、プラットフォームの歴史や特徴が語られたこの本もおすすめです。

Twitterにはオープンプラットフォームとして頑張って欲しい

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先日大学生と話していたときに、それぞれのSNSには違いがあるよねってことで、代表的な3つについて、それぞれ以下のような感じなんだと話していました。

  • Twitterはオタク。2ちゃんねると同じ。
  • Facebookはおっさん。
  • LINEが若者。

 

これを読む人はどう思いましたでしょうか。僕が一番驚いたのは、一点目のTwitterでして。ノイズが多く、過剰な思考パターンの人が集まっているという印象を持っているんだなーというところでした。

確かに、Twitterにはノイズが多いです。キーワード検索とかするとわかるのですが、関係ないキーワードを含めてスパムリンク狙ったり、同じことをずっとつぶやくbotなんかがうじゃうじゃいます。

それはわかるんですが、一方でオープンなプラットフォームとして考えると、Twitterに代われるようなものが今のところないと思ってもいます。どういうことかといえば、誰でも簡単にどんな情報にもアクセスできるSNSという意味ですね。

データ分析でも、よくTwitterから情報を取得して、それぞれグリグリ回して分析して、新しい示唆を得ようというアプローチはよく見られます。マーケティングに使おうとか、新しいニーズ調査に使おうとか。地震などの災害が発生したときも、素早い反応とアクセス性から情報源として期待されています。

 

なので、それに対して学生があまり関心を持っていないことがちょっと驚いたんですよね。僕が話した学生が偶然そうだったのかもしれませんが。

ユーザー数などではFacebookに大きく離れていたり、LINEなど新しいSNSに押されてる印象がありますが、個人的には頑張って欲しいな、と思う次第です。ちなみに、年齢層で捉えるとTwitterも若者が圧倒的に多いようですね。

参考:
【2015年保存版】ソーシャルメディアのデータまとめ一覧。ユーザー数から年齢層まで、SNS運用担当者は必見!
5大ソーシャルメディアのユーザー数まとめ!Facebook、Twitter、LINE、Google+、YouTube- SMMLab(ソーシャルメディアマーケティングラボ)

 

Twitterは、少し前にCEOが交代したばかりです。

https://synapse-diary.com/?p=4060

業績が芳しくないのですが、ぜひとも頑張って欲しいな、と思う限りです。こういうオープンなプラットフォームの存在が、情報を広く流通させていくものだと思ってますし。

今日はこのへんで。

Googleを見習って自由で強い組織をつくろう

もっと自由闊達な組織を作りたいと思っている方へ。

Googleの組織がどのように作られているかが説明された「How Google Works」を読みました。いろんな観点で語られており、なんとも表現しづらい部分もあるのですが、今や素晴らしいグローバル企業となったGoogleの考えがみえるという点で貴重かな、と思います。

 

20世紀型管理組織の否定

Googleは従来の組織管理の在り方を根底から覆す考え方を持っています。経営方針について、以下の通り説明されています。MBAだと、このあたりの方法論やフレームワークを腐るほど教わりますんですが、一切ないそうです。

財務予想や収入源に関する議論は一切なかった。ユーザ、広告主、あるいはパートナー企業が何を望んでいるか、それが市場セグメントにどのように当てはまるかといった市場調査も行わなかった。市場のセグメンテーション、あるいは最初にターゲットとすべき広告主といった考え方もなかった。チャネル戦略も、広告プロダクトをどのように売るかという議論もなし。セールス部門はこれ、プロダクト部門はこれ、そしてエンジニアリング部門の仕事はこれ、といった組織図の概念もなかった。何をいつまでにつくるかを詳細に記した製品ロードマップもなかった。予算もなし。取締役会や経営陣が進捗状況を確認するための目標やマイルストーンといったものもない。

人や組織に対しては管理ではなく、それぞれが自律して行動することが求められます。Googleでは、それぞれが自律的に大きな発想をして、組織の境界などを気にせず、行動する文化を形成しています。

経営者をしていて意外だったのは、プロジェクトチームにとんでもない野心を抱かせるのは、とても難しいということだ。どうやらたいていの人は型破りな発想をするような教育を受けていないらしい。現実世界の現象から出発し、何ができるか見定めようともしないで、最初から無理だと決めてかかる。グーグルが自律的思考の持ち主を採用し、壮大な目標を設定するためにあらゆる手を尽くすのはこのためだ。適切な人材と壮大な夢がそろえば、たいていの夢は現実になる。たとえ失敗しても、きっと重要な学びがあるはずだ。

そして、そんな文化を形成するために、様々なルールがビルトインされています。例えば、こんな感じ。

  • 新プロダクトの取組みは低予算にする(制約によるイノベーションの誘発)
  • 20%ルール
  • マイクロマネジメントの廃止(上司は最低7人以上の部下)

 

不確実性が高いビジネス環境で生き抜くためにプロダクトに集中する

なぜ組織に自由を与え、各自が自律的な発想と行動を求めるかといえば、不確実性が高いからです。IT業界はとても変化のスピードが速く、技術やサービスはすぐに陳腐化し、競争環境がどんどん変わっていきます。そういう中で生き抜くためには、サービスやプロダクトの新しい発想を誘発し、スピーディに開発することが有効になります。

本書の中で、「プロダクトの開発計画を決めると、それ以上速く開発することはない」という考え方は、印象的でした。確かに、計画を立てることは重要ですが、いつの間にか計画の通りか遅れることはあっても、早めることは少ないのが人間の心理です。

 

プロダクト開発に資源を集中的に配分できるよう、素早く行動し、その結果をデータ化して改善を図ります。Googleでは主観的な判断を極力排除し、データに基づいた判断を行うようにしています。

インターネットの世紀がもたらした最も重大な変化の一つは、事業のほとんどの側面を定量的に把握できるようになったことだ。従来の意思決定は主観的意見や事例にもとづいていたが、いまでは主にデータが判断材料となった。

データ・プレゼンテーションとビジュアリゼーションの権威であるエドワード・タフティは、スライドの枚数を減らしてデータ量を増やせ、と説く。

人材採用についても、過去の採用結果をデータ分析した結果から、ルールやマニュアルを作成しているそうです。

 

人材採用の質を高めないと、この組織を維持することはできない

このように、従業員に大きな裁量を与える組織を形成するのは、何もGoogleやIT業界だけではありません。例えば、ホテル業であるリッツ・カールトンでも各従業員に2000ドルの決裁権限を与えるなど、大きな権限委譲をしています。それは、接客内容に100%正解はなく、それぞれの顧客や状況に応じて、スタッフがそれぞれ判断し行動することが必要になるからです。

【第3回】「一人2000ドルの決裁権」の真意|リッツ・カールトン 至高のホスピタリティ|高野登|cakes(ケイクス)

つまり、現場に大きく権限委譲する(予算なり時間なりの裁量を与える)ことは、不確実性が高い状況に立ち向かうためには有効な組織なのです。

一方で、これらのように自主的に考え、判断し、行動できる人材というのは、市場的に価値が高い人材です。また、カルチャーとして合う/合わない、という点も重要視する必要があります。というのは、個人の裁量がとても大きい組織というのは、価値観という明文化されていない領域を共有できている必要があるからです。

というわけで、採用というのは組織を維持するための根幹にあたるところです。Googleが厳密な採用プロセスを構築しているのもうなずけます。

ダメ社員を解雇するような不愉快な事態を避けるには、最初から彼らを採用しないのが一番だ、と。だからグーグルでは、採用プロセスを厳格にすることで偽陰性(本当は採用すべきだったのに、採用しなかったケース)が出るほうが、偽陽性(本当は採用すべきではなかったのに、採用したケース)が出るより好ましいと考えている。

 

まとめ

というわけで、まとめます。

  • IT業界は変化が激しく、新しい発想とスピードが求められる
  • 不確実な状況に強い組織を作るためには、各従業員が自律的に考え、行動できる必要がある
  • そういう人材は市場価値が高く、価値観も重要。採用プロセスを厳格化することで質を維持する

まとめてしまうと、あまり目新しいものではないなって感じもしますが、Googleという偉大な企業を創業者二人が大学卒業後に築きあげてきた、と思うと、やはり凄さを感じますね。

 

似たような内容で、シュミット会長のスライドが公開されています。

Google・シュミット会長による働き方とマネジメントを示すスライドが公開中 – GIGAZINE

 

あと、もう一冊人事の本があります。より詳細にGoogleの採用プロセスを説明した内容のようです。まだ洋書しかありませんが、興味ある方はどうぞ。僕も英語の勉強がてら読んでみようかな。

音楽ストリーミングサービスが群雄割拠。これで音楽業界は衰退するのか

Apple Music、AWA、LINE MUSIC、Spotifyなど、音楽ストリーミングサービスが熱いですね。これについて、ちょっと書いておこうと思います。いろいろな論点がありますが、ここで取り上げるのは「音楽ビジネスの今後」について、です。

 

音楽市場のバリューチェーン

音楽市場をバリューチェーンで表すと、次のようになります。

valuechain_music1

参考:バリューチェーンで見る(2): 内田和成のビジネスマインド

これまで、製作のところでメディアがレコード→CDと変わってきました。また、デジタルになってからはハードとしての製作部分が抜けて(パッケージデザインなどはありますが)、流通がインターネットプラットフォームに変わりました。AppleがiTunes Storeを発表したのも随分昔ですが、そのときはこのバリューチェーンが大きく変わる、という意味で大きな衝撃でしたね。

 

デジタル音楽の躍進

iTunesなどのデジタルミュージックがプラットフォームで売られるようになったのは、ナップスターの登場が大きいと言われています。デジタル化された音楽は、インターネットを通じて簡単に共有できるようになりました。そうなると、これまでお金を払っていた音楽が無料で入手できるようになります。音楽の価値観が根底から揺さぶられた出来事でした。

Napster – Wikipedia

この動きに目を付けたのがAppleであり、スティーブ・ジョブズでした。買いやすいインターフェース、CDという物理的媒体からの解放という消費者の利便性を向上させると同時に、音楽を提供するアーティストやレコード会社にも「音楽は有料」という形を成立させました。

そうなると、バリューチェーンとしてはこうなります。ハードの製作部分が中抜きする感じですね。パッケージのデザインなどの製作は残っていますが。

valuechain_music2

そうやってデジタル音楽の割合が高くなっていきました。そして、2014年にはデジタル音楽がCDなどの音楽ソフトの売上を上回ります。

国際レコード産業連盟(IFPI)は4月14日、「デジタルミュージックレポート2015」を発表し、2014年のインターネット等を介したデジタル音楽配信の売上が、初めてCDなど音楽ソフトの売上を上回ったことを明らかにした。

2014年世界のデジタル音楽配信、CD等の売上を抜く、IFPI発表 2015/04/17(金) 14:22:26

そして、ストリーミング配信の登場。これは、消費者マインドの変化と関係あります。

 

消費者のマインド変化

スマホが普及し、YouTubeなど無料で聴ける音楽が多く利用されることで、「時々、好きな音楽を買って楽しむ」から「いつでも好きな音楽がタダで聴ける」ものに変化します。

これを、佐々木俊尚氏は「電子書籍の衝撃」で、「音楽のアンビエント(環境)化」と説明しました。つまり、環境に溶け込むほど音楽が自然なものになる、ということです。

これは消費者マインドを変化させ、音楽の「所有欲」を低下させます。自分の経験で言うと、昔CDを買うと、所有欲が満たされ、とても大事に音楽を聴いていましたが、今はそういう感覚がだいぶ薄くなってしまいました。別に所有しなくてもいいかな、と。そういう流れから、ストリーミング配信による音楽サービスが登場します。

バリューチェーンでみれば、「流通」にあたる業者が交代する状況です。

 

消費者のニーズがそのように変わったので、各社がこぞってストリーミングサービスを開始しています。当たり前ですよね。客の多くがストリーミングに移っていくのに、乗り遅れれば衰退していくのを待つばかりです。

日本市場はその中の大きな例外ですけどね。CD販売が成立する稀有な市場です。

日本でストリーミング型音楽サービスが普及しない3つの理由 | ライフハッカー[日本版]

それでも、日本は大きく売上が減少しているようですが。

世界規模の音楽売上をまとめた年次レポートをIFPIが公開、2013年は音楽売上が3.9%ダウン、音楽ストリーミング売上は50%以上拡大

 

流通業者が業界発展の鍵を握る

ストリーミング配信への流れが加速していく中で、これが音楽業界全体の発展になるか、というとどうでしょう。

以下の記事に書いてある通り、音楽の単価はどんどん下がっています。ストリーミングによってもっと下がる可能性が考えられます。

LINE MUSICやAWA、Apple Musicに見るストリーミングのその先と所有欲 – Jailbreak

バリューチェーンでみると、プラットフォームを支配する流通業者が強くなる、という構造です。こうなると、製造する人(=音楽を作る人)たちにとって良くないのではないかと思えてきます。売る方が力が強くなり、製造する方の力が弱まってしまうからです。すると、業界全体が価格志向のユーザーニーズに引っ張られ、業界全体が縮小してしまう恐れがあります。

 

これを解消する手段のひとつとして、流通業者が上流(コンテンツ作成)に踏み込むというアプローチがあります。動画配信のHuluやNetFlix、Amazonがオリジナルコンテンツを作成してますね。

Hulu、独自コンテンツ配信へ–第1弾は木梨憲武さんのアートバラエティ – CNET Japan
フジテレビと米・Netflix(ネットフリックス)がオリジナルコンテンツの制作で合意 – とれたてフジテレビ   AmazonもNetflixに対抗し、今月からオリジナル作品の配信を本格化

別業界でも、セブンイレブンはプライベート製品を作っていくことで成長させています。

流通業者が自らリスクをとって製品をつくり、販売していくことで、製造する側にもお金が多く流れるようになりますし、品質の向上も期待できます。

 

デマンドサイドだけでなく、サプライサイドもWinにならなければ、業界全体は発展しません。そういう流れを音楽業界がどう作っていけるかは注目です。

Twitter経営不振でCEO辞任。SNS業界はどうなってる?

nominalize / Pixabay

TwitterのCEOが辞任しましたね。

ツイッターは過去5年間に経営陣の交代を繰り返しており、今回の人事は、製品の改善に重点的に取り組む同社の姿勢を示す。同社のユーザー数は当初の見通しほど伸びておらず、ライバルのフェイスブック傘下のインスタグラムやワッツアップ、フェイスブック・メッセンジャーなど後発のソーシャルアプリの成長で存在感が薄くなっている。ツイッターの広告戦略も広告主の大幅増に結びついていない。

ツイッターのコストロCEO辞任-利用者数や広告伸び悩む – Bloomberg

業績不振による、株主からの圧力だと言われています。

 

ここでTwitterがどういう状況に置かれているかを理解するために、SNS系で上場しているFacebook、Twitter、LinkedInで売上を比較してみましょう。

過去3年の各社の売上推移です。

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Facebookは着実に成長しているのがわかります。Twitterはどんどん離されていて、LinkedInの方が売上は高い状況です。

SNSではよくFacebook、Twitterが2大サービスというイメージがありますが、ビジネスとして売上に結びついているのは明らかにFacebookの方です。(この場合、単純にFacebookというサービスが強いというだけではなく、買収戦略も含めて効果が出ている、ということですが。)

 

営業利益率でもみてみましょう。

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ここでもFacebook圧勝です。3年目はあんまり伸びてないな、と思うかもしれませんが、営業利益率40%ですからね。IT企業として非常に高い利益率を達成しています。

LinkedInは営業利益率1%ぐらいなので、かろうじてという印象です。

Twitterはすごいマイナスです。基本的に赤字なんですよね、Twitterって。こんな赤字でもこれまで注目されていたのは、ユーザー数の増加と、その先にある大きなマネタイズの実現です。しかし、思ったほどユーザー数は伸びず、マネタイズにも苦戦しているのが数字でも見て取れます。

 

Twitterがこのまま弱体化していくと、広告メディアやコミュニケーションツールとしての価値も低下していくかもしれません。特にビジネス等で使われている人は、状況はよくみておいた方が良いかもしれませんね。

 

個人的にはTwitter、好きなんですがねー。なくなったらちょっと寂しいかも。ただ、Twitterって創業から今までの流れがちょっと複雑で、CEOも何回か交代しているので、組織的にうまく推進しづらいんじゃないかと思ってしまうんですよね。

AppleのWWDC発表は期待ハズレだったかもしれないけど、別にいいと思う

kropekk_pl / Pixabay

AppleがWWDCで、新しいOSやサービスの発表を行いました。watchOSの更新やApple Musicが目玉でしたかね。さくっと内容を理解するなら、こちらの記事をどうぞ。

1分でわかるWWDC、OS X El Capitan、iOS 9、watchOS 2、Apple Music:WWDC 2015 – 週刊アスキー

で、こんな記事を見かけました。

WWDC2015みて、Appleほんまに大丈夫かって思ってきた。:村上福之の「ネットとケータイと俺様」:オルタナティブ・ブログ

 

この気持ち、わかります。わかりますよ。確かに、MicrosoftやGoogleは新しい戦略を打ち出してますし、機械学習などの投資やGoogle Photosなどのサービスが発表されて、新しい世界への可能性を感じました。

Google Photosはスマホ写真の保存先として大本命になる

そろそろMicrosoftが戦略転換して本気を出すようです

 

で、せっかくなので、各社の財務状況をみてみようと思いました。そこから、Appleの立ち位置を考えようと思います。

 

売上高はAppleが圧勝

比較として、Google、Microsoft、Amazonを選びました。売上高で4社を比較したのが以下です。

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Appleが圧勝ですね。やはりiPhoneの威力はとてつもなくすごい、ということでしょう。そして、他社よりも成長率も大きいですね。

おまけとしては、Amazonの売上の伸びが強く、Microsoftを追い抜いています。

ここからいえるのは、GoogleやMicrosoftはたくさん挑戦していろんな取り組みをしていますが、新しい収益源の獲得には至っていない、ということですね。

 

利益率は全体的に軟調

次に、営業利益率をみてみましょう。

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Microsoftは少し踏ん張っていますが、AppleやGoogleは少し低下してきています。Amazonはほとんど利益を出しておらず、成長に投資しているのが際立ってますね。

収益源という意味でもそうですが、これらの企業は、これまで築き上げた収益源がやや成熟化していく中で、次の爆発的な収益源をまだ見つけられていない、という踊り場的な状況なんじゃないでしょうか。

 

もともとAppleは、最先端技術に投資するというよりは、少し「こなれた」技術をうまくデザインと組み合わせて、サービスや製品をつくることで成功してきました。機械学習はGoogleが先行しているような気がしますが、いろいろ今後の動向は考えているでしょうし、今は少し様子見な状況なのかな、というのが個人的な印象です。

 

だから、AppleのWWDC発表の内容は少し期待ハズレだったかもしれないけど、別にいいと思う。今は圧倒的に勝ってるし。今後の動向にまた期待、ということで。

そろそろMicrosoftが戦略転換して本気を出すようです

geralt / Pixabay

Microsoftが「Build 2015」という開発者向けカンファレンスで新しい戦略をいろいろ発表しました。たくさんのネタが発表されたのですが、Microsoftの戦略として面白い動きがあったので書いておきます。

「Build 2015」の概要をつかむなら以下の記事がわかりやすいです。

ついに目覚めた巨人 Microsoftの逆襲 – WirelessWire News(ワイヤレスワイヤーニュース)

 

特に面白かったのは、

Windows 10上でiOSやAndroidなどのアプリを実行できるようにした

ことです。この意図を読み解くには、これまでのMicrosoftや競合企業の動きを理解する必要があります。順を追ってみてみましょう。

 

モバイル戦略に乗り遅れたMicrosoft

スマートフォンの普及によって、デバイスの数でみるとPCは相対的にシェアが下がりました。

モバイルデバイス出荷台数、19.9%の大幅減 PC・Android・iPhoneすべて不調 |ビジネス+IT

このモバイルの普及に対して、モバイル市場はAndroidとiOSに占拠されて、Windows Phoneは出遅れた状況です。

mobile-share

(出所:調査リポート:OS別世界スマートフォン市場シェア、AndroidとiOSが96.3%に──IDC調べ – ITmedia Mobile

これを挽回するひとつの戦略として、タブレットやモバイルでWindowsを無料開放したり、OfficeをiOSに提供しました。詳細は、以前書いたブログの記事を参照していただけると。

https://synapse-diary.com/?p=2607

 

これによって、モバイルにおけるシェアを少しでも高めようとしているわけですね。無料開放すると、どこで儲けるのさ?って思いますが、Microsoftはビジネスモデルを大幅に転換しているようです。その詳細は後ほど書きます。

 

PC・タブレット・モバイルはシームレスに統合する必要がある

デバイスの普及はどんどん進んでいて、一人でPC・タブレット・モバイルなど複数のデバイスを保有し、場面に応じて使いこなすようになっています。

Appleは、MacとiPadとiPhoneで、統一的なUIやアプリケーションを提供し始めていて、どんどん統合を進めています。これらの製品間で、シームレスに情報のやり取りができるようになっています。それは、まさにこういう背景を反映した戦略です。

Microsoftも、モバイル戦略で出遅れましたが、まさにここを狙ってきています。最近発表されたWindows 10では、7つのエディションが全て「Windows 10」の名前がついていて、その中でモバイル向けも存在します。重要なポイントを、解説記事のひとつから引用します。

Windows 10の世代から、スマートフォン向けのOSも Windows Phone ではなくPCと同じ「Windows 10」のモバイルエディションという位置付けになりました。スマートフォンのほか、タッチ中心の小型タブレットでも Mobile を採用します。 アプリは Windows 10デバイス汎用で動くユニバーサルアプリに対応。Windows Store でユニバーサルアプリを入手すれば、PCでもモバイルでも、UI画面の大きさや入力方法にあわせて最適化しつつ実体は同じアプリが動きます。

速報:Windows 10のエディション構成発表。Home / Pro / スマホ版Mobileは無料アップグレード(期間限定) – Engadget Japanese

 

つまり、PCもモバイルも「同じOS」として捉え、アプリケーションも両方で同じように使えるようになるそうです。

 

ここから、今回iOSやAndroidのアプリケーションもWindows上で動かせるようにした理由が見えてきます。(厳密には、「比較的」簡単にiOSやAndroidのアプリを移植しやすくした、というわけで、ソースコードの多少の書き換えは必要なようですが。)

モバイルで大きくシェアを握っているiOSやAndroidからアプリを展開できるようになれば、Windows Storeの魅力も向上するのでは、と期待されます。つまり、Windowsというプラットフォームを開放させることで、プラットフォーム自体の魅力を向上させよう、というわけですね。

 

今、Microsoftはビジネスモデルを大きく転換させている

Windows 10の発表からいろんな情報が出てきましたが、これらを読み解くと、これまでのMicrosoftのビジネスモデルを転換させようとしていることがわかります。

例えば、Windows 10は無償でバージョンアップされて、さらに機能追加も無償で行われます。

Windows 10は、Windows 7以降の環境に無償で提供され、さらに、将来のメジャーバージョンアップまでは無償で機能追加等が行われることになったという。

山田祥平のWindows first – Windows 10から変わるバージョンアップをめぐる問題:ITpro

 

最近はセキュリティ対策やサービス化の流れから、ソフトウェアは無料化が主流です。AppleはOSを無料アップデートしていますし、AndroidなどGoogle関連サービスはずっと無料です。

この流れを追うように、Microsoftもこれまでのようにソフトウェアのバージョンアップでお金を取るのではなく、Windowsをプラットフォームとして捉え、サービス化(利用料金の形で課金)しようとしているのです。

既に売上高としても、MicrosoftはWindowsに依存しなくなっています。以下の記事によると、Microsoftの売上高におけるWindowsの割合は、25%程度だそうです。Officeやクラウドサービスでの売上を伸ばしています。

2002年、デスクトッププラットフォーム部門はMicrosoftの総売上高の33%を占めていた。その割合は縮小し続けており、2013会計年度には、該当する部門(Microsoftの「Surface」ハードウェアも含まれるようになった)が同社の着実に増え続ける総売上高に占める割合は、わずか25%になった。その間、サーバ製品、「Microsoft Office」などのデスクトップアプリケーション、クラウドサービスは着実に売り上げを伸ばした。

マイクロソフト、アップル、グーグル–決算報告から読み解く10年の歩み – ZDNet Japan

Windowsでの収益拡大を狙うよりも、Windowsをいろんなデバイスからオフィスやクラウドサービスへアクセスするための「プラットフォーム」に育てることで、オフィスやクラウドサービスの収益を拡大させようという狙いなのだと思います。

 

まとめ

  • Microsoftはモバイルの普及に対して出遅れた
  • モバイルシェアの高いiOSやAndroidから、Windows向けにアプリを移植してもらって、Windows Phoneの価値を高めたい
  • 一人でPCやモバイルなど複数のデバイスを使い分けるようになっており、デバイス間の統合が必要
  • Windows 10では、PC・タブレット・モバイルが同じOSとして提供されることになっている
  • Windowsは稼ぎ頭というよりは、オフィスやクラウドサービスの「入口」的な役割を担う

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Windows Phoneを調べてみたら、結構安くありました。しかもAmazonのレビュー評価も結構良いんだけど。Officeも使いやすいみたいだし、試してみるのもいいんじゃないの?

なぜ、ソフトバンクやファミリーマートがTポイントに出資するのか?

geralt / Pixabay

ソフトバンクがTポイントへ出資、というニュースがありました。

ソフトバンク、Tポイントに出資 ヤフーも追加出資:朝日新聞デジタル

また、同じタイミングでファミリーマートも出資しているようです。

「Tポイント」に200億円出資 ソフトバンクとファミマ  :日本経済新聞

 

最初は、「Tポイントへ出資」の意味がわかりませんでした。「ポイントに出資する、ってどういう意味だろ?」と思ったのですが、「株式会社Tポイント・ジャパン」というCCCとは別会社がいるんですね。さらに、「株式会社Tポイント」という別会社もあります。

Tポイント – Wikiwand

 

これまでのTポイントと個人情報保護の関係

今回の出資の意図を考えるには、Tポイントのこれまでの経緯を理解しておく必要があります。

Tポイントというのは、自社だけでなく複数の企業が付与・利用できるようにする仕組みになっています。ポイントは、複数の企業にまたがるデータを集めて、分析することで、マーケティングに活用しよう、という取組みであった点です。

その何が問題なのか?といえば、「共同利用する」という範囲がユーザーから見て非常にわかりづらい点です。それが個人情報保護法にも抵触しているのでは?という話があったわけです。要は、「取得した個人情報を共同利用するからには、その範囲を事前に明確にしておく」という点が、ポイント参加企業がどんどん増えていくことで、明確にできなかったというわけです。なので、ユーザーが個人情報を提供した時点では意図しない形でいろんな企業に情報が共有される状況だったわけです。

個人情報保護法とTポイントの関係は、この記事を読むとわかりやすいと思います。

Tカードは個人情報保護法違反に該当するのか?──津田大介の「メディアの現場」vol.44より:津田大介の「メディアの現場」:津田大介チャンネル(津田大介) – ニ(コニコ)ちゃんねる:社会・言論

そのような指摘もあり、Tポイントは規約が改訂されて、複数企業による「共同利用」から、「第三者提供」という位置付けに変えました。同時に、「自分の情報は第三者に提供したくない」という意思表示をできるオプトアウト手続きが提供されています。

ニュース – 「共同利用」から「第三者提供」に、CCCがT会員規約を大幅改訂へ:ITpro

 

ソフトバンクやファミマがTポイントに出資することの狙いは?

簡単にいえば、データの共有を促進させたい、ということでしょう。単なる参加企業の場合、「第三者提供」という形になりますので、オプトアウトなども含めて個人の購買履歴などがうまく利用できない可能性が今後高まっていくと予想されます。

しかし出資関係を構築することで、「グループ企業」という事実関係を作れることから、より深くいろんな企業で取得した購買履歴などの情報を共有することが可能になると思われます。それは、先ほど挙げた記事を読むと書いてあります。

鈴木:はい。今回のTカード問題でまず論点になるのが、(3)共同利用者の範囲です。T会員規約には、共同利用者の範囲は「当社の連結対象会社及び持分法適用会社」と「ポイントプログラム参加企業(TSUTAYA加盟店を含みます)」と示しています。 経済産業分野ガイドライン45頁をみると「本人からみてその範囲が明確であることを要するが、範囲が明確である限りは、必ずしも個別列挙が必要ない場合もある」というように示されています。 持って回った言い方をしていますが、ここの趣旨は、共同利用者の範囲は、第一に個別列挙方式を原則とすること。すなわち、A社、B社、C社とすべて限定列挙することが望ましいということを示しています。第二に、本人から見て共同利用者の範囲の明確性があれば例外的に個別列挙原則を緩和するということが書いてあります。

Tカードは個人情報保護法違反に該当するのか?──津田大介の「メディアの現場」vol.44より:津田大介の「メディアの現場」:津田大介チャンネル(津田大介) – ニ(コニコ)ちゃんねる:社会・言論

 

つまり、「ポイントプログラム参加企業」だけでは、その他大勢の企業と同様の扱いになり、「第三者提供」の枠を抜けだせません。それを出資関係になることで「共同利用」方式をとって、情報を共有する形を採りたいのだと思われます。あるいは、匿名化などのデータ提供ルールを調整する際の主導権を握っておきたい、というところかもしれません。日経新聞の記事でもこう書いてありますしね。

加盟店はポイントを顧客の囲い込みに使う。だが現在、得られる購買履歴のデータは、自社の店舗での利用に関するものに限られる。出資を機に多様な店舗での購買データを活用。ソフトバンクはスマートフォン(スマホ)で年齢や性別などの属性に応じた食品や日用品の割引やポイントを使った決済を手掛ける考えだ。ファミリーマートは独自商品の開発や品ぞろえの改善につなげる。

「Tポイント」に200億円出資 ソフトバンクとファミマ  :日本経済新聞

 

それぐらい、購買履歴というデータには宝がたくさん埋まっている、と考えているのでしょう。データ活用が今後はもっと広がっていくと思いますし、そのときに強いのは「データを握っている企業」です。そういう戦略を今後強化していく上で、ソフトバンクやファミリーマートはしっかりとデータを利用したりコントロールしやすい状況にしておこう、という狙いなのだと思います。

 

企業が提供するこういうポイントプログラムをどう信用し、利用していくかは利用者側にも理解というかリテラシーが求められます。こういう情報を提供する、利用するのが嫌だ、ということであればオプトアウトするなり、ポイントの付与を受けない代わりに購買情報の提供を拒否するという考え方もあります。

 

ポイントプログラムによる囲い込みは、一時期様々な企業が提供していましたが、ある程度絞られた感があります。ソフトバンクやファミリーマートなどの大企業がが自分たちでポイントプログラムを提供をしていないのは、その証拠ではないか、と。

今だと楽天とTポイントが優勢ですかね。

楽天スーパーポイント VS T-POINT &ヤフー 会員数と提携店舗数 比較

楽天はネットに強く、Tポイントはリアルに強いというそれぞれの特徴があります。それぞれの戦略は見ていて面白いですね。

 

個人情報保護については、個人情報保護法の改正やパーソナルデータ活用など、いろんな動きが生まれています。この本を読むと、主要なポイントや流れを抑えることができて良いんじゃないか、と。