FacebookがWhatsAppを買収した目的を考える

いろいろ忙しくてブログを書く時間が削られているのが現状です。楽天がViberを買収した話を書こうと思って調べていたのですが、今日FacebookがWhatsAppを買収したニュースが入ってきましたので、それを先に書いておこうと思います。

 

FacebookによるWhatsApp買収の概要

WhatsAppは世界で人気のメッセンジャーアプリですが、160億ドルでFacebookに買収されました。

WhatsApp MessengerはLINEと競合の、iOS、Android、Windows Phone、BlackBerryで利用できる無料のメッセージングアプリ。2年目からは年額0.99ドル掛かるが、広告は一切表示されない。LINEと同様に、端末のアドレス帳と連係し、電話番号をアカウントとして利用する。昨年12月に月間アクティブユーザー数が4億人を突破し、現在は4億5000万人になっている。

Facebook、LINE競合のWhatsAppを160億ドルで買収 – ITmedia ニュース

とある通り、アクティブユーザー数が非常に多く、広告を表示せずに課金モデルを採用していることが特徴です。広告を表示しない理由がWhatsAppの公式ブログに書かれています。

広告を載せない理由

ちなみに、中国のWeChatのアクティブユーザーは2.7億人。LINEの登録ユーザーは3億人です。

またFacebookは、サービスは統合しない方針を発表しています。

 

Facebookの狙いはWhatsAppの吸収ではない

Facebookの発表通り、WhatsAppはFacebookサービスには吸収されないでしょう。いろいろ理由はありますが、4.5億人もアクティブユーザーがいるサービスなので、ブランドが強く構築されており、いろいろ大きく変更することに抵抗を受ける可能性が高いというのがあります。場合によっては、大規模なユーザーの離反を招くこともあるでしょう。そのリスクを進んで負う理由がありません。

また、Facebookは広告モデル、WhatsAppは課金モデルと、マネタイズの仕組みが違うので統合することはふさわしくない気もします。

 

そもそも、メッセンジャーアプリという領域でみれば、全体ではまだまだユーザー数を伸ばせる余地がありますし成長期だと思いますが、一方で競合が絞られてきているという気もしています。そこで振るい落とされるサービスもあれば、勝ちが加速するところもあるでしょう。

Facebookは自前のメッセンジャーで覇権を取ることを諦めた、ととることもできます。Facebookメッセンジャーは残すと言っていますし、「WhatsAppはリアルタイム性があり、Facebookメッセンジャーとは用途が違う」とも言っているので、棲み分けによって共存を図る方向なのだと思います。

 

WhatsAppが強く、Facebookが弱いところ

WhatsAppは、世界的な普及度が高いサービスで、逆に日本は例外的に低い国です。

2013年4Q最新版、世界のソーシャルメディア・アプリ勢力図 〜 WhatsApp, WeChat, LINE など新興勢力が急伸 [in the looop]

これはFacebookと共通するところなのですが、注目すべきは年齢層です。以前からFacebookは高齢化していると言われていますが、WhatsAppは逆に若年層によく使われるサービスになっています。

この記事では、FacebookメッセンジャーとWhatsAppの年代別の利用者数を比較しています。年齢が低くなるほど、Facebookの数が減っているのがよくわかります。

Facebook、メッセンジャーアプリでも若者離れ… | APPREVIEW

離れていく、というかうまく取り込めない若年層を手をこまねいて見ているわけにもいかず、若年層に人気のサービスを手中に収めることで、いろいろな可能性を持つことができるというのは、ひとつの立派な理由になるでしょう。

 

FacebookはWhatsAppとゆっくり連携する方向を探っていくだろう

Instagramと同じように、無理して統合するようなことはせず、技術的に利用できるところはFacebookに取り込んだり、それぞれのサービスでシェアしあうような動線を作ったり、ゆっくり連携する方向を探っていくんだろうと思っています。

この先のFacebookは、複数のサービスを運営しながら、それぞれを連携させて、各サービス内でマネタイズを探るホールディングスのような会社になっていくんじゃないかと想像しました。Facebookというサービスだけでコミュニケーションのあらゆる部分を解決するのは難しいし、それぞれのサービスに使い分けられる特徴があるのであれば、各サービスを運営しながら、緩やかに連携し、全体としてマネタイズを図っていくことが、今後のFacebookの在り方なのではないかと。

 

今日はこのへんで。メッセンジャー界隈が最近熱いですね。

IBMがx86サーバー事業を売却する理由

IBMというのはいろんな意味で象徴的な企業であったりするので、その動向によって今後IT業界がどう進むのかのひとつのベンチマークにしていたります。以前も、IBMの経営分析を行った記事を書いたりしていました。

米IBMがグローバルで業績好調な理由 | Synapse Diary
米IBMの事業ごとの特徴を分析 | Synapse Diary

で、最近IBMがx86サーバー事業をLenovoに売却するという発表がありました。

米IBMは2014年1月23日、中国レノボにx86プロセッサ搭載サーバー事業を売却する計画で最終合意に達したと発表した。IBMはレノボから23億ドル(2400億円)を受け取る。

News & Trend – IBM、x86サーバー事業をレノボに売却:ITpro

この記事を読むと、いろいろ交渉がありつつも、Lenovoが安く買い上げたという状況のようです。

IBMがサーバー事業を売却、ただし手放すのはオワコンのx86だけ(山本 一郎) – 個人 – Yahoo!ニュース

 

サーバー事業のコモディティ化が急速に進む

x86サーバーとは、いわゆるPCサーバーのことです。PCと同じ構造になっていて、安価で現在主流になっています。

コンピュータの黎明期はメインフレームが主役だったが、その後UNIXが台頭した。x86サーバーは安価だが、性能や信頼性がメインフレームやUNIXに比べて劣る弱点があった。しかし、CPUパワーの向上などで性能が上がったため、今はx86サーバーが主流になっている。国内全サーバーの出荷金額のうち、50%弱はこのx86系サーバーが占めるといわれている。

<いまさら聞けないキーワード>x86サーバー | BCN Bizline

過去にIBMがPC事業をLenovoに売却したときも、サーバー事業は残しました。システム導入などサービスの付加価値として意味があると判断したんだろうと思います。しかし、台湾メーカーなどODM、AWSをはじめとするクラウドサービスの勢いに押され、収益が厳しくなってきたようです。

 

IBMの今後の戦略

ちょうど、IBMが1月にFY2013の業績発表をしていましたので、その資料からサマリー部分を抜き出して見てみます。

IBM_FY13_Summary
(引用:www.ibm.com/investor/attachments/events/4Q13 Charts.pdfより)

ここに端的に書いてありますが、スマートビジネス・アナリティクス・クラウド系は今後成長分野。ソフトウェアやサービス事業は引き続き堅調。ハードウェアは減少です。IBMは元々高付加価値を目指す企業なので、コモディティ化してスケール勝負になる分野は手放して、高付加価値となる領域に移っていきます。

そういう意味でIBMは、「コグニティブコンピューティング」と呼ばれる分野に資源を集中投下していく方針のようです。(コグニティブコンピューティングについては、ちょうど最近読んだ「ITビジネスの原理」で説明されていました。)

M2M、IoTと呼ばれるような、機器を「スマート化」して消費電力などリソースを最適化したり、情報伝達を効率的に行う事業や、ビッグデータからの分析など高度な解析技術が求められる領域が中心でしょう。

 

というわけで、個人的にはサーバーリソースに関してはクラウド利用がもっと普及する、というところと、ソフトウェアに求められる機能やサービスも高度化していくんだな、というところが注目です。

経営を志す人なら読むべき。「ITビジネスの原理」

これは、経営に携わる人、志す人なら必ず読んだ方が良い。それぐらい良い本です。

ITビジネスというのは、非常に早いスピードで進化し、変化しているわけですが、ここまでシンプルに、原理として落とし込めている本というのは、なかなか存在しないと思います。非常にわかりやすい。

GoogleとFacebookの違いについて、

GoogleよりFacebookの換金化が比較的難しいのは、ユーザのインテンションが読み取りにくいことに起因しています。

という一言で表現してしまうあたり、ぐさっと刺さるものがあります。

インターネットの勃興からウェアラブルなどこれからの見通しまで、ひと通り整理されているので、ぜひいろんな人が読んだ方が良いんじゃないかと思っています。インターネットでどうやってお金が生まれているのか、というビジネス面から解説されていますので。Pintarestが注目されている理由、Twitterよりもトラフィックをもたらしている理由も、この本を読むとわかります。

PintarestはTwitterよりもトラフィックをもたらしている

昨日の任天堂ではないですが、外部環境がどんどん変わってきてしまって、戦略を柔軟に見直したり、先を読む力が経営には求められています。そのときに、原理を捉え、この先がどう向かうかを考える。そのきっかけをこの本は与えてくれるでしょう。

「ビッグの終焉」を読んで、今後の大企業や個人に必要なことを考える

ITが登場して以来、いろいろ社会環境が変化しています。それは「あらゆる大きなもの」が崩壊してきている、ということです。

例えば、メディア・企業・政府。マスメディアは、個人ブログやSNSによる情報の伝播と勝負せざるを得なくなりました。大企業は、個人が行うネットショップの価格や独自性と勝負せざるを得なくなりました。政府も、SNSなどから寄せられる意見やムーブメントを無視することができなくなりました。

これらはすなわち、IT技術によって個人の力が増幅されているから起こっているのです。

というわけで、「ビッグの終焉」という本を読み終わりましたので、簡単に思ったことを書いておこうと思います。基本的には海外の事例がほとんどですが、日本でも同じことが起こっています。

大企業が負けてしまう理由

最近だと、ヤマダ電機がネットショップの勢いに押されて、苦戦しています。

ヤマダ電機が赤字転落!ヤマダ電機が苦境に陥った理由 – NAVER まとめ

ヤマダ電機が苦戦しているのはネットショップだけが原因ではないと思いますが、家電量販店に行く人は確実にネットで価格をチェックして交渉に臨みます。ネットショップが安いのは出店コストがないからなので、当然安くしないと買ってくれなくなります。

これもIT技術によってネットショップという業態が成立するようになったことが、そもそもの原因です。本書の中では、こう説明されています。

規模の競争優位は陳腐化している。最小効率規模はどんどん小さくなっている。

事業を始めるための初期投資や、店舗運営などのオペレーションコストが劇的に小さくなったことで、損益分岐点がとても低くなりました。これまでは、大企業などが資本を投入して基盤を作ることで、初めて事業が成立していたようなところ、あるいは大企業が「規模の経済」を働かせて、大きくなることで効率化され、低コストになるという部分がありました。しかし、損益分岐点が下がってしまったことで、規模の経済を追求しなくても事業を運営できるようになったというわけです。

 

それでも「大きなもの」が必要な理由

では、個人や小さな企業でも勝てるようになったなら、大きい企業などの存在は不要か、と言われるとそうでもありません。それは、大きなものが「社会の信用」を形成する上で大きな役割を果たしているからです。

大企業が販売しているものは、品質はそれなりに高いと感じますし、大手メディアの記事は個人ブログよりは高いという感覚があります。そういう「信用」が裏側には存在するのです。メディアや企業や政府が小さくなると、こういう信用を形成する力が弱くなるリスクはあります。

メディアの例だと、個人ブログも多くはマスメディアの記事を参照したり引用しており、マスメディアの存在がないと個人ブログも成立しないものの、結局マスメディアが弱ってきているという矛盾のような状態です。

 

これからの社会はどうなるのか

大きな存在と小さな存在のパワーバランスは、今後も変化していくでしょう。大きな存在と小さな存在は、それぞれどう生き残っていくんでしょうか。

本書の中では、「大きなものがソーシャルの力を取り込む」ことが、ひとつのアプローチとして提示されています。民衆の声を集め、分析し、企業の戦略や政府の政策に活用する。そういう折衷的なところが現時点での落とし所だと感じます。あとは、大企業が勝てるフィールドが変わっているので、ネットがあったとしても「規模の経済」が有効なところを探すか、というところですかね。クラウド事業者などはまさにそういう部分になっています。

個人や小さい企業は、大企業がこれまで獲得していたフィールドに攻め込んだり、新しい分野を切り開いています。今後は、いかに自らの信用を形成するかを考える必要があるでしょう。政府の管理や大企業の取り組みによって形成されていた信用は、一部なくなっていくかもしれません。一個人や一企業が、どうやって社会から信頼を得ていくのかは、常に考えなければいけなくなっていると思います。

 

ラジオやテレビが登場したときも、今と同じようにあらゆる社会的な仕組みが変化したんでしょうかね。そう考えると、そういうレベルで政治も、企業経営も、社会を構成するいろんなところが変わっていくんだと思います。一度大きな資本へ向かったエネルギーは、小さいものへ分散していくんでしょう。日本でも地方が再燃したり、小さな企業が盛り上がるといいなと思います。

楽天でんわをインストールしたら、携帯通信会社の今後を考えさせられた

先日、「楽天でんわ」が発表されて、「とりあえずデメリットなし」ということだったのでインストールしてみました。

楽天でんわ -番号そのままで通話料半額- 1.0.1(無料)
カテゴリ: ユーティリティ
販売元: Fusion Communications Corp. – Fusion Communications Corp.(サイズ: 4.5 MB)
全てのバージョンの評価: (149件の評価)

「楽天でんわ」は、昔の固定電話にあった「マイライン」と同じく、宛先の電話番号に固定の番号を付与することで安くなる、というモデルです。IP電話ではありません。

楽天でんわ: 電話アプリ
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これは、携帯通信会社の中抜きになります。それ以外にも、SkypeやLINE、050plusなどのIP電話もあります。こうやってみると、携帯電話の通話料として支払っている割合って、どんどん減っているのでは?と思いました。ドコモ・KDDI・ソフトバンクなど携帯通信会社の売上ってどうなってるんだろう?

 

携帯通信会社はどこで儲けてるのか

携帯通信会社では、業績指標のひとつとしてARPUというのがあります。月間の1ユーザーから獲得する単価のことですね。ドコモの業績発表からARPUを見てみると、音声ARPUが減ってきて、パケットやその他コンテンツ等で補填しています。

docomo

引用:ドコモ早わかり講座 : 事業の状況 | 企業情報 | NTTドコモ

 

「スマートフォンが普及すれば、データ通信が増えるから、単価増だ!」ということで、スマートフォンへの買い替えと、それに伴うネットワークトラフィックの増加懸念をWi-Fiで補完したり、次世代ネットワークを整備しよう、という動きが加速されてきましたが、それもひとつのヤマを迎えている気がします。ソフトバンクの決算資料がわかりやすいですが、携帯電話に支払う料金は4000円台半ばで収斂しているようです。

参考:ソフトバンクの決算説明資料(PDF)

 

ガラケーがスマートフォンに置き換わっていくというトレンドは確実なものの、もっと広げよう・もっと単価を上げよう、となると「ガラケーでいいじゃん」という人たちが留まってしまう、競争に負けてしまうという状況のように見えます。

 

つまり、ざっくり言うと、「携帯通話料で儲けよう」というフェーズから、インターネット通信が普及してくると「データ通信料で儲けよう」という流れがiモードからスマートフォンまできていたわけですが、それも頭打ちの様相を呈してきている感じです。

そこで重要になってくるのは、音声でもデータ通信でもない収益源の確保です。

 

新しい収益源の構築

新しい収益源は、例えばドコモのdマーケットであり、KDDIのスマートパスだと思います。携帯電話を開いたときに、通信会社が設置したポータルサイトがある。これは大きな優位性であり、売上増を期待することができます。

ただ、ここは競争が激烈です。iPhoneにもAndroidにもそれぞれアプリやコンテンツのマーケットがあります。AmazonはKindleでAndroidをラッピングして自分たちのマーケットを作ってしまいました。さらに、LINEも「LINE MALL」の立ち上げを行っています。

LINEがショッピングサイト スマホ向け、個人出店も:朝日新聞デジタル

つまり、スマートフォンになったことで、通信キャリアのポータルサイトを通る必要はなくなってしまうわけです。

 

ドコモもこの流れを受けて、dマーケットはドコモキャリアでなくても登録できるように開放しています。携帯の契約数が飽和してきていることと関係しているとも思いますが。

NTTドコモの冬春戦略に見る“総iPhone時代”を勝ち抜くための武器とは – docomo IDのキャリアフリー化は今後大きな武器に 日経トレンディネット

今後は、スマートフォンからアプリや音楽・映画などのコンテンツ類、あるいは物販などのショッピングをしようと思ったときに、いかに多くのアクセスを集められるマーケットを作るかにかかっています。

 

まとめ

というわけで、携帯通信会社はこれまで事業モデルはどんどん変化してきており、携帯電話の通信費用で稼ぐモデルはほぼ終わりに近い状態です。今後はコンテンツ事業など新しい収益源を確立する時期にきています。

個人的には、インターネット企業として事業を展開していて、Yahooを持っているソフトバンクに一利ありそうですが、YahooもPCからスマートフォンへの転換によって、ポータルとしての機能を盤石なものにできているわけではないです。さらに、携帯キャリア以外にもいろんな企業が群雄割拠しているので、実際どうなるかは今後注目です。

小説「ラストワンマイル」が物流業界の現状を描いていて驚いた

ラストワンマイルという小説を読みました。そこまで意図して読み始めたわけではありませんでしたが、ちょうど今、ECサイトや物流に対する関心が個人的に高くなっており、非常にタイムリーなビジネス小説でした。

この小説を読むと、実際に今起こっているEC市場の競争がよくわかります。Yahooショッピングがなぜ出店料を無料にしたのか。これからの競争のポイントがどこに置かれるのか。

 

重要なのは「ポータル・決済・物流」

少し前に「大前研一 日本の論点」という本を読んだのですが、そこでは今後のECプラットフォームには次の点が必要だと書かれていました。

私は次世代のカギを握るネット時代の三種の神器は、「ポータル」「決済」「物流」だと考えている。そして、この3つの分野をしっかり握っているのがアメリカの強みだ。

ただ、それ以上詳細な説明がなく、僕としてはピンと来てなかったんですよね。それが、この小説を読みながら、やっとわかりました。わかってみるとなんてことないんですが、「人がネット上で買い物をする上で必ず行われる行為」なので重要なんだってことですね。

 

商品(情報)の信頼性をどう確立するか

「ポータル」というのは、まさに入口のことで、消費者から選ばれる「入口」を作れるかどうかが重要になります。そのためには、プラットフォームやプラットフォーム上で掲載される情報に、いかに信頼性を高めるかが重要になってきます。

Amazonや楽天などのECサイトは、これまでここに多大な労力を払ってきており、納得性が高く豊富な情報を提供することや、購買者のレビューを掲載することで、信頼性を高めてきています。他にも、大手ではありませんが、その筋の信頼できる人がすすめる商品を取り扱ったり、完全にセルフサービスで完結するのではなくチャットなどを組み合わせてサービスを提供するタイプのECサイトも登場してきています。

AmazonだけがECじゃない。米で始まったEC新時代 – 湯川鶴章メルマガ ITの次に見える未来 – BLOGOS(ブロゴス)メルマガ

「ラストワンマイル」でも、これが論点のひとつになっており、小説の中では別の解決策が提示されています。

 

物流は戦争状態

決済や物流などは、買い物に必要な機能であり、有力なプラットフォームを形成する企業は、垂直統合してきています。それは、他社に重要な部分を握られるのが嫌だ、というところと、購買の入口から出口までを一気に完結させることで、マージンを最小化しようということでしょう。

Amazonがドローン(無人飛行機)で荷物を配送する構想を発表していましたが、その理由もうなずけます。

アマゾンも開発、「ドローン便」は離陸するか(動画) « WIRED.jp

また日本でみると、Yahooショッピングは物流面でAmazonや楽天に遅れを取っていましたが、アスクルと業務提携して物流に注力してきています。

アマゾン、楽天に殴り込み ヤフー、通販物流参入の本気|inside Enterprise|ダイヤモンド・オンライン

 

一方で、最近だとAmazonの配送請負業者から佐川急便が撤退し、ヤマトに一本化されています。

クロネコの悲鳴、ヤマトに豊作貧乏のジレンマ  :日本経済新聞

ECの発展で物流も増えているのですが、各ECサービス業者が物流を垂直統合してきており、物流業者は苦しくなっている感じです。まさにこういう事態の問題提起が、「ラストワンマイル」が描かれているので、数年前に描かれたことが、実際に起こっているということなのだと思います。

 

このあたりは、O2Oやオムニチャネルなどとも関連して非常に面白い分野なのですが、ひとまず興味がある方は「ラストワンマイル」を読むと良いでしょう。

今日はこのへんで。

電子書籍サービスの囲い込み戦略を考える

電子書籍サービスのうち、楽天のKoboが割引たくさんやっているので、お買い得ですよって話を書きました。ただ、こうやって割引をたくさんやっていった先に何があるんでしょうか。Koboは、ちゃんと顧客を囲い込んでいけるんでしょうか。

そもそも電子書籍といっても、同じ書籍なので、どこで買っても同じ内容です。そうであれば、スイッチングコストはとても低い気がします。2台持ちとかすればいいじゃん、ってことですね。

ただ、王者Kindleはそのあたりをよく考えていて、囲い込みを強化する策をどんどん打っています。

 

Kindleの顧客囲い込みサービス

Kindle端末で月1冊無料で電子書籍を読める

Amazon.co.jp: Kindleオーナー ライブラリー
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Amazonプライム会員でKindle端末を持っているユーザーは、月に1冊、電子書籍を無料で読むことができます。品揃えがアレなのが欠点ではありますが、Kindle端末を持つ理由にはなります。端末を買って、ロックインしようとしてるんですね。

 

紙の書籍を買うと、同じ本の電子書籍を格安で買える

Amazon.com: Kindle MatchBook
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今のところアメリカ限定サービスですが、Amazonで紙の本を買うと、同じ本の電子版を格安で入手できるというサービスです。過去の本にも適用される、ということで、ますますKindleへの依存を高めようということです。

 

文字だけでなく、音声でも「読む」ことができる

Whispersync For Voice
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アメリカではオーディオブックが普及していて、AmazonはAudibleというオーディオブックサービスを昔買収しています。で、Kindleを使うと、文字と音声を同期して、シチュエーションに合わせてどちらも「読む」ことができます。移動中はオーディオブックで、室内になったら文字で、といった感じで。

 

電子書籍はこれから成長する市場

書籍の市場でみると、日本の電子書籍比率は8%という数字があります。先行しているアメリカは20%程度であり、今後は50%までいくだろうと言われているようです。

つぎの業界的な関心はいつ電子書籍の売上構成比が50%を超えるか、つまりプリント版の出荷を電子書籍が超えるのはいつかということであろう。これに関して、米国の大手のコンサルティング会社であるプライスウォーターハウスクーパース(PwC)が2013年6月に“2017年に電子書籍がプリント版書籍を逆転”するという予測を発表している。日本が米国から3年遅れで進行していると考えると、日本で50%、つまり4000億円規模(書籍市場規模が今年の規模を維持した場合)に到達するのは2020年ごろといえるかもしれない。

書籍全体に占める電子書籍の割合は約8%に−米国市場動向と比較しながら今後を見る | OnDeck

なので、電子書籍サービスはまだまだ成長していくはずです。そして、ここでシェアを勝ち取って勢いに乗らないと、競争がもっと激化したときに耐えられる体力がないかもしれません。

Kindleはリーダー的位置づけなので、割引に積極的に参戦するよりも、上記に挙げたような差別化・付加価値向上の取り組みが王道ですし、Amazonらしいいろんな複合サービスが今後も登場するんだと思います。

挑戦者であるKoboは、今はシェアを勝ち取るフェーズなのだと思いますが、市場の成長が鈍化し成熟したときに、電子書籍を割安で販売するのではなく、プラットフォームとしてサービスを複合的に組み合せることで囲い込みを強化するような、違うアプローチが必要になるんじゃないでしょうかね。

 

というわけで、僕はKindleをうまく利用しつつ、安く買えるKoboをメインにするという戦略を、しばらくは続けようと思います。

今日はこのへんで。

爆速経営 新生ヤフーの500日

Yahooというのは、企業の立ち位置がわかるようでわからないなーという印象を持っていました。日本一のポータルだとは思うのですが、例えばGoogleのように「あらゆる情報を検索できるようにする」というものに比べると、方向性がよくわからなかったのです。

また、あまり目新しいサービスを提供する、というよりは、築き上げたポータルの立場やブランドを利用してお金を稼いでいく、というところで保守的というか、後手に回っているような印象がありました。

しかし、今年の春に社長の交代が発表されてからは、ロハコの開始、ヤフオク!の名称変更、Yahooショッピングの無料化など、これまでとはちょっと違うな、という思うような施策がどんどん打ち出されていっていました。

これらの経緯は、この本を読めばわかります。

理由は至極簡単で、経営者が交代したのです。Yahoo自体はずっと成長して利益も創出してきていますし、利益率50%を超えるという恐ろしい企業なわけですが、保守的になりつつある体質の反面で、スマートフォンという業界構造を大きく揺るがす技術進化が訪れていて、Yahooの立場が盤石か、と言われるとそうではないのではないか、という状況がありました。

この本では、それらの背景から経営者が交代し、変革を起こしていくまでの経緯が示されています。そして、MBA的に注目なのは、著名な経営書に書かれているセオリーを実践し、結果を残していく姿が描かれていることです。というわけで、この本を読むと得られる効用を書いておきます。

 

Yahooの戦略がわかる

この最近打ち出されているYahooの戦略がいろいろありますが、それらの意図がよくわかります。特に面白かったのは、Yahooショッピングの無料化です。これは、Yahooの利益構造、他社との関係から置かれている状況、そして今後のネットショッピングも在り方まで絡めて考えると、今回のYahooショッピングの打ち手は非常に興味深いです。

Yahooショッピング無料化からEコマースの現状とYahooの戦略を考える | Synapse Diary

運営で失敗するリスクもあるわけですが、戦略としての打ち手は僕は間違っていないと思います。

 

組織改革のポイントがわかる

組織を変えていくためには、いろいろ考えるべきことがあります。そして、経営者によってスタンスも変わります。Yahooでも経営者が交代することで、いろいろ変えるべきところを変えていきます。そして、変革を実行するためにはいろんな人の理解や協力が必要になります。どうやって巻き込んでいくか、何を優先すべきかを考えるのがリーダーの役割であり、組織改革のポイントになります。

特に、目標を設定することの重要性については改めて考えさせられました。

「リーダーが判断に迷うのは、目標が明確でないからだ。」ヤフーの目標設定の際にソフトバンクの孫氏が宮坂氏に与えたアドバイスは、確かに本質を突いている。

この言葉を知ってから、自分や自分の組織に関する目標を考えてみようと思いました。

 

モチベーションがあがる

タイトルにある通り、「爆速経営」が新しいYahooのテーマになっています。これを読んで、改めてスピードを上げて作業をしていかないといけないと痛感しました。いつの間にか自分のスピードが遅くなっていたことを反省したのです。

スピードを上げて、社会の課題を解決し、自分を成長させていく。非常にシンプルですが、とてもとても重要なことです。

 

以上です。現代の企業が今も進めている改革を、これほど具体的に知ることができるという意味で、良い一冊だと思います。

ヤマト運輸の経営哲学は未来をどう見ているか

ヤマトホールディングス社長による日経ビジネス連載記事を一冊にした「未来の市場を創り出す」を読みました。宅急便が誕生してから今年で37年になるそうです。事業モデルとしての寿命というか、転換期が訪れています。そういう現状を踏まえて、今後のヤマトがどういう戦略を考えているかを知りたかったんです。

 

本の全体としては、いかに市場を創りだしていくか、というテーマで語られています。

 

ヤマトのプラットフォーム戦略

ヤマトはグループ全体の営業収益の8割は宅急便を核としたデリバリー事業になっていて、新しい事業モデルの開発が必要になっています。そこで、宅急便という今や社会インフラとなったネットワークサービスをプラットフォームとして、新しいアプローチを生み出しています。

大きく2つのアプローチがあり、過疎地などの公共サービスのインフラになる。もうひとつはBtoBモデルです。いずれも論理的な裏付けがあって、これらのサービスが展開されています。細かいところは本を読んでもらえれば良いと思います。

ヤマトが置かれている現状は、自社が持つプラットフォーム資産を活用しながら、新しい社会的ニーズに応えたサービスを開発していく必要がある、というところです。それは、以下のようなアプローチで纏められていました。

  1. オンリーワンの商品を生み出す
  2. ライバルの参入を受け入れ、競争環境を生み出す
  3. 拡大する市場の中で圧倒的なナンバーワンになる
  4. 最終的にデファクトスタンダード(事実上の標準)となる

このアプローチを繰り返すことで、ヤマトはプラットフォームで新しい収益モデルを構築しようとしています。IT業界の方がプラットフォームの主導権争いが激しいが、IT以外でももちろん通用します。

 

今必要なのはサービス・イノベーション

第一次産業→第二次産業→第三次産業という経済的発展に伴う事業モデルの転換は、世界的なビジネストレンドとして共通のようです。先進国では第三次産業が経済に占める割合がどんどん大きくなっています。

そして、ヤマトも同じように、ネットワークの拡大や機能改善よりも、新たなニーズを掘り起こすソリューションの開発が重要になっています。(決してネットワークの拡大や機能改善が重要ではない、という意味ではありません。相対的に重要さが変わってきている、という意味です。)

顧客に近いところで、新しいニーズを発掘し、サービスによるソリューションを開発していくことが、これからのビジネスでは重要になるわけで、ヤマトはその方向性を強く意識して事業を展開しているのです。

 

サービスというものは在庫がない、顧客と共創という特徴があります。だからこそ、深く潜在的なニーズを掘り起こし、サービスをパッケージ化して売り込んでいくことが求められるのです。ヤマトは、プラットフォームとサービスイノベーションを組み合わせて、様々なソリューションを生み出していることが本を読んでわかりました。この考え方は、様々なビジネスに通用する本質的な論理です。

 

関連するビジネス書

「仕組みで買って人で圧勝する」という本書の言葉は、ヤマトの理論と共通するものがあります。ビジネスを発展させていくには、普遍的な論理があることがよくわかるはずです。

過去の書評:俺のイタリアン、俺のフレンチ―ぶっちぎりで勝つ競争優位性のつくり方 | Synapse Diary

 

ヴァージングループ創業者の経営哲学には、「優れたサービスを提供する」という考え方が根底にあります。サービスを提供することとは何か、を考えるにはとても良い一冊です。

過去の書評:読めば起業したくなる「ライク・ア・ヴァージン」 | Synapse Diary

 

ココナラを利用してみて、ビジネスモデルを考えた

 

ココナラ – あなたの得意でハッピーが広がるワンコインマーケット
ココナラの事業モデルを考えてみます。ココナラは、500円でサービスを買う、というインターネット上のプラットフォームです。最初登場したときは、手軽なクラウドソーシングとして良い着眼点だと思いました。

そこで、2回ほど実際に利用してみたので、その感想を書きたいと思います。

 

500円という料金設定には限界があるんじゃないのか?

ココナラは、一律500円で提供するサービスをWebサイトで取引できるようにすることで、広くいろんな提供者・利用者を集めるプラットフォーム戦略で展開されています。一律500円というワンコインの金額に料金を設定することで、提供者・利用者双方が参画しやすい仕組みになっています。

ただ、個人的には500円は、価値とサービス内容のバランスを取りづらいと思っています。例えば時給3000円で考えれば、500円というのはわずか10分程度の作業にあたります。時給800円で考えても40分にも見たない時間です。つまり、全うな経済取引だとすると、その程度の時間で作業できるアウトプットを得られることができるサービス、というのがココナラの位置づけになります。

つまり何が言いたいかといえば、「料金500円のサービス」というのは、人件費をベースにしたサービス業が多いとすると、とても価値が小さいサービスしか集まらないんじゃないかと思うのです。

 

サービス業とは「顧客との共同作業」

MBAでもサービス戦略というものを学習します。第3次産業であるサービス業の特徴は、ストックや持ち運びがしづらいというものがありますが(内容によってはITなど情報伝達で物理的制約は越えられる)、ココナラに一番関係がありそうなのは、サービス業は提供する側とされる側の「共同作業」ということです。

どういうことかというと、サービスを提要される側は、サービスを受けるためには情報や作業について協力する必要がある、ということです。個別にコンサルティングを受けたいのであれば、個別具体的な情報を提供しなければ、一般論的なアドバイスを受けて終わってしまいます。(というようなことが、この本に書いてあります。)

 

そうなると、効果的なサービスを受けるためには効率的なコミュニケーションによって、双方の理解が進んだ上でサービスを受けられるようにする必要があるのですが、先ほど述べた金額の問題で、あまり双方が密なコミュニケーションに発展することは難しいサービス設計になっている気がします。

実際自分が利用したときも、なかなかサービス説明だけでは内容を想像することが難しかったりしましたが、500円だしそれほど負担をかけるようなことを言っても、というお互い割り切りのような感じがしました。

 

現状と今後

つまり、サービス業というのは「自分にとってありがたい」感が高いほど満足度が高まりますし、そのためにはサービスを提供する側とされる側が密に連携する必要があるわけです。そのためには当然コストも多くかかってきます。

こういう条件の中で価値を感じさせるのであれば、作業時間に比例しない価値を生み出す必要があります。500円という中で。例えば、Twitterで広告宣伝します!みたいな「作業」ではなく広告自体に価値をもたせる方法があります。

1,000円で3万人のフォロワーに1ヶ月で160回のサイト宣伝ツイートを行った結果 | わいわい広場

ただ、ココナラは利益云々というより趣味を拡大させる、経験を蓄積させる、という提供側に対する価値も実現するプラットフォームだと捉えれば、もっと意味がある気もします。というか、実際そういう人が多く参加しているのでしょう。

 

というわけで、元も子もない結論になった気がしますが、ココナラはワンコイン定額という設計で参入障壁を下げ、「軽いサービスを受けたい」という人と「趣味を活かしたい・経験を積みたい」という人を結びつけるプラットフォームと捉えるのが良いと思います。利用する側からすれば、500円以上のサービスを受けられる可能性は十分にある、ということです。

参考:
ココナラの急成長を支えた、ライフネット流ストーリー・マーケティング | The Startup
遅咲きの狂い咲き: ココナラができるまでのぶっちゃけ話(その1)