自治体業務への不満と改善について

How the public sector can give more satisfaction | Public Leaders Network | Guardian Professional

ボストンコンサルティングが9カ国、9000人へアンケートを行ったところ、自治体のサービスに満足している割合は、全体の3分の1程度だったそうだ。

"Citizens, are you being served?" was the question the Boston Consulting Group asked in recent research into satisfaction levels with the delivery of public services around the world. "No" was the answer: Only one in three citizens is satisfied with government services according to our survey of 9,000 people in nine countries.

 

不満の要因として最も高いのは、「時間意識の欠如」。手続きをするにも、質問をしても、レスポンスが遅いことが不満という結果になっている。これについて、3つのエリアに分類して対応することが良いだろうと書かれている。

"Simple transactors" who require convenience, speed and ease of use. They typically prefer self-service models suitable for registrations, claims, renewals, payments, etc

単純な手続き。セルフサービスが向いている。

"Life event navigators" who require assistance and relevant information. They typically prefer an assisted service such as call centres and one-stop shops suitable for events such as births and deaths

ライフイベントに関する案内。コールセンターやワンストップサービスなどの一元化が必要。

Complex cases that require advice, access or personalised service through dedicated case managers. This is best suited for dealing with long-term unemployed, families in crisis and people with multiple disadvantages.

複雑な問題に対する対応。長い時間をかける必要がある。

 

これはこれで必要だと思うけれど、一番必要なのは自治体がサービス改善するためのインセンティブ設計だと思う。民間企業がなぜサービス向上に努めるかといえば、サービスが悪いと消費者から見捨てられる可能性が高いからだ。しかし、自治体はある種地域独占業務なので、そうはいかない。

これを打破するためには、橋下大阪市長が過去に教育委員会に提言したように、パブリックセクターの情報を開示して、競争意識を働かせることがひとつの手段になる。ただ、e都市ランキングとかITガバナンス・ランキングとか、既に自治体のランキングはいろんな指標で存在しているし、自治体のサービスが悪いから隣に引っ越そう、というのは余程自治体サービスに格差がないと、そこまでの動機にはなるのが難しい。

情報の透明化はもちろん必要だが、それだけじゃなく、行政と双方向でコミュニケーションをとれる仕組みを導入することで、市民の参画意識を向上させることが必要なんじゃなかろうか。

 

そういう意味では、武雄市のFacebookに関する取り組みは良い気がする。最近みても、ひとつの投稿に対して数十人が「いいね!」を押しているし、数人がコメントを残している。武雄市がFacebookページへ本格移行したときは、「正直あまり馴染まないんじゃない?」と思ったけれど、見誤ったかもしれない。半ば強引のメインページにすることで、プラットフォームとして機能しているんじゃないか、という気がしている。他の自治体で、部分的に採用したFacebookページは、内容にもよるがここまで「いいね!」やコメントが集まっていないように思われるし。

 

それにしてもこうやって取り組みを普及させるスキームは、良い方向だと思う。

「全自治体を巻き込みたい」 佐賀県武雄市、自治体ページの“Facebook化”全国拡大へ – ITmedia ニュース

 

オープンガバメントは、情報の透明性を向上させ、双方向コミュニケーションを生むことで、結果的に市民からの行政への信頼を回復することにある。自治体業務への不満も、「何となく事情が見えない」というイメージもついて回っているんじゃないかと思うし、情報を可視化して、説明責任を果たしていくことと、市民側も関心を持ち、参画する意識を向上させることで、お互いの不満・不安は少し歩み寄れるんじゃなかろうか。

「大阪都構想」の今後

大阪ダブル選挙が終わりましたね。結構楽しみにしていて、速報も見てました。府知事選は微妙という下馬評があった気がしたので、ねじれたらどうなるのかという勝手な妄想をしていたけど、結果は両方維新の会。

年代別で見ると、高齢層と若年層でくっきり支持がわかれた様子。現代を象徴しているようで興味深い。

年代別では、70歳以上の51・5%が平松氏に投票したものの、他の年代ではいずれも6割以上が橋下氏に投票。30代では74・2%が橋下氏に投票した。
【ダブル選】民自公すべてを食い尽くした橋下、松井両氏(1/2ページ) – MSN産経west

 

岐阜にいたけど、何人かから「大阪は何が争点なのか?」という質問を受けた。みんな興味があるけれど、何が争点になっているのか、はっきりとは理解しづらいようだった。「大阪都構想」の内容をしっかり理解しようと思うと、これまでの地方自治制度の成り立ちや問題点を把握する必要があるよなあ。

今後、たくさんハードルがあるとは思うけど、「大阪都構想」はもっと進められていくだろう。というわけで、いろいろ本を読んで知識を得ておこう。

上山 信一¥ 819

橋下市長のブレーンと言われる方の、大阪の現状と今後を書いた本。入門として良い。

 

橋下 徹・堺屋 太一¥ 893

選挙前に発売された本。橋下さんの考え方はこの本から伝わってくる。なぜ大阪都か、という点についても、「大阪維新」と合わせて読めば一通り理解できるだろう。Amazonでは売り切れになってるな。

あとは、ここらへんの資料もおすすめです。

大阪にふさわしい新たな大都市制度を目指して
http://www.pref.osaka.jp/attach/9799/00000000/02HP_jichi_saisyu.pdf

地域主権時代の”新しい国のかたち”
http://www.pref.osaka.jp/attach/8180/00044525/kuninokatati.ppt

 

もう少し具体的な施政に関しては。

上山 信一¥ 1,749

大阪市改革なら、こっちも面白い。自治体が持っている既存ストックをどう活用していくか、というのもとても面白いアプローチ。

 

玉真 俊彦¥ 1,869

大阪府と大阪市も水道事業を統合しようとしたらしい。水ビジネスと自治体が行っている水事業は、近年注目されている。どういう現状で、どういう可能性があるのか把握したい人。

 

この先どうなっていくのかは、引き続きウォッチしなきゃな。

TPPと政府調達 その2

TPP交渉参加が決まりましたね。

とりあえず、TPPにおける政府調達について、もう少し書いてみる。前回は国内の方だったけど、今回はその逆で国外について。

 

政府調達の位置づけ

政府調達は、各国や地方政府が調達する物品やサービスのこと。Wikipediaの記載によると、その国のGDPにおいて政府調達が占める割合は10~15%相当らしい。
政府調達に関する協定 – Wikipedia

 

で、政府調達は資本主義が働きづらかったり、政府という特性上自国企業を優遇する、という傾向があり、ある種の参入障壁を築きやすいという特徴がある。これを回避するために、昔から協定によって政府調達プロセスを共通化・透明化することで、参入障壁を小さくしようと取り組まれてきた。

 

WTOにおける政府調達協定

WTOでは政府調達協定がある。自分の国を優遇してはいけないという原則を設け、大規模な建設などの調達を対象にされている。しかし、WTOの諸協定の中では例外的に参加が義務ではない協定(複数国間協定)であり、現在締結しているのは41カ国。途上国はほとんど参加していないのが現状。

今回TPPでは政府調達が含まれているが、これによって上記の政府調達協定が結ばれていない国でも、調達プロセスが可視化・透明化され、日本企業が参入しやすくなる可能性がある。この本ではメキシコの鉄道の例が挙げられているが、水道事業など途上国にインフラ技術を輸出しようという取り組みの足かせを、TPPは取り払う。

 

現在の政府調達協定も不完全

アメリカはバイ・アメリカン条項というのがある。バイ・アメリカン条項では政府機関が物品を購入する場合、製品の一定割合もしくは全てをアメリカ内で製造しなければならないとしている。この条項は実際にはNAFTAとの整合性を確保するため、製品の一定割合もしくは全てをNAFTAの域内で生産することを求めている。ただし、WTOの政府調達協定国に対してはこの条項は適用されないので、日本はこの条項の影響を受けない。けれど、地方政府である州も全部協定の対象になっているわけではないし、公社など公共性が高い企業も対象外になっていたりする。

一方で、日本の場合JR本州3社が政府調達協定の対象に含まれている。これは、EUからの異議によるもの。民営化した企業を除外する基準がないため、仕方なく残っているらしい。
www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g80508a2-13j.pdf

こういうものは、前例であったりパワーバランスで決まるものだと思うけれど、現時点でもいろいろ細かいところでは矛盾がある。TPPでのルール作りは、バイ・アメリカン条項の撤廃や、調達対象機関の範囲を見直す契機として利用できる可能性があるのかもしれない。正直、自分にはよくわからない。

麻生太郎元首相の講演@岐阜

麻生元首相が、岐阜で講演を行った動画があったので貼っておく。

大半は経済の話。あとは最後の方にちょっと外交の話。バブル崩壊後の不景気から現在の状況までを、経済の仕組みを簡素化しながら伝達するのはさすが、という感じ。面白かったのは、東北復興の話。

 

東北の仙台港を復興させるため、仙台港の水深を現在の14mから18mにするという案。今世界では最大サイズの貨物船が着岸するには18mの深さが必要とのこと。ちなみに、現在進められているパナマ運河の拡張工事では水深18mになる予定。
仙台港 – Wikipedia
パナマックス – Wikipedia

シンガポールは世界でも有数のハブ港であり、コンテナ取扱い量も世界一とのこと(2008年時点)。日本の積荷は、シンガポールで小さなコンテナ船で積み替えられている。で、大きな貨物船が着岸できるような港に再興できれば、港の要員も道路も必要になる。企業も集まる。これによって投資が投資を呼び、復興につながる、というストーリーだった。

そういえば、「公共事業が日本を救う」にも港の話が出ていたな。安直に港の深さと取扱い量が直結するようには思えないけど、とりあえずこれまでの復興の話で、政治家からこれだけ具体的な数字を含めて聴いたのは、あまりなかった気がするな。

 

で、自分的タイムリーでこんなまとめがあったので、ついでに貼っておく。マスメディアよりよっぽどわかりやすいよね。

【総理の器】麻生さんの政治哲学、報道されなかった舞台裏「危機をチャンスに変えろ」:哲学ニュースnwk

 

藤井 聡¥ 650
マルク・レビンソン¥ 2,940

地方大学の価値を考えてみる

最近、日本の大学の進学率がタイに抜かれた、という話を耳にした。日本の大学進学率はそれなりに高いというか勝手なイメージがあったから、気になって調べてみたら、本当だったよ。タイが55%、日本が47%。(2009年度時点)

(文科省HPより)

 

大学進学率が高ければ良いってものではないが、進学率が向上し、高等教育を受ける国民が増えることで、一億総中流といわれるような幅広な中間層を生んだと思われる。だから、この数字が良いのか悪いのかいろいろ考えてたんだけど、知人とこれについて会話したときに、「日本の高校進学率はものすごい高いから、進学率が相対的に下がるよね」と言われて、ああなるほどねと思った。安直にこういう数字に踊らされるのは怖いなあ。

 

あと、国内でも都道府県によって進学率が異なる。

(文科省HPより)

 

これは当然といえば当然の結果で。都市部にハイレベルな大学が集まっているので、地方で頭の良い学生は大学から上京する。地方で働こうと思う人たちは、大学や大学院に行くインセンティブが低くなったり、専門学校で技能を磨いていくことを選択する人が多いのだろう。

大学の数からも、とても分かりやすい。

(文科省HPより)

 

大学って知的なノウハウだったり人材を供給したりするので、地域のある種プラットフォームになりやすいし、実際そういう役割を担っているんだと思う。シリコンバレーもスタンフォード大学から始まったし。でも、大学も階層社会を形成してしまっていて、特徴を出しづらくなってる気がするよね。「あの大学の学生は大体このレベル」みたいな固定観念を崩せないでいる。結局は、地方で輩出するハイレベルな人材を都市部に吸収されて、それが地方に還元されない状態が現状な気がする。Uターンしたくても仕事がなくて戻れない人もたくさんいる。

となると、地方の人、特にハイレベルな人たちに地方に残ってもらう仕組みが必要になる。なんで大学進学時に都市部に出るかといえば、その方がハイレベルで面白いし、その先にいろんな可能性を感じられるからだと思うんだよね。逆に、地方がそうならないのは、可能性を期待できないから。この大学卒業しても大企業入れないとか、頭の良い人に出会えそうにないから。

そういう状況を覆すためには、学生にどういう魅力を提示できるかだろうなあ。都市部の真似をしても仕方がないしね。国際大学とか良いサンプルだと思うけど。国際大学のキャンパスは新潟県にあるんだし。地方の大学をいかに魅力的にできるか。これは、地方衰退を阻止するひとつのポイントだと思うね。

 

地方大学が面白くならないかなー。

ではでは。

「都構想」について考える

大阪ダブル選挙もあるので、大阪都を含めた「都構想」について考えてみる。都構想では何が論点になってるんだろ、という話です。

 

地方行政における都道府県と大都市の関係

昔から東京、横浜、名古屋、大阪、神戸あたりの大都市は、府県から独立を主張してた。大都市は人口規模が大きく、問題も複雑化されるため、広域行政との分担 を行うと効率が悪く、問題解決につながりにくい、という主張がされている。一度は独立を主張したものの、都市と府県の両方のせめぎあいの結果として、現在は都市が府県の中に含まれる代わりに、指定都市として広域自治体の事務の一部を市側に移譲している。

一方で東京は、戦中に東京府と東京市を統合して都にして、二重行政を排除するとともに、都の方に権限を多く移譲して、首都機能を一体的に管理する形になった。

つまり、東京都のように広域行政である都が一元的に都市を管理する東京都の形と、「指定都市」として広域行政下で一部事務事業を担っている、という二つの形がある。

 

広域自治体と指定都市の二重行政

広域自治体と指定都市は、二重行政があって非効率だ、という主張が多い。実際に、二重行政というのはどういう内容なんだろうか。その具体的な内容が書かれたものがほとんどない。それを理解するために、関西4都市市長会議の資料が参考になった。

www.city.osaka.lg.jp/seisakukikakushitsu/cmsfiles/contents/0000025/25071/4toshi_210126_01.pdf

 

代表的なものとして、商店街振興や地域活動支援、消費者に対する施策などがあるそうだ。あとは、事務手続きも結構冗長になって責任が曖昧になったり、事務権限の一部だけが移譲されていて中途半端、ということらしい。

 

また、大阪府自治制度研究会が発表している「大阪にふさわしい新たな大都市制度を目指して(最終とりまとめ)」を読むと、大阪府と大阪市がほとんど一体的な政策が実現できていない、ということがうかがえる。(愛知県・名古屋市の関係と対比させてるのは、ちょっと面白いなあ。)

www.pref.osaka.jp/attach/9799/00000000/02HP_jichi_saisyu.pdf

 

課題を解決する手段として考えられた「大阪都構想」

では、大阪都構想で何が変わるんだろうか。大阪都の内容自体は、大阪市と堺市を特別区に再編成して「大阪都」が一体的に経済施策などを行うとされている。大阪市(人口260万人)は8から9の特別区に再編するのだが、これは恐らく30万人ぐらいの都市単位が、規模的に最も効率が良いという調査結果に基づいたものだろうと思われる。

http://www.pref.osaka.jp/attach/8180/00044525/kuninokatati.ppt

 

東京都の特別区は、一応基礎自治体と言われているものの、通常の基礎自治体より一部事務作業が制限されている。固定資産税や法人税などは都の財源とされ、水道・消防など大規模事業は都が行う形になっている。大阪都は東京23区よりは特別区に対して権限を付与する、と言われているが、どういう制度設計になるんだろ。

ちなみに、大阪都構想を実現するためには、大阪市議会・大阪市市長の同意、大阪府議会・大阪府知事の同意、関係市町村の申請、国会での衆議院・参議院の議決(地方自治法及び関係法案の改正)が必要となるため、それなりにハードルがある。

 

いろんな角度から政策議論を

僕は大阪府民でも大阪市民でもないし、それぞれの意思で選択すれば良いと思う。正直いえば、都構想を実現するにはいろいろハードルが高いと思っているし、変わったからドラスティックに変化できるのかという疑問も残る。ただ、大阪は変化を求めているのだろうし、どういう都市行政の制度が良いのか、という観点で議論が活発に交わされるのは良いことだと思っている。特定のバッシングや何となくのムードで押されて決定するのは、自治政策の今後を考えてもとても良くないし、いろんな観点での政策議論があって、冷静に判断される状況が作られて欲しいと願いのみだ。

社会資本を維持できない時代が近い将来にやってくる

高度経済成長期に整備された社会資本ストックが、そろそろ更新時期を迎える。しかし、国家財政や地方財政に余裕はなく、社会資本の更新が難しいのではないかというのは、随分前から議論されている。

国土交通省の試算によると、2037年度には維持管理・更新しなければいけない予算が投資可能額を超えるとなっている。

 

今後の投資可能総額の伸びが2010年度以降対前年度比±0%で、維持管理・更新に関して今まで通りの対応をした場合は、維持管理・更新費が投資総額に占める割合は2010年度時点で約50%であるが、2037年度時点で投資可能総額を上回る。2011年度から2060年度までの50年間に必要な更新費は約190兆円と推計され、そのうち更新できないストック量が約30兆円と試算される。
国土交通省HP:1 生活、経済活動を支える基盤の再編

 

岐阜県の将来構想委員会でも、道路整備に関して試算が行われている。橋の架替を行う場合、20年後には750億円の費用が必要になると試算されている。

岐阜県の将来構想委員会
道路施設の老朽化について

 

参考として、岐阜県全体の財政は年間7500億円程度。そのうち土木費は10%弱の700億円ぐらい。(岐阜県の財政状況より)

 

この報告のまとめでは、「すべての道路施設を同一の水準に管理する」方針から、「交通量や利用状況に応じた水準により管理する」方針に転換する、とうたわれている。

 

本当に、地域インフラに対して新規投資できない時代が、もう間もなくやってくるのだ。道路を新しく作ることはまだしも、劣化した道路を修復したり、耐用年数を超過した橋を掛け替えることも難しくなる。その結果として、社会生活を維持できなくなる地域が出て、人が住める場所や行ける場所が小さくなってくるんじゃないか。

地域主権で各地域に権限が移っていくのだとすると、税金があるところとないところで如実な差が生まれるかもしれない。全部を均等に社会インフラを整備する、というのは幻想になる。国から補助金もらって何とかしてもらう、というのは通用しなくなるし、都市と地域で、社会資本の格差みたいなのがもっと広がるのかもしれない。

公共交通機関が廃線になったりするし、地域でどういうまちづくりにするか、必要な社会資本は何かというのを住民が限りある財政の中で選択する必要があるし、そういう民意を吸い上げて行政に反映する、地方行政の仕組み作りの成熟が必要になるだろう。

TPPと政府調達

TPPは、「経済成長」と「農業保護」の対立だと思ってたけど、TPPの対象に政府調達が含まれているのを知ったので、これはもう少し情報収集しなきゃいかんかもなーと思い、読んだ。本の最後に、TPPの政府調達部分の和訳も掲載されている。

廣宮 孝信¥ 777

 

TPPの特徴は、関税の撤廃だけではなく、自国と加盟国の差別を撤廃することが目的。だから、政府調達に関してもこういうことになる。

 

地方自治体にも直接的、間接的なデメリットが生じます。直接的な影響としては、「TPPに定められた海外企業の競争入札参加環境をつくる」ためのコストが考えられます。あらゆる非関税障壁という観点から見ると「言語」も立派な非関税障壁です。非関税障壁は原則すべて排除することになっているために、地方自治体も言葉の壁をなくす努力を強いられるのです。P.52

 

調達仕様書も英語だったり、他の加盟国の母国語のバージョンも作ることになるのだろうか。そして、現在適用されているWTOよりも、対象となる案件の金額は引き下げられる。地方自治体の例だと、以下の感じになる。

 

物品調達:20SDR(3,000万円)→5万SDR(630万円)
建設サービス:1500万SDR(230,000万円)→500万SDR(63,000万円)

参考:政府公共調達概要 – 政府公共調達データベース – ジェトロ

 

これ以上の金額については、全てTPP用の対応が求められることになる。翻訳サービス業者とか、仕事増えるのかなー。

 

あと、電子入札システムの窓口も、各国用に用意しないといけないらしい。

 

外国語対応の問題を含め、各地方自治体が独自に導入している電子入札システムを流用することは難しく、これらを廃止したうえで新規にシステムを導入する必要がありそうです。これらのコストはすべて地方自治体の税金によって賄われます。P.53

 

確かに今のシステムでは対応難しいだろうなあ。コアシステムの刷新が図られるか、民間がパッケージ開発したりするかな。

 

地方行政では、「地元企業を育成する」とか「公共事業によって地元にお金を還流させる」という発想もあるので、TPPは完全にそういう考えに反する内容が含まれている。TPPをたてに訴訟されたり、というような法的リスクも考えないといけないのかもなあ。こういう場合は、日本国内の場合は長期的に良い関係を継続することを優先するから簡単に訴訟まで踏み切ったりはしないけど、海外企業では違うだろうし。

 

というわけで、いろいろ政府調達のルールが変わる。新しいビジネスチャンスも生まれるかもしれないし、これまでとは違うスタンスでのぞまないといけない企業もあるだろう。

国民ID制度が日本を救う

 

前田 陽二¥ 714

 

 

新書なので、平たく要点が纏められている。読みやすいのは確か。個人的には、あまり技術や論点に目新しいものはなかったけど、事例は豊富で面白かった。

 

国民IDがあるとこんな良いことがある、という例

 

(エストニアの例)
日本では、X線画像の管理権は医師にあるので、患者がいくつかの病院に入院を繰り返したりすると、患者はそのたびにX線画像を様々な医師の所へ持っていったりしますが、エストニアではそうした手間はありません。P.36

 

X線の管理権が医師側にある、というのは「診療するために病院が撮影したのであって、渡すところまでは料金に含まれていない」という境界があるかららしいのだが、患者からみれば全然優しくないよね。エストニアでは、こういうデータはシステムに登録されて、どの病院でも引き出せるらしい。

 

(韓国の例)
官民連携の典型的な例として、納税申告の電子化と言える「記入済み申告制度」があります。記入済み申告制度とは、勤務先企業や保険会社、証券会社などが、あらかじめ税務当局や本人が委託した機関に源泉徴収票や支払い調書などの各種情報申告書を提出し、その提出された情報を元に税務当局側で所得金額や扶養などの各種控除金額と税額を記入し、納税者に提示するものです。納税者は手間いらずで、まさに「納税申告の電子化」です。納税者は内容の確認を行い、必要に応じて修正作業をして税務当局へ返送すれば、申告が終了してしまいます。P.54

 

これ読んだときに、ああ便利だなあと思ったよ。これが達成できたらどれだけ民間の事務コストが削減されるんだろ。

 

国民IDがないとこんな残念なことが起こる、という例

 

日本で薬害肝炎訴訟が起こったとき、原因となった血液製剤の投与が書かれたカルテが保管されていた患者は補償されましたが、保管されていなかった患者は「証拠なし」として補償されませんでした。P.43

 

恥ずかしながら初めて知ったが、本当にこういう事態になってるようだ。確かに証拠がないと「支払う根拠がない」ということになってしまう。

薬害C型肝炎訴訟:カルテのない患者救済求め、北九州のグループ提訴へ /福岡 – 毎日jp(毎日新聞)

 

「宙に浮いた年金記録」の照合処理のため、厚生労働省は2011年度も1344億円の税金を予算要求しています。 消えた年金記録問題は2007年に発覚しましたが、いまだにすべての国民の年金記録が確認されていないばかりか、膨大な確認作業が残されたままの状態になっています。信頼できない「基礎年金番号」の元に構築された我が国の年金制度は国民の信頼を失い、国民年金保険料未納率も4割に達しています。 皆さんのところには「ねんきん定期便」が届いているでしょうか。この定期便発行だけで数百億の税金が投入されています。

 

定期便そのものは直接国民IDとは関係ないかもしれないけど、発端は年金記録に不信を抱かれたからだと考えると、不信を抱かれてそれを回復するためにもコストがかかるなんて皮肉。

 

 

今のところ、セクトラルモデルにして、かつ連携基盤については第三者機関が管理することでセキュリティ上の懸念だったり、国による個人情報の一元管理を防ごうとしているし、セキュリティに配慮された設計で進んでいるようだ。

行政機関の「信用」というのはとても重要だ。番号制度の議論になると生理的な嫌悪感が登場してくるのは、行政機関が信用されていない、という点にもあるのかも。情報公開を日頃から十分に行うとか、継続してはっきり見える取り組みが重要だ。そういえば、これを読んで、地方自治体の内部統制が一時期話題になったけど、あまり進んでないなーと思った。

 

民間企業では、このように試行錯誤をしながら内部統制を構築しつつありますが、国民が個人情報を安心して預けられる情報セキュリティの仕組みを創るには、行政機関においても内部統制を徹底することが重要でしょう。P.167

 

内部統制なんかも、信用される組織を実現するために編み出された制度なので、こういう取り組みもひとつの信用をうけるアプローチかもなあ。どうやったら、番号制度に対する心配や懸念は消えるのだろう。

日本に「民主主義」を起業する―自伝的シンクタンク論

鈴木 崇弘¥ 576

 

日本でなぜシンクタンクが形成されないのか。政策形成の中心が官庁のままであり、外部からの政策形成過程をつくることができていないのか。そういう現状がよくわかる。

政策はどう形成されるのか。最近では、パブリックコメントだったり、アイデアボックスなどのオープンガバメント系の取り組みが少しずつ進められていて、民意を政策形成プロセスに組み込もうとしているが、本当にそれだけで良いのだろうか。

もっといえば、「政策競争」みたいな状況が起こりえないのか、ということだ。そこで必要と言われるのがシンクタンク。「シンクタンク」の定義がわかりづらいけど、これで何となく伝わるだろうか。

 

これまで述べてきたことからもわかるように、シンクタンクは単なる調査研究機関ではない。政策形成過程をよりオープンにし、より多くのアクターをその過程に関わらせ、そこに競争性を持ち込む、社会に民主主義のプロセスを実現する一つの道具、まさに民主主義の装置なのだ。P.110

 

シンクタンクが行うことは、アカデミックな政策研究や調査と合わせて、その提言を発表したり、議論する場を設けたりする。そして、実際の政策機関に対する人材輩出も時には行う。大学などでも公共政策を研究しているけれど、アカデミックと実学の中間に立つのがシンクタンクだ。

 

しかし、それが国内では十分に育っていない。

 

私の理解では、日本にもこれまで多種多様な形で政策提言をする組織や活動は存在してきた。しかし行政組織も含めて、的確かつアカデミックな議論も踏まえた政策研究を行い、その成果に基づいた政策提言とその政策情報の蓄積を行ってきたシンクタンク等が、ほとんど現存してきていないのである。それは国際的にみても日本の政策形成において、政策情報の質量で大きなハンデであるといえるだろう。P.173

 

そこは、社会的なニーズの機運もあるだろうし、個人的には資金面の問題が大きいと思っている。研究機関を抱えるにはそれ相当の資金が必要となる。その資金を財団が資金を提供しても良いし、パーセント法などの法律によってフィランソロピー文化を醸成しつつ、寄付提供先として資金を受けても良いと思う。民間になれば、調査・研究依頼やコンサルティングで資金を獲得する方法もあるだろう。ただ、後者についてはシンクタンクという長期的な視点で作業を行う性質なので、やや難しいのかもしれない。逆に、シンクタンクが社会にどう役立つのかをもっとわかりやすくしなければいけないのかもしれないし。

 

あとは、人材面でもシンクタンクの社会的役割はある。

 

これらのように、大学、シンクタンク、行政府、議会(立法)等の間を行き来したり、それらの機関に関わりを持ったりする人材は、シンクタンクという仲介機関を一つの軸として、政策研究に多様に関わっている。P.118

政策人材の育成機関も日本では欠如している。これまで公務員の育成の多くは大学の法学部等が担ってきた面もあるが、そこでは法律の解釈が教えられるばかりで政策や法案の作成について学ぶ機会は少ない。また近年では公共政策系の学部や大学院が多数できているが、実務を含めた政策立案や政策研究について必ずしも学べるとはまだまだいいがたく、政策人材の育成に大きく寄与しているとはいえないのが現実だ。また政策人材が活躍するための制度等も不十分である。たとえば公的活動に関する休職制度や専門人材の雇用制度等が未整備だったり、兼任や兼務を禁止する等の制約があったりする。P.246

 

官民交流が硬直的と言われているのは昔からだし、みんなの党なんかは官僚幹部については政治登用として公務員の雇用保護の対象から外す提案をしている。

 

幹部官僚はいったん退職。特別職として時限採用し、時の内閣の政策を忠実に遂行。選挙公約 – みんなの党

 

シンクタンクが成立して、政策市場の規模が大きくなることで、人材が交流して、政策形成が活性化していくのではないか。

 

最後に。

今後の地域主権の流れから考えると、各地域にもこういう政策を考える小規模なシンクタンクも必要なのかもしれない。そういう地域行政の政策形成プロセスに、今は興味がある。

 

追加参考:

特集:民間シンクタンクに期待される役割|三菱UFJリサーチ&コンサルティング|季刊 政策・経営研究:Quarterly Journal of Public Policy & Management