読めば起業したくなる「ライク・ア・ヴァージン」

世界中に多様なビジネスを展開するヴァージングループ創業者の著書を読みました。様々な質問に答える形で、経営に対する考え方をうかがうことができます。

 

ヴァージン・グループは、Wikipediaを見てもわかりますが、メディア系と航空系を中心として、いろんな事業を展開しています。また、最近だとエアアジアで女装して客室乗務員を行った、としてメディアにも報道されていました。

ヴァージン会長の「女装罰ゲーム」実行、エアアジアの客室乗務員に 写真28枚 国際ニュース : AFPBB News

そんなヴァージン・グループ会長の経営に対する考え方は、非常に示唆に富むものばかりでした。

 

全体的な印象は「とてもスマートで現代的」な経営

僕はこの本を読むまでヴァージングループのことを十分に知りませんでしたが、本当にいろんな業種に進出していますし、事業展開している国も様々です。ただ、英語圏が中心なので日本ではなじみが薄いのかもしれません。

読んだ後の全体的な印象は、非常にスマートで、現代的な価値観で経営を行ってるんだな、ということでした。勝手に破天荒な先入観を持って読みましたが、全然そんなことはなかった、ということです。タイトルにある「ビジネススクールでは教えてくれない成功哲学」と書いてありますが、全くそんなことはないと思います。

 

明確な理念を持つこと、それを浸透させることの重要性を説き、新しい事業へ進出するときの事前調査やリスクヘッジを入念に行い、失敗を素直に認めて挑戦を奨励する。そういう現代のMBAでセオリーと言われるようなアプローチを実際に体現しているな、という印象でした。こういうことがさらっと書いてあります。

外からは、どう見ても尋常じではないほどリスク許容度が高い連中だと思われがちだが、ぼくらの行動には常にもう一つの原則がある。失敗への備えを怠らない、というものだ。これはあらゆる起業家が指針にすべきだろう。というより、事業に携わる人すべてに言えることだ。

経営というのは多様な事柄から成り立っているので、様々なことに対して理論や考え方があります。これらを頭で理解するのも大変ですが、それを実現している、という点で非常に希有な気がします。

 

これからのビジネス世界を考える

せっかくなので、いくつか未来的なビジネス要素が書かれていたので触れておこうと思います。

 

コミュニケーションのあり方

最初はコミュニケーションのあり方から。

だが技術の進歩にもかかわらず、ビジネスの世界は近年コミュニケーションの質がとみに低下している。それが仕事の効率化につながると勘違いしているのか、電話で話すことや、直接会って話をすることを避ける人が増えてきたためだ。

これが著者の年齢が、、、とかいうせいにすることもできますが、個人的にも少し変な感じになっている気もしています。やはり直接会って話すのが一番コミュニケーションの密度は高くなりますし、電話で声のトーンを確認したりニュアンスとして感じ合うのは重要なことだと思っています。

今後どういうコミュニケーションが形成されていくのかはわかりませんが、メールやSNSが台頭するほど、「直接会う」ということの価値が相対的に上昇するんじゃないかと思っています。

 

また、IT技術は企業と顧客のコミュニケーションを変えているとも思っています。

起業家やビジネスリーダーが成功するためには、デジタル世界をこれまでとは違うレンズで見なければならない。会社のウェブサイトやサービスや担当チームを総動員すれば、この脅威はチャンスに変わる。変化に抗う者は敗れ去るだけだ。

これは、SNSなど顧客との複数のチャネルを統合し、顧客に対して新しくシームレスな体験を提供する必要がある、ということを述べています。まさに今、様々な企業がこういう取り組みを行っているところだと思います。

 

こんな感じで、個人レベルでも企業レベルでもコミュニケーションのあり方は多様化しているとともに、人々の気持ちも変化しています。ツールはあくまでツールなので、コミュニケーションの目的とそれにあったコミュニケーション方法を考える、という部分は、多様なツールが登場している現状ではますます求められてくるのでしょう。

 

イノベーションは顧客の近くで起こる

Appleなんかが代表例ですが、ビジネスの比重はどんどん顧客に近くなっている気がしています。マーケティングでもマスからダイレクトになったりしてますし。

財務の専門家は同意しないかもしれないが、優れたカスタマーサービスは純粋なコストではなく、さまざまな意味でマーケティングへの投資ととらえるべきではないか。

なので、サービスの捉え方ももう少し見直す必要があるのかもしれません。営業やマーケティングコストとサービス提供コストがミックスされている、という考え方がベースにあれば、もう少しサービス提供に価値を見いだし、いろんなソリューションが生み出されるかもしれません。

 

多様な人材、多様な能力、多様な働き方

著者は、ワークシェアリングやフレックス労働など柔軟な働き方を奨励していました。

ワークシェアを導入することで(すなわち仕事の負担を多くの人に分配することで)社内の知識や経験が幅広く分散するようになり、また意思決定も最もふさわしい立場の人材が下すようになる。

経営においてダイバーシティが叫ばれて久しいわけですが、その重要性は今も変わっておらず、今後はもっと必要になってくるでしょう。新しいアイデアやチーム活性化のために多様な人材を確保し、多様な人材を確保するために個人の実情に合わせた多様な働き方を採用できるような制度を構築する必要があります。

つまり、

新しいアイデアの創出 ➡ 多様な人材の確保 ➡ 多様な働き方の制度構築

です。

これによって、いろんな人材がいろんな仕事をシェアするようになり、多様な能力が個人の中に、組織の中に蓄積されることになり、それが企業の強みとなってきます。

口で言うのは簡単ですが、今もいろんな企業が試行錯誤しながら、これを実現しようと試みているのだと思います。

 

というわけで、非常に楽しい一冊でした。最後に、感銘を受けた言葉を2つ引用してこの記事を締めくくりたいと思います。

優れた人材を見つけ、管理し、インスピレーションを与え、会社にとどまらせること。これは経営者にとって最も重要な課題の一つで、その成否が会社の長期的な成功と成長を大きく左右する。

 

ぼくの経営哲学は当時と変わっていない。自分の楽しめることをすれば、情熱が仲間にも伝播し、熱心で元気いっぱいのチームができる。実際、ぼくは40年以上にわたって、自分の最も大切な任務は、「おカネより仕事そのものが大切」と心から思っている優秀な人材を引きつけ、やる気を引き出すことだと考えてきた。

 

当然ながら、以前書いた通りこれはBookLiveの電子書籍で読みました。BookLiveのiPhoneアプリで読みましたが、特に違和感とかはなかったですね。Kindleと似ていました。

電子書籍ストア BookLive!

ファミリービジネスが成功するためには

geralt / Pixabay

ファミリービジネスが成功するために必要なことは、いろんなことがありますが、個人的に重要だと思うのは、「家族の繁栄」を考えるという視点です。

一見すると、企業と家族というのは別の物であり、公私混同や良くない、という考え方が正しいように思えます。それはそれで重要ではありますし、企業のお金を私物化するなどは問題でしょう。

ただ、以前の記事で述べたように、ファミリービジネスにおける家族というのは、人材の供給源になっていますし、経営に直接・間接的に関与する人が多いので、家族間の関係が悪化すると経営が難しくなる傾向にもあります。

 

常日頃から、家族の中で定期的に会話を持ったり、円滑なコミュニケーションの状況を保っておくことが、非常に重要になります。会社は家族を支える収入源でもありますし、どちらか一方だけ繁栄すれば良いわけではありません。

また、以前読んだ「同族経営はなぜ3代でつぶれるのか?」から引用しますが、

片方の要素であるビジネスの繁栄とは、ビジネスが長期に渡って成長し、利益を上げ、配当を行い、更なる成長のための再投資を行うことでしょう。  一方ファミリーの繁栄とは、一族が協力関係を育み、情緒的に満たされた状態を続けられることです。ビジネスはお金を生み出すものであり、ファミリーは愛情をはぐくむものです。  この「お金」と「愛情」という、一見すると相反する「成功」の形を両立させ、世代を超えて維持する力を身に付けたときに、ファミリービジネスは真の意味で成功したといえるのではないでしょうか。

という考えが重要になります。

ただ、僕の経験から話せば、家族も時間とともにそれぞれが自立したり自分の考えができてきて、微妙に歯車が噛み合わなくなるときがあります。あるいは、後継者候補にしっかりと思いが伝わらないこともできてきます。そうなると、少しずつ距離感ができてくるのです。それは家族でなくても同じだと思いますが。

それを解消するためにも、家族間・家族内でちゃんと意思疎通を図れる土台が必要で、それが日頃からのコミュニケーションにあたるわけです。

 

ファミリービジネスの特徴は「長期的思考」であり、それが強みにもつながります。そのためには、家族と企業が良い関係で双方繁栄できる方法を考え続けることが、良い結果を導くことになるのでしょう。

参考:
人材・組織システム研究室:ファミリービジネス(所有と経営の一致)の「長期的」「継続性」「我慢強い」面から学ぶことがあるはずです。

事業承継はファミリービジネスにとって重要な問題

ファミリービジネスでは、いくつか気をつけなければいけないポイントがあります。そのうちのひとつは、事業承継です。

以前書評を書いた、「百年続く企業の条件 老舗は変化を恐れない」にある通り、何代も事業が続いていくためには、後継者の問題がどうしてもクリアしなければいけません。

しかし、事業承継がうまくできなかったり、そもそも継ぐ人がいないなど、そんなに簡単に進められるものでもないのが現状だったりします。

 

計画的に後継者を育てる

事業承継をスムーズに進めるためには、遺産相続なども重要ではありますが、最も重要なのは後継者育成だと思います。前回読んだ「同族経営はなぜ3代でつぶれるのか?」から引用します。

ファミリーの人的資本が高まるほど、ファミリーには選択肢が増え、柔軟性が高まります。三円モデルのBやDの位置にいる、直接ビジネスに関わっていない兄弟や配偶者などのファミリーメンバーも、次に挙げる社会関係資本が高ければ貴重な経営資源になるのです。逆に、人的負債としては、仕事や事業に対する無責任、リーダーとしての能力不足、経験の少なさなど、否定的な要素は人的負債ということになります。そういうメンバーがいれば、それはファミリーとしての負債になっていきます。

つまり、同族全体で見たときに後継者候補となる人材が複数いれば、企業として選択肢が広がります。そうでないとやはり選択肢が乏しかったり、消去法で決めざるを得ない状況になります。そうなると、周囲の納得感が低くて社内で協力体制を作れなかったり、うまく経営上の問題を対処できずに事業が傾いたりするリスクも高まります。

なので、経営に対する考え方、知識や経験を与えて、計画的に後継者が育つ仕組みが必要になります。うまく事業承継を続けてきている企業は、このあたりが仕組み化されているのではないでしょうか。

 

ちなみに、個人的には同族会社から一般会社に変化するのは、それなりに難しい気がしています。それは、こういう経営に関する能力は創業者一族の方が育成しやすいという問題と、オーナーであり企業と一体化している創業者一族とそれ以外では、会社に対するコミットメントが違う、という問題があるからだとみています。

 

父と息子の価値観の違い

必ずしも父と息子の関係で事業承継されるわけではないと思いますが、ひとまずそう表現しています。ここで言いたいのは、親子ぐらいの年齢の違いがあると、価値観はおのずと違いが大きくなる、ということです。やはり時代によって社会の価値観は変遷していますし、それによって経営判断にも違いが出てきます。

過去に、事業承継に関する講演を聞いたことがありましたが、そのときは父親の公私混同によるモラルハザードが問題になっていました。父親は、会社の経費で私物を購入することが当然のようになっており、息子は「従業員が汗水働いて得たお金なのに、私物化して使うのはおかしい」と感じて対立した、というのがおおまかな話でした。

息子側の美談のように感じますが、これもひとつの価値観の変遷が関係しているのではないか、と感じました。企業もコーポレートガバナンスなどが叫ばれて、倫理が強く求められるようになっています。正しいか正しくないか、だけではなくて、価値観そのものに違いが生じると、どうしても後継者と衝突が生じてしまう可能性が高いのです。

 

最近は、事業承継が難しくなって、M&Aなども有効な手段になっているようです。ただ、前回の記事に書いた通り、長く続けるほど企業は優位性を築きやすくなるので、だいぶ前から事業承継に必要なことは計画的に準備を進めておかないと、間に合わないかもしれません。

 

ちなみに、最近の調査によると、事業承継のタイミングは高齢化しており、44%程度が同族内での継承になっているようです。特に、小規模な企業ほど同族承継になる傾向があります。

事業承継を実施した中小企業の実態調査 | 帝国データバンク[TDB]

結論からすれば、家族間で早めに計画しておこう、ということです。身もふたもないのかもしれませんが。同族承継するにしても、創業家以外に明け渡すにしても、早めに想定して議論しておく、必要な教育プランや財産継承プランを立てておく、というのは、中小企業にとっては非常に重要なことになるでしょう。

同族経営はなぜ3代でつぶれるのか?

最近の経営学では、「ファミリービジネス」へ着目されていたりします。なぜかといえば、日本だけでなく世界でも同族会社が多いからです。

ファミリービジネスはその数も多く、日本の企業の8割以上はファミリービジネスであると言われ、世界のGDPの70~90%は、ファミリービジネスが作り出している、北米の会社の80~90%はファミリービジネスであり、雇用の62%はファミリービジネスが創出している、と言われています。

同族会社による経営の中で、それ以外の一般的な企業とは違う部分を捉えて「ファミリービジネス」として研究が進んでいるわけです。

 

同族会社ならではの問題点はどこにあるか?

ファミリービジネスの捉え方では、同族会社には独特の強みと弱みがあるとされています。最初に弱みというか問題点として陥りやすいところを考えてみましょう。

それは、ステークホルダーが複雑である、ということです。ビジネスとプライベートの境界線が曖昧になって感情がもつれたり、経営に直接・間接的に関係する配偶者や親戚も含めた親族間でいろいろな思惑が入り込んだり。

一般的な企業でも従業員・株主・地域社会など様々なステークホルダーがいますが、同族企業の難しさというのは、「距離の近さ」にあるのでしょう。なかなか私情を排除しづらい環境が形成されやすく、それがビジネスをスムーズに進ませない要因になりやすいと言えます。

 

同族会社の強み

一方で、同族会社ならではの強みもあります。世界的にファミリービジネスが注目されているのも、同族会社の数が多いというところもありますが、世界的な大企業が誕生したり、数百年レベルで継続する企業が生まれている、というところにもあると思います。

日本だとサントリーや金剛組が有名です(金剛組は2005年に経営不振によって創業者一族から経営体制が変更されていますが)。同族会社が運営する企業が強みを発揮できるポイントは、オーナーとしての決断の早さ、経営理念などマインドの強さ、優秀な人材の継続的輩出などが挙げられます。

要するに、ファミリーであるからこそ結束が高まれば、理念・技術・人材等の面で資源を継続して供給しやすくなり、かつ蓄積することができるので、一貫性のある強い企業を構築することができる、というわけです。

これを踏まえると、一代で事業を大きくする、というよりは、継続性を意識したビジネスを展開していく、という思考の方が合っていると思います。

 

本を読みながら、いろんな自分の知り合いの顔を思い浮かべて、たくさん考えてしまいました。それぐらい、悩んでいる人、該当する人は多いでしょうし、研究もまだ進む領域だと思います。

同族経営はなぜ3代でつぶれるのか?

ホンダ創業者・藤沢武夫「経営に終わりはない」

経営学を勉強するモノとしては、ホンダ創業者の一人である藤沢武夫を知らなくてはいけないだろうと思い、本を読みました。ビジネススクールでもホンダのケースは何回か取り上げられたのですが、藤沢武夫の目線でホンダを読み解くのは初めてです。

 

まさに優れた経営者像のひとつ

本の中で、理論的で淡々と語られる感じが、僕の中ではイメージ通りでした。自分を律する力、全体を俯瞰する先見性、組織を構成するバランス感覚など、いろんな点で非常に刺激を受けます。例えば、これ。

本田技研において、国家の軍事力に相当するものが技術力だとすれば、外交にあたるものは営業力です。この技術と営業とのバランスがとれていなければならない。ところが、往々にして、技術はその力を過大に思いがちになる。

まさにホンダが技術力が高い企業でありながら成功したのは、藤沢武夫という人がこういう考えのもとで、ビジネスを構築していたからだと思います。

 

先進的にビジネスを切り開いていくのに大事なこと

ひとつ気になったことがありました。先日読んだ「ITプロフェッショナルは社会価値イノベーションを巻き起こせ」では、IT業界は相手からの発注を待つ「受託」から、先に課題を考えて提案するモデルに変わらなければいけない、という提言はありました。それに類することが本書にも書かれていました。それは、製造業が受注生産から見込生産へと移り変わる必要性を述べているところです。

このように、物をつくるにしても、買う方に変化がないときにつくる企業と、刻々と情勢が変化するときに、物をつくっていく企業──常に先手を打っていかねばならん企業──と、どちらが進歩するか、これははっきりしている。

つまり、相手が早く変わっていくのであれば、注文を待っているのではなく先手を打っていなかければ置いていかれる、ということです。シンプルに物事を捉えれば、今も昔も変わらないということも再発見でした。

 

最後、創業25周年で本田宗一郎と一緒に引退するわけですが、あっさりと語られていながら、読んでいて感慨深いものがありました。ビジネス書としても読み物としても良い一冊だと思います。

経営に終わりはない (文春文庫)

俺のイタリアン、俺のフレンチ―ぶっちぎりで勝つ競争優位性のつくり方

「俺のイタリアン」をテレビで知り、そしてそれがブックオフ創業者が手がけるものだと知ったときは驚きましたし、生粋の経営者なんだなと思いました。こういう経営者モノの本は、結構好きです。この本も当たりでした。言わずと知れた、ブックオフ創業者であり、「俺のイタリアン」など新しい飲食店を展開している坂本社長の一冊。MBAでもブックオフがケーススタディの題材になったこともあって、非常に興味深く読みました。

 

「俺のイタリアン」の創業ストーリーが中心になっていますが、過去の経緯や根幹となる経営理念を示していて、坂本社長の人間性や考え方を知ることができて、貴重な内容になっていました。

 

「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」の成功要因

いろいろ報道されている通り、「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」は、立ち飲みと高級料理を組み合わせることで、低料金を実現しています。原価率が88%でも利益が出る、というのは驚異的です。

その後、店舗展開をしていくわけですが、15~20坪程度で、いずれも1日3回転以上していて、月商1200万~1900万円という繁盛店ぞろいです。フードメニューの原価率は60%を超えていますが、これを立ち飲みのスタイルにして、客数を回転させることによって、これまでの常識にない数字をつくり上げているのです。シミュレーションでは、原価率が88%であっても利益が出ます。

飲食業は原価は20%程度と昔聞いたことがあり、基本的には固定費が多くを占める業態になっていて、いかに顧客を回転させるのかが肝なわけですが、まさにその点に着目して、高回転させる店にしたわけです。

これだけであれば、ビジネスモデルとして思いついたアイデア勝ちだな、となるわけですが、本を読むととてもじゃないですが、それだけじゃないことがわかります。

 

仕組みで勝って人で圧勝する

本書の中に何回も登場したのは、「競争優位性」です。そして、競争優位性を築くために「仕組みで勝って人で圧勝する」と述べられていました。

つまり、仕組みとなる業態を最初に築き、その後は仕組みの中でいかに人が運用し改善していくかが勝負だ、ということです。実際、「俺のイタリアン」などもオープンしてからの積み重ねによって、効率性やサービスレベルを向上させ、参入障壁を高くしています。

思い出せば、ブックオフも業態としては当時新しかったですが、参入障壁は高くありませんでした。しかし、結果としてブックオフがあれだけ拡大したのは、業態だけでなくオペレーションの部分に優位性を築いたからだと思います。

また、「人で圧勝する」ためには組織に考えを浸透させたり、モチベーションを高めていくマネジメントが重要になります。この点でも、飲食業界の現状や、料理人に対する権限委譲など、様々な工夫が注入されていました。マクロ的に問題点を捉え、数値に裏付けされた業態を生み出し、顧客や社員の満足度を高めていく。これらが重なることで、「俺のイタリアン」「俺のフレンチ」は拡大してきたのがわかります。

 

稲盛フィロソフィの影響

本の中で外せないのは、京セラ創業者稲盛和夫の影響です。昔、「生き方」を読んで、その情熱の高さに驚くとともに、理念が強烈な印象で、若干引いてしまった覚えがあります。ただ、今回改めて稲盛フィロソフィが紹介されており、その一貫性や「利他」の精神については考えさせられました。

特に、ブックオフがフランチャイズで展開していくときの、「利他」の精神との関係については、納得というか「なるほど」と思わされる部分があります。

フランチャイズは本部が加盟店にパッケージを提供するものです。パッケージで一番必要なものはフィロソフィです。どうしたら仕事が楽しくできるのか、生き方と仕事の仕方をいっしょにパッケージにしないと、ビジネスモデルだけが一人歩きしてバラバラになってしまうのです。  先に、ブックオフのビジネスモデルは5分で説明できると言いましたが、それにもかかわらずブックオフに追随するところが出てきていないという理由は、このフィロソフィを築いたことと、それに基づいて実践してきた数々のことが競争優位性をもたらしたからだと思います。

 

それ以外にも、熱い情熱を組織に注ぐ社員の様子、坂本社長が72歳になって人生2回目のIPOを目指す理由などは、本当に胸を打たれるものがあります。感動しました。ぜひいろんな人に読んで欲しい。

俺のイタリアン、俺のフレンチ―ぶっちぎりで勝つ競争優位性のつくり方

小倉昌男 経営学

ずっと読まずにきたけれど、これが読み継がれている理由がよくわかった。本当に、経営を考える上では名著だと思う。重要なことがたくさん書いてある。

内容自体は、小倉昌男という人のヤマト運輸での半生なのだけれど、BtoBの運送会社からBtoCの宅急便開発については、コンセプトが生まれ、調査し、組織を説得しながら実行し、そして宅急便を立派なサービスとして築きあげていくまでの過程が細かく書いてある。本当に感心した。コンセプトを生み、緻密な計算によって磨き上げ、大胆に実行していく様子は、読んでいてとても気持ちが良かった。

また、メッセージが端的でわかりやすい。短くて的確な言葉を選んだり、比喩を多様している。これは、従業員や他者への説明にとても活きているんだろうと思う。宅急便サービスを始めるときに、各セールスドライバーに「サービスが先、利益は後」と伝えたところなんて、行動原理が理解しやすく、現場は動きやすくなったんだろうと思う。

今、日本は勢いのある新しい企業が起こっていない。それは、日本の時価総額ランキングを見てもわかる。上位20位で、ベンチャーから上がってきた新興企業はソフトバンクぐらい。
日本企業・時価総額ランキング | Marketgeek

一方で世界をみると、アップル、マイクロソフト、グーグルがトップ10に入っている。日本で1位のトヨタは世界で26位、日本で2位のNTTドコモは世界で78位だ。
世界の企業・時価総額ランキング | Marketgeek

こんなブログで憂いを書いても仕方ないし、本を読んでまたエネルギーをいただいたので、また頑張る。経営者には、総合的な人間力が必要であることがよくわかる一冊でした。

Facebookの成り立ちを振り返る映画「ソーシャルネットワーク」

[scshot url=”http://eiga.com/movie/55273/”]

本を読んでだいぶ時間が経過しているけど、映画でソーシャルネットワークを観た。デヴィット・フィンチャーが監督だということで、映像のクオリティは高いし、ストーリーの構成も良かった。ただ、娯楽作品として観た場合は、あまり盛り上がりなどはなく淡々と進む印象なので、その点はあまり期待しない方が良いかもしれない。

原作読んだときも感じたけど、結局Facebookというサービスを発展させていく上で、誰が最も必要不可欠だったのか、という話だと思う。

映画の中では、2件の訴訟を起こされ、それに対応しつつFacebookの立ち上がりを振り返っていく。アイデアを盗んだとか、一緒に創業したとか、そういうことで訴訟していくのだが、結局Facebookを成長させ続けたのはマーク・ザッカーバーグだ。

本当のところはわからないけど、最初のアイデアを持ちかけられた兄弟は、資金を調達できるエデュアルドにとって代わられる。その後、サービスが発展するに従って、それを大きくさせていくために必要な考え方やノウハウを持つショーン・パーカーにとって代わられる。こうみると、マーク・ザッカーバーグが、その時々で必要な資源を獲得して、Facebookというサービスを拡大させていくためには必要な過程だったのではないかとも思ってしまう。

 

そして、この記事に書いてあるように、この映画をみて、マーク・ザッカーバーグやショーン・パーカーに共感するのか、エデュアルドに共感するのかによって、自分のビジネスに対するスタンスがわかるだろう。

この映画で特に印象深かったのは、冒頭に述べたように、ショーン・パーカーの強烈な個性です。 彼はマークにベンチャー起業家としての心構えを与え、巨額の資金を集め急成長するためのさまざまな指南をします。 いわく「100万ドルの企業価値で満足するな、10億ドルを目指せ」(事実、現在Facebookの企業価値は250億ドルとも500億ドルともいわれます)、「どうせ釣るなら1.4tのメカジキを狙え」「強気でいけ、シリコンバレーは競争社会だ、激しい戦場なんだ」などなど。

クールな起業家たちの戦いに共感できるか?(映画「ソーシャルネットワーク」鑑賞の感想より) : アゴラ – ライブドアブログ

 

それにしてもショーン・パーカー役、どこかで観たことあると思ったら、ジャスティン・ティンバーレイクだったのか。

 

ちなみに、ショーン・パーカーは今Spotifyに投資していて、音楽業界に再度関与している。
ショーン・パーカーの帰還 ー Napsterの亡霊と、音楽の新しい黄金時代 【1】 from 『WIRED』VOL. 3 « WIRED.jp

 

あと、Facebookの上場によって、エデュアルドもショーン・パーカーも大金を獲得している。
Facebook上場で9人の大富豪誕生 | YUCASEE MEDIA(ゆかしメディア) | 最上級を刺激する総合情報サイト | 1

 

というわけで、ビジネスがスピード感持って大きくなっていく様子というのは、やはり心躍る部分があるな、と思う一本でした。そろそろ年末年始になるので、映画をみるならぜひどうぞ。

【書評】スタンフォード大学集中講義第2弾「未来を発明するために今できること」

スタンフォード大学集中講義「20歳のときに知っておきたかったこと」の第2弾。第1弾は個人にフォーカスされた内容だったけれど、今回は組織を対象にして、イノベーションを生み出す仕組みを整理したもの。

前作同様、読みながらいろいろ新しいことを試してみたくなる。ちょうど最近、ビジネススクールでリーダーシップに関する講義があったせいか、いろいろ考えがリンクしてきて個人的に面白かった。

 

イノベーションはなぜ必要か

リーダーシップ講義で学んだのは、課題を設定し解決する、という「As-Is/To-Be」モデルのアプローチでは、既存の延長線上での解決になって、過去の経験などに縛られてしまう、という点だった。それでは不確実なビジネスの現場では限界がある。過去ではなく未来に向けて、非連続的な革新を起こすために必要なのがイノベーションなのだ。

「画期的なことを考えるには、何かを突破しなくてはいけない。その何かとは、自分のなかの当たり前、直線的なものの見方だ。デコボコ道を行くことで、元の道に戻れるんだ。」

 

人の行動はルールや環境によって支配されている

イノベーションを生み出すのも、組織を停滞させるのにも、ルールや仕組みは大きな要因になっている。例えば、コミュニケーションが活発な方がアイデアが生まれやすいのだが、同じ空間にいたとしても、少し離れているだけど、全く異なる。

共同作業やコミュニケーションの密度という観点では、15メートル以上離れると、別の建物にいるのと変わらない、という調査結果があります。

あるいは、チームによる言動の内容によってもイノベーションは変わってくる。

マーシャル・ロサダは、ポジティブな言動とネガティブな言動がチーム力学に与える影響について、広範な調査を行なってきました。それによれば、ポジティブな言動とネガティブな言動の最適な比率は五対一だそうです。これは「ロサダ比率」と呼ばれています。

少し調べてみると、ロサダ比率というのは、ポジティブ心理学でよく出てくる言葉だそう。
ポジティブ感情黄金の比率をご存じ!?3:1の法則を活用しよう!! | KeiKanri

人は、知らない間にいろんなルールの中で生活している。作業空間をつくったり、組織を管理する側は、それによって人を活かしも殺しもするんだってことを知っておくだけでも、アプローチは変わるはずだ。

 

イノベーションを生み出すことと経営に取り入れていくことはまた違う

この本を読むと、いろいろな要素を取り入れることで、組織でイノベーションを生み出せるんじゃないか、という気になってくる。しかし、実際に経営を行う場合は、また別の観点が必要になる。

多くのアイデアを生み出す、しかしその選択は慎重に行う、素晴らしいアイデアでも企業が本気でチャレンジしようとしているものでなければ、捨てる。言葉で言うのは簡単ですが、大変な勇気と見極める目が必要です。

大西 宏のマーケティング・エッセンス : イノベーションというのは、1000の可能性に『ノー』ということ – ライブドアブログ

 

イノベーションの重要性は、昔から変わらないどころか、相対的に重要になっている。それは、変化のスピードが早く、不確実な社会だからこそ、自分から変革を起こせる力が重要になっているからだ。創造的で、楽しい組織にしようと思うのであれば、この本は読む価値がある。

スティーブ・ジョブズ 驚異のイノベーション

 

イノベーションを生み出すのに必要な要素はなんだろうか。

価値の源泉は、規模や高度教育ではなく、創造性にどんどん移行している。「イノベーションが重要だ」なんて耳にタコができるくらい聞いたけど、簡単にできれば苦労はしない。だけど、この本を読むと、ちょっとイノベーティブになれるんじゃないかと錯覚するから不思議だ。

一握りのイノベーターを発掘し支えたり、認める文化が十分じゃない気がする。というか、イノベーターが社会には必要であり、そしてどういう要素を認め合うことで、イノベーターが活躍しやすくなるのだろうか、ということがよくわからない。

 

好きなことを追求する姿勢を認める

ーどうすれば、自らの情熱がみつかったとわかるのでしょうか。「大好きなこと、どうしてもやりたいと思うことがみつかれば、ああもう1日、それができると太陽が昇るのが待ち遠しくなりますよ」P.72

自分がやりたいと思うことは、こういう状態になることを指す。だから、いわれもしないことをコツコツやっている人は、その人が楽しいと思うことをやっているのだ。

日本の学生なんかは特に、一斉新卒採用とか大手企業志向に囚われているかもしれないけど、大手企業だって有名大学だって、ジレンマを抱えちゃっているし、本当に社会に必要な人材は、こういう特定分野でクリエイティビティを発揮できる人材だ。だから、自分が何となくやりたいと思うことがあれば、その気持ちを大切にした方が良い。

 

スティーブ・ジョブズは、毎朝、鏡の前で自問自答するそうだ。「今日が人生最後の日だとしても、今日、する予定のことをしたいと思うか。」と。「ノー」と答える日が続くなら、軌道修正しなければならないということだ。P.358

結局こういうことなんだよね。本当に好きなことであれば、勉強もできるし、たくさん考えるようになる。ちょっと前までの日本社会は、年功序列、終身雇用で長い期間に及ぶ忍耐が必要だったのかもしれないけど、そういう価値観はもうそぐわなくなっている気がするよね。

 

ガンジーも言ってるよ。Live as if you were to die tomorrow.Learn as if you were to live forever.ですよ。

 

イノベーションに必要なビジョンを持つ

貧弱なビジョンからは貧弱な努力しか生まれない。P.124

ビジョンというのは、今はないけどやがて訪れる未来を具体的にイメージし、それを共有する力を指しているのだと思われる。そして、それが集団的イノベーションを生み出す力強いトリガーになる。こういうことを語れる人がイノベーターになりうる。ではどうやったらビジョンを生み出せるようになるのだろうか。

 

「大好きなアイスホッケー選手、ウェイン・グレツキーの言葉があるんだ。『パックがあった場所ではなく、パックが行く先へ滑るようにしている』、だ。アップルでは、みんながそうしようと心がけている。始まりの瞬間からそうだったし、今後もずっとだ。」P.112

いわゆる未来志向になる、ということだ。現状ではなく未来を基準に考えていく。何となく日本では「夢想家」は毛嫌いされる感があるけれど、変革は遠いところから起こる。馬鹿げた夢想の可能性をできるだけ拾える社会が望ましい。

 

問題を目の前にして、とても簡単な問題で簡単に解決できると思ったら、それは、問題の複雑さをまったく理解していないということだ。そのとき思いついた解決策など、シンプルすぎてうまくゆかない。今度は、問題がとても複雑に見えてしまう。そして、ややこしい方法で解決しようとする。この方法でもそれなりに問題が解消できるので、ほとんどの人はここでやめてしまう。でも、これは途中なんだ。優れた人はさらに進み、問題の根本的な原理ともいうべきものをみつける。そして、美しくエレガントな解決策を実現するんだ。P.242

ああ、最後はこれだな。とても良い表現だと思う。どこまで考えるか。思考の深さを表現している。問題は簡単なようで簡単じゃないけど、それでもシンプルに解決することがベストだ。イノベーションとは、その「シンプル」にたどり着いたことを指すんだろうな。

 

アップルやスティーブ・ジョブズがこんなに注目され、分析されているのは、単に業績が良いからとかじゃない。実際これからの先進国が産業として発展するためのひとつのモデルを体現しているからだろう。日本からも、そして日本の「地方」からももっとイノベーションが誕生する空気を味わいたい。