ファミリービジネスでは、いくつか気をつけなければいけないポイントがあります。そのうちのひとつは、事業承継です。
以前書評を書いた、「百年続く企業の条件 老舗は変化を恐れない」にある通り、何代も事業が続いていくためには、後継者の問題がどうしてもクリアしなければいけません。
しかし、事業承継がうまくできなかったり、そもそも継ぐ人がいないなど、そんなに簡単に進められるものでもないのが現状だったりします。
計画的に後継者を育てる
事業承継をスムーズに進めるためには、遺産相続なども重要ではありますが、最も重要なのは後継者育成だと思います。前回読んだ「同族経営はなぜ3代でつぶれるのか?」から引用します。
ファミリーの人的資本が高まるほど、ファミリーには選択肢が増え、柔軟性が高まります。三円モデルのBやDの位置にいる、直接ビジネスに関わっていない兄弟や配偶者などのファミリーメンバーも、次に挙げる社会関係資本が高ければ貴重な経営資源になるのです。逆に、人的負債としては、仕事や事業に対する無責任、リーダーとしての能力不足、経験の少なさなど、否定的な要素は人的負債ということになります。そういうメンバーがいれば、それはファミリーとしての負債になっていきます。
つまり、同族全体で見たときに後継者候補となる人材が複数いれば、企業として選択肢が広がります。そうでないとやはり選択肢が乏しかったり、消去法で決めざるを得ない状況になります。そうなると、周囲の納得感が低くて社内で協力体制を作れなかったり、うまく経営上の問題を対処できずに事業が傾いたりするリスクも高まります。
なので、経営に対する考え方、知識や経験を与えて、計画的に後継者が育つ仕組みが必要になります。うまく事業承継を続けてきている企業は、このあたりが仕組み化されているのではないでしょうか。
ちなみに、個人的には同族会社から一般会社に変化するのは、それなりに難しい気がしています。それは、こういう経営に関する能力は創業者一族の方が育成しやすいという問題と、オーナーであり企業と一体化している創業者一族とそれ以外では、会社に対するコミットメントが違う、という問題があるからだとみています。
父と息子の価値観の違い
必ずしも父と息子の関係で事業承継されるわけではないと思いますが、ひとまずそう表現しています。ここで言いたいのは、親子ぐらいの年齢の違いがあると、価値観はおのずと違いが大きくなる、ということです。やはり時代によって社会の価値観は変遷していますし、それによって経営判断にも違いが出てきます。
過去に、事業承継に関する講演を聞いたことがありましたが、そのときは父親の公私混同によるモラルハザードが問題になっていました。父親は、会社の経費で私物を購入することが当然のようになっており、息子は「従業員が汗水働いて得たお金なのに、私物化して使うのはおかしい」と感じて対立した、というのがおおまかな話でした。
息子側の美談のように感じますが、これもひとつの価値観の変遷が関係しているのではないか、と感じました。企業もコーポレートガバナンスなどが叫ばれて、倫理が強く求められるようになっています。正しいか正しくないか、だけではなくて、価値観そのものに違いが生じると、どうしても後継者と衝突が生じてしまう可能性が高いのです。
最近は、事業承継が難しくなって、M&Aなども有効な手段になっているようです。ただ、前回の記事に書いた通り、長く続けるほど企業は優位性を築きやすくなるので、だいぶ前から事業承継に必要なことは計画的に準備を進めておかないと、間に合わないかもしれません。
ちなみに、最近の調査によると、事業承継のタイミングは高齢化しており、44%程度が同族内での継承になっているようです。特に、小規模な企業ほど同族承継になる傾向があります。
事業承継を実施した中小企業の実態調査 | 帝国データバンク[TDB]
結論からすれば、家族間で早めに計画しておこう、ということです。身もふたもないのかもしれませんが。同族承継するにしても、創業家以外に明け渡すにしても、早めに想定して議論しておく、必要な教育プランや財産継承プランを立てておく、というのは、中小企業にとっては非常に重要なことになるでしょう。