長く生き残っている企業というのは、戦争や災害、景気の好不況、産業発展による事業構造の変化なども乗り越えてきたわけで、存在として非常に興味深い。老舗というのがどういう要素を持っているのか、なぜ生き残っているのか、老舗でもつぶれるというのはどういうときか。
取り上げる老舗企業というのは、当然ながら事業構造の変化に「比較的」影響を受けにくい清酒製造や菓子小売りなどが多いのはどうしようもないが、それでも学ぶ点は多いはずだ。
会社を続けていくためには事業承継が最も大きな問題
ゴーイングコンサーンを実現するためには、事業承継が重要になる。老舗といっても中小企業だ。経営者候補はそんな簡単に見つからないし、どこの企業も20〜30年で経営者交代の時期を迎える。そのたびに、経営者交代リスクにさらされることになる。
そして、出身大学別に社長数をみると、老舗企業では慶應義塾大学がトップとなった。慶應義塾大学出身の社長は八八〇名で、二位の日本大学の七三四名を大きく引き離した。出身大学が判明した社長のうち九・六%が慶應義塾大学出身、ほぼ一〇人に一人だ。
なぜ出身大学のレベルが高めなのか、最初はすぐには理解できなかったが、やはり教育レベルを高くすることで経営者としての素質を少しでも高めようということと、人脈形成なのだろう。事業承継というのはとてもリスクが高いため、自分の子どもにこういう教育を施すことで、ずいぶん前から備えておくものなのだ。
財務上の特徴が面白い
長く続いている企業は、全体と比べると売上高営業利益率より売上高経常利益率が高い傾向にあるのだそうだ。それは、本業以外からの収益が多いことを示している。
歴史があるから成せるわざではあるのだけれど、本業が厳しくなっても本業以外からの収益源を設けておくことで、すぐに倒れるようなリスクを小さくしているのだと思われる。そういうバッファを設けるような財務構成は、特徴として面白い。ただ、これは資産効率が悪くなるリスクもあるので、内容や程度については十分に気をつける必要がある。実際、統計では老舗企業は資産効率が低い傾向にあるようだ。
老舗を再生する企業の存在
長く事業を続けていくためには、乗り越えなければならない壁はたくさんあるし、変化していく必要がある。本書の中で知った、JFLAという企業は、老舗企業が変化をしていく一つのスキームとして面白いなと思った。
日本酒の蔵元再生に関しては、JFLAは二〇〇七年一〇月に「伝統蔵」という中間持ち株会社を設立した。現在は、その傘下に全国各地の八社(二〇〇九年八月現在)の清酒蔵元を擁して、原料の調達や販売体制の整備が進められている。
これだけ読むと共同調達や販路の共有なのだが、ホームページをみるともっとコンセプトは広くて、食品メーカーや卸会社など、飲食に関する企業を束ね、事業提携やM&Aを行ったり、マーケティングや研究活動を行っている。共同調達の枠を超えているが、ホールディングカンパニーよりは各企業に主体性が残っているようにみえる。こういう形もあるんだな。
閉鎖的なコミュニティで信頼を重要視する
長く続いていくということは、ゲーム理論でいえば「繰り返しゲーム」になるので、自分の利益を最大化しようとしても問題が生じる場合がある。そういう場合は、おのずと双方が信用を重視する方が全体として利益を最大化することができる。
本書で出てくる企業も地域の老舗企業であるので、事業範囲はそれほど広くないし、おのずとコミュニティは狭くなる。そういう中では、信用を築き上げることがゴーイングコンサーンを行う上では最重要になる。
また、どうやら長く続く中小企業には、経営者一族以外に、親子代々入社して幹部社員になるケースもあるようだ。これも、信用を重視する企業スタンスに影響していると思う。
親子代々が入社する理由を、「いつの時代でも、会社が社員を大事にしてきたからだと思います。会社から大事にされていなかったら、家で会社の悪口を言うこともあるのではないでしょうか。父親と同じ会社に入りたい、自分の子供をこの会社に入れてもいいと感じてもらえるのは、社員本人たちが大事にされているという自覚を持っているからだと思います」と林社長は語る。会社から大事にされる親の背中を見てきた子供は、その姿を通して福田金属箔粉工業を見つめたうえで、安心して入社するのだろう。
企業を長く続けていくためには、成長する企業とはまた違うものが求められる。