あなたの欲望を刺激する「ウルフ・オブ・ウォールストリート」をぜひ見て欲しい

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「ウルフ・オブ・ウォールストリート」という映画を見ました。

レオナルド・ディカプリオ主演、マーティン・スコセッシ監督の作品です。以下は、公式サイトのイントロダクションから引用しますが、

ウォール街には、金にまつわる豪快な逸話がいくつも転がっているが、なかでも特別スケールの大きな話がある。26歳で証券会社を設立、年収4900万ドル(約49億円)を稼ぎ出し、10年間の栄光の果てに、36歳で楽園を追放された男、ジョーダン・ベルフォートの物語だ。成功、放蕩、破滅─そのすべてにおいて彼は、いまだ誰も超えられない破格の伝説を打ち立てたのだ。

映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』 | 公式サイト

実話をもとにした映画です。ジョーダン・ベルフォートという人の、成り上がり物語です。

ずっと、金・ドラッグ・セックスで埋め尽くされている映画です。あまりにもパンチがあって、バカらしくて、面白いです。少し長いんですが、飽きずに見れます。

 

欲望の大切さを感じる映画

この映画を見て、「ディカプリオ、やっぱり演技うまいなー」とか思っていたんですが、一番感じたのはやっぱり「欲望の大切さ」ですね。

大前研一さんがいろんなところで「今の日本社会は『低欲望社会』だ」って語っています。そういう本も出しています。

ネット記事から一部引用しましょう。

私が考える日本経済の現状と問題点は、「低欲望社会」ということに尽きる。 日本は個人金融資産1600兆円、企業内部留保320兆円を抱えているが、それらがまるで使われていない。歴史的な低金利でも借金をしようとしない。「フラット35」が1%に接近しても借金して家を建てよう、という人はいない。このような国は世界中にない。普通は金利が5%を下回ってくれば借金して家を建てようとするし、金利が上がれば貯金をしよう、とする。 ところが、金利がほとんどつかなくても貯金は増えており、銀行の貸し出しは減っているのだ。

ピケティの主張は的外れ、日本経済の問題は「低欲望社会」に尽きる(6/6) | nikkei BPnet 〈日経BPネット〉:日経BPオールジャンルまとめ読みサイト

 

欲望が経済にとても影響する、という観点で見ているわけですね。

 

また個人のレベルでみても、これは主観になりますが、エネルギッシュな人というのは、欲望をたくさん持ってますね。「おいしい料理を食べたい」「面白いことをしたい」「あれもしたい」とか、やりたいことがバンバン出てきます。一方で、あまりエネルギーを感じない人というのは、「別にやりたいことがあまりない」と言ったりします。

欲望というのは、そういうエネルギーに関わってくる重要なファクターだと思うわけです。

 

で映画の話に戻ると、この映画の登場人物はもう欲望だらけです。金持ちになりたい。金を稼いでいろんなことをしたい。そういう欲望にあふれているのです。それが大きなことを成し遂げていく重要な動機になっています。

犯罪はダメですが、欲望を持つことは感情を動かし、個人の行動を変えて、ひいては経済を動かしていくのです。だから欲望を持ちましょう。いろんなことに関心を持ち、欲望を抱くことが、人生を豊かにしてくれるはずです。

 

いやー本当破天荒な人がいるもんですなー。

 

「限界集落株式会社」は地域活性化本ではなくビジネス小説

 

「限界集落」というとネガティブな響きがありますが、「限界集落株式会社」という本はとても前向きな気持ちにさせてくれる一冊でした。

これを読んだ感想は、「これ「地方創生」とかではなく、企業経営の本だよね?」でした。

 

「限界集落株式会社」はドラマ化もされましたが、過疎化と高齢化が進んだ、小規模農家が集まる集落で、行政からも見放されてしまいます(市町村合併の影響もあり、集落は都市部から離れてしまい、行政からみると効率が悪い)。

そこにやってきた企業コンサルタントが、集落をひとつの株式会社化して村を復興させていく、というストーリーです。

 

(以下、少しネタバレになるので注意してください。)

「限界集落株式会社」でやっているのは、主に以下のようなことです。

  • コスト削減による「止血」。無駄をそぎ落として、新しいサービス提供の余力を生み出す。
  • 市場調査に基づくマーケティング戦略の立案。新規顧客の開拓。
  • 設備投資による生産性の向上。組織のモチベーション向上。

これらがリアリティある内容で描かれています。これって、「地域活性化」として捉えられていますが、実際やっているのは企業経営と同じです。

こういうやり取りが作品中に出てくるのですが、考えさせられますね。

「不貞腐れてなんかいない。あんたの考えには、やっぱり納得がいかないから。世の中、効率や収益だけで物事が決まるの?米は日本人の主食だよ。それをばっさり切り捨ててしまうのは絶対おかしいよ。世の中儲からないけど、存在しているものって一杯あるじゃない。例えば伝統文化とか。文化は絶やしちゃいけないんだよ。稲作だって、日本の伝統文化なんだよ」

(中略)

「そういうことは、儲けて、余裕ができてから言え」

 

これを読むと、地域振興というのは「企業経営の高度化」なのでは?と思います。実際、儲かってくると業務の幅が増えて、いろんな人が集まるようになります。そういう経営を担える人材を確保することが、地域の活性化につながるんだと思います。

 

本書は読んでいてテンションが高まりますし、リアリティある内容なので、できる気になるから不思議です。ひとつのストーリーとしてもよくできていると思います。

僕からみれば、これは農業をテーマにしたビジネス小説ですね。農業や経営、地域振興などに関心がある人にはおすすめです。

あと、僕は読んでいないですが、続編もあるようです。

 

全然関係ないですが、今このカメラケースが欲しい。。。。遠出して写真をたくさん撮りたいときに良さそう。

企業の地方移転は進むか。地方に本社がある大企業を調べてみた。

「地方創生」というキーワードを多く聞くようになっていますが、企業が東京に集まり過ぎて、地方で雇用が生まれないという話があります。

そこで、国では地方に移転した企業には税制を優遇しようという方向になっているようです。

東京圏にある本社機能、地方移転で優遇税制-法人税などを軽減、来年度実行へ:日刊工業新聞

 

そもそも地方にはどれぐらい大きな企業がいるんでしょうか。この資料によると、上場企業の半分は東京に本社があり、上位5都県(東京都、大阪府、愛知県、神奈川県、兵庫県)を含めると、4分の3を占めるそうです。

企業本社の地方分散による地域・企業の競争力強化(三重県知事)(PDF)

 

地方に本社がある企業を実際に調べてみた

多くが東京などの都市圏に本社があるというので、実際に調べてみます。あと、そんな中で地方に本社を置いている企業というのがどういうものなのか知りたくなりました。

上場企業全部を調べるのは大変なので、日経225で上位5都県以外に本社がある企業を調べてみました。日経225の本社情報は日経平均 日経平均225採用銘柄一覧から引用しています。

 

実際にピックアップされた企業は15社でした。225社中の15社なので、6%ぐらいですね。

地図でみるとこんな感じです。東北のあたりにはいないんですね。

225

以下が一覧です。

企業名住所創業年
キッコーマン(株)千葉県野田市1661年
京セラ(株)京都市伏見区1959年
京成電鉄(株)千葉県市川市1909年
(株)GS・ユアサコーポレーション京都市南区1917年
(株)静岡銀行静岡市葵区1943年
(株)SCREENホールディングス京都市上京区1868年
宝ホールディングス(株)京都市下京区1842年
TOTO(株)福岡県北九州市小倉北区1917年
日本電気硝子(株)滋賀県大津市1949年
(株)ファーストリテイリング山口県山口市1946年
ファナック(株)山梨県南都留郡忍野村1972年
(株)ふくおかフィナンシャルグループ福岡市中央区大手門2007年
マツダ(株)広島県安芸郡府中町1920年
(株)安川電機福岡県北九州市八幡西区1915年
ヤマハ(株)浜松市中区1897年

創業の場所や地域に根ざしている企業が多いようです。想像通りといえばそうなんですが。

あと調べてみて気づいたのは、本社登録は地方になっていても、本社機能はそこにない可能性があるってことですね。ファーストリテイリングはWikipediaに、本社機能は東京にあると書かれていたりしますし、マツダも日本の本社が東京・大阪・広島の3つになっています。

 

地方に移転する場合は、具体的な地の利が必要

コマツが石川県に本社機能の一部を移転しました。

本社機能の移転 地方への効果は – NHK 特集まるごと
北國・富山新聞ホームページ – 北陸の経済ニュース

 

コマツが本社機能を移転したのには、以下の理由があると推測されます。

  • 優秀な女性社員の離職率低下

記事には、北陸の方が社内女性の子どもが多いという数字が挙げられています。育てやすい環境がある、ということでしょうかね。

コマツの社内調査では、既婚女性の子どもの数は、東京が平均0.7人なのに対し、北陸は3倍近い1.9人に上っています。

本社機能の移転 地方への効果は – NHK 特集まるごと

  • 金沢港からの建設機械輸出

もうひとつの記事には、金沢港の存在が利点であることが述べられています。

金沢港からの建設機械輸出については、地元の食品機械や工作機械メーカーなどと共同で出荷する「合い積み輸送」が順調だと説明し、今後も同港を積極的に活用する意向を示した。大橋社長は粟津工場(小松市)の管理部長時代に金沢港の利用推進に力を入れた経緯があり、「当時の取り組みが今実っている」とも述べた。

北國・富山新聞ホームページ – 北陸の経済ニュース

 

こういう事業環境が重なって、地方移転につながっているようです。

 

いろいろ調べましたが、都市にある企業の地方移転は進むんでしょうかね。

今日はこのへんで。

「日本の論点 2015~16」を読んで今後の日本社会を考えよう

久々に、大前研一さんの「日本の論点 2015~16」を読みました。

様々なネタが書かれているのですが、定量的なデータも織り交ぜながら、主に政治・経済について言及しており、頭の整理として非常に刺激に富んでいます。

 

日本経済最大の問題は累積赤字の解消

本書では、日本経済の最大の問題は累積赤字をどう解消するか、であると述べられています。

日本の債務残高対GDP比は200%を超えており、先進国の中でもダントツになっています。

債務残高の国際比較(対GDP比)

(債務残高の国際比較(対GDP比) : 財務省よりグラフ作成)

債務残高が膨らんだ理由については、Wikipediaに端的に書かれています。

1980年代後半のバブル経済の頃は好況により税収が多く、日本の国庫は潤っており、国債の発行額もそれほど多くはなかった。しかし、バブル経済が崩壊して税収が減少すると、それにともなって歳入が減少した。併せて、景気浮揚を目的にした財政出動が何度も行われた結果、国債を大量発行するようになり、発行残高は急激に増加していった。

日本国債 – Wikiwand

これだけの債務が発生に至った理由、そして今でも解消に向かっていない懸念が本書では指摘されています。

 

中央集権体制から道州制への転換

本書では、中央集権体制から道州制へ転換することが、各地域の競争性を高め、財政再建への道も出てくると述べられています。

道州制といえば、これまでも何度も議論が出ては消えてきている議論です。今の自民党政権もなかなか難しそうですね。

経団連:道州制実現に向けた緊急提言 (2013-03-14)

なぜ自民党は道州制法案を出せないのか

本書では統治機構としてドイツとの対比が描かれています。ドイツが戦後分権体制になり、今もそれを維持していることを初めて知りました。少し引用します。

ドイツの州は独自の州憲法や州議会などを有する地方「政府」なのだ。州のトップに「州首相」がいて、外部大臣や財務大臣もいる。州は財政的にも中央(連邦政府)から独立し、自己責任で財政運営しなければならないと基本法で規定されている。旧東ドイツ地域などの貧しい州との財政格差を補うために、連邦政府から州へ交付される時限立法的な交付金や州間で援助する調整交付金の制度もあるが、基本原則は州の経済的独立だ。

同じ要旨をここで読めます。

敗戦国日本とドイツ 中央集権と地方分権に分かれたのはなぜ | マイナビニュース

統治機構が、こうまで財政や経済などの運営に影響を与えるものか、という事実と洞察に驚きながら読みました。

全く同じというわけではありませんが、統治機構が変わるという点では、もうすぐ大阪都の住民投票があります。統治機構を変えるというのはなかなか簡単ではないと思いますが、今後どう進むか興味深いですね。

 

それ以外でも本書は示唆が多いです。論点が整理されているので読みやすいですし。あと、こういう動画も公開されていて、これらも面白い内容になっています。無料で見れるとか、良い時代ですね。

 

地方ローカルで生きる企業はどこを目指すべきなのか

地域経済について考えることが多くなっていますが、それに関する本として話題になっていたので、読んでみました。

いやー正直、久々にガツンときた一冊でした。簡単にいえば、グローバル経済圏とローカル経済圏というものを別で捉える必要があり、特に雇用の受け皿であるローカル経済圏にどのような改革が必要であるかを説いています。

MBAを学習し、中小企業診断士でもある自分としては、この違いを正確に捉えることは本当に必要だと痛感しました。MBAで学んだ経営理論は、どちらかというとグローバル経済圏を想定した内容になっていて、ローカル経済圏で生きる中小企業にはそのまま当てはまるわけではないのです。

 

ローカル経済圏で生計を立てている人たちはどれぐらいいるのか

ローカル経済圏で生計を立てている人たちはどれぐらいいるのでしょうか。もちろん、厳密に定義することは難しいのですが、割り出してみましょう。

中小企業白書によると、企業数でいえば99.7%が中小企業です。従業者数でみると、7割ぐらいが中小企業で働いています。

mid-small

(2014年中小企業白書のデータに基づき、作成)

 

そのうち、9割が「小規模事業者」に分類されます。さらにそのうち、ローカル経済を対象にしている企業は、8割ぐらいいます。

global-local

(2014年中小企業白書のデータに基づき、作成)

 

 

えー数字がならんでわかりづらくなっていますが、まとめると以下になります。

  • 労働者全体の7割が中小企業勤務
  • 中小企業の9割は小規模事業者
  • 小規模事業者の8割はローカル経済を対象にビジネスをしている

これを掛け合わせると、ざっくり労働者の半分ぐらいはローカル経済を対象にしたビジネスに従事していることになります。もちろんざっくりですし、ローカル/ローカルじゃないの区別は明確ではないのですが、結構な数がローカル経済に生きているということが感覚的にわかります。

 

ローカル経済はグローバル企業と何が違うのか

冒頭で述べた通り、グローバルと論理が違うのがローカル経済になります。どういう点が違うのかといえば、僕なりの理解でこの本を解釈すると、

  • 労働集約的な産業が中心(物理的な移転が難しい)
  • 労働集約的であるが故に、人材に求められる技能レベルが高くない
  • 人材の流動性が低い
  • 企業の競争性が不完全であり、生産性が低い企業の淘汰が起こりづらい

というところでしょうか。正直、難しい点が指摘されていますが、感覚的には合っていると感じています。やはり企業や人材の流動性を高めていく、生産性が高い企業が生き残っていく、という流れを作っていく必要があるのでしょう。

特に、地方は人口がこれから激減していきます。良い企業が生き残り、多くの人が(賃金も含めて)有意義に働ける地域を作るという点で、企業政策を考えていく必要があるんじゃないかと。

人口が減少していく日本の地方はどうなるのか

人口減少のネタがいろいろありますが、少し前に買った「2100年、人口3分の1の日本」を読み終えました。

この本を読もうと思ったのは、地方を含めて日本の人口動態が、社会にどう影響を与えていくのか考えるきっかけが欲しかったからでした。

 

日本における人口の過去と未来

日本のすっごい昔の人口

本書にはありませんでしたが、日本の昔からの人口推移を調べたグラフがありました(リンク貼っておきますので、グラフはリンク先のページで見てください)。

図録▽人口の超長期推移(縄文時代から2100年まで)

江戸時代で大きく増えてから、明治維新後に爆発的に増えています。平和であることの重要性や、産業革命の人の生活への影響の大きさがよくわかります。

そして、鎌倉時代とか600万人ぐらいしかいないじゃん。都道府県でいうと、千葉県ぐらいですよ。千葉県に今いる人口が日本全体で、ドンパチやったりしてたって考えると、規模感が違うなーって思えてきますね。

参考:都道府県の人口一覧 – Wikiwand

 

人口減少は良いこと?悪いこと?

そして、未来について考えると、どんどん減少していきます。驚いたのは、かつての日本は人口増加に対する懸念を持っており、抑制することを意図してたということでした。

74年の『人口白書』が推測した2011年を待たず、日本人口は6年前倒しする形で人口減少を実現した。言い換えれば、いま問題となっている人口減少社会への移行は決して「想定外」の出来事ではなく、36年前に見た夢の実現だったわけだ。

 

実際に人口減少を達成したわけですが、「ああ、良かった」という話は全く聞かず、どうやって減少を食い止めるかという話が並んでいるのは、何か不思議です。

人口が増大しすぎると、食料や経済活動におけるエネルギー問題、土地などの居住スペースなどの物理的な問題がフォーカスされます。一方で、人口が減少すると、経済力が低下したり、社会福祉を年代の違いによって支えることが難しいという点が注目されます。要は、増える・減るの問題ではなく、社会環境において「どの程度の人口規模を維持するか」が問題である、ということが本書を読むとわかります。

 

人口が転換するには時間がかかる

もう一つ人口問題を難しくしているのは、人口が転換するには時間がかかるということです。ある程度期間をかけて成長したり減少したりします。それこそここを急激にしてしまうと、一層バランスを崩してしまうという面もあります。かつてのルーマニアにように、人口を増やすために法律で中絶を禁止にするなどを行うと、バランスを失い、社会が混乱するわけです。

そして、日本はゆっくり人口動態が変わっていきました。それは、経済成長と関係もあります。

近代になって経済成長を実現した欧米諸国では、時代と共に死亡率と出生率が下がっていった。近代のはじめまでは出生率・死亡率の両方が高い「多産多死」だったのが、やがて「多産少死」へと移行し、第2次大戦後にはどの国でも「少産少死」の状態となった。この一連の人口動態を「人口転換」と呼ぶ。

 

この流れでいけば、経済成長を達成した日本では今後、劇的に出生率が向上するということはないかもしれません。ただ、もっと生みやすい環境、育てやすい環境を実現する必要はあると思います。さらにいえば、その結果が出てくるのも、数十年後であり、そういう点も踏まえて社会動向を見なければいけないと思うのです。

 

人口が減っていく日本で何が起こるのか

さて、前振りが長くなりましたが、ここからが本題です。実際に、日本社会がどう変化していくのか、という点を考えていこうと思います。その前に、今の日本社会がどういうフェーズなのかをおさえておきます。

 

日本社会は成熟期

いろいろ見方はあると思いますが、本書の中ではこういう箇所がありました。

日本はこれまで数回、人口減少の時代を経験してきた。歴史人口学の視点から見るに、それは気候変動や戦争、災害といった不幸に伴う出来事ではなく、「文明の成熟化」に付随する必然的な歴史現象だった。

 

海外から新しい技術や物産、社会制度が導入されて、新しい文明システムへと転換していく時代が人口増加期であり、それが定着して社会が成熟し、発展の余地がなくなると人口減退の時代になった。

 

これを読むと、日本社会は一定の成熟によって人口が減少期に反転したといえます。それは、新しい技術や社会制度によるアドバンテージがなくなったということでしょう。つまり、今後はこのまま成熟期が長く続くのか、新しい社会制度が登場するのかはわかりませんが、何かを変えるためにはイノベーションや新しい考え方を取り入れていかないと、人口も変わらないということだと思います。

経営思想家の中で、イノベーションの仕組みを解明したクレイトン・クリステンセンが注目されているのも、成熟した世界からさらに成長するためには、新しい何かを生み出さなければいけないという危機感もあるのかもしれません。

参考:過去10年での注目される経営思想家の移り変わり

 

年齢構成が不均衡になる

本書では、人口動態が不均衡を伴う変化をもたらすと書かれています。

まず認識しておきたいのが、今後の日本が体験する人口変動は「減少」だけではない点だ。総人口の規模はもちろん問題なのだが、私たちの将来には、より深刻な課題が控えている。人口の「年齢構成」と「地理的分布」の変化による、不均衡の拡大である。

 

ここでいう年齢構成とは、「生産年齢人口」が減少し、労働生産性が低下していくことを指しています。そのためには、生産性を向上させていくこと、高齢者を労働者に組み込み直すこと、人口を維持するために働きやすくする環境を整備する必要があるでしょう。

いろいろと育児に関する施策が注目されています。ひとつひとつが間違いとは思わないですが、マクロ的にみるとこういう示唆が書かれています。

以上のプロファイル比較から導き出されるのは、「結婚した夫婦の出生行動はほとんど変わっていない」という事実だ。にもかかわらず、顕著な晩婚化と非婚化によって全体の出生率が大きく引き下げられたのである。  この点に注目すると、現在、取り組んでいる次世代育成支援メニューの対象は、子育て中の家族に偏りすぎているように思える。子ども手当の支給や、保育所に入れない待機児童をなくす施策は確かに、「子どもをもつ親」にとって大きな助けになる。安心して子どもを生んで育てられる環境は、子どもをもう一人生むための一歩を踏み出す。

 

どこに向かって施策を行っていくのか、課題はなんなのかを捉えることは重要だなと考えさせられます。

 

これからは地方の時代?

不均衡のもうひとつは、「地理的分布」です。「地方消滅」という言葉が出たように、人口減少によって集落を維持できず撤退しなければならないところが出てきています。

鹿児島県と秋田県のいくつかの地区では、将来的に高齢者だけで生活困難な状況になることが予想される集落について、総世帯の移転を実行している。ダム建設などによる消極的な集団移住とは一線を画すこの移転を、横浜国立大学研究員の林直樹氏は過疎からの「積極的な撤退」と呼んだ。生活を維持するためによりよい環境を求めて集落を再構築するこうした行動は、さらに推進されるべきだろうRead more at location 1190Add a note

 

また、公共インフラは地方ほど維持できなくなってきていきます。

自治体の課題 益々拡大する社会的基盤維持管理費 : アゴラ – ライブドアブログ

ここから想定されるのは、集落の再構築です。広がった地方を、人口減少と合わせて再構築し直す必要が生じているのです。

一方で、違う見方もあります。

歴史的に見ると、過去3回の人口変動の増加局面ではある特定の地域へと人が集中し、文明が成熟して人口が停滞・減少する時代(縄文時代後半、平安~鎌倉時代、江戸時代後半)は集中度が低下する傾向があった。新しい文明がある程度成熟してしまうと、社会を支える技術や制度、人々の生活様式は全国各地に波及する。地方への人口の分散化は、そうした普及に伴って進んだものと考えられる。あるいは、中央地域の政治力や経済力が相対的に低下したことの表れと見ることもできるだろう。

 

これは、ひとつ新しい示唆を与えてくれました。これまで戦後から高度経済成長を通じて実現してきた社会システムは、成熟して新しいフェーズを迎えています。東京への集中度は高い状態ですが、今後はそれが低下していくのかもしれません。本当のところはわかりませんが、新しい文化、制度が求められているのではないかと、確かに感じます。

今後、地方が新しい価値観、新しい制度・文化によって、人をひきつける要素を高めることができれば、地方への回帰は加速していくかもしれません。それは、この記事にある通り、これまでの地方分権とは違う視点が必要になっています。

「東京一極集中をやめろ」というのも幾度と無く叫ばれた言葉です。都市機能を分散移転するとかアイデアはいくらでも出てきますが、東京から奪うという発想事態がイケてません。地方が伸びて、東京以上に魅力的になる方策を独自に考えるのではなく、東京から何かをぶんどろうという発想です。伝統的な地方分権的発想と同じで、権力を地方に戻すという、小さな箱のなかの争いです。

消滅可能性都市のウソ。消えるのは、地方ではなく「地方自治体」である。

「地方」に住む自分としては、そういう視点を持たないといけないことを再認識しました。

 

歴史人口学の観点から、未来予測するというのが本書の内容でした。上記以外にもたくさん面白い事実、示唆が含まれていて、目からウロコでした。

富津市の財政破綻の恐れについて、気になる数字を調べてみた

千葉県富津市が、2018年度には実質財政破綻状態といわれる「財政再生団体」になる見通し、と発表しました。

千葉県富津市は2013〜19年度の中期収支見込みを公表し、15年度決算で実質収支が赤字となり、18年度には「破綻状態」と判断される財政再生団体に転落する見通しであると明らかにした。15年度には市の貯金にあたる財政調整基金が底をつくなど厳しい状況にあり、市は破綻回避のため、公共サービス範囲の見直しや職員の削減などに乗り出す方針。

自治体破綻:富津市が18年度に破綻の恐れ 千葉 – 毎日新聞

夕張市の破綻から年数が経っていますが、久々にこういう話が出てきたな、という印象です。ニュースや他のブログ記事などを軽く漁ってみたんですが、よくわからなかったので、いくつか事実を整理してみました。

ちなみに、僕は地理感も全くなく、今回は得られた数字のみを整理しています。

 

財政収支

財政収支の実績および見込みの推移は、以下のグラフになります。

income-outcome

H22-24は「財政状況資料集 | 富津市」から、それ以降の見込みは「経営改革 | 富津市」から数字を拾いました。

平成27年度から経常的に赤字になっていくのがわかります。そして、発表によると「財政調整基金」が底をついてしまうため、赤字を抑えることができない、ということになっています。

 

財政調整基金

財政調整基金とは、自治体の「貯金」のようなものです。

自治体が財源に余裕がある年に積み立て、不足する年に取り崩すことで財源を調整し、計画的な財政運営を行うための貯金。ほかに、地方債の返済を計画的に行うための「減債基金」、大規模施設の整備などのために積み立てる「その他特定目的基金」がある。 ( 2011-03-04 朝日新聞 朝刊 都 2地方 )

財政調整基金 とは – コトバンク

そして、その財政調整基金が少しずつ減少してきており、平成27年度には底を尽きてしまう、とのことのようです。

kikin

中期収支見込み | 富津市

 

職員数と人件費

財政悪化の理由のひとつとして、職員数の多さと人件費の高さが挙げられているのが目につきました。さっとランキングで調べてみたところ、職員数は151位/789団体、職員給は166位/789団体でした。

平成24年度全国の市住民千人当たりの総職員数数ランキング

平成24年度全国の市人件費のうち職員給ランキング

確かにランキングだけみれば高い方なのだと思いますが、それだけが理由なのかはよくわかりません。

 

人口推移

富津市は人口46,000人のそれほど大きくない市になります。過去25年の人口推移は以下のようになっています。

population

www.city.futtsu.lg.jp/cmsfiles/contents/0000000/737/jinnkoutosetainosuii.pdf

25年で約16%減少しています。ちなみに、平成の大合併では特に合併等は行われなかったみたいですね。

 

ざっと気になる数字を挙げました。急いで調べたので、もし間違いがあれば誰かご指摘ください。

自治体の効率性を図るのは一言で語るのは難しいのですが、規模に起因するものと組織そのものの生産性に起因するものに分けて考えることが多いようです。さて、この後はどうなっていくのでしょう。少なくとも、こういうファクトは把握しておきたいな、と思った次第です。

今日はこのへんで。

日本の空き家は10%以上ある。今後の地方都市はどうなっていくのだろう

日本全国で空き家が増えているそうです。これは、今後の社会にどういう影響を与えるのでしょうか。ふと興味を持ったので、いくつか調べてみました。あなたの住んでいる町はどんな感じでしょうか。

 

日本全国の空き家の状況

日本全国だと、13.5%だそうです。1割以上が空き家っていうのも、結構衝撃的な数字に思えますね。しかもトレンドとして、ずっと右肩上がりです。

Image
統計局ホームページ/平成25年住宅・土地統計調査(速報集計)結果の要約より引用)

今に始まったことではないとは言え、今後の人口減少社会の中で、空き家の有効活用というのは、ひとつの地域課題だと思われます。

全国地図で表すと、以下のようになります。

Image
※元データは、平成25年住宅・土地統計調査です。これをもとに、グーグルAPIで日本国統計地図の作成で地図画像を作成しました。

 

都市部が低くて、農村部が高い、という単純な構図にはなっていません。地域によって高い・低いに差が生じています。

ちなみに、岐阜県での空き家率は、15%程度になっています。

 

国や自治体も空き家対策の乗り出している

空き家が増える要因には、税制上建て替えなどしない方が有利だとか、貸出が面倒だとかいろいろ言われていますが、国も対策に本格的に乗り出す気配です。

固定資産税の納税情報を基に、空き家の所有者を調査したり、地方自治体が敷地内に立ち入ることができるようにしたりする。自民党はこうした対策を盛り込んだ「空家等対策の推進に関する特別措置法案」(仮称)を今国会に提出する方針だ。

政府「空き家」解体促す…対策法案提出へ : ホームガイド : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)

 

また、貸出をしやすくするための検討会も開催されています。

住宅:「個人住宅の賃貸流通の促進に関する検討会」の最終報告について – 国土交通省

NPOによる空き家バンクとか、クラウドファンディングなんかも手法としては注目されていますね。

 

加えて、「都市再生特別措置法等の一部を改正する法律案」というのが今年の2月に閣議決定されていて、コンパクトシティの実現に向けた法整備が今後進むと思われます。これは「都市機能誘導区域」「居住誘導区域」という区域の指定が可能になります。内容については、以下の記事に書いてあります。

(前略)
いずれにせよ、中長期的には、すべての郊外住宅地が従来の形で生き残ることは無理なので、人の住む環境を整える街とそうではない街を、もう、はっきり分けましょうと。それができるようにする法案が通ったたんですよ。「都市再生特別措置法等の一部を改正する法律案」というもので、自治体が居住調整地域を都市計画に定めることができるようにする。要するに、居住誘導を可能にしたわけですね。

 田原 どういうことですか?

長嶋 この地域は税金も投入するし、場合によっては容積率もあげる。人が住むように快適な状況をつくるけど、この道路一本はさんでむこうは何もしません、と。

田原 その区分けは、誰がどうやってやるんですか?

長嶋 決めるのは各基礎自治体です。いままでのような、だだっ広い街づくりはもうできない。人が住むところと住まいないところ、その線引きをして、この道路のどこまでなんだというのをそれぞれの自治体で決めてくださいということです。道路のこちら側は、容積率もあげますし、上下水道のインフラもちゃんと整備します、税制も優遇しますよ、と。

空き家率40%時代に備えよ! 田原総一朗が迫る、日本の空き家問題 / 『空き家が蝕む日本』著者・長嶋修氏に聞く | SYNODOS -シノドス- | ページ 4

上記を考えると、土地を買うのとか、しばらくはハイリスク過ぎる気がしてきますね。。。。特に郊外だと地域から外れちゃうと土地の価値がすごい下がってしまう懸念があります。

とはいえ、過剰な社会資本ストックは維持できないし、人口を集中させないといけないのが地方都市の現状です。これからいろいろ変わっていくのでしょう。

 

岐阜の中心である岐阜市は人口は40万人程度で、コンパクトシティが進んでいると言われている富山市や青森市の規模感と似ています。が、今のところ人口はほぼ横ばいで、周辺の市町でやや増えている状態です。町中でも空いている物件を見ると、正直「もったいない」と思ってしまいますし、何かしら活用の流れができれば、中心市街地も活性化するんだろうな、と思いながら町を歩いています。

今日はこのへんで。

地方の遊休資産はC2Cを通じて活用されていく

今週のNHK「オイコノミア」の特集が、地方での生活でした。時々見てる番組なのですが、結構面白かったです。

オイコノミア「ボクら、地方で暮らします!」(後編) – NHK
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人口減、財政難が進行する中で公共サービスをどう継続させるか

番組の中では、人口が減少し、お金がなくなったら、ひとつの解決策として自治体合併が挙げられていました。合併することで公共サービスに充てられる人材が増え、必要なところに人と金を再配置できる、というわけです。

非常に面白かったのは、各行政サービスも種類によって支えられる人口規模が異なる、という点でした。例えば、小学校や中学校は5000人ぐらいの規模があれば施設として成立しますが、病院は1万人以上、大学は3万人ぐらいないと成立しない、といった感じです。

なので、自治体を合併したら全て解決というわけではなく、人口によって抱えられる施設や行政サービスが異なるということを念頭に考えて、「全ての行政サービスを提供する」という前提を変えなければいけない、と述べられていました。

実際、岐阜でも小学校などは町中でも統廃合が進んでいます。確実にそういう事態がいろんなところで起こってることを実感します。

 

遊休資産の活用を民間で行う

番組が面白かったのは、特に後半のところでした。ブロガーとして有名なphaさんが登場して、都会に住みつつ田舎に共同で一軒家を借りて、定期的に田舎で仕事をするような生活をしているそうです。また、他の人でも多少の負担をすることで滞在することができるようで、「別荘としてのシェアハウス」という感じです。

人口が減少し、公共施設をはじめとしていろんな土地や施設が余ってきています。有効活用しようという流れもあるのですが、なかなか全てがうまくいっているようには感じません。

一方で、AirBnBなどITサービスによっていろんな場所や車を貸す、シェアする流れが生まれています。余っている場所や資産などを有効活用したい人と、それを利用したい人たちをマッチングすることで、遊休資産の活用範囲が広がっています。

現地の人から借りる家・アパート・部屋・バケーションレンタル・民宿予約サイト – Airbnb
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日本でもヤフーが別荘をレンタルできるサービスを開始しました。旅館業法に抵触するため1ヶ月で中止になりましたが。。。

「Yahoo!トラベル」の別荘レンタル、開始1カ月で休止 「法解釈で行政側と相違」 – ITmedia ニュース

このようにマッチングコストが低下すると、遊休資産が民間の間で活用されるようになります。今後人口減少が進み、遊休資産が増えると予想される中で、良い流れだと思います。

 

C2Cが成立する時代になってきている

AirBnBも最初見たときは、「見ず知らずの他人の家で寝泊まりするの?」と疑問に思いましたが、ネットは評価などを可視化してくれます。ネットにうまく情報が提示されることで、信用を得やすくなっているのが、最近のインターネット社会でもあります。

佐々木俊尚さん(@sasakitoshinao)の最新刊でも「総透明社会」という言葉で表現されていますが、様々な情報がWebサイト、ブログ、SNS等で表出されて、良くも悪くも誤魔化しが難しい状況になっています。また、そういう社会に人々が慣れてきているとも思っていて、ネットショッピングなども当たり前の生活になってきていることを考えると、C2Cのサービスはますます成立しやすい土壌ができていると思っています。

 

 

 

というわけで、オイコノミアの特集は良かったです!気になる方はNHKオンデマンドからどうぞ。

人手不足の原因はどこにあるのか

ユニクロやスターバックスなど、サービス業が人員確保を積極的に行っています。人手不足が急に起こってる気がしますが、これはどういう理由から来てるんでしょうか。

 

インフレによる実質賃金の減少が起こっている

これは、日本のインフレ率の推移です。

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日本のインフレ率の推移 – 世界経済のネタ帳

インフレによって物価が上昇しています。インフレが起こると、実質賃金が下がります。以下は2012年までしかありませんが、名目賃金・実質賃金の推移です。

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賃金は民間給与実態統計調査結果|長期時系列データ|国税庁から、実質賃金は日本のGDPの推移 – 世界経済のネタ帳のGDPデフレーターを使って算出しています。

このグラフでわかるのは、デフレの状況下では実質賃金が上がります。すると、名目賃金が下がっても実感的な生活の豊かさは向上します。インフレではその逆が起こります。つまり、名目賃金が上がっても実質的には下がっているのです。

というわけで、インフレが起こったことで実質賃金が下がり、雇用しやすくなったことから人手不足が生じているようです。ちなみに、完全失業率は3.5%になっており、ほぼ完全雇用の状態です。

統計局ホームページ/労働力調査(基本集計) 平成26年(2014年)5月分結果

 

最近は、インフレの影響からか企業もいろいろ値上げの戦略が目立ちますね。

実質約3割値上げの松屋の「プレミアム牛めし」と「牛めし」を食べ比べてみた – GIGAZINE

インフレ下では、物価上昇率以上に名目賃金が上昇しないと、生活の豊かさを感じるのは難しくなります。消費税も上がってますし、名目賃金がどの程度上昇していくんでしょうか。

今日はこのへんで。