人口減少のネタがいろいろありますが、少し前に買った「2100年、人口3分の1の日本」を読み終えました。
この本を読もうと思ったのは、地方を含めて日本の人口動態が、社会にどう影響を与えていくのか考えるきっかけが欲しかったからでした。
日本における人口の過去と未来
日本のすっごい昔の人口
本書にはありませんでしたが、日本の昔からの人口推移を調べたグラフがありました(リンク貼っておきますので、グラフはリンク先のページで見てください)。
江戸時代で大きく増えてから、明治維新後に爆発的に増えています。平和であることの重要性や、産業革命の人の生活への影響の大きさがよくわかります。
そして、鎌倉時代とか600万人ぐらいしかいないじゃん。都道府県でいうと、千葉県ぐらいですよ。千葉県に今いる人口が日本全体で、ドンパチやったりしてたって考えると、規模感が違うなーって思えてきますね。
人口減少は良いこと?悪いこと?
そして、未来について考えると、どんどん減少していきます。驚いたのは、かつての日本は人口増加に対する懸念を持っており、抑制することを意図してたということでした。
74年の『人口白書』が推測した2011年を待たず、日本人口は6年前倒しする形で人口減少を実現した。言い換えれば、いま問題となっている人口減少社会への移行は決して「想定外」の出来事ではなく、36年前に見た夢の実現だったわけだ。
実際に人口減少を達成したわけですが、「ああ、良かった」という話は全く聞かず、どうやって減少を食い止めるかという話が並んでいるのは、何か不思議です。
人口が増大しすぎると、食料や経済活動におけるエネルギー問題、土地などの居住スペースなどの物理的な問題がフォーカスされます。一方で、人口が減少すると、経済力が低下したり、社会福祉を年代の違いによって支えることが難しいという点が注目されます。要は、増える・減るの問題ではなく、社会環境において「どの程度の人口規模を維持するか」が問題である、ということが本書を読むとわかります。
人口が転換するには時間がかかる
もう一つ人口問題を難しくしているのは、人口が転換するには時間がかかるということです。ある程度期間をかけて成長したり減少したりします。それこそここを急激にしてしまうと、一層バランスを崩してしまうという面もあります。かつてのルーマニアにように、人口を増やすために法律で中絶を禁止にするなどを行うと、バランスを失い、社会が混乱するわけです。
そして、日本はゆっくり人口動態が変わっていきました。それは、経済成長と関係もあります。
近代になって経済成長を実現した欧米諸国では、時代と共に死亡率と出生率が下がっていった。近代のはじめまでは出生率・死亡率の両方が高い「多産多死」だったのが、やがて「多産少死」へと移行し、第2次大戦後にはどの国でも「少産少死」の状態となった。この一連の人口動態を「人口転換」と呼ぶ。
この流れでいけば、経済成長を達成した日本では今後、劇的に出生率が向上するということはないかもしれません。ただ、もっと生みやすい環境、育てやすい環境を実現する必要はあると思います。さらにいえば、その結果が出てくるのも、数十年後であり、そういう点も踏まえて社会動向を見なければいけないと思うのです。
人口が減っていく日本で何が起こるのか
さて、前振りが長くなりましたが、ここからが本題です。実際に、日本社会がどう変化していくのか、という点を考えていこうと思います。その前に、今の日本社会がどういうフェーズなのかをおさえておきます。
日本社会は成熟期
いろいろ見方はあると思いますが、本書の中ではこういう箇所がありました。
日本はこれまで数回、人口減少の時代を経験してきた。歴史人口学の視点から見るに、それは気候変動や戦争、災害といった不幸に伴う出来事ではなく、「文明の成熟化」に付随する必然的な歴史現象だった。
海外から新しい技術や物産、社会制度が導入されて、新しい文明システムへと転換していく時代が人口増加期であり、それが定着して社会が成熟し、発展の余地がなくなると人口減退の時代になった。
これを読むと、日本社会は一定の成熟によって人口が減少期に反転したといえます。それは、新しい技術や社会制度によるアドバンテージがなくなったということでしょう。つまり、今後はこのまま成熟期が長く続くのか、新しい社会制度が登場するのかはわかりませんが、何かを変えるためにはイノベーションや新しい考え方を取り入れていかないと、人口も変わらないということだと思います。
経営思想家の中で、イノベーションの仕組みを解明したクレイトン・クリステンセンが注目されているのも、成熟した世界からさらに成長するためには、新しい何かを生み出さなければいけないという危機感もあるのかもしれません。
年齢構成が不均衡になる
本書では、人口動態が不均衡を伴う変化をもたらすと書かれています。
まず認識しておきたいのが、今後の日本が体験する人口変動は「減少」だけではない点だ。総人口の規模はもちろん問題なのだが、私たちの将来には、より深刻な課題が控えている。人口の「年齢構成」と「地理的分布」の変化による、不均衡の拡大である。
ここでいう年齢構成とは、「生産年齢人口」が減少し、労働生産性が低下していくことを指しています。そのためには、生産性を向上させていくこと、高齢者を労働者に組み込み直すこと、人口を維持するために働きやすくする環境を整備する必要があるでしょう。
いろいろと育児に関する施策が注目されています。ひとつひとつが間違いとは思わないですが、マクロ的にみるとこういう示唆が書かれています。
以上のプロファイル比較から導き出されるのは、「結婚した夫婦の出生行動はほとんど変わっていない」という事実だ。にもかかわらず、顕著な晩婚化と非婚化によって全体の出生率が大きく引き下げられたのである。 この点に注目すると、現在、取り組んでいる次世代育成支援メニューの対象は、子育て中の家族に偏りすぎているように思える。子ども手当の支給や、保育所に入れない待機児童をなくす施策は確かに、「子どもをもつ親」にとって大きな助けになる。安心して子どもを生んで育てられる環境は、子どもをもう一人生むための一歩を踏み出す。
どこに向かって施策を行っていくのか、課題はなんなのかを捉えることは重要だなと考えさせられます。
これからは地方の時代?
不均衡のもうひとつは、「地理的分布」です。「地方消滅」という言葉が出たように、人口減少によって集落を維持できず撤退しなければならないところが出てきています。
鹿児島県と秋田県のいくつかの地区では、将来的に高齢者だけで生活困難な状況になることが予想される集落について、総世帯の移転を実行している。ダム建設などによる消極的な集団移住とは一線を画すこの移転を、横浜国立大学研究員の林直樹氏は過疎からの「積極的な撤退」と呼んだ。生活を維持するためによりよい環境を求めて集落を再構築するこうした行動は、さらに推進されるべきだろうRead more at location 1190Add a note
また、公共インフラは地方ほど維持できなくなってきていきます。
自治体の課題 益々拡大する社会的基盤維持管理費 : アゴラ – ライブドアブログ
ここから想定されるのは、集落の再構築です。広がった地方を、人口減少と合わせて再構築し直す必要が生じているのです。
一方で、違う見方もあります。
歴史的に見ると、過去3回の人口変動の増加局面ではある特定の地域へと人が集中し、文明が成熟して人口が停滞・減少する時代(縄文時代後半、平安~鎌倉時代、江戸時代後半)は集中度が低下する傾向があった。新しい文明がある程度成熟してしまうと、社会を支える技術や制度、人々の生活様式は全国各地に波及する。地方への人口の分散化は、そうした普及に伴って進んだものと考えられる。あるいは、中央地域の政治力や経済力が相対的に低下したことの表れと見ることもできるだろう。
これは、ひとつ新しい示唆を与えてくれました。これまで戦後から高度経済成長を通じて実現してきた社会システムは、成熟して新しいフェーズを迎えています。東京への集中度は高い状態ですが、今後はそれが低下していくのかもしれません。本当のところはわかりませんが、新しい文化、制度が求められているのではないかと、確かに感じます。
今後、地方が新しい価値観、新しい制度・文化によって、人をひきつける要素を高めることができれば、地方への回帰は加速していくかもしれません。それは、この記事にある通り、これまでの地方分権とは違う視点が必要になっています。
「東京一極集中をやめろ」というのも幾度と無く叫ばれた言葉です。都市機能を分散移転するとかアイデアはいくらでも出てきますが、東京から奪うという発想事態がイケてません。地方が伸びて、東京以上に魅力的になる方策を独自に考えるのではなく、東京から何かをぶんどろうという発想です。伝統的な地方分権的発想と同じで、権力を地方に戻すという、小さな箱のなかの争いです。
「地方」に住む自分としては、そういう視点を持たないといけないことを再認識しました。
歴史人口学の観点から、未来予測するというのが本書の内容でした。上記以外にもたくさん面白い事実、示唆が含まれていて、目からウロコでした。