野村総合研究所とNTTデータの戦略の違いは、数字に表れている

未だに、このブログではNRI(野村総合研究所)の業績について書いた、以下の記事にアクセスがあります。

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書いたのは2012年なので、結構古い内容ではあるんですが。で、最近の動向はどうなっているのか、情報をアップデートしてみました。

相変わらず、NRIの利益率は高い

最新5年間のNRIの業績は以下の通りになっています。売上は少しずつ上昇しており、利益率も比較的高い状態を維持しています。

NRI 2011-2015

NRIの特徴は、なんといってもこの高い利益率でして、SI業界の雄であるNTTデータと比較すると、明らかに高いことがわかります。2倍以上も違います。

profit

これは、シンクタンクを由来とする野村総合研究所の特徴として、コンサルティングの利益率が高いことが要因です。以下は、NRIの決算説明資料からの抜粋ですが、セグメント別の売上・営業利益を示したものです。コンサルティング部門だけでなく、他部門を含めた全体の利益率が、先ほど示したNTTデータの利益率より高いのがわかります。全体として、付加価値をつけることに成功しているのでしょう。

nri_segment

(出所:野村総合研究所決算説明資料より)

NRIとNTTデータの戦略の違い

もうひとつの軸として、売上高を見てみましょう。こちらもNTTデータと比較しますが、売上高でみると3倍以上開きがあり、近年その差はどんどん開いています。

sales

これを見てわかる通り、2社は目指している方向性が違うんですよね。両社の戦略の違いについて、従業員数から分析した記事があり、大変参考になります。

SI産業 企業比較(NTTデータ、野村総合研究所) – Mic_Kの思うところ

両社とも、国内市場が縮小していく一方で、AWSなどのクラウドサービスが台頭しており、規模を拡大して海外市場を含めて勝っていく戦略なのだと思いますが、NRIの場合、付加価値が高い分、それを維持したスケール拡大(M&A等)を行うことが難しいんでしょうかね。M&Aを全くやってないってわけではないですが。

NRIは金融系のITソリューションで大きな売上を上げており、そのあたりが事業基盤になっています。その強みを活かして事業を拡大していく流れですね。

前回記事を書いたときから、NTTデータは売上規模を高め、利益率を少し落としました。NRIは売上の伸びはNTTデータほどではありませんが、高い利益率を維持しています。このような企業戦略の違いは、カルチャーやビジネスモデルなどから生まれてくるものです。それぞれの違いが浮き彫りになって、面白いですね。

ところで、両社は共同でこんな本を出しています。IT業界全体が、もっといろんな人が働きやすく、価値を生み出せるようになれば良いな、と思います。

ヤフーがアスクルを子会社化。eコマース市場は今後どうなる

jarmoluk / Pixabay

アスクルが自社株買いを進めることで、ヤフーの持株比率が上昇し、ヤフーの子会社(連結対象)になるようです。

アスクルは5月19日、ヤフーとの業務・資本提携を更改すると発表した。国際会計基準(IFRS)上、ヤフーの連結対象になる見通し。両社で運営するECサイト「LOHACO」の販売拡大に向け、連携を強化する。

アスクル、ヤフーの連結対象に 「LOHACO」強化へ連携緊密に – ITmedia ニュース

アスクルは、オフィス用品を中心にBtoBを拡大してきましたが、市場が成熟してきており、建設関係や医療関係など、新しい顧客と商品を開拓しています。一方でBtoCの開拓強化していて、ネットでの集客力を誇るヤフーと手を組みました。

今後の両社の展開はどうなっていくんでしょう。

アスクルとヤフーのWin-Winな関係

アスクルの5年間の業績は以下のようになっています。売上は伸びていますが、利益がやや鈍化してますね。

askl2010-2014

一方のヤフーの5年間の業績は以下のようになっています。売上の伸びがやや鈍化していますが、驚異的な利益率を誇っています。

yahoo2011-2015

ただ、eコマースで出遅れていたことから、Yahooショッピングを無料化して巻き返しを図っています。それについては、以前このブログで書きました。

Yahooショッピング無料化からEコマースの現状とYahooの戦略を考える

サイトへの訪問者数でみると、ヤフーは383.3M、アマゾンは120.8Mなので、ヤフーの方が3倍以上訪問されています。一方で、eコマースの流通総額でみるとアマゾンの方が勝っています。(訪問者数はSimilarWebで調べました。)

つまり、集客力はヤフーは申し分ないのですが、売上に結びつく部分がまだまだだということです。そしてeコマースを実現するためには、物流が重要になっています。アマゾンは従来から物流に力を入れており、楽天もいろいろ取組みを行っています。ヤフーはこの部分を強化するためにアスクルの物流に目をつけたわけです。

小説「ラストワンマイル」が物流業界の現状を描いていて驚いた

実際、アスクルの子会社と連携して、出品者向けの物流代行サービスを行っています。

ヤフー、モール出店者の物流代行、アスクルの物流網を活用で当日・翌日配送にも対応 – 通販新聞

というわけで、ヤフーとアスクルはWin-Winの関係を強化する、ということでしょう。

ヤフーが国内1位になる日は来るのか

ヤフーの流通総額は、1000億円程度になっています。楽天が2兆円、アマゾンが1.3兆円ぐらいなので、まだ桁がひとつ足りません。

Yahoo!ショッピングの出店者数は24.3万店に、3Qの流通総額は8.4%増の1028億円 | ネットショップ担当者フォーラム

二桁成長と言っていますが、楽天も二桁成長していて、ヤフーが追いつくのはすぐというわけにはいかなさそうです。

「楽天市場」など2014年の国内EC流通総額が2兆円を突破、モバイル経由は44%に伸長 | ネットショップ担当者フォーラム

ひとまず、ヤフーとしてはアスクルという物流基盤を手にしたので、今後も攻めていくことでしょう。こういう状況で、今後どういう戦略でヤフーが攻めてくるのか、楽しみです。

4年ぶり!任天堂が黒字になった理由

Nemo / Pixabay

いやーついに任天堂が黒字になりました。4年ぶりです。

以前このブログで任天堂のことを書いたときは、ずっと赤字でした。

任天堂とDeNAが業務・資本提携。任天堂はスマホゲームに本気か

実際に、今回の決算発表の数字で、営業利益は黒字になっています。

Nintendo2015

今日はなんで黒字になったのか?を分析しておこうと思います。

任天堂が4年ぶりに黒字になった理由

上記のグラフにある通り、今回の任天堂の決算は「減収増益」です。

産経の記事では、端的に「コスト削減と円安効果」と書いています。

任天堂が平成27年3月期連結決算で4年ぶりに営業黒字を確保した。ただ、コスト削減に加えて円安の恩恵が大きく、まだ復調には遠い。28年3月期はゲーム専用機の本体、ソフト販売とも前期を下回る予想のため、年内に発売するスマートフォン向けゲームが浮沈の鍵を握る。

【任天堂4年ぶり黒字】スマホ向けゲームにかける「任天堂の本気度」 収益の柱に育てられるか(1/2ページ)産経WEST

コスト削減が営業利益に、円安効果が経常利益に表れます。

さて、ゲーム会社のコスト削減というのはどう行うのでしょう。もう少し細かい数字を見てみましょう。売上総利益率と売上高販管費率を今期と前期で算出してみました。

2014年3月期2015年3月期
売上総利益率28.55%39.03%
売上高販管費率36.67%34.53%

今期分で、売上総利益率がすごい上昇しているのがわかります。原価を絞ったんですね。また、売上高販管費率も減少しています。任天堂の今期のテーマは、「収支のバランスをとる」ということで、コスト削減もひとつ重要な経営テーマでした。 なので、経営テーマのひとつをちゃんと達成した、ということでしょう。

原価や販管費は、実際どうやって減らしたのか?

まず原価。任天堂の場合、事業は「ゲーム機の販売」と「ゲームソフトの販売」なので、ゲーム機の製造原価を下げるか、ゲームソフトの開発費用を下げるか、どちらかになります。過去の発表などをみると、ゲームソフトの開発費用が削減の主な対象だったことがわかります。

ちょっと長いですが、任天堂のWebサイトにある決算の質疑応答から抜粋します。

まず、ゲーム開発の効率の悪い部分について「効率を上げなければいけない」というご指摘についてはその通りです。ただ、お客様が求めておられるのは、実は単なるコンテンツの数ではなく、「自分が遊びたいと思うコンテンツがどういう頻度で出てきて、自分が何かに飽きたら次に遊ぶものが目の前にあって、それを遊ぶことは自分にとって良いことだと感じていただけるのかどうか」がポイントだと私たちは思っていますので、単純にコンテンツの数を増やすとか、1タイトル当たりの開発費を削減するということが一概に必ず良いことだとは私は考えていません。と申しますのも、1タイトル当たりのコンテンツ開発にかかる費用を単純に削減していきますと、一つひとつのものの魅力がなくなっていって、長期的に売れなくなるからです。逆に、結果的に売れ続けているものや、ホットな話題であり続けるものがあれば、お客様にとって遊び続ける動機が増え、新しく買ってくださるお客様の数も増えます。タイトル数だけがいくらあっても、一個一個が小粒になってしまっては意味がありません。例えば当社は、『マリオカート8』で追加コンテンツを配信することで、コースを増やしたり、カートを増やしたり、キャラクターが増えたりということに新しくトライしています。一番の目的はマリオカートというものが遊ばれ続ける状態をどうしたら維持できるかということで、高い情熱でプレイいただいた段階を経たソフトをもう一度遊んでいただくには、そういった何かしらの補強が必要であろう、ということです。今はそういう施策が技術的に可能になりましたし、『マリオカート』の新作を1本つくるのと、追加コンテンツでコースやキャラクターを配信するのとでは、かかる人月も時間も費用も全く異なります。

20141030日(木)経営方針説明会 / 20153月期2四半期決算説明会質疑応答

開発費用の削減という観点でみれば、投入資源を減らすか、開発本数を増やせば効率は一見上がります。ただ、コンテンツの質という点で難しくなるでしょう。上記の説明を読むと、以下のサイクルを回すという意図が見えます。

  1. 1つのコンテンツを「売り切り」ではなく、追加コンテンツを順に投入する
  2. 1つのコンテンツが長く遊ばれることになる
  3. 長期的に売れるようになる
  4. 結果として、1つのコンテンツの開発効率が上がる

これは、インターネット接続と密接に絡みます。今任天堂は、アカウントサービスを強化しようとしていますが、ゲームがネットと接続されることで、売り切り型にならず、コンテンツを順次配信したり、ネットを経由してコミュニケーションをとることができるようになるからです。ゲームの消費のされ方も大きく変わってきているということです。

また、広告宣伝費も削減の対象になっています。これも決算説明会の質問で社長が答えています。これも少し長いですが、引用してみましょう。

特に最近は、かつてテレビ広告だけがマスに届く方法とされていましたが、テレビ広告という方法ではなくても、インターネットやスマートデバイスの普及により、非常にたくさんの方が能動的に情報を取りに来てくださるようになりました。例えば任天堂が何かのゲームの紹介、あるいは新しいテレビコマーシャルをつくった時に、お客様はYouTubeや任天堂ホームページにわざわざ来てくださっています。また、任天堂は「ニンテンドーダイレクト」に力を入れ、定期的にウェブで「ニャニャニャ!ネコマリオタイム」という動画を公開していますが、これは大変人気の動画で、非常に多くの方にご視聴いただいています。今、日本国内ではニンテンドー3DSのニンテンドーeショップに、毎週定期的に動画を見に来てくださるお客様がかなりの人数いらっしゃるのですが、その方たちの視聴はまさに能動視聴です。テレビで突然ゲームの宣伝が入ってくる場合以上に、お客様は集中して見てくださっていますので、一回見ていただく際の効果はより大きくなります。テレビで見ていただくこと、お客様にとって面白いコンテンツをインターネット上につくって、そこにお客様に能動的に来ていただいて見ていただくこと、さらにそこで何かが盛り上がるとそこからソーシャルメディアを通じて、もともと興味をお持ちでなかった方たちにまで見ていただけるようになることによって、ゲームのマーケティングの活動はまだまだ効率化できると思っています。

20141030日(木)経営方針説明会 / 20153月期2四半期決算説明会質疑応答

マスメディア広告を控え、インターネットやスマホを活用したマーケティングを進めることで、広告宣伝費を下げつつ、顧客獲得ができているということでしょうかね。

ゲーム業界の戦略は変わってきている

任天堂のコスト削減を見てきました。こうみると、コンテンツに対する考え方が変わってきている感じがします。

  • 「売り切り」型からネット配信を組み合わせた長期型へ
  • アカウント管理を行い、ユーザー囲い込みへ

そして、新しいライトユーザーを獲得する手段として、DeNAと提携したようなスマホがあるんじゃないか、と。さらにこんな戦略も、最近発表されています。

任天堂と「ユニバーサルスタジオ」を運営する、ユニバーサルパーク&リゾート(Universal Parks & Resorts)は、業務提携し任天堂のゲームを元にした世界をユニバーサルのテーマパークに展開すると発表しました。

任天堂とユニバーサルスタジオが提携し、テーマパーク展開を計画 (インサイド) – Yahoo!ニュース

テーマパーク展開することで、マリオなど任天堂が持っているキャラクターをより強くブランド化することができ、新しい形でユーザーを獲得するきっかけを作ることを狙っているんじゃないでしょうかね。

ーーー

それにしても、コスト削減頑張ったら200億円営業利益が出るって、やはり只者じゃないというか、ダイナミックな動くをするな、任天堂って思いますね。

日本通信はもっと評価されて良いと思う。今後の経営戦略を分析する

日本通信は、2015年3月期の決算発表がありました。

さっと決算発表の内容を知るためには、この記事をどうぞ。

VAIO Phone」効果は? – 日本通信、営業利益43.5%減

ちゃんと知るなら、動画を見るのが良いと思います。

今回の業績をどうみるか

結論からすると、決算発表によって日本通信は株価が低落しました。売上・利益が業績予想を下回ったためです。まあ、以前からVAIO Phoneの問題で予想を下げていたわけですが。

5年間の売上・利益率の推移は以下のグラフです。

日本通信

今回注目したのは、売上セグメントです。決算発表資料をみると、「MSP事業」というのが大幅に伸びています。

日本通信のセグメント別売上高 日本通信のセグメント別売上高

(出所:20153月期決算発表資料より)

この急速に伸びている「MSP事業」は何だろうか?というのが、今回の記事のテーマです。

MSP事業とは?

MSPというのは、モバイルソリューションプラットフォームの略です。これがちょっとピンと来なかったので、もう少し調べてみました。以下は、日本通信が考える「SIMサービス」と「MSPサービス」の違いです。

日本通信のSIMサービスとMSPサービス 日本通信のSIMサービスとMSPサービス

(出所:日本通信が考えるMVNOより)

「MSPサービス」には3つ書いてありますね。

ATM向け無線専用線

日本通信のアメリカ子会社は、アメリカでATM向けの専用ネットワークを構築してサービスを提供しています。セキュアな専用線を持っている、ということですね。それを日本にも展開しています。決算説明会の話を聞くと、信用金庫のタブレット需要において、セキュアなネットワークが必要であり、このサービスを提供していると説明しています。

デュアルネットワーク

これは、ドコモだけでなく、KDDIやソフトバンクなど他のキャリアも利用しながら、適宜切り替えて利用できるようにするというものです。

FMCフォン

FMCフォンは、携帯電話と固定電話とつなげて、携帯電話から固定電話と同じように使えるようにするものです。

企業で内線電話の接続などに使うPBX(構内交換機)とスマートフォンを接続して利用できるIP電話ソリューションで、会社にかかってきた電話を外出先でも受けられるというもの。着信だけでなく発信も可能で、スマートフォン側からも会社の固定電話の番号で電話をかけられる上、通常の携帯電話と比べ通話料も安くできるという。 スマートフォンとPBXの接続にはNTTドコモのネットワークを使用し、インターネットではなく日本通信の設備を経由することから、導入が簡単で、かつ高いセキュリティを実現できるのが最大の特徴になるという。

日本通信・三田社長に聞いた! 「MVNO」が次に目指すべき姿とは? – 会社の内線をスマホで受けられる仕組みを開発日経トレンディネット

日本通信はB2Cなの?B2Bなの?

なんとなく「日本通信=MVNO=SIM」というイメージがあったので、なんとなくB2Cがメインだと思い込んでました。ただ、今回のMSP事業やVAIO Phoneの戦略をみてみると、B2Bをターゲットにした戦略なのではないか、と思えてきます。実際、上記のMSPサービスの内容をみると、B2CというよりはB2Bの方に強いニーズがありますよね。

SIMの方は、価格競争になっていて、体力勝負になっています。日本通信はMVNOのシェアはNo.3で、決して体力があるわけではありません。そこで、そこに競争性をある程度維持しつつ、特許技術を持っているセキュリティネットワークをサービスに組み込んで、差別化を図っていくというのが基本的な戦略です。

VAIO Phoneの出荷時にリモート・インストール・セッティング機能を搭載することで、固定電話とひもづける設定を、リモートで簡単に行うことができるようになる。そういう意味で、端末と通信をセットで提供することに意味があるのですな。

また、IoTのビジネスチャンスも取り込める可能性があります。アメリカではこういう事例が出てますしね。

日本通信、特許技術セキュアM2Mが米国で採用決定 - 全米規模の保健センター・キオスクにて -|日本通信株式会社

というわけで、SIM事業は価格競争しているので、その競争に疲弊しきってしまう前に別事業で差別化を図ろうというのが日本通信の現状です。

ーーー

日本通信は、以前から事業構造が少しわかりづらかったのですが、いろいろ調べるにつれて理解できてきました。既存事業はどこかで競争が激化して衰退していきます。日本通信は、ネットワーク技術を起点として新しいニーズを掘り出している段階だと思います。

日本通信は、いずれはSIMを提供する会社でもない。そして、B2Bがメインの会社だと思われるときが来る気がします。

なんで?ヤクルトの海外の利益が国内よりすごい大きい理由

随分前に、以下の記事を書きました。

都心のヤクルトレディは儲かるのか

その当時、ヤクルトレディが実際一日でどの程度儲かるのかを推測してみた記事だったのですが、最近以下のコメントをいただきました。

すごい!だいたい合ってます! でも一般宅も会社の合間に回っているので 一般宅だともう少し売り上げ額が上がります。

会社でもかなり大量に買ってくれる人もいるので、地域や人にもよりますが、毎日行っていると色々お客も増えて売り上げも上がっていったりします。

がんばれば時給1000円以上とかなる人は沢山いますよ^^

現ヤクルトレディより

都心のヤクルトレディは儲かるのか

なんと現役のヤクルトレディからです。(本当にヤクルトレディであるかは確認のしようがありませんが、ここは信じましょう。)嬉しいもんですねー。

それで、実際にヤクルトのビジネスがどんな感じなのかを見てみました。

ヤクルトの業績の謎

ヤクルトの過去5年の売上高と営業利益の推移は、以下のようになっています。

yakult

着実に売上も利益も伸びていますね。

海外では「ヤクルト」がとてつもなく人気だった【世界31カ国に進出】 – NAVER まとめ

で、セグメント別の売上と利益がヤクルト本社のWebサイトに掲載されていたのですが、これがちょっとおもしろくてですね。売上はやはり国内が半分強を占めていて、海外進出が伸びているものの、国内もまだまだあるんだなってのがわかります。

ヤクルトの事業・業績 | ヤクルトまるわかり | IR情報 | ヤクルト本社

yakult_sales

次。利益をみてみると、海外の利益が割合としてとても大きくなります。

yakult_profit

これ、なんでなんでしょう。

海外の方がなぜ利益が大きいのか

ひとつ、記事から抜粋しますが、

現在、ヤクルトは海外の31の国と地域で「ヤクルト」の販売を行っていて、1日あたり約2000万本を販売しています。国内の販売本数がミルミルやジョアを含め約1000万本ですから、ほぼ倍の数を海外で販売していることになります。

ヤクルトは、なぜ新興国市場で強いのかミルミル伸びるBOP戦略の秘訣|新聞記事から学ぶ経営の理論|ダイヤモンド・オンライン

本数でいうと、日本と海外の比率は1:2になっています。つまり、売上や利益が1:2になっていないのは、物価やコスト構造の違いなど、別の要因があるのではないかと思われます。

 

ヤクルトは、冒頭に紹介したようにヤクルトレディによる宅配・販売を行うという、独自の流通・販売チャネルを構築しています。また先ほどの記事から抜粋しますが、

飲料のような消費者向けの消費財は、地元のスーパーへの大量納入や大規模な広告宣伝をするのが一般的ですが、ヤクルトは日本国内と同様にヤクルトレディによる地道な訪問販売の手法を導入しました。これは、ヤクルトの商品の効能を消費者に丁寧に伝えるためです。海外のヤクルトレディは日本とほぼ同じ約4万人。彼女たちが、日本でもおなじみの小さな容器のヤクルトを1個1個販売しています。

ヤクルトは、なぜ新興国市場で強いのかミルミル伸びるBOP戦略の秘訣|新聞記事から学ぶ経営の理論|ダイヤモンド・オンライン

というように、国内と海外でほぼ同数の4万人のヤクルトレディがいるそうです。

これ、一見見逃しそうですが、国内と海外で販売本数が1:2で、ヤクルトレディは1:1になってます。

え。販売効率が全然違う。。。

 

最初は新興国は人件費安いからなのかなーとか思っていましたが、そもそも販売にかける人数が日本より圧倒的に少ないようです。この理由はなんでしょうね?

ただひとついえるのは、ヤクルトは海外進出を今後も積極的に進める計画になっていて、海外の売上が伸びるほど利益が大幅に伸びていく、ということです。

詳細は、最近のIR資料などをご確認ください。
決算説明会 | IR説明会・株主総会 | IR情報 | ヤクルト本社

いやーすごいな、ヤクルト。僕も毎日飲んでます。

日本通信が業績予想を大幅下方修正。今後のMVNO業界はどうなる?

Unsplash / Pixabay

少し前からネタはそろってたんですが、書き上げる時間がなくて、ちょっとタイミングを外してしまいましたね。勿体無いので、アップしておきます。

日本通信が業績予想を大幅に下方修正しました。原因は、VAIO Phoneの発売延期です。

もともとは 2014 年 12 月に発売予定としてプロジェクトを進めてまいりましたが、タッチスクリ ーンの基幹部品メーカーの会社更生法申請等の影響により、発売時期が延期となりました。これ に伴い、搭載する Android の OS を 4.4 から最新の 5.0 へと変更することとなり、既に公表して いるとおり最初の出荷が 3 月 20 日までずれ込みました。当社は、製造委託先及びその孫請け部 品メーカーにまで当社技術者を派遣し、製造のスピードアップを図りました。しかし、結果的に は期末までに出荷可能とできた台数は予定を大幅に下回るものとなり、売上高は未達となりまし た。当社の販管費レベルは一定の水準で維持されていることから、売上高の修正に伴い、営業利 益、経常利益、純利益ともに修正いたします。

www.j-com.co.jp/ir/pdf/1503.pdf

日本通信は、スマホ本体とMVNOによる低価格回線をセットで販売する戦略を立てており、12月に予定していた発売時期が2月に延期、それがさらに延期して3月になったことで、予想した業績を達成するのが難しくなりました。

このニュースが発表された4/3、日本通信の株価は10%ほど低下しました。

日本通信の現状

まずは、日本通信の現状を見てみましょう。以下が、過去5年の売上高と営業利益率の推移です。

jcom

これまで伸びてきていますが、ここ最近はやや鈍化しています。黒字化したのは3年前ですね。

そして直近の四半期決算の推移です。上下運動がすごいですね。MVNOは奨励金目当ての解約も多かったりで、結構売上に変動があるようです。

jcom-quarter

そして、最近の動向は決算説明会の動画と資料があるので、これを確認するのが一番良いと思います。動画貼っておきますね。

ちなみに、日本通信はMVNO業界で第3位のシェアです。

MVNO市場の現在

今回の日本通信のニュースを受けて、今のMVNO市場がどういう状況なのか調べてみました。

MVNO市場というのは、ネット回線会社(主にNTTドコモ)から通信回線を借り受けて、通信サービスを提供するサービスを指します。日本通信はその開拓者であり、既存の通信キャリアと比べて安い価格での通信サービスを提供してきました。

通信回線におけるMVNOのシェアは拡大している

通信回線のうち、MVNOのシェアは1%ぐらいと言われています。これまで右肩上がりで成長してきましたが、まだ全体の1%です。

そして、総務省は今年5月から発売される携帯端末にSIMロックフリーを義務化すると発表しました。総務省は、MVNOのシェアを現状から倍増させることを目標とする、と打ち出しています。

格安スマホ倍増目標 総務省、SIMロック解除義務化  :日本経済新聞

SIMロック解除で、既存キャリアの携帯価格は高騰すると予想されています。そして、MVNOには有利に働くと。詳しくは、以下2つの記事をご覧ください。

SIMフリー義務化」でもMVNOを阻む3要因 | 通信 | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト総務省のSIMロック解除義務付けは殆ど意味が無い理由

MVNO市場はアーリーアダプター層を抜けた

まだMVNOのシェアは1%だし、総務省がSIMロック解除を義務付けるから、MVNO市場としてはまだまだ拡大かな、と思いますよね。ただ、この市場は別の問題を抱えています。それが、アーリーアダプターからアーリー・マジョリティーへユーザー層が拡大・移行しているのでは、という話です。

MVNOというのは、SIMフリー端末を購入し、格安SIMを購入し、自分でセットするという、比較的ユーザー側に負担というか知識とやる気がないと成立しにくいモデルになっています。通信料を安くしたい、とか電気製品が好きであれば大丈夫でしょうが、携帯ユーザーの多くはそうではありません。

そこで、このマジョリティへリーチするためには、手厚いサポート体制、魅力ある端末が必要になってきているのです。端末とセットにする、電話などのサポートを手厚くする、という構造は3大キャリアと同じですね。

同じくMVNO業者であるIIJも、同じ戦略になってきています。

そうした取り組みによって、IIJの個人向けMVNOサービスは高い顧客満足度を獲得しているものの、市場が拡大するにつれ、従来アーリーアダプター層が中心だったMVNOの顧客に変化が出てきているとのこと。従来は知識のあるユーザーに対し、多くの選択肢を提供することが求められてきた。だが今後増加するマジョリティ層は、選択肢が多いと逆に、自分にとって何が適切か、選ぶのが難しくなってしまう。そこで島上氏は、従来追及していた、回線と端末、サービスを分離するセパレートモデルだけでなく、全てのサービスをまとめて提供するワンストップモデルを、パートナーと手を組んで展開する必要があるとしている。

格安と呼ばれるのは不愉快–IIJMVNO戦略 – CNET Japan

今回の日本通信のVAIO Phoneも、VAIOのブランド名を借りて、日本通信がEMSと組んで開発・販売したようです。端末を自ら供給して、通信とセットにすることが、MVNOの戦略になっていくのでしょう。

まとめ

  • SIMロック解除の義務化も追い風に、MVNO市場は今後も拡大していくと予想される
  • ユーザー層がアーリーアダプターからアーリーマジョリティへ移っている
  • それに伴い、わかりやすいサービス(端末+通信のセット)と手厚いサポートが必要になっている
  • MVNO事業者は、魅力ある端末とサポート体制の構築が今後の差別化につながる

というわけで、日本通信は端末の開発にエネルギーを注いでいますし、今後もそうなるでしょう。

MVNOは「格安スマホ」に代表されるように、「安かろう悪かろう」というイメージがあります。一方で、端末開発やサポート体制構築などコストがかかることが多くなってきます。そのあたりをクリアできるのか、というのはひとつの肝かと。

↓みたいに、本当MVNOのSIMは安いなー。

ワタミの居酒屋戦略が発表。業績の復活なるか

Skitterphoto / Pixabay

居酒屋業界において、一時期は時代の寵児だったワタミが、今どういう状況は知ってますでしょうか。

ワタミの新社長が、新しい戦略を発表していました。

ワタミ新社長・清水氏「値上げ失敗だった」安い・ウマイ居酒屋チェーンへの原点回帰新戦略発表会(全文) | ログミー[o_O]

かいつまんでポイントを書くと、以下のような感じです。

  • 付加価値を上げることを目的として、皿単価を上げてきた
  • 20代、30代というメインターゲットからは、「割高」だと評価されて客離れが起こった
  • 「安さ」「美味しさ」を求められているので、原点回帰する

ワタミは既に居酒屋がメインの会社ではない

売上高と利益率の推移を見てみます。

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これだと、売上高は最近鈍化していますが、右肩上がりになっています。利益は急激に落ち込んでいますね。

以前、こういう記事がありました。その中で、ワタミの利益源は既に居酒屋ではない、というのです。

ワタミが102店舗閉鎖?富士フイルムがデジカメ事業縮小?セグメント損益から会社の将来を読み解く斗比主閲子の姑日記

実際にセグメントごとの売上高を調べてみると、このような状況になっています。

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ワタミファクトブックから作成)

外食、介護、宅食という3本の柱があり、外食=居酒屋がまだ一番大きいものの、トレンドとしては低下しています。逆に、介護、宅食は順調に伸びてるんですね。もう、居酒屋だけの企業ではなくなっています。

居酒屋というビジネスモデル自体が古くなってる?

最近、吉野家が提供する「吉呑み」とか、コンビニ飲みとか、宅飲みといったような、新しい酒の楽しみ方が登場しています。

吉野家に赤ちょうちん!「吉呑み」は居酒屋と何が違う?日経トレンディネット

居酒屋より安くてうまい!「コンビニ呑み」が話題 | 日刊SPA!

低価格でそれなりにお酒と料理が楽しめる場所が居酒屋だったわけですが、そういう面でも価値は、他の業態が奪ってきている状況です。こういう状況の変化をどう捉えて戦略に落とすか、というのが求められている気がします。

少し前の東洋経済の記事では、低価格に慣れたユーザーは高価格嗜好には戻らないという内容が書かれています。

2011年3月の東日本大震災以降、食事やお酒を楽しむ際にとにかく安さを求める層と、付加価値を求める層に二分化された。安さを求める層はコンビニで買い求めた食品やお酒を自宅で飲む「宅飲み」や立ち飲み店、ファミリーレストランなどで十分だと考え、ただ飲んで食べるだけでなく仲間との団らんをはじめとする付加価値を求める層は、回数を減らしても少しぜいたくなお店へ出かける。

価格競争に陥っていた居酒屋チェーン各社は、この真ん中で宙ぶらりんとなってしまった。こうなると居酒屋というジャンルがもはや曖昧で、お酒を飲むシーンやスタイルが、細分化されたのだ。逆にコンビニや立ち飲み店、ファミレスはこうした需要に対応するべく、さまざまな手を打ち成果を挙げた。居酒屋は価格の安さではもう勝てなくなった。ただ、いったん下げてしまった価格を、上げてもなかなか消費者は受け入れてくれない。

ワタミはなぜここまで凋落してしまったのか | 外食 | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト

顧客の嗜好、新しい競合の登場によって、居酒屋に求められる価値は大きく変わってきているんじゃないでしょうかね。

任天堂とDeNAが業務・資本提携。任天堂はスマホゲームに本気か

JESHOOTS / Pixabay

任天堂とDeNAが業務・資本提携しましたね。

【全文】任天堂とディー・エヌ・エー(DeNA)、業務・資本提携に関する共同記者発表会 | ログミー[o_O]

以前、このブログでも任天堂について書いたことがあって、任天堂は結構劇的な業績になっていて驚いたのを覚えています。

任天堂の売上高が4年で3分の1になっていてびっくりした
ウェアラブルの時代到来と、任天堂の今後の戦略

任天堂の現状はとても厳しい

まず、任天堂・DeNA・グリーの売上高を比較してみると、こうなります。

NDG Sales

本当、任天堂の落ち込み具合がわかりますね。かつて2兆円を超えた売上高は、いまや6000億円を下回っています。3分の1以下ですね。ただ、規模でみればまだまだ任天堂の方が大きいです。

また、営業利益率もみてみると、こうなります。

NDG Profit

任天堂、利益出てません。マイナスなんですよ。それに比べて、DeNAやGREEの高収益体質がわかります。

つまり、規模は大きいけど調子が良くない任天堂と、規模はまだ追いつかないけど高収益なDeNAで対照的であり、こういう記事が出てくるのも、なるほどなという印象です。

任天堂とDeNAの業務資本提携がまるで没落貴族と新興成金のケッコン式 : 市況かぶ全力2階建

任天堂にはスマホゲームを運営するノウハウがない

ファミコンから始まった任天堂の躍進は、ゲーム機というプラットフォームを自社で開発し、プラットフォーム上のコンテンツを開発することでプラットフォームの魅力を向上させる。そして、他社のゲームを自社プラットフォームに引き込むという「プラットフォーム戦略」でした。Wiiの成功もこのパターンです。

つまり任天堂は、「ゲーム機=プラットフォーム」と「ゲーム=コンテンツ」の両方を作れるから強かったんですね。それが、Wiiのヒット以降は据置型ゲーム機で新しいプラットフォームを作り出すことができず、スマホという巨大なプラットフォームにライトユーザーを奪われる形になったと思われます。本当は、このあたりのライトユーザーこそ、任天堂の味方だったはずなのですが。

とはいえ、任天堂にはゲーム機の開発だけでなく、ゲームコンテンツを作り出す能力もあります。これをスマートデバイスに適用させれば良いと思うのですが、ここはこれまでと違う運営能力が求められます。巨大なサーバー、ビッグデータ分析とスピーディーなゲーム改善、通信によるネットワーク性などです。これらを任天堂は自前で実現することが難しいと判断したからこそ、今回の業務・資本提携になっているのでしょう。

ログミーの記者会見全文でも、任天堂の岩田社長からはっきりそういうコメントが出ています。

それと、そのことによってもうひとつは我々一社がやるのではなくてDeNAさんという強力なパートナーを得ることで、我々の得意でないことで過剰に開発の人員をたくさん投入して、結果ゲーム専用機のソフト作りがおろそかになるというようなことが無いような形で、むしろ逆に任天堂IPをより多くの方に知っていただいて、うまく架け橋をかければ両方のためにプラスになるという答えが見つかったと。

【全文】任天堂とディー・エヌ・エー(DeNA)、業務・資本提携に関する共同記者発表会 | ログミー[o_O]

任天堂はスマートデバイスに対してどこまで本気か

任天堂としては、これまでプラットフォームとコンテンツを一体的に提供することで、ブランドを構築し、価格の高止まりを実現してきました。これが高収益体質を実現してきたわけです。企業が持つ資源には限りがありますし、ビジネスモデルごと変えるためには、企業買収などを含めて大胆なことを起こさないと変えることができません。

今回の判断は、任天堂の従来のスタンスを大きく変えることなく、スマートデバイスのチャネルも活用してみよう、という流れなんだと思います。キャッシュが膨大にあるから耐えられる部分はあると思いますが、今開発中と言われている新型ゲーム機「NX」でどれほどイノベーティブな商品が出てくるかが勝負かな、という気がします。

あと、資本提携のアンバランス(DeNAが任天堂の株10%程度を取得、任天堂がDeNAの株1%程度を取得)さから、任天堂はあまりスマートデバイスに本気ではないのかな、とも思ってしまいますね。

ひとまず、ヘビーユーザー層を狙うなら企業規模自体を縮小してバランスさせると思いますし、規模を狙うならスマートデバイスを本気で狙わないと売上を伸ばしていくのは難しいんじゃないか、と。

ユニクロとしまむらとの戦略の違いは販管費の比率から生まれている

少し前に、「ユニクロとしまむらで、業績に明暗が分かれてるよ」っていう記事がありました。

ユニクロとしまむら、なぜ明暗が分かれたか | 企業戦略 | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト

記事の中でいくつか気になることがあったので、調べてみました。結論からいえば、ビジネスモデルから来る財務構造が、両社のスタンスの違いを生み出しているんだと思います。

売上高と営業利益率の違い

ファーストリテイリングとしまむらの売上高、営業利益の違いをみてみます。業界第3位の青山商事も含めています。

まず売上高。これは、ファーストリテイリングが規模も伸び率もすごいことになっています。しまむらや青山商事と比べるとすごい成長しているのがわかります。

売上高(FR・しまむら・青山商事)

次に営業利益率。こちらは、SPAで展開するファーストリテイリングが強みがあるのだと思っていましたが、ここ数年はどんどん低下してきています。

営業利益率(FR・しまむら・青山商事)

というわけで、規模で考えれば、ファーストリテイリングがダントツの1位に向かって突き進んでいるのがわかります。で、ファーストリテイリングの決算発表をみると、海外売上比率がすごい伸びていて、35%まで達しているのがわかります。

fr

(出所:決算説明会 | FAST RETAILING CO., LTD.のプレゼンテーション資料から抜粋)

一方、しまむらでは台湾と中国に進出していますが、売上高でみると合計で1%にも達しません。

参考に、ファーストリテイリングとしまむらの決算概要のリンクを貼っておきます。
www.fastretailing.com/jp/ir/library/pdf/20150108_results.pdf
www.shimamura.gr.jp/finance/file/6104gaiyou.pdf

コスト構造の違い

両社のコスト構造を見てみました。これを見ると、両社の違いがよくわかります。

cost

昔からよく言われていることではありますが、ファーストリテイリングはSPAモデルなので製造原価が低いです。一方しまむらは、パート社員の活用など、販管費が低いと言われています。

冒頭の東洋経済の記事では、ユニクロの方がブランディングがうまいんじゃないかと書かれています。

それぞれ見る側の好みはありますが、近年のユニクロはテニスの錦織圭選手やジョコビッチ選手、ゴルフのアダム・スコット選手を起用。世界的デザイナージル・サンダー氏の起用やファッションアイコンのイネス・ド・ラ・フレサンジュ氏とのコラボなど、世界の一流といわれる人と組むことによって認知度を上げ、商品力を上げ、洗練度を上げてきています。特にジル・サンダー氏とのコラボ企画などは、それまでの氏の活躍を知っている業界人からすれば、あり得ないとしか言いようのないほど衝撃的な出来事でした。

ユニクロとしまむら、なぜ明暗が分かれたか | 企業戦略 | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト

これは、SPAによって製造原価を落とし、販管費にお金を投入できるビジネスモデルを構築してる、と見ることができるでしょう。逆に、同じぐらいの販管費率をしまむらは投入することが難しい、ということが言えると思います。

ちなみに、ファーストリテイリングの利益率が近年下がっているのも、販管費の低下が要因といえます。売上高に対する製造原価の割合はほとんど変わっていないですが、販管費の割合は少しずつ増加しています。ここも攻めの姿勢で展開している結果かもしれません。

まとめ

  • ファーストリテイリングは海外展開で売上を伸ばしている
  • ブランディングにお金をかけられるのは、ユニクロがSPAモデルで製造費用が低いから

ファーストリテイリングは、「グローバルとローカルの両立」を最近は掲げていますが、業績にもそれは現れてる感じですかね。海外売上を伸ばしつつ、メインとなる日本市場ではローカル志向として、各地域のニーズを細かく拾う形でサービスを展開しようとしています。これが、国内市場でも力強さを発揮してるんじゃないでしょうか。

大塚家具の中期経営計画は、イケア・ニトリの低価格路線を目指していないよ

keresi72 / Pixabay

大塚家具の創業者vs現社長の対決が盛り上がっていますね。

よく見かけるのが、「従来の高級路線 vs イケア・ニトリの低価格路線」という構図で、長女の久美子社長が低価格路線を目指していると表現されることです。

例えば、創業者であり会長のコメントを載せた記事にも、以下の記載があります。

一方で、久美子社長のやり方を、気軽に立ち寄れる店舗だが、低・中価格品シフトによる減収を、経費削減で補う縮小均衡型、とした。 「ニトリ、イケアを意識したら、間違える。家具は使い捨てじゃない。インターネットで、なんてダメ。われわれのよさは、最終的に商品をお届けしたときに、お客様にわかってもらえる」(勝久会長)。

反論!大塚家具、父・勝久会長が沈黙を破る | 企業戦略 | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト

明らかに、ニトリやイケアを意識した捉え方になっています。ただ、久美子社長が公開された中期経営計画書を見れば、その路線が違うことが明らかです。

以下が中期経営計画書の抜粋です。

中期経営計画

これをみると、イケアやニトリが開拓した市場から中価格帯を嗜好する人が出てくるはずで、そこをマーケットリーダーになって取り込むと書いてあります。既存のビジネスモデルで中価格帯から低価格へ顧客が奪われてしまったとあります。

ここからわかるのは、このままイケア・ニトリを模倣する方向性を狙っているのではないということです。

ビジネス環境が劇的に変化している

そもそも、家具市場はどうなっているかというと、全体的に縮小しています。

家具市場

統計データ|一般社団法人日本家具産業振興会の家具小売業時系列データから作成)

だから、従来のような家具の売り方では売れなくなっても当然で、既存のビジネスモデルが衰退期と言われる所以です。これまで家具は新築の時に一式買い揃える、というようなやり方が多く、まとめて買い揃えることができるビジネスモデルが良かったのかもしれません。しかし、これからは「空き家対策」と言われるぐらい住宅のストックがありふれていて、新築が当然のような時代ではなくなっています。

久美子社長がインタビューでこうやって答えてるのが象徴的ですね。

広告宣伝の中心であるチラシの枚数と来店客数の長期的な相関を見れば、かつてのやり方が通じないのは明らかなのです。2002年のチラシは3億枚でしたが、来客数は83万人でした。私が辞めた後の2006年には6億枚を配りましたが、来客は63万人です。20万人も減ったのです。チラシをまけばお客は来るというのは思い込みなのです。しかし会長はこうした長期統計も見ようとしません。

大塚家具、大塚久美子社長が激白!「すべて話します」:日経ビジネスオンライン

イケア・ニトリを模倣しても難しい

イケアやニトリは単なる低価格路線なわけではありません。SPAモデルによって、自社で製販一体とすることで低価格で品質が良い商品を送り出して、支持されてきているわけです。

しかし、先ほどの中期経営計画ではSPAに関しては言及されておらず、あくまで卸・小売のスタンスを変えないのだと思われます。確かに、いまさら同じビジネスモデルで勝負しても、簡単に勝てる状況ではないでしょう。それよりは、別のポジションで優位性を見出した方が勝機がありそうです。

様々な質の良い商品を選定し、新しいライフスタイルとして販売するところに、勝機を見出している感じですね。

まとめ

  • 中期経営計画には、イケア・ニトリに追随するとは書いておらず、むしろ中価格帯以上を維持する
  • そもそも市場全体が縮小しており、既存のビジネスモデルは衰退期
  • イケア・ニトリはSPAになっているけど、そこに飛び込むのは難しい

ニュースを読む限り、とても面白い案件です。

考えさせられるのは、創業者の成功体験というのは本当に根強いものなんだということです。外部環境が劇的に変わっている中で、既存のビジネスモデルで売上・利益を向上させ続けるのはとても難しいと思うのですが。

さて、まずは株主総会でどういう結論が出るんでしょう。

久々に、これを読み返そうかと思います。