AIという言葉はすっかりいろんなところで使われるワードになりましたが、実際どのように世の中を変えていくのか、というところでいえば、まだまだ実感できる人は少ないんじゃないでしょうか。
ソフトバンクの孫さんが「AIは予測」と言っていましたが、
孫社長は「AIの一番得意なことは予測だ。何でもかんでもやらせるべきではない」とも指摘。需要と供給を適切に予測することで、ビジネスでは在庫の回転率や販売効率の劇的な改善が期待できると説明した。
「日本、AI活用に目覚めよ」ソフトバンクG孫社長 :日本経済新聞より引用
この本を読むとその意味がわかるでしょう。
本書は、第三次AIブームのきっかけとなったトロント大学の経済学者が書いたAIの現状を示した一冊です。経済学の観点から書かれた本書は、AIがビジネス活動などに使われたときに、どういう効果をもたらすかを具体的に示してくれています。
基本的なAIの知識を理解したら、ぜひこの本を読むことをおすすめします。
AIはこれから幻滅されていく?どうしたらビジネスの現場で使われるのか
ガードナーのハイプ・サイクルによると、AIはこれから「幻滅期」を迎えるようです。
AIやブロックチェーンは幻滅期へ–ガートナー、日本の最新ハイプ・サイクルを発表 – ZDNet Japan
ディープラーニングで始まった第3次AIブームによって、いろんな場面でAIは使われて、どんどん世の中を変えていくというイメージを持たれているかもしれませんが、実際には様々な制約や限界があり、どのようなテーマでも万能に使えるわけではありません。そのことにいろんな人が気づき始めています。
本書ではAIが出す結果は基本的には「予測」であると言っています。そして「予測」とは次のように表現されています。
予測とは、欠落している情報を補充するプロセスである。予測においては、しばしば「データ」と呼ばれる手持ちの情報に基づいて、新たな情報を生み出していく。
なので、単純に「未来を予測する」ということだけでなく、様々な用途に対する「予測」が意味合いとしては含まれます。例えば、直近の顧客の行動を「予測する」であったり、何等かの行動を行った結果がOK/NGなのかを「予測する」であったり。
AIはこのような「予測」をコンピュータ上で実現することで、予測コストを低下させていきます。この予測コストの低下に対して、AIの投資額がバランスされれば、AIの導入されることになります。まずここで重要なのは、AIには適用領域の向き・不向きがあるので、適切にその領域を見極めることが重要だということです。
どういう条件を満たしたら、AIが人間を置き換えるのか?
ただ、AIはそれだけでは実はうまく使われないことが多いです。
AIは万能的な何かだと思っている人もまだいる気がしますが、実際はそうではありません。間違った判断を下すケースもあります。具体的には、AIは正解を不正解と言う場合もあれば、その逆で正解を不正解と言ってしまうケースもあります。その確率がどの程度かによって、実際の経済的な効果がわかるのです。
本書ではクレジットカードによる不正利用の検出が例として出てくるのですが、クレジットカードのある決済データを「不正利用」とAIが判断したときに、それが正しい場合と誤っている場合があります。正しいときは問題ないですが、誤っている場合は「正しく使っている人を不正として、ユーザーの利便性を低下させている」となります。
誤検出が多くてユーザーの利便性を大きく低下させると、ユーザーが離反してしまうかもしれません。AIの使い方によっては、そういう経済的リスクを誘発する可能性があるわけですね。
機械の判断の正しさを確信できるときには、プログラム化された判断に基づいて機械が行動を決めても問題はない。しかし状況が不確かなときは、機械に判断を任せる前に予め、間違えた場合のコストを慎重に評価しておかなければならない。予測が正しい場合と間違っている場合のどちらに関しても、人間の判断が必要とされる。結局のところ不確実な状況では、特定の決断からどんな見返りが得られるか判断するためのコストが高くついてしまう。
こういう、AIがどういうリスクを考慮し、導入を考えなければならないかがちゃんと書かれているのが、本書が良いなと思うポイントです。
AIが導入されると、その業務はどう変化するのか?
本書では、Googleやアマゾンが台頭してきたときに、経済的な価値としてどういうことが起こったのかが述べられています。
例えばGoogleが情報探索コストを著しく低下させたことで、調べる行為そのものではなく、得られた結果からどう判断するかが、人として重要な価値になりました。
ビジネスにAIが導入されることで、様々な業務プロセスの一部に大きなコストの低下が生じる可能性が高いです。そうやって価値が低下した部分にフォーカスするのではなく、その周辺の変化に注目すべきでしょう。
スクールバスの運転手の例が挙げられていました。
「スクールバスの運転手」と呼ばれる人物が、子どもの自宅と学校を往復するバスの運転をしなくなったら、給料を支払う必要のなくなった自治体はそのぶんを別の支出にまわすべきなのだろうか。いや、そうはならない。バスが自動運転になったとしても、現在のスクールバスの運転手は運転のほかにもたくさんの役割を引き受けている。まず彼らには、大人として大勢の学童の集団を監督する責任があり、バスの外で発生する危険から子どもたちを守らなければならない。同じように重要な役割が、バスのなかの規律を維持することだ。子どもたちを管理して、お互いにトラブルを起こさないよう配慮するためには、人間の判断が未だに必要とされる。バスが自動的に動いても、こうした補足的なタスクが消滅するわけではない。むしろ、バスに同乗している大人はこれらのタスクにもっと集中できるようになる。
何か新しい技術やサービスが出てきても、すぐに置き換わることの方が少ない。そして、改めてAIが代替する価値や、置き換えられない要素を考えるきっかけになるでしょう。
技術的な理解も重要ですが、ビジネスや社会に浸透していくことを考えると、経済学的なアプローチからAIを理解することが非常に有効ですね。新しい技術のきらびやかさに目を奪われるのではなく、冷静に俯瞰してとらえることで、惑わされることなく本質的な理解ができるということです。AIは万能なものではなく、あくまでツールです。今のところは。