野球を統計学で捉えることで、少ない投資でチームに勝利を導く。そんな実話を描いた映画「マネーボール」を見ました。
いやー面白かったですね。ブラッドピットの演技も良かったです。ひとつのエンターテイメントとして楽しめました。
「マネーボール」はデータ分析による弱者の戦略
映画「マネーボール」では、あまりデータ分析の内容は深くは踏み込まれていませんが、野球に勝つために必要な要素を抽出し、その確率を高めるための選手をデータから導き出すものです。詳しくは、Wikipediaに書いてあります。
マネー・ボール – Wikiwand
資金が乏しいチームが勝つために、他の資金が豊富なチームが見ない要素をデータから抽出し、勝ち点をもたらす選手を安く獲得できることを狙った「弱者の理論」でした。その理論を実行し、チームをつくっていったのがGMのビリー・ビーンです。この映画では、ブラッドピットが演じています。
データ分析の結果をどこまで信じるか
ビリー・ビーンは、データを重視することで、他チームが目をつけていない=年棒が安く獲得しやすい選手を獲得しようとします。しかし、そこでチームにいるベテランスカウトと対立が起こるのです。
- あいつは守備が下手だ
- 日常の生活が荒れている
- 年を取りすぎている
などなど。ここでは、「データは一面しか見えず、ベテランのスカウトは総合的に人を判断できる」という見方と、「人の観点は時に論理的でなく、過大評価・過小評価を招くことがある」という対立が生じています。
この対立が描かれているところに、「マネーボール」の面白さがあるなと思いました。どの組織でも、こういう対立が起こりそうな気がしたのです。
ダニエル・カーネマンは「ファスト&スロー」で、人には直感的に素早く情報を処理する「システム1」と、論理的に思考して理解する「システム2」の2系統があると説明しています。初めての人と会って、見た目でいろいろ判断するのがシステム1、計算などを行うことで、システム1よりはゆっくりと物事を理解するのがシステム2です。
参考:心理と行動の関係が理解できる「ファスト&スロー」
つまり、人は少ない情報から様々な特徴やパターンを抽出し、判断することができます。自分が得た経験に裏付いた直感みたいなものは、コンピュータで真似するのは結構難しいのも事実です(システム1)。一方で、データを分析し、その分析結果を論理的に理解するのは、時に直感に反する場合があります。それがシステム2です。どちらも完璧ではなく、良い点・悪い点があり、それぞれを補完するのが望ましいのだろうと思います。
データ分析を組織に導入する、というのは、従来のやり方を変え、当たり前と信じられていたことを否定することもあるでしょう。この映画は、そういう点が描かれており、非常に参考になります。
データ分析を活用するために組織に必要な人材とは
当たり前の話ですが、データ分析をどう活用するかは人次第になります。「マネーボール」では、主人公であるビリーがデータ分析の価値を認めたからこそ、実行に移されました。しかし、実行に移しても内部でスカウト、監督、選手からの反発があります。「そのデータだけで方針を決めるのか」と。
それでも、価値を信じて説得し、チームを形成していきます。それを遂行するGMであるブラッドピットは、まさにチームマネジメントであり、変革をもたらすリーダーでした。結局、人がそれに価値を認めないと、価値は価値ではなくなるのだな、と思いながらみていました。
また、野球以外にも様々なスポーツでデータ分析が導入されてきています。サッカーにもデータ分析の波がきており、最近だと元日本代表監督の岡田さんがデータ分析をこれから一層活用する、と言っていました。
岡田武史氏と考えるスポーツ・イノベーション(前編) – NewsPicks
データ分析はどんどん進化しており、データを可視化して傾向を出す、というだけでなく、様々な特徴や規則性などを自ら導き出すこともできるようになっています。それらをビジネスで活用し、結果につなげていくための人が必要になります。具体的には、データ分析の価値を認め、ビジネスに取り入れる決断をできるリーダーと、ビジネスとデータ分析の両方を理解し、データとビジネスの関係を繋げられるアナリストです。「マネーボール」でも、この両方が出てきます。(どうやら、アナリストの方は体型などのイメージが原作の人物と違うらしく、名前が変わっているようですが。)
そういう意味でも、どういう人材がいればデータ分析を使ってビジネスにインパクトを与えられるのか、組織の形成という点でも役にたつ事例だと思います。
それ以外でも、人間ドラマとしても良い映画でした。年末のお楽しみにぜひどうぞ。