【書評】会社を変える分析の力(河本 薫)

データ分析がブームです。元々分析チックなことは好きな理系だったのですが、このブームはいつまで続くやら、という感じがしています。とはいえ、データ分析が企業経営に役立つ手段のひとつであることは間違いありません。

今回は、データ分析が企業を変えるためには、どのようなアプローチが必要かが書かれた本を紹介したいと思います。

本書の論旨は簡潔です。データ分析の目的は、「分析結果をいかに意思決定につなげるか」。企業の様々な意思決定に役立たなければ、どれだけデータ分析しても、自己満足や使われない分析結果になります。

データはビジネス分析に十分に活用されていない

ビッグデータがバズワードになっていますが、確かに世界ではデータ量が著しく増加しています。

  • 2020年までに40ゼタバイトまで増加する。2012年が2.8ゼタバイトだから、14倍以上増える計算になる。(ゼタバイトは、ギガバイトの10億倍)
  • マシン由来のデータが、2005年は11%から2020年には40%にまで増大する。
  • ビッグデータに有効と思われるデータは、全体の23%程度。現状は0.5%程度しか利用されていない。(ここがビジネスギャップ)
  • セキュリティの観点から、保護されるべきデータのうち半分しか実際は保護されていない。

ASCII.jp:2020年は40ZB!デジタル・ユニバースの未来とは?

ビッグデータに有効と思われるデータが全体の23%、という根拠もよくわからないですが、とにかくあまりデータが利用されていなくて、そのギャップにこそ商機がある、というのが今のビジネスシーンのようです。

しかし、ビッグデータに限らず、もっとデータ分析を行い、業務に活用する機会があるのでは、というのが本書に書かれていました。僕もそう思います。

業務システムに保存されているデータの多くは、分析されたこともない宝の山です。しかし多くの企業ではビッグデータへの関心が高まる反面、リトルデータへの関心が薄らいでいるように思えます。ソーシャルメディアの莫大なデータを分析する前に、社内の営業データは十分に分析できているか自問してみましょう。秒単位のデータを分析する前に、日次データは十分に分析できているか自問してみましょう。

中小企業であれば、ExcelとかAccessからスタートしても、集客に向けたマーケティングやリピーターの確保のためのデータ分析ができるんじゃないでしょうか。

リピーターになる時期は予想できる | Synapse Diary

データサイエンティストに求められるスキルとは?

データサイエンティストが今最もセクシーな仕事で、世界的に不足していると言われていますが、これは統計学の知識があったり解析ソフトの扱いに長けているだけではないことは、本書を読むとよくわかります

それらはあくまで前提であり、最も重要なことは、分析結果が組織の意思決定に影響を与えるようになることです。そのためにはたくさん壁があるのですが、それは本書を読んでください。

現在は、ITの恩恵で、どんな分析でも、誰もが簡単に実行できるようになったのです。そのような時代では、分析を実行する力よりも、どんな分析をするか構想する力が問われるのです。

データサイエンティストは、企業における問題とデータとをつなげる役割を担います。それはこのスライドを見てもわかります。

また、ビッグデータによる全量データ解析が進み、重要なのは相関関係にシフトすると言われていますが、やはり因果関係まで特定することは重要です。因果関係が特定できることで、解決策に汎用性が生まれ、発展が生まれるからです。そして、相関関係から因果関係へ導けるのは、今のところ人間だけです。

ということで、データを分析したい人も、データ分析を組織に活用したいと思う人もこの本を読みましょう。仕事や経営に常に問題意識を持ち、データ分析と結びつける感覚が養うことができると思います。