ローソンのデータ分析の取組が面白そうだ

ローソンが現場での仮説・検証には限界があることを提起している。

「現場任せの仮説・検証はもう古い」--ローソン・新浪社長の問題提起 – 情報を活かす組織:ITpro

この話は結構興味深い。

まず、現場での仮説・検証で有名なのは、セブンイレブンだ。現場での仮説・検証を作る体質を浸透させて、高い平均日販を維持している。他のコンビニと比較しても、セブンイレブンだけ突出している。

【63】データから見るコンビニ市場 | BPnetビズカレッジ:トレンド | nikkei BPnet 〈日経BPネット〉

「ストーリーとしての競争戦略」でも触れていたが、これはセブンイレブンのオペレーション力が長年に渡って強化されてきたことが大きいのだろう。

戦略の本質を理解する良書 – 【書評】ストーリーとしての競争戦略 | Synapse Diary

さて、記事で語られているローソンの今後の先読みロジックは、次の通りと思われる。

 

高齢の人口比率が高まる

⇒遠くに買い物に行くよりも、近く(コンビニ)に行く人が増える

⇒過去の行動パターンからの予測が難しくなる

 

そこで、次の大きく2つのアプローチから、予測精度を高めようという試み。

・データ精度を向上させる

・データを増加させてパターン分析する

 

これを両方解決する方法として、会員登録によるユニークユーザ情報の収集を積極的に行っている。興味深いのは、一部のユニークユーザの方法が全体の傾向を示している、という事実だ。

 

 

「カード利用率が20%の店舗では、このお客様の購買動向が全体の90%ぐらいを表している。これを使わない手はない」

 

 

要は、質より量なんだな。

統計分析は今後ホットな分野になる、という話もあるし、精度の高いデータの収集と分析は、今後もっと面白くなりそうだ。

次の10年、「統計分析」こそテクノロジー分野でいちばんホットな職業になる - Publickey

J-SaaSの利用者が増えない理由を考えてみる

経済産業省の支援で構築された中小企業向けSaaSの「J-SaaS」の有料サービス利用者が、当初想定の3000分の1とのこと。具体的な数値としては、最終目標50万社に対し、150社に留まっている(日経コンピュータより)。
 
J-SaaSの意図するところは理解できる。

中小企業のパソコンおよびインターネット環境の普及率は8~9割であるにも関わらず、財務会計や給与計算などの業務でITを活用している企業は2割~4割に留まっているそうだ。
ASCII.jp:J-SaaSの仕掛け人、経産省の安田さんにお話を聞く

中小企業のIT利用率を向上させることで経営効率を高め、中小企業の競争率を高めようという狙い。そのハードルとなっている初期投資の高さを、SaaSでカバーする、というもの。これだけなら、ニーズはありそうなもの。具体的なメニューは次の14コ。微妙と思うものもあるが、できるだけ業種・業界に依存しないところをサービス化しているのはよくわかる。システムを持たずに低額で利用できるのなら、中小企業側としてもメリットがありそうだ。
 

 

 

なぜ利用率が伸びないのか

まず、J-SaaSという基盤を用意した上で、その普及をどうやって行うんだろう。それは「普及指導員」という制度があるらしい。

「J-SaaS」の普及活動を行なうのは、税理士、ITコーディネーター、中小企業診断士、地域ベンダー、販社社員など日頃中小企業にアドバイスをしている立場の、様々な職業からなる「普及指導員」と呼ばれる人たちだ。
ASCII.jp:J-SaaSの仕掛け人、経産省の安田さんにお話を聞く

正直、これは厳しいんじゃないか。講習を受けた人は、業務のFit/Gapを受けるわけでもなければ、データ移行もできない。J-SaaSがだめになったときのリスクヘッジも考えてくれない。いや、まあ考えてくれたりしても、責任というコミットメントをしてくれないだろう。これは、金額とか費用対効果とかその前に、普及させるまでの戦略に失敗がある気がする。
  

普及の仕方にネックがあるのでは

中小企業庁の発表によれば、日本全国では約430万の中小企業が存在する。J-SaaSの目標は150万社というのだから、全体の11.6%。感覚的には、目標として大きすぎるんじゃいか、と感じるがどうだろう。
 
費用対効果の面を考えてみると、ライセンス形式の費用形態になっているし、1ヶ月程度の試行期間もある。SaaSになればハッピーですよ、というわかりやすい見せ方ではある。
 
 
一般的に、システム導入には大なり小なり、知識と労力が必要となる。そして、J-SaaSのHPの導入フローがこれ。↓
 

中小企業は資金も知識も不足している状況なのに、「業務のやり方見直し」とか言うシステムと業務のFit/Gapをできるんだろうか。多少なりとも、コンサルタントやベンダーを入れて、導入・定着へのアシストをしないと、まだハードルは高いんじゃないかと思う。果たして、1ヶ月の試行期間で「うちの会社はこれでいってみるか」と太鼓判を押せる企業はどれだけあるだろう。
 

データ移行とかしてくれるのかな?

財務会計のメニューになると、結構有名な財務会計ソフトのJ-SaaS版が提供されている。
J-SaaS|商品一覧

例えば、これまでソフトウェアとして勘定奉行使ってたけど、J-SaaSに切り替えたい!となった場合に、これまで溜め込んだデータはどうするんだろうか。過去遡って計算される税金や給与のデータは、一から入れ直したりするのかな。そんなわけはないよね。そうであって欲しい。
 
でも、仮に移行できるんだとしても、それも結構簡単な仕組みとして用意しておかないと、ベンダーがやるわけではないんだから「できますよ」というだけでは厳しいと思うけどな。公開されている情報からではそこまではわからなかった。

もしくは、新規利用客をベースにしてるんだろうか。
 

会社の基盤を他に預けるデメリットを超えられるか

財務会計や人事給与などのデータをSaaSに預けることは、中小企業にとっては不安に感じる要素でもあると思う。ソフトウェアを購入することと、J-SaaSには大きな違いが2つある。
 
ひとつは、購入すればサポートがあるとかないとか関係なく、手元にデータがあることだ。これは、中小企業にとっては大きい。なぜなら、労力も資源も限られているので、頻繁にシステムとかソフトウェアを乗り換えるとかしたくない。長く愛用することが、リスクヘッジにもなるし、総合的な費用対効果としてメリットが生じる場合もある。(一概には言えないけど。)
 
もうひとつは、ベンダーやサポート業者と契約関係にできること。わからなければ、「とりあえず来てよ」とか「わかんないなら、電話だ電話」みたいなことになる。でも、J-SaaSの場合はそれがない。利用者に対するコミットメントが低い。利用し始めたらサポートの電話対応ぐらいはしてくれるかもしれないけど、導入までの普及指導員に任せる制度だし、かゆいところに手を伸ばしてくれるような感じはない。
 
結局のところ、SaaS形式は「一時的に必要なシステム」に一番向いており、継続的に利用するためにはハードルがまだある、ということ。
 
 
 
というわけで、いろいろ思い当たるところを、調べられる情報と推測を組み合わせて書いた。誰か、現状に詳しい方がいれば、突っ込んでいただけるとありがたい。
個人的には取り組みとして面白いとは思うけれど、不十分と言わざるを得ないだろう。SaaSなどでイニシャルコストを下げられるようになった今後は、デジタルデバイドの解消のネックは、「現場でのシステム導入までのアシスト」なのかもしれない。(もしくはBPOの普及かな。)

IT業界が今後進出する産業を勝手に考えてみる

 

IBMの更なる進化 – 経営戦略コンサルの洞窟を読んで、触発されて書いてみる。最近、スマートグリッドや電子書籍が話題になることが多く、ICTとして対象範囲をまだまだ拡大している気がしている。

そこで、今後可能性のある分野を勝手に考えてみた。

まず、ICT技術の特徴として、次の3つがある。この強みに当てはまる可能性がある産業は、今後もっとICT技術が活用されていくと思う。

①医療

 電子カルテの普及率は、全国でまだ20%未満。(参考:伸び悩んでいた電子カルテ市場、2013年には 1324億円規模に成長:MarkeZine(マーケジン)

 電子カルテの普及とともに、カルテの個人帰属も重要だろう。複数の病院にかかると実感するが、違う病院の治療歴などをわざわざ答えないといけなかったり、レントゲンを病院ごとに撮り直されたりする。個人に帰属するはずの診断情報は、病院ごとに閉じているのが現状。
 国民IDの実現と合わせて、電子カルテの普及とその個人帰属を進める流れが来て欲しい。

②自動車

 EV車の低価格化など、電気と車は緊密さを増している。また、カーナビには通信機能があるので、車移動向けのネット情報の配信やインタラクティブな情報のやり取りが実現してもおかしくない。
 実際、GoogleはGoogle Mapなどの情報を利用して、効率的な交通情報を提供する仕組みの構築が進められている。(参考:自動車にもGoogleのサービスをつなげたい – インテリジェント・カー – Tech-On!

③マスメディア

 テレビ離れがずっと言われていて、大手テレビ会社の広告収入が激減したことからも、テレビというメディアの広告効果に疑問が呈されているのだと思う。
 ICTの仕組みを考えれば、視聴率はテレビを設置している各世帯から全て取得できるようになるんじゃないだろうか。そうすれば、今みたいなサンプリングでの視聴率という、ネット広告のPVやクリック数に比べて効果が曖昧な点を、解消できるんじゃないだろうか。

 あと、新聞もやっと日経が電子媒体の提供を開始したけど、Kindleみたいな電子端末を配布して、新聞データを毎日配信すれば良いのに。そうすれば、物理的に宅配する手間が省略できる。しかも、複数の新聞を同時購読できて、検索機能とかクリップ機能なんかがあれば、今の3000円~4000円の新聞購読料でも支払って良いかな、と思う。

④レンタル事業(図書館も含む)
 CDやDVD、本のレンタルについても、基本的にはコンテンツビジネスなので、物理的制約を排除できる。問題は、コピーコントロールや期間が来たら手元からコンテンツを削除する仕組みだろう。
 ただ、実際アメリカの図書館では、デジタルデータを利用者に配布して、期限がきたら削除する技術が導入されているらしい。(つい最近、そういう記事を読んだけど、ソース元を忘れてしまった。。。)

 こういうレンタル事業も、実際に店舗に訪れたり、郵便でやり取りする流れから、iTunes Storeみたいに直接通信から受け取るモデルに変化するだろうか。

思いつくまま列挙してみた。ICT技術は高度化し、ビジネス対象をどんどん細かくすることが可能になってきたから、まだ可能性は広がりそうだなあ。
 

月刊「環境ビジネス」2009年10月号
株式会社日本ビジネス出版

自治体クラウドが新しい行政単位や経済圏をつくるのかも

自治体クラウドの実証実験が始まっている。県や市町村で業務モデルをすり合わせて、要件を整理する作業が行われているそうだ。個人的な見方としては、ここの部分は非常にしんどい作業だと思われる。

企業でも何でもそうだが、組織によってやり方はある。行政だって同じ。そこを同一のシステムを利用可能にするんだから、ERPみたく「パッケージに業務を合わせる」という発想を中心に取りまとめないと、纏まるものも纏まらないのではないか。

でも、自治体クラウドは新しい行政単位を考える良い機会になるのではないか、とも思い始めた。
自治体クラウドは、おそらくどこかの自治体がプライベートクラウドを持ってそれを他の自治体が利用料を支払う、という形態が主流になると思われる。

すると、ある自治体クラウドの参加する自治体は、ITインフラを各自治体が保持する必要がなくなり、業務内容がほぼ統一されることになる。これが進展すれば、業務の効率化・集約が行われ、コスト削減が期待される。ここまでは、一般的に言われている自治体クラウドの効用だ。

さらに考え方を進めると、自治体クラウドはある程度エリアが近いところが集まって構築が進められると予想される。すると、どの自治体が中心になって、どのエリアまでを自治体クラウドの範囲にするかによって、新しい擬似的な行政単位が形成される可能性が考えられる。
(地方では、どことどこが仲が良い、であるとか、中心になるならあの自治体、みたいな「何となく」な空気はあると感じる。)

システムの共同利用や業務の統一化などが進むと、自治体間で共通的な政策を行ったり、地域インフラを共通化するなど、経済圏がもっと鮮明かつ活発に形成されるのかもしれない。

そう考えると、平成の大合併みたいな上意下達のような合併ではなく、地域から自主的に形成される行政エリアが醸成される可能性だってある。むしろ、そういう流れを期待したい。


あわせてどうぞ。

 

マイクロソフトが公共機関に対して積極的

マイクロソフトが、子ども手当の事務処理向けにExcelテンプレートを配布している。
子ども手当事務支援 Excel テンプレート | 公共機関向けトップ

ユーザ登録なども不要で、誰でもダウンロードできる。試しにダウンロードしてみたら、VBAで作られているようだ。コード自体もシンプルにできているみたいなので、カスタマイズも可能だろう。
 
それにしても、「ITにおける官民協働ってなんだろうね 」も書いたけど、マイクロソフトは公共機関に対して積極的だ。

近年のマイクロソフトは、公共機関に対してこういった付加サービスの提供を行ったり、公共機関向けに優遇されたライセンス契約のプランを用意するという一方で、ライセンス違反に関する調査を実施するなど、硬軟両面から公共機関への営業の強化を行っているようです。今回の取組みも、公共機関にずっとWindowsやOfficeを使ってもらうためという意図であろうと思われます。
マイクロソフトが子ども手当事務処理Excelテンプレートを配布している – ある地方公務員電算担当のナヤミ

公共機関は、それ自体をひとつの市場として捉えたとき、ひとつの大きな市場だと思うし、そこから派生する社会的信用や影響力も大きなものだと思う。特に、最近は中小自治体での財政難の流れから、マイクロソフトのOfficeを敬遠する空気も出ている。OpenOfficeでも十分なんじゃないか?と。

(こんな勝手なイメージ。)
 
実際、会津若松市ではOpenOfficeが導入されている。まだ、導入による混乱があったりコスト効果も明確には見えていないかもしれないが、行政機関がOpenOfficeになると、業務上取引がある業者などは、OpenOfficeに合わせる対応を行う可能性が高い。
Trend Insight:会津若松市のOpenOffice.org導入、職員の本音 – ITmedia エンタープライズ

マイクロソフトは、利便性をアピールしていくことで、こういう流れに歯止めをかけられるんだろうか。

 

ITにおける官民協働ってなんだろうね

また自治体クラウドネタから。ITで官民協働できないもんかね?ということも少し考えてみる。財源に余裕がない自治体が多い中で、どうやって民間と協働して、コストを最適化できるか。
 
 
ボランティアを募る
 
箕面市が、脱MSを打ち上げてOpenOfficeを採用したり、中古PCと無償OSのLinuxを導入してシステムを構築しようと取り組んでいる。ここが面白いのは、サポーター企業を募集していることだ。いうなれば、ボランティアみたいな位置づけ。最初このニュースをみてびっくりしたが、「ボランティアだし、続かないだろ」みたいなことを考えていた。
 
「脱MS」、箕面市が中古PC約500台をLinuxで再生利用 - @IT

 
でも、よくよく読んでみると、結構よく考えられている。募集要項を見ると、サポーター企業には次のメリットがあるとしている。
 
 ・MS依存脱却や中古PCの活用など、前例のない取り組みのノウハウ構築
 ・自治体側もサポーター企業をPR
 ・システム構築の取り組み自体を書籍化するため、出版社も募集
 
企業としてみれば、「他にはない実績をつくる」ことはビジネス上貴重であり重要だったりする。そういう「仕事そのもの」を価値として転換してしまっているのが面白い。あとは、自治体そのものがPR機関となったり、他からPR機能を募ったり。

 
自分たちの直接的なお金を投資せずに、企業に魅力を打ち出しているのは、発注者としての自治体の考え方を再考する材料になる。
 
 
民間の無償提供を受ける
 
前述のボランティアと似てるけど、微妙に違う。実は、マイクロソフトなんかは、自治体と提供して無償サポートプログラムを提供している。
 

マイクロソフトは、2009年度から「地域活性化協働プログラム」をスタート。この制度では、「高齢者向けICT活用促進プログラム」「障碍者向け支援プログラム」「NPO活動基盤強化プログラム」「教育分野人材育成プログラム」「ITベンチャー支援プログラム」「セキュリティ自治体連携プログラム」の6つの支援プログラムを用意。これらを組み合わせて、地域活性化に向けて、マイクロソフトが自治体や地域のNPOを支援するものとなる。
マイクロソフトが自治体を対象に、無償でIT利活用支援を続々展開するのはなぜか:大河原克行「マイクロソフト・ウォッチング」

これも、マイクロソフトは自治体に新しい価値を見出している気がする。つまり、地方自治体が地方産業のプラットフォームとして、いろいろなきっかけを作りやすい機関だということ。プログラムをみると、高齢者向けや人材育成など、ITを十分には活用しきれていない人に手を伸ばしたり、産業として高度技術を活用してもらうきっかけを作ったりしている。
 
企業からすれば、自分たちの製品を使用してもらう機会を増やすことになるし、自治体からすれば、市民の利便性が上がったり産業振興につながるので、Win-Winの関係になっている。
 
 
どちらも、お金以外の何かを、自治体の価値として見出している。そこに民間は目をつけて協働するのだろう。こういう事例をみると、自治体の魅力というものは、お金以外にもまだまだある気がしてくる。

 

自治体クラウドってどうすりゃいいんだろうねえ

この間、自治体クラウドについていろいろ考えてしまったので、思うところをつらつら書いてみる。
クラウドの論点は、いろんなところでズレやすい感じになっているが、HaaS(IaaS)やPaaS、SaaSがごちゃ混ぜになったり、パブリッククラウドとプライベートクラウドの区別なく語られるケースも多くて、議論が散漫になるよね。。。
 
 
自治体クラウドを導入すると、何が良いんだろう?
 
今「自治体クラウド」として多く語られていて、長崎県などが導入実験しているのは、自治体がクラウドサービスを構築する「プライベートクラウド」。この場合、よく言われる「データがどこにあるかわからない」「誰がどう管理しているのかわからない」というような、クラウドでよく問題視されるようなセキュリティやガバナンスの問題は、だいぶ小さくなる。何せ、今まで通り、システム基盤やデータは、クラウド構築者(自治体)が保持することになるのだから。
 
プライベートクラウドを構築して、いろんな自治体に共同利用してもらうことで、固定費に対するスケールメリットを出したり、業務の標準化による効率化を行おう、というのが狙い。あと、市民サービスの均質化もあるかも。
 
Weekly Memo:動き出した自治体クラウド市場 (1/2) – ITmedia エンタープライズ
 
 
財政に余裕がないんだ。税金だし有効に使わなきゃいけない。クラウドってそういうのに役立つの?
 
役立つはず。上記の通り、利用側は利用料を支払う代わりに、システム構築費や運用費は不要になる。安めのPCとブラウザさえあれば、業務は済んでしまうかもしれない。ただし、規模の小さい自治体は、注意が必要になる。都道府県CIOフォーラムでも言われているが、現在の目安では10万人規模はないと、コストメリットが出しづらいようだ。今の現状から見ると、長崎県の事例のように、広域自治体が構築して、基礎自治体や他県に共同利用を求めるのが、バランスとしては良い気がする。
 
ハードウェアやOSなど、持っている資産を最小化することが目的なら、いきなり自治体クラウドを考えるんじゃなくて、民間のクラウドサービスを利用したり、仮想化でハードウェアリソースを集約するような動きから検討するのも良い。何十とシステムを保持している自治体なら、一定の効果は出せるかもしれない。
 
 
どうすれば自治体クラウドは実現できるの?
 
ハードルはいろいろ有る気がする。まずは、複数の自治体が方向性をひとつにすること。自治体クラウドは、誰かが構築して、それを利用する複数の誰かが必要になる。つまり、需要と供給がちゃんとそろわないと、成立しないことになる。「僕が作ります」とか「あなたが作ってくれたら、ちゃんと利用します」という流れが、自治体間で形成されることがスタートになる。
 
次に大きなハードルに思えるのは、業務の標準化。自治体の業務なんて、だいたい一緒でしょ?みたいなイメージがあるが、どうやらそうではないらしい。どこにでもある、財務系の業務をとっても、各自治体のこれまでの慣習や担当者の属性によって、微妙な違いがあるそうだ。こういう小さな差異が、システムを使用する上では結構支障になる。大小あるだろうけれど、日ごろの業務が変わることによる混乱や抵抗に対して、それを擦り合わせる調整コストを無視することはできない。これをどうクリアするかも、大きな課題だろう。
 
 
とりあえずこんなもんかなあ。

あわせてどうぞ。

 

【書評】アジャイルと規律

最近、日経コンピュータとか読んでも、時々「アジャイル」という言葉を目にする。数年前に流行ったと思っていたが、着実に現場にアジャイルは浸透されたりしてるんだろうか。システム運用なんかにも適用できないかと思い、興味本位で読んでみた。いろいろ考えたことを書く。
 
 
俊敏と規律のバランスを考える
 
本書の中では、システム開発の進め方を、アジャイルと計画駆動という大きく2つに分類し比較することで、アジャイルの特徴を述べている。この本を読んで思ったのは、どこまで規律を求めるか、ということ。何でもかんでも文書化して指標とって、コントロールすれば良いという訳ではない。チームの規模やシステムの複雑性、メンバの能力などに応じて、必要な規律の度合いは異なるでしょう、ということ。フットワークを重視すると、変化に柔軟に対応できるが、その分コントロールが行き届かず、責任も不明確になり易い。
 
どこまで文書化したり指標をとったりするかは、それぞれの状況によって適切な度合いがあるはず。それを常に考えることが必要。余りに規律を厳しくすると、作業が非効率になったり、無駄な作業を生んだりする。基本的には、手戻りや無駄な作業が多く発生しているポイントは、規律を強化した方が良い。
 
 
顧客をどのように巻き込むか
 
アジャイルでは、顧客の知識度合いや距離感を非常に重要視しているが、これはどの手法であってもどのシステムであっても重要であることには変りない。本書の中では、「CRACK」と表現していたが、その通り、
 
協力的(Collaborative)で、顧客の意思をきちんと代表しており(Representative)、権限を持ち(Authoraized)、献身的で(Committed)、知識のある(Knowledgeable)人
 
であることが重要なのだ。システム開発や運用の円滑な進捗は、カウンターパート(ユーザ側の窓口)がいかにCRACKであるかが、大きな割合を占めると思っている。ユーザ側の窓口を選ぶことはなかなか難しいけど、顧客の要求仕様のブレが手戻りを招いたり、ちゃんとテストして品質を上げてリリースすることが、リリース後のシステム運用の効率化に寄与することを教えないといけないと思う。
 
例えば窓口担当者が、現場からうまく要求を吸い上げられないときは、一緒にヒアリングについていったり、情報を整理してあげたり、漠然としたヒアリングではなく選択肢を作ってあげたり、できることはいろいろある。
 
顧客には顧客の論理がある。ベンダにはベンダの論理がある。これをお互いが理解して、協力的になることが必要なのだ。改めて思った。
 
 
システム運用にアジャイルってどうなの
 
結論からすると、余り向かないと思われる。アジャイルの特徴は、小規模で変化を重視するタイプであり、メンバの暗黙知を活用することを前提としている。しかし、システム運用では、既に稼働しているシステムに対して大きく変更が加わることは稀であり、システムの安定稼働が最優先とされる。つまり、品質と速さをバーターの関係で考えた場合に、品質が重要視される。
 
ただ、全く活かされない訳でもないと思う。システム運用でも、短いタームでクイックに結果を出して、システムが改善され業務が改善される実感を作ることは望ましい。だから、極力小さめで、業務にインパクトが大きいものを優先してリリースしていく運用スキームを顧客と作り上げるのが良いんじゃないだろうか。
 
あと、アジャイルで特徴的なペアプログラミングなども、ナレッジの継承としては有効かも、と思う。システム運用は数年単位で行われるし、その間に人は入れ替わる。いつでも知識の継承は課題になるから。特に、ソースに関する知識は、直接目に見えない部分も多いため、属人的な知識になりやすい。

今後のITシステムは、内製化かフルアウトソーシングのどちらかしかないんじゃないだろうか

たまにはIT屋らしく。岐阜で開催してる勉強会で議論しながら思ったので、整理するために書く。

 

内製化できる企業が強い

システムの内製化は、去年は何かと話題に上がった気がする。内製化のメリットは多い。

  • 変化に迅速に対応できる

ITベンダに外注する場合、状況が変われば「仕様変更」扱いで、文書作成して手続きを行う。場合によっては、追加料金。これでは、依頼主も変更する気力が失せる。その後、ベンダの提示したスケジュールをウォーターフォールで行って、ユーザテストして、リリース。これでは時間がかかってしょうがない。

  • ITベンダの不透明な金額に付き合わなくて済む

人月とか、管理工数とか、正直どこまで妥当かわからないよね。ベンダが提示してきた価格の正当性を突き詰めるよりは、自分たちで作っちゃう方が、はるかにすっきりする。不当に高い金額を払っているのに、それを評価することもできない現状は問題。

  • コミュニケーション工数を抑制できる

業務分析などを行うことで、業務が標準化されることにはメリットがあるが、何かを変えたり調べたりするために、ベンダにいろいろ伝えるのは面倒だ。これがずっと継続されると、コミュニケーション工数は膨大になると思われる。これでは、ミスコミュニケーションが発生したり、伝達行為そのもので労力を多くかけてしまっているんじゃないだろうか。

 

内製化をナビゲートする企業やコンサルタントが儲かったりして

少し前に、沖縄県の浦添市が内製化に踏み切ったニュースが流れた。
沖縄・浦添市の内製回帰事例から学べること – GoTheDistance

これを読んで思ったんだけど、こういうパターンって今後増えてもおかしくないし、その方が嬉しい、と思ったりする。そうすると、内製化をナビゲートすることを「売り」にした企業やコンサルタントが出現したりして。

既存のシステムを自分たちで引きとって運用していくために、アドバイザーや初期の立ち上がり補助として参画する。で、うまくノウハウを伝えて独り立ちしたら終わり。とか、必要なときだけサポートを受けますよ、とか。内製化で減らした運用コストの何%かを出来高フィーとして受け取る、なんてことまでできるとすごいな。まあ、妄想だけど。

 

中途半端なアウトソーシングではなくフルアウトソーシング

本業と関係ないところは、業務ごとフルアウトソーシングしてしまえばいいんじゃないだろうか。そうすれば、システム資産を抱えなくてもいいし、料金体系もわかりやすい。中途半端にシステムを作ったり、ベンダを介入させると、両者にあまり良いインセンティブが働かない気が最近はする。

クラウドは、どこまで本格的に普及するかはわからないけど、本業は内製化で注力した方が良いと思うし、大切じゃないところはフルアウトソーシングが良いと思うので、そう考えると、クラウドは「急いで必要だけど、期間限定」みたいな場合がメインな使われ方になるんじゃなかろうか。違うかな。ここらへんは正確には読みきれないのが正直なところ。

 

とりあえず個人的には、変化に強いシステムにするには、内製化が重要だと思う。ITベンダはビジネスモデルを変えながら、生き残れるだろうか。

ソフトウェア開発はなぜ難しいのか

ソフトウェア開発の根源的な難しさを考察した一冊。なんというか、これを読んだからといってソフトウェア開発の問題が解決する訳でもないのだけれど。ただ、なぜ難しいのか、だったりなんでデスマが発生するのか、ということについては、理解が深まると思う。前提を知っておけば、少しは対処できるだろうし。
 
というわけで、気になったことを書き留めておく。
 
 
自分のプロジェクトの開発規模はCOCOMOで検証する
 
COCOMOの統計で、ちゃんと経験則が公式化されていることを知っておくのが良いかと。自分がいるプロジェクトの開発規模が、人日計算やFP計算と突き合わせたとき、大体合っているかは、比較しておいて損はない。
 
あと、開発規模が大きくなればなるほど、開発するための調整コストが飛躍的に伸びることに注意すること。当然といえば当然なんだけど、感覚的に見積もる場合は、こういう調整コストって、ほとんど計算に入れられてない場合もよくあるので。
 
もう少し、COCOMOをちゃんと勉強しようと思った。
 
 
仕様の変更にいかに柔軟に対応するか
 
本の中では、仕様確定が統計的に開発のどのタイミングで多く発生するかのグラフがあった。主に、開始から30%~40%ぐらい進捗したあたりが、最も仕様確定が大きい。つまり、最初から仕様を確定するということが、いかに困難であるか、ということだ。身にしみてわかっているはずなのに、いつまでもウォーターフォールの幻想から抜け出せない。
 
ただ、ウォーターフォールは誰でも理解しやすく、契約上も区切りを設けやすい。そういう中で、どういう仕様の吸収の仕方をすれば、柔軟に対応できるんだろうか。本書ではアジャイルをひとつの可能性として謳っている。もう少しアジャイルとか勉強してみよう。こういう本を読んで。
 

アジャイルと規律 ~ソフトウエア開発を成功させる2つの鍵のバランス~
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万能な答えはない、根源的な問いがあるだけ
 
この本は、最終的な答えはもやもやしたまま終わる。これまでのソフトウェア開発の経緯とか、よく陥りそうな罠などは順序立てて説明してあるので、わかりやすかった。あまりちゃんと勉強したことない人向けかな。モデル駆動開発とか、ソフトウェアクリーンルーム手法とか、知らない単語が出てくれば、そこから知識を広げるのも面白いと思う。
 
個人的にはいろいろ勉強のきっかけになる一冊だった。


あわせてどうぞ。