これまで散々GoogleやAmazon、あるいはプラットフォームのビジネスモデル全般の強さの秘密が書かれた本が登場してきましたが、本書ほどプラットフォームのビジネスモデルの強さの理由、成功の要因を詳細に解説された本はありませんでした。
これは、プラットフォームという比較的新しいビジネスモデルを詳細に解き明かした本です。
ビジネスモデルに関する本としては、久しぶりに刺激が多くて面白かったです。
プラットフォームはなぜ強いビジネスモデルなのか
プラットフォームは参入障壁が高い
この物語のポイントは、「ソフトウエアは、それだけならコモディティーにすぎない」ことだとウィルソンは語る。「つまり、いずれその機能が誰かにコピーされ、改良され、もっと安く、もっとスピードを高められるのを止められない」。そこでUSVの投資理念がものを言う。コモディティーにすぎないソフトウエアには投資したくない。では「何が防御性をもたらすのか」。そこでウィルソンとパートナーが出した答えは「ユーザー、取引、またはデータのネットワーク」だったと、ウィルソンは説明する。「そこで私たちは、ソーシャルメディアに行き着いた。デリシャスやタンブラー、ツイッターだ。それからエッツィー、レンディング・クラブ、キックスターターなどのマーケットプレースだ」
つまり、直接的に保有している経営資源ではなく、プラットフォームに参画するユーザーや販売者が参入障壁になっているわけです。
資源が少なくて済む
プラットフォームのもう一つのメリットは、必要な資源が少なくて済むということです。
プラットフォームに必要な設備投資は、はるかに少なくていい。社内にためこむ内部資源もずっと少なくてすむ。たとえば、プラットフォーム企業に必要な人員は、比較的少ない。ウーバー、エアビーアンドビー、リンクトインはそれぞれ、8000人以下でグローバルなオペレーションを動かしている。アリババの社員も2015年初めの時点で3万5000人以下だ。これに対して、総売上高がアリババと同程度のウォルマートには、200万人以上の従業員がいる。
桁が一つ二つ違うレベルで、同じ規模の事業を運営できる力はすごいですね。
プラットフォームの難しさ
一方で、プラットフォームの難しさも本書ではふんだんに語られています。
詳しくは本書を読んでいただきたいですが、しっかりとプラットフォームの事業価値を捉えて運営しないと、登場しては消えていったたくさんのプラットフォームと同じ運命をたどるんだ、ということです。
プラットフォームの事業価値を理解する上で、フェイスブックやツイッターの事例が面白かったですね。
フェイスブックはなぜ成功したのか
よく言われる話ですが、フェイスブックはSNSでは後発でした。それでもこれほど成功した理由はなんでしょうか。
本書では、これまでに僕が聞いた説明よりも、より具体的に分析されていました。
フェイスブックは当初は成長を抑制していました。それはプラットフォームに参加する人の価値が減らないよう、慎重に様子を見ながら拡大させていったからです。
すべての成長がいい成長ではない。ネットワークの成長は、ユーザーにもたらす価値を増やすときだけ役に立つ。ネットワークの成長は、プラットフォームが持続可能で防御可能なビジネスを構築するための資金をもたらしてくれるが、そのためには成長を持続しなければならない。さもなければ、そのネットワークは拡大と同じくらい急速に消えてゆくだろう。
プラットフォームは成長重視とか、先行者利益などと言われていますが、実際の成功要因は少し違うところにあるようです。
ツイッターはなぜ苦戦しているのか
ツイッターが成り立ちと今の苦戦に関する分析も非常に示唆に富んでました。
ツイッターは当初、シンプルな機能しかなく、メンションやリツイートも非公式な形で始まりましたし、APIを広く公開して、様々なアプリやサービスが第三者によって開発されていきました。
しかし、ユーザーの拡大とともに、そういった開発アプリは少しずつ姿を消していきます。
当初ツイッターは、開発者コミュニティーの「百花繚乱」を後押しした。クライアントアプリは、ツイッターがリソース不足で構築できなかった多くの機能を提供した。だが、プラットフォームが大きくなり、ツイッターのリソースが拡大すると、このやり方には明らかなマイナス面が現れた。ツイッターは、ユーザーのエクスペリエンスをコントロールできなくなっていたのだ。
こうやってプラットフォームをコントロールしていかないと、ユーザー体験が損なわれていくんですね。ツイッターだけでなく、様々なプラットフォームが、第三者のアプリを潰しにかかる純正アプリやサービスを投入するケースがたくさんあります。
ツイッターの場合、当初積極的なオープン戦略で成功し、それが開発者に支持された面もあるので、プラットフォームを管理していくのが難しくなってるのかもしれません。
あと、ツイッターは誹謗・中傷とも戦うと宣言しています。
Fighting abuse to protect freedom of expression
しかし、まだその対策には改善の余地がありそうです。
ツイッターにはなぜ、誹謗中傷があふれるのか――ネットの損害賠償等請求の経験から(千田有紀) – 個人 – Yahoo!ニュース
誹謗中傷を放っておくのは、プラットフォームとしては危険です。過去のSNSが誹謗中傷が要因で衰退してきたからです。
ツイッターが直面した、誹謗中傷やユーザーエンゲージメントの問題が示唆するように、莫大な数のユーザーを統治するのは容易ではない。フレンドスター(Friendster) やマイスペース(Myspace) など、急成長したのに、あっという間に停滞してしまったプラットフォームは、たいていコミュニティーの統治が下手だった。だからネットワークが成長すると質が低下する。プラットフォームはみなこの問題を克服しなければならない。
気軽に投稿できて、拡散が広がるSNSで、これらを対策するのは簡単ではないでしょうが、それでもやらないと、プラットフォームでの体験が著しく低下し、いずれユーザーは去っていくでしょう。恐ろしいことです。
日々の生活や仕事で、様々なプラットフォームの存在感が増してきています。
自社のビジネスがプラットフォームではなくても、そのビジネスモデルを理解しておけば、プラットフォームの利用における注意点がわかったり、新しいビジネスのヒントも出てくるでしょう。
ビジネスモデルの歴史から理解されたい方は、こちらをどうぞ。