「和算」と呼ばれる学問が、過去の日本にはあった。現代で学習する、アラビア数字で表現される西洋数学ではなく、江戸時代まで蓄積された、漢文で表される日本の数学だ。
江戸の和算家たちが次々と登場するが、どれも特徴があり、面白い。人物に焦点が当てられており、かつ時系列に並んでいるので、時代背景や和算を取り巻く文化、社会制度についてもいろいろ触れることができる。
単に数学といっても、この時代では数学はあわゆる学問に通じており、「天地明察」で有名になった渋川春海も登場するが、和算を暦改定に用いているし、最後に登場する幕末の小野友五郎も和算から始まり、西洋数学、海軍などの軍関連に発展させていく。他にも土木工事にも使われた事例が登場する。
また、門下や免許の制度が築かれていたり、算額として神社に奉納する文化、地方を遊歴しつつ和算を伝授していく和算家の存在など、ひとつの学問を通じて形成されたカルチャーが存在していたことも、とても面白かった。
このような歴史から何を学ぶべきか。それは、あとがきにすべて表れている。
筆者は、本書であげた天才和算家たちの生き方の中に、偏狭な閉鎖主義にも、無分別な西洋崇拝にも陥らない、しなやかな知識社会を創造する可能性を見る。そして、ともすればグローバル化の本質から目をそむけ、知的怠惰に陥りがちな我々が学ぶべき点、立ちはだかる困難さの前に挫けそうになってしまう我々が勇気を得る要素が、そこには多々あるように思うのだが、いかがだろうか。
知的欲求を大切にして、勉強しようと思う。