【書評】ニュータイプの時代

最近、いろいろ思っていた価値観のシフトが、見事に整理されていたり言語化されていて、「そうそう」という納得感が多過ぎる一冊でした。

事業環境変化のスピードが速くなっていて、会社に居続けるのが難しくなっていたり、役割の変化が求められています。

これはライフシフトでも言われていることで、会社を変える、スキルセットを見直していくことが求められるようになっています。

2017年に向けて読む一冊:100年ライフを読んで人生プランを考えよう

そうなると、他にもいろんな社会構造や価値観が変わってきます。そのような、これからの時代に求められる人材の要素がわかるのが、この「ニュータイプの時代」です。

 

「問題の発見」と「意味付け」

やはり一番考えさせられたのは、この「問題の解消」よりも「問題の発見」にシフトしている、ということです。

ビジネスは基本的に「問題の発見」と「問題の解消」を組み合わせることによって富を生み出しています。過去の社会において「問題」がたくさんあったということは、ビジネスの規模を規定するボトルネックは「問題の解消」にあったということです。

 

しかしすでにメガトレンドの項目で説明した通り、このボトルネックの関係は、今日では逆転しつつあります。つまり「問題が希少」で「解決能力が過剰」になっているということです。

 

これを踏まえると、コンサルティング会社やSIerなどがやってきた「問題を解決する」というアプローチはどんどん社会的な価値が下がってきており、「そもそもどういう方向に向かうべきか」など、もっと大きなレベルでの問題発見や構想が求められるわけですね。

 

「問題の不足」という状況は、そもそも私たち自身が「世界はこうあるべきではないか」あるいは「人間はこうであるべきではないか」ということを考える構想力の衰えが招いている、ということなのです。

 

このような構想には、もっと哲学やリベラルアーツのような、理系に属する知識・ノウハウだけでは通じにくいものです。

 

意義が低下していくMBA

自分が学習し経験したから思うのですが、MBAの意味というのは社会的に低下している気がしていました。その傾向についても、本書で触れられています。やっぱりね、という印象でした。

 

たとえば2018年の 10 月、ウォール・ストリート・ジャーナルはアメリカにおけるMBAへの応募数が、4年連続で前年割れしていることを報じました。同紙によれば、ハーバードやスタンフォードなどのエリート校も含めて応募数は減少傾向にあり「Degree loses luster=学位としての輝きは失われた」というの です。

 

MBAが全く意味がないとは思いませんが、相対的には昔ほど価値を生み出しづらくなっているのは事実でしょう。ただ、それに代わる明確な学習フォーマットも、まだMBAほど確立されていないという状況な気がします。d.schoolなどが注目された時期もありましたし、このような取り組みは僕も良いと思いますが、学習フォーマットとして広げるのは難しいのでしょうね。

「デザイン思考」を発信するスタンフォード大学d.schoolを訪問してみた

 

これから求められるのは「意味をつけられるリーダー」

これからのリーダー像は、課題をみつけ、共感を呼ぶようなミッションを定められる人です。

 

ビジョンに求められる最も重要な要件、それは「共感できる」ということです。 目的とその理由を告げられて、自分もその営みに参加したい、自分の能力と時間を実現のために捧げたいと思うこと、つまりフォロワーシップがそこに生まれることで初めてそれと対になるかたちでリーダーシップが発現するのです。

 

今の学生と話すと、まさにビジョンとしての共感の重要度が増しているのを感じます。こういうものが見えづらくなると、早い段階で辞めてしまうようです。

 

昨今では「部下がだらしない、使えない」と嘆いている管理職がどこの組織でも見られますが、これは典型的なオールドタイプの思考モデルであり、本当に嘆くべきなのは「部下を動機付ける『意味』が与えられない」自分の不甲斐なさであるべきでしょう。

 

ITやAIの仕事をしていると、「何か良いネタはないか」という相談を受けることもしばしばありますが、そういう相談は応えるのが難しいのが正直なところです。そういう組織は、「本当の問題」をちゃんと定義できていないまま、「IT、AI、IoTなど最近トレンドの技術・サービスを活用すると、自社をもっとよくできるのではないか」という抽象的な感覚で行動してしまっているかもしれません。

 

ところが、現在の多くの組織では、そもそも「解答を出すべき問題=アジェンダ」が明確になっていないことが多い。解決したい課題が不明確な状態で「何か儲かりそうなアイデアはありませんか」とお見合いを繰り返している、というのが多くの企業におけるオープンイノベーションの実情になっています。

 

同じ業界・同じ会社にいると、価値観やスキルが固定化しやすくなってしまいますが、 世界はどんどん変わってきており、自分の領域はいつ陳腐化してしまうかわからない時代になったな、と実感します。

自分にとって、価値観を見つめ直し、新たな知識の幅を考える良い本でした。