村上世彰さんが初めて本を書いたということで、非常に話題になっていましたので、読んでみました。
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かつで世間で話題になった「村上ファンド」の頃の話がたくさん書かれており、その当時ニュースを見ていたものとしては、とても懐かしく、そして当事者の思いや行動が語られているので、それだけでも読み価値があるというものです。
東京スタイル事件 – Wikipedia
ニッポン放送の経営権問題 – Wikipedia
阪急・阪神経営統合 – Wikipedia
村上ファンド事件 – Wikipedia
しかし、本書はそれだけじゃなくて、著者からみた経済社会全体が語られており、今の日本をはじめとする経済社会をどう捉えれば良いのかを理解する上で、とても参考になりました。
資金循環が経済を活性化させる
村上さんの主張は一貫しており、それは「資金は循環させてこそ経済が活性化する」というものです。
資金を循環させるということは、様々な形でお金を投資させる必要があります。しかし、過剰な安全のためにお金を貯めこみ、投資を控えると、経済の循環を阻害する要因になってしまいます。そのため、「村上ファンド」時代には、お金をたくさん持っているにも関わらず、具体的な投資計画を持っていない企業の株を買い、キャッシュの取り扱いを企業に確認していたのでした。
お金が循環していないことの弊害は、アメリカと日本で具体的な数値にはっきり表れています。
だから日本企業のPBRは平均で一なのに、アメリカ企業のPBRは平均三なのだ。日本の株式市場は五百兆円しかないのに、アメリカには二〇〇〇兆円ある。アメリカの年金の収入源は株式市場への投資で、きちんとリターンを得ている。
PBR(株価純資産倍率)は、株価の割安度合を示しており、低いほど割安ということです。逆に、日本企業は収益性が高くないため、アメリカ企業と比べて平均で大きく差がついているのです。
各国のPBR等の指標は、以下サイトで確認できます。
世界各国のPER・PBR・時価総額(毎月更新) |ETF・インデックスファンドなら!『わたしのインデックス』
これは企業数がそれほど変わらないですし、大雑把には純資産もほぼ同程度だそうですが、それだけ投資家からの期待がアメリカは高く日本は相対的に低いということを示しているのです。
企業は余った金を滞留させずに投資する必要がある
資金を循環させるとはどういうことを指しているのでしょうか。
本社の中ではアップルやMicrosoft等の、バランスシートの変化が示されていますが、当初は多くの投資を受けて純資産が多い状態になっていましたが、企業の成長とともに豊富な純資産は株主に還元していきました。その結果、借り入れを増やすことで純資産が減少し、ROEは非常に高くなっています。
一方の日本の株式市場は、なかなかそのような動きになっていないと著者は言っています。
しかし日本の多くの企業のバランスシートは、そのようになっていない。したがって、ROEも低いまま推移している。業績が急激に悪化した時にどう備えるのか、企業が倒産してしまったら社員はどうなるのか、などの議論もあるから、資本は小さければ小さいほどいいと一概には言えない。しかし純粋に投資の視点から見えると、資本効率を上げるには資本は小さいほうがいい。
確かに安全に経営するためには、自己比率が高い方が良いという見方が、日本では根強いような気がします。この辺のマインドを変える必要があるというのが、日本企業が置かれている状況なのでしょう。
そして、ROEを高めるためには、企業が投資に回す、あるいは株主に資金を還元するように動くことを促す必要があります。それこそが、株主から経営者に対するコーポレートガバナンスです。
伊藤レポートの重要性を理解する
2014年に、企業に対するコーポレートガバナンスを高めるためのコーポレートガバナンスコード、いわゆる伊藤レポートが発表されました。
伊藤レポート「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」プロジェクト「最終報告書」を公表します(METI/経済産業省)
僕は発表された当時、伊藤レポートの存在は知っていましたが、恥ずかしながらその本質がどういう点にあるのかがよくわかっていませんでした。ただ、非常に画期的でこれから株式市場は変わると騒がれていたのを記憶しています。
そして、この伊藤レポートがなぜ重要な内容であるのかは、本書を読めばよくわかります。
企業にとってのステークホルダーである株主、従業員、取引先について、それぞれのリスク内容を考えてみると、従業員の給料や地位は労働法によって保障されている。取引先は契約によって担保されている。ところが株主は、会社が倒産の危機に陥った時すべてのリスクを負わなければならず、場合によっては投資した資金の全てが戻ってこない。そういった意味で、企業が生む利益のみならずリスクも全部背負う株主が、投資した資産をいかに守るかということがコーポレート・ガバナンスの根源だ。
つまり投資家に対して、事業の内容や投資の方向性などを透明性ある形で説明するのが、コーポレートガバナンスコードです。
最終的には日本証券取引所でコーポレートガバナンス・コードが示されており、様々な企業でそれらが発表されるようになっています。
もっと詳細な内容や、歴史的な背景が本書の中に書いてあります。コーポレートガバナンスの考え方や歴史を学ぶためにも非常に良い本だと言えるでしょう。
本書の中で、著者の主張は一貫しており、投資家の面から見たときの市場の捉え方が非常にわかりやすい内容になっています。
さらに、非営利団体への投資や様々な取り組みも行っていることがわかり、昔の村上ファンドという名前に関連して、あまりよろしくないイメージを持ってる人は、この本を読めば、その印象はガラッと変わるのではないでしょうか。
この本を書こうと思ったきっかけがあとがきに書いてありますが、その内容を読んだ時も非常に胸が痛くなりました。さらに、個人的には以下の内容が非常に著者の人間性を表しているような気がしていて、印象に残りました。
かつて投資していた東京スタイルが、別会社と経営統合し、TSIホールディングスとして、経営改革行うために経営者と話していたときの一節です。
翌月、三宅会長と会食する機会があった。リストラで工場を閉鎖することについて考えを聞かれたので、私は答えた。 「人を切ることは、なるたけやってはいけない、特に地方では、その人や家族の生活を奪うことになるので、安易に検討しないでください。それよりも、もっといいブランドを作って、本業で利益を上げるように頑張ってほしい」
この部分だけ読んでも、著者が単にお金を儲けることだけを考えて、企業に投資を行っていたわけではないといえるんじゃないでしょうか。
今の市場に何が足らないのか、経営者はどういう姿勢で市場と向き合うべきなのか、様々考えさせられる良い本でした。
参考:
村上世彰×堀江貴文 初対談 #1「あの一言で僕は堀江を好きになったんだ」 | 文春オンライン
異色対談!「村上世彰氏vs伊藤邦雄教授」 | 最新の週刊東洋経済 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準
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この週末で、「オデッセイ」を観ました。
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宇宙ものの映画が基本的に好きなのですが、ストーリーもマッドデイモンの演技もよかったです。時々挿入される音楽が微妙にミスマッチで印象的だったなってことと、GoProが頻繁に登場してきて、アクションカムがここにも!って思いました。
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