「ブロックチェーン、すごい!」といろんなところで言われているのを目撃していましたが、何が凄いのかがいまいちよくわかっていませんでした。この本を読むまでは。
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この間、ビットコインについて記事に書きましたが、もう少し広範な対象として、ブロックチェーンについても理解を深めたいなと思ったのです。
それでこの「ブロックチェーン・レボリューション」を読んでみたんですが、あまりに広い可能性にちょっとびっくりしてしまいました。金融だけじゃなくて、政治やアートなど、様々なジャンルに広がる可能性を秘めている、と思うと、そりゃ「ブロックチェーン、すごい!」と叫びたくもなるもんです。
具体的にブロックチェーンがどういう効果を社会にもたらすのかについて、最近の時事動向と合わせて考察したい、というのがこの記事のテーマです。
ブロックチェーンをどう捉えれば良いか
ブロックチェーンは、サトシ・ナカモトの名前で発表されたビットコインの論文の、中核的な要素を成すものです。ブロックチェーン・レボリューションから説明を引用しましょう。
信頼のプロトコルをベースとして、世界中に分散された帳簿がその数をどんどん増やしている。これが「ブロックチェーン」と呼ばれるものだ。ビットコインも一種のブロックチェーンであり、今のところ世界最大規模のチェーンとなっている。
ここでポイントになるのは、「世界中に分散された帳簿」というところです。銀行や中央政府など、集権的にコントロールされるわけではない、ということです。まずはそれだけ覚えておきましょう。
もう少し詳しく知りたい方には、こちらのプレゼンがおすすめです。
技術的には一時のバブル状態かも
技術の普及度合いを理解する上で有名な指標に、ガートナーが発表しているハイプサイクルがあります。
ガートナー | プレス・リリース |ガートナー、「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2016年」を発表
ブロックチェーンは、ほぼちょうど「過度な期待」のピーク期に位置しています。
(出所:ガートナー | プレス・リリース |ガートナー、「先進テクノロジのハイプ・サイクル:2016年」を発表)
ビットコインをはじめとするブロックチェーン技術は、今注目を浴びているものの、社会的に広く浸透していくのは、この後幻滅期を通過して、もう少し時間がかかるかもしれません。
これらのブロックチェーン技術が、まさに今の時代に求められている事項を満たしていると考えられているのです。それはなぜでしょうか。
中央集権か分散管理かの二択しかない現在
以下は、あえて話をシンプルにしていますが、インターネットを中心とした世界は、これまで中央集権と分散管理の繰り返しをしてきました。そして、自由を謳歌してきたネット社会は、厳密に管理する中央集権的な部分(政府や大企業)と、無法地帯的になる部分(コピーし放題など秩序なし)の極端な選択肢になってきています。
コンテンツ管理やセキュリティを厳重に行うために、誰かがコントロールするというのはある意味自然な考え方で、音楽などのコンテンツは、自由にコピーされないように頑張ろうとした結果、AppleやGoogleなどの大企業を中心に、各コンテンツがコントロールされたプラットフォームが構築されていきました。
資産管理の最たるものである金融も、銀行など制度に守られた企業にデータと役割が集中しています。逆に、これらの大企業や金融機関、政府などの庇護がなければ、インターネットの無法地帯にさらされ、安全に取引などができない状態になっているということです。
しかし、いつの世も過度な権限集中は、新しい弊害を生みます。
中央集権に対するアンチテーゼ
コンテンツや資産を安全に管理するため、政府や特定の企業に資源が集中するようになっています。それは、以下のような状況を作り出します。
大企業や政府はインターネットの支配者となった。ネットワークのインフラ、価値ある膨大な情報、ビジネスや生活を動かすアルゴリズム、無数のアプリケーション、それに今後伸びてくる機械学習や自動運転車。シリコンバレーやウォール街や上海やソウルの限られた人たちが技術を囲い込み、それを使って莫大な富を手に入れ、経済と社会に対する影響力をますます強めていく。
引用:ブロックチェーン・レボリューション
いくつかの調査結果から、政府や大企業の信頼度は低下しています。
PR会社のエデルマンが毎年発表している「トラストバロメーター」によると、2015年の企業・政府機関に対する信頼度は、2008年の世界同時不況の頃と同じレベルにまで低下した。テクノロジー業界は信頼度の高い業界として知られていたが、多くの国で今回初めて信頼度が下がる結果になった。なかでもCEOや官僚に対する信頼度は最低で、学者や専門家に大きく引き離されている。
引用:ブロックチェーン・レボリューション
政府が信用を低下させてきているのは長期的なトレンドで、一過性のものではありません。
本書ではその原因は明確には書いてありませんが、政府や大企業が 覇権をもっている今の制度に疲弊感が出ているのかもしれません。
そして、ブロックチェーンは冒頭に書いた通り「分散管理」を実現するので、例えば有名なビットコインは政府の介在を必要としません。現在の金融構造は様々な制約が存在しています。ブロックチェーン・レボリューションで書いてあった次のようなことが象徴的です。
スターバックスでラテのグランデを注文し、クレジットカードを取りだして最新式のカードリーダーにタッチしたとしよう。そこからお金がスターバックスの口座に届くまで、少なくとも5つの業者があいだに入っている。レジでの会計は終わっても、そこから決済完了までは何日もかかるのが実態だ。
引用:ブロックチェーン・レボリューション
もうひとつ。
「銀行システムを使って中国に送金するのに比べたら、重たいハンマー台を中国に送りつけるほうがまだ早く着くんですよ。おかしいでしょう。お金はすでにデータになってるんですよ。札束を詰め込んで送るわけじゃないんですから」
引用:ブロックチェーン・レボリューション
仲介者を減らして、ダイレクトに資産を移動させることができるので、中央集権的な構造を壊してしまうのと、コストの削減を実現できます。
このように、ブロックチェーンは過度に集まっている政府や大企業への権限を分散化し、各個人や団体が安全な資産管理を実現させる民主化的な働きがあるのです。
インターネットに対するアンチテーゼ
もう一方で、自由な情報交換が広がったインターネットの世界に対しても、ブロックチェーンは新しい役割を果たす可能性があります。
例えば、最近でもいろんなインターネット上のサイトで、画像などのコンテンツ盗用が発生しています。雑誌のアサヒカメラが、写真の盗用への対策を特集したのも、記憶に新しいところです。
「ネットから盗用写真を駆逐せよ」 「アサヒカメラ」2月号に「損害賠償&削除マニュアル」 – ITmedia NEWS
インターネットは情報流通に革新的な効果をもたらしましたが、同時にいろんな作業を破壊してしまいました。特にエンターテイメントとして映画や音楽、写真などのコピーしやすいコンテンツは、違法コピーの温床となりました。インターネット上の様々なツールは、新しいプロモーション手段を生み出した反面、厳格にコンテンツを守らないと、どこまでもコピーされてしまう無法地帯にもなっているのです。
しかし、ブロックチェーンは、コンテンツや資産の正当性を担保しますので、有償で取り扱いたいコンテンツの盗用を防ぐことができます。例えば既に、アーティストが自分たちのコンテンツをブロックチェーンで安全に管理しつつ、市場に流通させる手段を採用しているケースが登場しています。
ブロックチェーンが変える音楽と所有の関係:連載「音楽の未来をつくる人」#3|WIRED.jp
このように、無法地帯になりがちなインターネットの世界で、広く普及させつつコンテンツを安全に管理する方法として、ブロックチェーンが注目されていることがわかります。
人々が情報や資産をコントロールできる時代になる
以上のことから、集中と分散の良いとこ取りとして、自由でかつ安全に資産を移動したり流通させることができる、というのがブロックチェーンの真価だと思います。
どういう主体にとってブロックチェーンは意味があるのか、と考えたときは、以下の記事が参考になります。
自分のビジネスに影響があるのかは、業界構造などによって、あるいは自分がどういうポジションにいるかによって違うのではないでしょうか。
ということで、ブロックチェーンがなぜ注目されているか、少しは雰囲気が掴めたでしょうか。興味を持たれた方は、ぜひ本の方を読んでみてください。上記以外にも、様々な分野への影響が考察されています。
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以下は、著者のTEDでの講演です。ハイライトで理解したい方にはこちらが良いと思います。