【書評】物欲なき世界

「最近の若者は車を買わない」とか「物欲がなくなってる」と言われていたりします。また、かの有名な大前研一氏は、「今の日本は「低欲望社会」だ」と言っています。

私が考える日本経済の現状と問題点は、「低欲望社会」ということに尽きる。 日本は個人金融資産1600兆円、企業内部留保320兆円を抱えているが、それらがまるで使われていない。歴史的な低金利でも借金をしようとしない。「フラット35」が1%に接近しても借金して家を建てよう、という人はいない。このような国は世界中にない。普通は金利が5%を下回ってくれば借金して家を建てようとするし、金利が上がれば貯金をしよう、とする。 ところが、金利がほとんどつかなくても貯金は増えており、銀行の貸し出しは減っているのだ。

ピケティの主張は的外れ、日本経済の問題は「低欲望社会」に尽きる(6/6) | nikkei BPnet 〈日経BPネット〉:日経BPオールジャンルまとめ読みサイト

 

そういう経済状況は、確実に顕在化してきている感覚がありますが、実際に今後の経済がどうなっているのか、この本を読んで考えてみましょう。

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この本を読む前は、最近注目されている「シェアリングエコノミー」が中心の本だと思っていましたが、内容はもっと壮大なものでした。

 

僕らの物欲は衰退したのか?

どうやら、経済が成長し成熟してきたことで、身の回りにモノがあふれるようになり、「どうしてもこれが欲しい」という欲望が薄れてしまったようです。それによって、価値観の変化が起こっているというのが、今の消費の姿なんじゃないでしょうか。

例えば、ファッション・ビジネスについてこのような記載があります。

「ファッションビジネスにおいてライフスタイル提案が注目されてきた背景には、ひとつは日本が発展途上から欧米型の成熟社会になり、価値観として、所有の価値から使用の価値を求めるようになったという点だ。発展期にはモノが欲しかったが、モノをもっているだけでなくどう楽しむか、質の良い生活への欲求、例えば海外の都市生活へのあこがれ、都市と郊外でのダブルライフに対する欲求などが使用の価値につながっていると思う。  ふたつ目にリアル店舗の役割の変化とオーバーストア。ネット通販が台頭し、目的買いで強さを出し、リアル店舗もプラスアルファが必要になった。さらにこの一〇年でアパレルの市場が約一兆円縮小したのに対して売り場面積は三〇%増えた。体験し、過ごし、発見する場所といった機能が必要になったのではないか」

 

「所有の価値」から「使用の価値」へ、という転換は、なるほどという感じがします。所有すること自体はどちらでも良くて、モノを使用することで、どう生活が豊かになるか。それが重要になってきているということでしょう。

シェアリングエコノミーとして、車や家を若者は買わないと言われていますが、それも「所有欲」が薄くなり、ある意味経済合理的な選択をしているのかもしれません。

僕としては、この言葉にハッとさせられました。

欲しいモノがあまりない世界というのは、何を目標とすればいいのか。その世界では何が幸福と見なされるのか。実は消費と幸福は無理矢理結びつけられていたのではないか

これからの経済はどうなっていくのか

この本のすごいところは、今後の経済がどう変化していくのかを丁寧に考察しているところです。特に、経済成長を求めること自体に対するアンチテーゼは、非常に思考を刺激されます。

デイリーもここ日本の停滞ぶりに関して、逆にポジティヴな見方をする。日本は成長の限界に適応しており、この低成長状態は成長経済の失敗なのではなく、定常経済の成功と見なせるのではと。「日本は成長の限界にうまく適応することに関して、世界の先頭に立っているのです」。  水野氏も同じような見解を示す。「難しい転換期において日本は新しいシステムを生み出すポテンシャルという点で、世界のなかでもっとも優位な立場にあると私は考えています。その理由は、逆説的に聞こえるかもしれませんが、先進国のなかでもっとも早く資本主義の限界に突き当たっているのが、日本だからです」

 

日本を始めとする先進国では経済成長を実現するのが難しくなっており、低成長時代を迎えています。トマ・ピケティは、資本主義は格差を拡大させるシステムであることと説きましたが、それは低成長の中で収益性を高める場合は、資本を持つ人に有利に働き、持つ者と持たざる者との格差が拡大していく、ということです。

そうなると、今と同じような経済システムが永続的に続くわけはなく、今後は変化していくのでしょう。そして、お金に変わる資本が「信頼」になると言われています。

お金はますますモノから離れ、情報になり、そして信頼の証になる。そうなると、これからの「お金持ち」は「信頼を多く得ている人」ということになる。さらにビットコインやポイントのやりとりのように、既存のお金に換金せずに、信頼と信頼をネットワーク上でやりとりすることで、豊かな交易が出来る。そうなると、国や中央銀行が発行する通貨の経済と、個人と個人、団体と団体で価値を認め合い交易する信用の経済の二本立てで私たちは生きていくようになるのではないだろうか。

信用を蓄積することで、お金の代わりとしてやりとりできるようになる。なんか、夢物語のような感じがしますが、ビットコインや電子マネーによって、中央統制による貨幣が相対的に存在感を低下させているのは間違いなさそうです。

「信頼が新しい通貨になる」という考え方については、このTEDの動画がわかりやすいです。

信頼がより重視されることで、今後はこういう価値観がもっと台頭してくるでしょう。

これからはモノの消費から時間の消費へという説を紹介したが、物欲が減ってくると人々はモノよりもサービスやアクションを欲するようになる。さらにお金が信頼の情報となりつつあるなかで、お金でモノを買うことに幸福感を見出すよりも、信頼でサービスやアクションを買う/共有することに幸福感を見出すようになるはずだ。

今の消費に対する価値観や、世界を含めた経済動向、今後はどういう経済システムになっていくかを考える上で、非常にうまくまとめられていて、そういう経済状況を理解したい人にオススメです。

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それにしても、最近は「資本主義に代わり、これまでの経済ルールが変わる」と述べている本が増えてる感じがしますね。

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