シャープの資本受け入れについて、台湾企業である鴻海と官民ファンドである産業革新機構によって、激しい争奪戦が行われていましたが、ニュースによると鴻海が優先交渉権を獲得したようです。
経営不振に陥っている「シャープ」に買収を提案した、台湾の大手電子機器メーカー「ホンハイ精密工業」の経営トップ、郭台銘会長が5日、大阪市のシャープ本社を訪れ、高橋興三社長ら経営陣と会談しました。会談のあと郭会長は記者団に対し、「優先で交渉できる権利にサインした」と述べ、シャープ側から優先交渉権を得たことを明らかにしました。
ホンハイ会長 シャープとの優先交渉権獲得 NHKニュース
これについて、改めて「シャープはなんで今、資本受入をしなきゃいけないの?」という点と、「鴻海・産業革新機構と比べて、なんで鴻海なの?」という点を考えてみたいと思います。
シャープはなんで今、資本受入をしなきゃいけないの?
早速、シャープの財務状況を見てみましょう。以下が、5年間の売上高と営業利益率です。売上が伸び悩んでおり、5年間のうち3年は赤字になっていることがわかります。
企業というのは、赤字だからすぐに倒産するわけじゃありません。借金を払えなくなったら終わりです。家計でいえば、収入がなくなっても、貯金を取り崩したり、他から借金すれば破算は免れます。
というわけで、会社でいう貯金にあたる「純資産」がどうなっているかを見てみると、
こんな感じで、2011年には1兆円あった純資産が、2015年には400億円まで減っています。赤字になったときに、連動して減少しているのがわかりますね。徐々に貯金を取り崩していったわけです。そして、最新の2015年では、当期純利益で2000億円超の赤字になっており、純資産では赤字を補填できなくなっている状況であることがわかります。
ちなみに、これらの数字は連結決算になっていますが、シャープ単体では債務超過(=純資産がマイナス)になっている状態でした。連結ベースで債務超過が1年以上続くと、上場廃止にもなります。(参考:上場廃止基準 | 日本取引所グループ)
というわけで資本注入によって純資産を増やさないと、赤字体質を解消するまでの時間も耐えられません。では「借金すれば時間を稼げるのでは?」となりますが、既に主力行からの融資を受けており、借り換えだけでも結構大変な状況であることが伺えます。
2行は平成24年9月、経営危機に陥ったシャープの運転資金として3600億円の協調融資契約を締結。また、25年9月に償還期限を迎えていた社債2000億円の返済原資として、25年6月には1500億円の追加融資を行っていた。いずれも返済期限は28年3月に設定されている。 しかし、シャープは液晶事業の不振により27年3月期に大幅赤字に転落。新たに中期経営計画を策定し、今年6月には2000億円の資本支援を受けるなど厳しい資金繰りが続いている。
この状況では、違うところから融資を引き出さないと、シャープとしては結構危険な領域になっているのです。そこで改めて登場してきたのが、鴻海と産業革新機構というわけです。
鴻海・産業革新機構と比べて、なんで鴻海なの?
シャープへの融資として、鴻海と産業革新機構の両者が支援策を提案していました。いくつか条件はありますし、シャープ経営陣の決定要因はもう少し複雑だとは思いますが、シンプルに財務面から考えると、鴻海が有利です。
- 鴻海の方が出資額が大きい(鴻海:7000億円、産業革新機構:3000億円)
- 鴻海は銀行の債権放棄はなし(産業革新機構は銀行に債権放棄を求めていた)
それ以外で細かい条件はあるのかもしれませんが、シャープの切り離しなどはなくなったようですし、今は置いておきましょう。
全然別の観点として、シャープとしては鴻海と産業革新機構が競ってくれたおかげで、良い交渉条件を引き出せたんじゃないでしょうか。個人的には勝手にそう想像しています。
だって、最初は主力銀行も産業革新機構も、液晶事業だけ分社化するつもりだったんですから。
不振の液晶事業の本体からの切り離しを必須条件とし、液晶新会社設立に伴う株式などの売却益を借金返済に充てる考えだ。
官民ファンドの産業革新機構はもともとは液晶ディスプレイ事業の再編に強い価値を感じており、傘下であるジャパンディスプレイ(JDI)にシャープの液晶ディスプレイ事業を合流させることを考えていたとされる。一方で、洗濯機や冷蔵庫などの白物家電事業についても、東芝など他の日本企業と合流させようとしていたという。
揺れるシャープ再建、ホンハイか産業革新機構か、決め手は「液晶以外」 (MONOist) – Yahoo!ニュース
というわけで、両者が競うことでそれぞれが好条件を提示し、最終的に今回の鴻海の優先交渉権につながったんじゃないかと思います。それだけシャープがまだまだポテンシャルある、という証明でもあるわけですが。
ということで、まだ優先交渉権が決まっただけなので、シャープが再建できるかはこれからです。
全然関係ないですが、先日「1998年の宇多田ヒカル」という本を読みました。あまりに面白くて、2時間ぐらいで一気読みしましたよ。タイトルは宇多田ヒカルだけですが、それ以外に椎名林檎、aikoという1998年デビューの3人が、なぜ今も活躍しているのか、というところが考察されています。J-Popの歴史に興味がある方は、おすすめです。
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