【書評】角川インターネット講座 第三の産業革命 経済と労働の変化

ITが劇的に普及していて、いろんな領域に革新を与えている今は、「第三の産業革命」といえるんでしょうか。

 

角川インターネット講座」という、インターネットに関する様々な論考が特集されていて、シリーズ15巻が発売されています。

角川インターネット講座 (1) インターネットの基礎情報革命を支えるインフラストラクチャー
角川インターネット講座 (2) ネットを支えるオープンソース ソフトウェアの進化
角川インターネット講座 (3) デジタル時代の知識創造 変容する著作権
角川インターネット講座 (4) ネットが生んだ文化誰もが表現者の時代
角川インターネット講座 (5) ネットコミュニティの設計と力 つながる私たちの時代
角川インターネット講座 (6) ユーザーがつくる知のかたち 集合知の深化
角川インターネット講座 (7) ビッグデータを開拓せよ 解析が生む新しい価値
角川インターネット講座(8) 検索の新地平 集める、探す、見つける、眺める
角川インターネット講座 (9) ヒューマン・コマースグローバル化するビジネスと消費者
角川インターネット講座 (10) 第三の産業革命経済と労働の変化
角川インターネット講座 (11) 進化するプラットフォーム グーグル・アップル・アマゾンを超えて
角川インターネット講座 (12) 開かれる国家 境界なき時代の法と政治
角川インターネット講座 (13) 仮想戦争の終わり サイバー戦争とセキュリティ
角川インターネット講座 (14) コンピューターがネットと出会ったら モノとモノがつながりあう世界へ
角川インターネット講座 (15) ネットで進化する人類 ビフォア/アフター・インターネット

 

どれも興味をそそられるのですが、特にインターネットが経済にどのような変化をもたらすか、という観点で、「第三の産業革命」を読みました。

 

冒頭からこんな記載があり、非常に刺激的です。

「インターネットと産業」というお題の本として、本書はネットがいかに産業、そして経済を変えるかを扱おうとしている。でもその前提として、まずはインターネットがいかに産業を変えていないか、いかに既存の産業の延長上にあるかを理解することが重要だ。それを押さえておかないと、目先の変化に踊らされる浮わっついた話のオンパレードとなってしまう。

その背景として、蒸気機関が生まれた産業革命では、生産性が何千倍にも上がったが、ITではそこまで至っていないのが現状です。ただ、蒸気機関でも電気でも、発明としては革新的でも、用途が確立されるまでには時間がかかっており、ITもまさにこれから「産業革命」に値する変化が起こるのではないか、というのがこれからの展開です。

確かに、いろいろ便利になってきているものの、まだまだ劇的に社会を変えるのはこれからだ!というネタが、この本にはたくさん書かれています。本当にたくさんの示唆があるのですが、今後の企業経営という面で2つほど取り上げておこうと思います。

ITは格差を拡大するものか、縮小するものか

ITはいろんな制約を飛び越えることが可能になるので、都市と地方、国内と海外、個人のレベルなど、様々な切り口で格差は縮小していくのでないかと言われていました。

しかし、ITが利用されるにつれて、格差を縮小するどころか、拡大するのでは?と言われてきています。

ITによって人は都市に一層集まるようになる

例えば都市で言えば、こういう論調ですね。

ICTが急速に浸透していった1980年代、 「都市の消滅」がさかんに論じられたが、実際には都市への集中も進んだ。 その理由は、情報利用産業は分散しても情報創造産業は集積するからだ。 情報創造産業の立地条件は、手頃な地代条件(オフ・ブロードウェイ)、若者文化などである。

いつでも情報を利用する、という面ではITは場所を選びませんが、それをクリエイトするためには、人々が集まる部分が存在しており、それが集積を高めている、ということです。「年収は「住むところ」で決まる」という本もありましたが、イノベーションは人が集まる都市で生まれやすくなってます。

https://synapse-diary.com/?p=2678

これを考えると、都市と郊外の格差を、ITは加速させてゆくでしょう。ただし、利用する側として立てば、クラウドソーシングなど様々なオプションは増えていきます。働き方に多様性は生まれるでしょう。

ITは大企業を強くする

さらに、企業の規模でも同じことが言えます。ITによって起業しやすくなったのは事実ですが、ITが進歩することで、必要な初期投資が増えています。それは、ITサービスの経済的特性に原因があります。

経済学者によれば、インフォメーション製品の生産には高額の固定費と低額の限界費用がかかることになっている。インフォメーション製品の最初のコピーの制作には莫大な費用がかかることもある反面、追加のコピーの生産(つまり再生産)コストは無視できるほどのものだ。この種のコスト構造からいろいろな意味が理解できる。たとえば、コストからはじき出した価格づけは機能しない。つまり単価に対する10~20パーセントの利益幅というのは、製品単価がゼロのときまったく意味がない。インフォメーション製品の価格づけは、消費者が認める価値に対応したものでなければならない。生産コストが基準ではないのだ。

つまり、製造業などと異なり、ほとんどが固定費で構成され、初期投資が大きくなるのが特徴です。

また、ITは大企業にも大きな力を与えています。

またネットは、一時は中小ベンチャーや低資本事業に有利だと思われていたけれど、一方では企業の大規模化を可能にしたし、大規模なデータが精度をもたらすビッグデータ分析にはデータ処理設備やソフトに大規模資本が要求される。結局、資本家がますます有利になって業績や所得を伸ばすことになり、既存の格差がさらに拡大しかねない。

初期投資が必要になり、さらに大企業を効率化するITは、大企業と中小企業の格差をこれから広げていくかもしれません。

 

他にも、例えば以下の点など書かれており、インターネットと産業がどう関わり、どう変化していくかが幅広い視点で書かれています。

  • 情報サービスではブランディングが重要
  • 企業が自社メディアを持つ理由
  • 新しい貨幣の在り方

このブログの「MBAおすすめ本」で経済学も取り上げていますが、経済は新しいステージを迎えていて、従来の経済理論に基づいた施策が効かない場面が増えてます。

インターネットやITは、今後ますます世界を変えていくでしょう。10年後、20年後の未来を感じたい人に、ぜひ読んでもらいたい一冊です。