新しい事業を生み出すということは、非常に難しいものだと痛感する毎日です。限られたリソースと不確かな状況の中で事業を育てていくことは、空を掴む感じに近いな、と思うこともあります。
そんな迷いの中で、「リーン・スタートアップ」という本に出会いました。
おおよその考え方自体は知っているつもりでした。「ミニマムな製品を発表し、顧客のフィードバックを受けて、改善していく」という感じで。なので、最初はあまり一冊の本として読む気がしていませんでした。しかし、実際に深く理解しようと思ったときに、ちゃんと勉強しないといけないな、と思ったのです。
仮説をつくり、計測できる環境を整える
「リーン・スタートアップ」では、仮説を定めることから始まります。「顧客は○○という欲求があるから、このサービスを欲するはずだ」というようなものです。
─「成功とは機能を提供することではありません。成功とは、顧客の問題をどうしたら解決できるのか学ぶことです。
要は、「闇雲にやるな」ということです。それはコンサルでも「仮説思考」みたいな言葉があるように、最初に方向性を明確に定めておかないと効率が悪く、煮詰まったときに停滞してしまうからです。
そして、最小限の製品を発表するのですが、重要なのは「計測できる仕組みを構築しておく」ことです。 でないと、フィードバックループを回すことができません。具体的な計測・分析のアプローチとして、コホート分析や成長エンジンの考え方は非常に面白く、示唆に富んでいました。
コホート分析については、本より以下の記事の方がわかりやすいと思います。
なので、サービスを開始する前に、「どうやって計測するか」を考えておくことが重要になるのです。
不確実性が高い時代の事業のつくりかた
読んでいて思うのは、このリーン・スタートアップって、別にスタートアップに限定しなくても、適用できるところは多いよな、ということです。
不確実性はどんどん増していて、先を読むことが難しい時代です。IT関係でも技術革新が早く、「数年先を見通すのは難しいよね」という話がよく出ます。そういう状況の中では、スモールスタートがリスクが小さく始めやすいものです。そして、実績を作っていって、少しずつチューニングしながら育てていきます。
本書の中で、「バッチサイズを小さくする」という考え方が出てきます。基本的にリーン・スタートアップはトヨタ生産方式から転用されたものですが、まとめて大量生産するより1つずつ作る方が効率が良い、という実証にもとづきます。
同じ作業をくり返したほうが効率的に思える理由として、もうひとつ、くり返すほど作業に習熟するはずという思い込みがある。しかしこのようなプロセス指向の作業では、全体的なパフォーマンスに比べて部分のパフォーマンスは影響が小さい
もちろん状況によりけりだとは思うのですが、習熟による影響より、システム全体の問題の方が影響が大きいのだと思います。そしてシステムが成熟してくれば、経験による習熟の影響を考慮する必要があるのでしょう。
ここで言いたいのは、計測しやすい環境を構築し、事業を小さい形でリリースして、フィードバック→改善をくり返していけることが、不確実性の高い状況を乗り越える有効な手段だということです。
「でも、ある程度投資できないと事業として成立できないものも多いじゃん!」と思うかもしれませんが、それをITが変えていて、小さい事業体で運営できるようになっているのです。その一例がクラウドサービスであったり、クラウドソーシングだったりします。また、コミュニケーションコストそのものも低下していますし、最近だとセンサーなどの計測関係も発展しています。
このあたりは「ITビジネスの原理」が参考になるんじゃないでしょうか。
経営を志す人なら読むべき。「ITビジネスの原理」 | Synapse Diary
というわけで、新しい事業でも、新しいマーケティングでも、日々の中の新しい取り組みでも、リーンスタートアップの考え方は活用できるはずです。