「ジェフ・ベゾス 果てなき野望」を読みました。いろいろ知っているエピソードもありましたが、アマゾンがこれまでどうやって発展してきたのかがよくわかる、とても刺激的な一冊でした。「ベゾス、恐ろしや」というのが全体的な印象です。
ベゾスの愛読書は「イノベーションのジレンマ」
ベゾスの愛読書のひとつが「イノベーションのジレンマ」であることは有名な話です。アマゾンの成長の過程をみると、イノベーションのジレンマを解消していることがわかります。それがKindleであり、電子書籍サービスです。
ベゾスが電子書籍サービスを始めたのは、アップルの音楽の成功を見て、「次は本だ」と考えたからです。
ベゾスは、新たなデジタル時代に書店としてアマゾンが栄えていくためには、アップルが音楽事業を牛耳ったのと同じように、自社で電子書籍事業を展開しなければならないという結論に達する。その数年後、スタンフォード大学経営大学院における講演で、ディエゴ・ピアチェンティーが次のように語っている。「他人に食われるくらいなら、自分で自分を食ったほうがずっとマシなわけです。コダックのようにはなりたくありませんからね」
ここで、ベゾスは新しい部門の責任書を据えて、既存事業を叩き潰すつもりで電子書籍事業を展開するよう指示します。そして、アップルと同じように自社でハードウェアであるKindleを開発して販売するようになるのです。
アップルが音楽で成功したようにアマゾンが書籍で成功するためには、洗練されたハードウェアから使いやすいデジタル書店まで用意して顧客の体験をすべて管理する必要があると、ベゾスは皆の反対を一蹴する。
時代に先行して進むためには、自分たちを否定しなければいけない瞬間があります。そして、それを乗り越えて事業を展開できてこそ、初めて「イノベーションのジレンマ」を克服することができるのです。実際、競合であり大手であるバーンズ&ノーブルは、アマゾンの台頭からネット販売にも手を出しますが、既存事業を優先するばかりに資源の投入を中途半端にしてしまいます。その後のバーンズ&ノーブルは、結局アマゾンの優位を覆すことができないままになります。
チェーン展開しているバーンズ&ノーブルがオンライン事業を本気で進めるのは難しいはずだとベゾスは読んでいたし、この読みは正しかった。ごく一部にすぎないオンライン事業で損失を出すのはいやだと考えたリッジオ兄弟は、優秀な社員の投入をためらった。利益率の高いリアル書店での販売が低下する恐れがあるからだ。流通の仕組みも問題だった。バーンス&ノーブルの流通はリアル書店に最適化されており、一定の配送先に大量の本を届けるものだ。その状態から個人宛の小口配送を始めたため、問題ばかりが発生して大変なことになってしまった。一方、アマゾンにとっては、個人宛の小口配送が当然だった。
ベゾスは、長期的なビジョンを見据えて既存事業を否定して、新しい方向へ目一杯舵を切ることができる優れた経営者であることがわかります。本当すごいな。
矛盾を抱えながら成長する
それ以外でも面白い特徴があります。アマゾンは最初、本屋と同じように「場所を貸して手数料を得る」という本屋と同じモデルでスタートしました。その後、いろんな製品を手がけていく中で、自分たちで配送や仕入れを行うことで利ざやを増やしていきます。
それとは反して、マーケットプレイスでいろんな人がアマゾンというプラットフォームに出品できるようにもしていきます。これは一見、自社の販売と競合を増やしている行為です。しかし、そのような一見相矛盾する状況も、アマゾンの優位を築くことになります。
アマゾンはサードパーティの動きをしっかり監視しており、売れ行きのいい商品があると自分たちも販売を始めることが多い。手数料を払いながら人気商品探索の手伝いをしているようなもので、アマゾンマーケットプレイスを使う小売業者たちは一番凶暴なライバルを助けていると言える。
アマゾンは、マーケットプレイスで儲かる分野は自分たちで始めてしまうということです。情報とプラットフォームを握る強者の戦略ですね。このように、自社ビジネスの中に矛盾を抱えていますが、それすらも自分たちの強みにしてしまう点が非常にアマゾンの優位性があるのです。
利用される企業としては、たまったものではないですが。
アマゾンの戦略は非常にシンプル
本書の中では「弾み車を回す」という表現が何回も登場します。これは、自分の会社を強くするための一貫したサイクルのことを指します。
これはアマゾンの弾み車ー良循環ーを回してくれるものだ。顧客がたくさん買ってくれればアマゾンの販売量が増え、配送コストも下げられるしベンダーとの交渉もやりやすくなる。
これは、家電量販店やウォルマートなど小売業に通じる戦略です。スケールメリットによって会社を強くしていくという方法です。そういう観点でみると、アマゾンの戦略は非常に一貫性があります。自社に一時的に不利益になることがあったとしても、「顧客を増やす」という点で一貫しているのです。電子書籍の方が確実にニーズがあると思えば、そちらに注力しますし、マーケットプレイスは顧客の選択肢を増やす行為です。
ただ、アマゾンが強烈なのは品揃えなどの水平統合を進めていき、時にはAWSなどコンピュータリソースを販売する大きな事業も創出しています。さらに、自社で配送センターを持ち、販売し、出版事業も持つように、垂直にも統合していきます。その推進力とベゾスのビジョン、偶然を活かしていく力が非常に高いと思うわけです。
こうみていくと、アマゾンの経営戦略に関しては興味が尽きません。ただ言えることは、「弾み車」は一貫しており、そのために「イノベーションのジレンマ」を克服するための打ち手を様々打っているということです。
本書はアマゾンの負の側面も捉えています。競合が弱るまで赤字の値引きを行い、ディスカウントされた価格でライバルを買収したり、出版社にアマゾン上で検索できなくさせて脅すことで値引きを勝ち取ったりしています。そういうドライな側面も含めて、とても面白いです。アマゾン。