Jリーグが20周年を迎え、J3を立ち上げたり、プレミアリーグ構想や2部制の検討を行っています。なぜこのタイミングで、そういう変革を行おうとしているのか、というのはこの「サッカービジネスの基礎知識」を読むと、理解が深まると思います。
Jリーグの創設前からの歴史を、経営面から紐解いていく一冊なのですが、スポーツビジネスの面白さがとてもよくわかる本だと思います。
Jリーグ創設時の成功要因は、マーケティングと体制
Jリーグというのは、立ち上がりが決して順風満帆というわけではありませんでしたが、マーケティング的要素が非常に上手だったことがわかります。初期から博報堂が企画に参加し、「Jリーグ」という用語も含め、ブランディングを図っていきます。
本書の中でも、用語については意図的に新しい言葉を用いていったことがわかります。
また、創設メンバーは用語選択にもこだわった。川淵・小倉は当時を述懐し、「プロ野球とのイメージ差別化を明確にするため、全般にわたって言葉、用語をそれまであまり用いられていなかった新鮮なもの、独自なものにした」と語る。たとえば、フランチャイズとファンではなく「ホームタウン」と「サポーター」、プレジデントではなく「チェアマン」(この用語は岡野俊一郎の発案によるもの)、優勝決定戦は「チャンピオンシップ」といった具合である。
また、川淵チェアマンをある種のマスコットとして、メディアを通じて地域貢献をキーにしたメッセージを発信していきます。
さらに、体制面でも違いが挙げられます。Jリーグは日本のプロ野球と異なり、JFAが主導権を握っていて、各クラブオーナーによる発言権はあまりありません。日本野球機構では、コミッショナーにより強い権限を与えた方が良い、という意見もあるようです。
もちろん日本のプロ野球も発展してますし、選手年俸などサッカーよりも市場パイが大きくなっていますし、どちらが良い/悪いの問題ではないと思います。ただ、Jリーグの初期に関して言えば、中央集権的な体制を築くことによって、テレビ放映権や商品化権の販売で得た収益を各チームに分配する制度を作るなど、リーグ全体がどう栄えていくか、という観点でより強く進めていくことができたのでしょう。また、テレビ放映権についても排他的独占権で価格をコントロールし、安売りにならないようにするなどの効果もありました。
スポーツビジネスのバブルとその後
ヨーロッパサッカーがまさにそうでしたら、メディアによってスポーツが優良なコンテンツとして認められることで、大量のメディアマネーが流れこむようになりました。しかし、それも長くは続かず、金銭的には綱渡りな状況です。ブンデスリーガの記事から引用しますと、
UEFAのミシェル・プラティニ会長は、今シーズンから「ファイナンシャル・フェアプレー」の導入を実施している。これはクラブの経営を健全化させるための制度で、簡単に言えば「収入を上回る支出をしてはいけない」。すなわち、身の丈に合った経営を求めるものだ。規定に違反すればCLやELへの出場権が剥奪され、クラブ経営を根本から揺るがす事態に発展する。現在、イングランド、スペイン、イタリアにおいて、ファイナンシャル・フェアプレーのルールをクリアしているクラブは1つもない。逆にドイツでは、多くのクラブが既に条件を満たしている。中でもバイエルンは欧州で最も健全な経営をしているクラブとして知られており、他のクラブのお手本にもなっている。
健全な競争と経営がドイツに繁栄をもたらす(1/2) – OCNスポーツ サッカーコラム
こんな状況なわけです。Jリーグも赤字が続いているクラブがありますし、他人事ではありません。世界的に、どうやって健全なリーグを作っていくのか、というのがサッカー共通のテーマになっていると思います。
そう考えると、冒頭に述べた通り、Jリーグがいろいろ施策を講じている現状もよくわかるのです。Jリーグを含めたサッカービジネス全体の歴史と現状を一冊でよく分かる良書です。