ソーシャルインフルエンス

最近は勉強のための読書が多かったから、純粋な興味で読んだ本は久しぶり。この本は、マーケティング理論との重なりの中で読むと、とても刺激的だった。ソーシャルメディアの台頭はマーケティング手法を変えたと言われていたけれど、事例を見る限りはマイナスへ働くこともあるし、労力を投じても効果が見えてなさそうな取り組みもあった。そういう点を理論的に整理を試みたのがこの本。

既存のマーケティング理論との違いはどこにあるのか?

最初に整理しておく必要があるのは、この本でいっているソーシャルメディアによるPRし、手法というのは、MBAでも登場するフレームワーク4Pのうち「Promotion」の部分にあたる。
N’s spirit プロモーション戦略とは

それを踏まえた上で、ソーシャルメディアは既存のプロモーションと何が違うのかを考えてみたい。これまではパブリシティやマスメディアを利用した、一方通行かつ画一的な情報の伝達が行われた。口コミが強力なツールであることは知られているが、非効率であるために手段としては採用されてこなかった。

 

そして、ソーシャルメディアが新しい情報伝達手段として加わった。これは、情報の流れが変わったし、人々の購買動機の与え方が変わったのだ。

さらに情報量が爆発的に増えているので、マスでメッセージを発信しても届きにくくなっている。

日本の情報流通量は2001年から2009年の8年間で2倍になり、僕らが消費できている情報は全体のわずか0.004%に過ぎないとされる。P.40

ソーシャルメディアの登場で何が変わったのか?

ソーシャルメディアは、マーケティングの観点から最初は「消費者がつくるコンテンツ」と捉えられた。これはブログが普及し、パーソナルなメディアが誕生したという見方をされたのだろう。その後、TwitterやFacebookなどタイムリーで短いメディアが登場すると、「エンゲージメント」という考え方にシフトしてくる。

著者の表現でいえば、ソーシャルサービスは「公園のような場所」であるため、一方的に空気を読まずに広告や宣伝を垂れ流されることを嫌う傾向にある。つまりは、こういうことだ。

ソーシャルメディアという場所は、短期的なプロモーションを行う場としてよりも、消費者や顧客と中長期的につながることによって、感情的・情緒的関係性を高めることに強みを発揮するという考え方に大きく戦略転換がなされたのである。P.82

自治体ではこの理論をどう活用するか?

ついでといってはなんだけど、自治体などの公共機関でプロモーション理論を取り入れるなら、どういう方法が考えられるだろうか。僕としては、「ラダー・オブ・エンゲージメント」の考え方が面白かった。

消費者に対して、少しずつ接触する機会を設け、徐々に知識や理解を深められるようにサービス設計すること。このサイトの説明が、概念的にわかりやすい。最初は情報に触れてもらって、直接接触して、共同作業して・・・・という感じで少しずつ階段を昇っていけるようにする。

What is the community engagement ‘ladder of participation’? : North Yorkshire County Council

 

昔「感性のマーケティング」を読んだときに、スターバックスが消費者を「育てていく」という考え方を知って、それがすごい記憶に残っている。つまり、いろんなレベルの人にリーチできるチャネルを用意しておくことと、消費者に少しずつステップを登ってもらうようにすることが重要なのだ。

ソーシャルサービスやモバイルの発展は、コミュニケーションコストを劇的に下げている。Facebookがない時代では、誰かから「いいね!」というリアクションをもらうことにも一苦労だったわけで。

 

 

この一冊で、最近のプロモーションに関する動向はわかりやすく整理されているし、未だによくわからない「Facebookページ作ってブランディングしましょう」的な宣伝に説得力が乏しいことがよくわかるだろうと思う。