龍馬伝があるから、非常にタイムリー。ドラマのイメージともリンクして、おもしろかった。三菱財閥というのが、どのように出来上がったのか興味があった。本の内容は、初代弥太郎が成り上がり、2代目、3代目と続き、第二次大戦後に財閥解体される4代目まで。
成り上がり方は、非常にわかりやすく、経営学の教科書のようだ。
目次
第1章龍馬を支えた商売の天才、岩崎弥太郎(治世の能吏、乱世の姦雄
弥太郎、入牢すほか)
第2章弥太郎の野望―政府との果てなき闘い(日本国郵便蒸汽船会社との激闘
勝負をかけた台湾出兵ほか)
第3章温厚沈着な経営者、岩崎弥之助(順良忠実な岩崎弥之助
豪傑弥太郎の温厚な補佐役ほか)
第4章久弥と小弥太の拡大経営(久弥という寡黙な三代目
三代目久弥の拡大経営ほか)
初代・弥太郎。
乱世の中、郵船業を行うことになる。時代にマッチしていることが追い風になるのだけれど、それだけではない。
徹底した顧客志向を推進したこと。組織を強靭で柔軟にするため、高学歴の人材を積極的に採用すること。
契機を見逃さないこと。一見すると、契機に見えない場合があるが、それを見逃さず掴んでいる。
(台湾出兵によって国内事業が疎かになる、という考えがライバル企業にあり国の要請を断ったのに対し、三菱は快諾。これによって、多額の助成金や船の貸出など、国の支援が得られることになる。)
2代目・弥之助。
初代が立ち上げた事業を、多角化戦略で推し進めていく。事情によって、弥太郎が立ち上げた郵船事業は、国内企業と合併し、三菱の手を離れることになる。(結果的には三菱グループに戻ってくることになるのだが。)
これを教訓としたのか、一事業では母体が揺るがないよう、鉱山や重工業など、いろんな事業に投資するようになる。
また、初代と異なり、政治的バランスへの配慮があったのも注目。弥太郎は特定の政治家を支援したが、そうなると、政治家が追われたときの代償も大きい。支援するにしても、バランスを保つこと。
3代目・久弥。
多角化戦略で組織が巨大化すると、非効率になる。そこで、現在でいう事業部制をこのとき取り入れている。独立採算制にして、人材登用も各組織で行うようになった。また、その当時は発展途上だった重工業分野に、積極的に投資したそうだ。先見の明というのも経営者には求められる。
4代目・小弥太。
岩崎家個人の所有、という位置づけから明示的に脱却するため、株式会社化する。三菱は、初代から「三菱は国のために」という意識が強いらしい。第一義は国のため。事業利益は第二義。第二義はどこまでいっても第二義なのであって、第二義のために第一義がおそろかになってはならない、という言葉(記憶はちょっと曖昧)がある。企業は公器、という理念が一貫している。
初代から通して、スタートアップ⇒拡大戦略・多角化戦略⇒事業部制による組織の効率化⇒株式会社化による市場からのガバナンスの強化、という組織の流れが教科書のようで面白い。
また、顧客思考や、外的要因とのバランス、人材登用の考え方など、経営に関する本でたくさん出てくる要素が、この物語にはある。これが現実の話しと思うと、理論を超えて、一層面白く感じる。
ちなみに、戦後の財閥解体から財閥グループは再度結集を強め、今でもたくさん溢れている。「三菱」という名前が入っていない有名企業もあって、結構面白い。
三菱グループ – Wikipedia