この本を読むと、会社の仕組みを作るのが上手な人なんだろうな、ということが伺える。いろいろ奇抜に感じる制度が多いけれど、何とも合理的な考えに基づいているのがわかる。
会社にお金を残さないことの合理性
本のタイトルにもある通り、できるだけ内部留保を残さないようにするのが会社のルールなのだそうな。利益が上がったら、社員にボーナスを与え、それでも余ったら値引きして顧客に還元する。
これのどこが合理的か、といえば、会社全体として残る金額の違い。会社の利益には法人税がかかり、従業員の所得には所得税がかかる。この2段階の税を最小にするためには、法人税をゼロにすることが合理的なのだ。
相当単純化したシミュレーション。最終的に社員に残る金額が多くなるのがわかる。
(参考:法定実効税率 – Wikipedia、所得税 – Wikipedia)
目から鱗。税金を支払うことが良いか悪いか、ということではない。制度の中で、いかに社員の満足度を上げるかを考えた末の方法だと思う。
完璧な仕組みはない、という前提に立つこと
いろいろ面白い会社の仕組みが紹介されているけど、その前提は「完璧な仕組みなどない」ということ。それを理解した上で、会社の価値観に賛同できる人が来てくれるのが良いと謳っている。
会社の評価をアバウトに行うと公言することも、評価基準に照らし合わせるよりも、一緒に働いていればおのずと優秀な人はわかる、という考えに基づいているし、全員の力量はやはり差があり、稼ぐ人が稼げない人を養っているのが組織の実態であるが、それを厳密に推し量ることなど現実的ではない、という。
人を評価することは、組織として非常に重要なことだと思うけれど、「何のための評価であるか」ということを改めて考えるべきかな、とも思った。社員のモチベーションを上げること、会社全体に納得感を持たせることが評価の目的であるなら、曖昧な点を残したって大丈夫なんだろうな。
完璧な仕組みではなく、みんなが納得でき、現実的ではないことに力を注がないこと。それが、経営する立場から重要なことなのだ。
重要なのは組織のモラルを醸成すること
メガネ21では、従業員の給料は社内で公開されているし、会社の事業内容などもオープンらしい。隠すのは社員を信頼していないから。信頼すれば、オープンにした方が活発な議論が進む。経営に対する社員のチェックも入る。
情報をオープンにすることと、社員のモラルは組織の両輪である、という表現が本の中であったけど、なるほどと感心する。情報をオープンにする仕組みがあっても、社員にモラルや関心がなければ、情報は何も活用されずに過ぎていく。情報をオープンにすることが経営や行政でよく問われるけれども、それと同じくらい、それを受け取る側のモラルも重要なんだなあ。
社会の中で当たり前と思っていることも、本質を考えればこんなにもユニークで合理的な仕組みができあがるんだと感心した。