「高学歴大工集団」をつくる平成建設のビジネスモデル

建設業界は未だに3Kというイメージがあり、若い人材が業界に入ってこないと言われています。しかし、テレ東でやってる「ガイアの夜明け」に出ていた「平成建設」は、東大などの高学歴な人たちがこぞって「大工になりたい!」と就職してくる会社だそうです。

そのテレビを見ていて、俄然興味がわいたので、創業者であり社長である著書の「高学歴大工集団」を読みました。

 

平成建設の特徴

いろいろ面白い特徴があるのですが、簡単にいえば、全てが建設業界のセオリーの逆をいく「カウンター・カルチャー」的な存在です。

  • 大工は外注せずに内製化
  • 大工は専門工事で分けるのではなく多能工化
  • 大卒以上の高学歴新卒者を積極的に採用

これらを実現するための、様々な考え方や施策が本の中には書かれていました。

 

内製化のメリット

大工を内製化する、ということは、下請け業者に出さず、全て自社で行ってしまいます。それは、顧客との距離が近くなることになるので、利益幅が大きくなるという財務上のメリットもありますし、内部のスムーズな連携やOJT等を含めた教育によって、高い品質と作業効率の両方を実現することができるようになります。

良いことずくめのように思えますが、今の建設業界の構造を考えると、不思議に思えてきます。

 

内製化が良いのか、アウトソーシングが良いのか

内製化が良いのか、アウトソーシングが良いのかというのは結構いろんなポイントで議論になったりします。経済学では、これを取引コストで捉えます。コースの定理として有名ですね。

元請け企業からすれば、いつでも安く市場(外部)から調達できる状態であれば、内製化する理由がなくなります。しかし、市場から調達するより内部で育成なり製造した方が安くなるのであれば、内製化した方が得だということになるわけです。

つまり、「外部との取引コスト>内製化のコスト」であれば、アウトソーシングする方が得ということになります。逆であれば、内製化した方が良いということになるわけです。

これまでの建設業界は、元請け企業から多重な下請け構造を作り、アウトソーシングし合うことで仕事をこなしてきました。平成建設という存在は、それとは違う方向に進んでいるというわけです。

建設業の下請け比率というのが統計にあります。それをグラフでみてみましょう。

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(参考:国土交通省「建設工事施工統計調査報告(平成23年度実績)」)

これをみると、右肩上がりで上昇してきた下請け比率が、完成工事高の下落とともに横ばいに変化しました。このような状況で成長していくためには、自分が元請けになるか、下請けの中でもパイを増やすしかありません。いずれにしても、競争力を高めないと厳しくなってきました。

 

内製化するにあたって困難なポイント

「内製化が有利なら、そうすればいいじゃない?」と思うかもしれませんが、そうは簡単にはいきません。いくつか理由を挙げます。

 

多様な業務領域をカバーする必要がある

例えば家一軒建てるにあたって、カバーしなければいけない領域は多岐に渡ります。建設業の許可業種は28に分かれていることからも、多くをカバーしなければならないことがわかります。

建設業許可の28業種とは?

またそれ以外に、デザイナーや現場監督なども必要になります。これらを考えると、専門性を高めながら、業務領域も拡大しなければいけません。人間が産業を発展させてきたのは、分業を実現することで、それぞれが作業効率を高めたからこそです。そういう前提を考えても、内製化が必要だからやろう、というのは勇気がいることです。

 

労働集約的であり繁忙/閑散を調整しづらい

建設というのは一時的なプロジェクトであり、人材が欲しいときにはとても必要になりますが、仕事がないときはやることがありません。

多能工化することによって、それをカバーしているわけです。生産性も上がりますしね。

製造業でいう、ライン生産とセル生産の関係と同じです。

一方で、セル生産方式を実現するためには、一人あたりの作業範囲が広くなるため、作業者が高いスキルレベルを有した多能工になる必要があります。作業者への教育時間がかかるため、作業者が頻繁に入れ替わるような流動性の高い環境には適しません。

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ここで書かれている通り、多能工化するためには有能な作業者が不可欠になるので、高学歴な学生を採用することに合理性があるわけです。

 

人を育てるということには時間がかかります。外部から調達しやすい状況があり、かつ仕事の繁忙/閑散に波がある状況で、育成して内製化するということは、とても時間がかかることです。こうやって見ると、平成建設はとても困難な道を選択し、そして高い経営手腕で成長されてきたんだと思います。

本書では、社長の営業力が高いことがうかがえる記載が随所にあります。こういう点も、内製化を支える重要なファクターとして働いてきたと推察します。

また、ローコスト住宅の普及に伴う質の低下に対する懸念や、若手人材不足のこれからを考えると、内製化によるサービス品質の向上は、時代の追い風かもしれません。

 

岐阜県の建設産業

随分前にはなってしまいますが、平成20年における岐阜県の建設業に関する分析資料がありました。

www.pref.gifu.lg.jp/kensei-unei/seisaku-plan/choki-koso/kenkyukai/shoraikoso-kenkyukai.data/200226-2.pdf

これを読むと、その当時から20代の就業者が少なく、新たな担い手をどうやって作っていくかが課題に挙げられています。これから少子化に伴う人出不足は深刻になってきます。今後どうなるんでしょう。

 

以上です。

こう書いてみると、平成建設のアプローチは合理的にみえる一方で、とても参入障壁が高いビジネスモデルといえます。この状況で経営を行うのはとても難易度が高いんじゃないでしょうか。

人材不足に悩まされる建設業にとって、注目される理由がよくわかります。