顧客が熱狂するネット靴店 ザッポス伝説―アマゾンを震撼させたサービスはいかに生まれたか
ダイヤモンド社
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なぜザッポスが今注目されているのだろう。靴をネット販売するベンチャーであり、アマゾンが買収した企業だ。CEOである著者は、企業を存続させるモノは企業理念であることに、創業してしばらくしてから気づく。また、従業員を「家族的」に親しいスタンスで組織を形成しようとする。(本書ではこれをTribeと表現している。)
進化した家族的経営
書いてある内容に特に目新しい内容はない。ビジョナリー・カンパニー2を引き合いに出して、ザッポスの価値観に合う人を採用する仕組みを築いていく。「この企業に合うかどうか」というアプローチは、どの企業でも採用時に行っていると思うが、ザッポスの場合は自社のカルチャーを強化することが、採用時の「合う・合わない」のフィルターを強化することにつなげているようにみえる。
また、社員に対しオープンであることも特徴だ。例えば、ソーシャルネットワークと企業及びその社員の付き合い方が問われているが、少なからず情報を囲ったところで流出し、広く伝播してしまう可能性は高い時代なのは間違いない。なので、基本的には積極的に情報をオープンにして、誠実であることが、結果的に企業リスクを下げるとともに、クチコミなどメディア戦略上もプラスに働く。
積極的に情報公開を行っていくスタンスは、「日本でいちばん社員満足度が高い会社の非常識な働き方」で書かれている内容にも重なる部分が多い。
これは単なる組織への帰属意識に頼った集団形成ではなく、オープンでありながら、軸であり求心力となるカルチャーで組織を成立させるものだ。カルチャーをくっきり浮かび上がらせ、それを強化することが重要なポイントになる。
長期的幸福を追求する企業になる
本の終わりには、幸福論に関する見解が述べられている。報酬アップによるモチベーションアップは一時的ですぐに薄れ、利益追求を目的とすることには自ずと限界が生じる。(幸福論に関しては、HAPPIERが詳しい。)
人は自分の成長を実感し、人とつながりを感じ、大きな目的の一部になっていると認識したときに幸福を感じるようだ。ザッポスでは、仕事や組織の制度を、この幸福の観点と照らし合わせて設計している。
自分の組織は、どれぐらい人の幸福感に沿って進められているだろうか。月曜会社に行くのが楽しみになるには、どうしたら良いのだろうか。
ザッポスは、単なるベンチャーの成功物語ではないし、顧客サービスの優れたノウハウを持った企業、というだけでもない。年功序列にも成果主義にも疲れた人々が、組織における新しい何かをこの企業に感じ取っているからこそ、注目されるのだろう。