経済小説として有名な「ハゲタカ」に、中小企業をテーマにしたストーリーがあるって知ってましたか?
[amazon_link asins=’4478029377′ template=’Original’ store=’tob-22′ marketplace=’JP’ link_id=’d038d231-6049-435d-b2d4-3a9273388a65′]
中小企業診断士を持つ僕としては、これは読んでおこうと思って読んでみた次第です。
あまりネタバレになるのは良くないので、読む上での前提知識として知っておくと、より一層面白く読めるだろうと思う情報を書いておきます。
まずはあらすじから。(Amazonから拝借しました。)
2007年9月、東大阪の中小メーカーマジテック創業者にして天才発明家の藤村登喜男が急逝する。通称“博士”の彼こそ、芝野健夫に事業再生家として歩むきっかけを与えた恩人だった。芝野はマジテックを救うべく、大手電機メーカー・曙電機から転じて奮闘する。しかし、後継者問題やクライアントからの締め付けなど、ものづくりニッポンを下支えする町工場に降りかかる難題と、自己の利益を優先する金融機関の論理に翻弄され、苦境の渦に飲み込まれていく。再生浮上のきっかけをつかんだと思った矢先、リーマンショックが発生。想定外の余波に襲われ、絶体絶命のピンチに陥る。捨て身の最終戦を前にして、鷲津をも巻き込んで、芝野は決死の反撃を決断する―。『ハゲタカ』シリーズ本編の裏に秘められてきたストーリー。
というわけで、東大阪の中小メーカーが舞台です。
舞台となっている「東大阪」はどういうところか?
東大阪というのは、大田区と同じように、製造業を営む中小企業が集まる場所として有名です。「中小企業白書」でも、その動向が記載されているほどです。そういう中小製造業が集まる場所として、大田区、浜松市、東大阪市が代表的で、それらの事業所数、従業者数は、こうなっています。
(出所:2010年版 中小企業白書)
どんどん事業所数も従業者数も減少していっているのがわかります。東大阪市でいうと、20年の間に3000ほど事業所数が減少しています。
「スパイラル」は、そういう減少傾向に歯止めがきかない状況の中で、どうやって生き延びていくのかというのがテーマにあるのです。
創業者の高齢化に伴う事業承継の問題
「スパイラル」は、マジテックという企業の創業オーナーが亡くなるところからストーリーが始まります。中小企業の場合、経営者が亡くなった後にどうやって事業を継続していくのか、というのが大きな課題になっています。戦後から高度経済成長を通じて勃興してきた数々の中小企業も、創業者が高齢化し、引き継ぐ先を考える時期に来ているのです。
ただ、候補者が見つからない、準備をちゃんとしていないなどの問題で、うまく引き継げず途方に暮れる企業がいるのです。
またしても中小企業白書から引用しますが、中小企業では後継者の決定状況として、ちゃんと後継者が決まっているのは3~4割です。また、「候補者がいない」というのも2割弱あるのが現状です。
経営者候補を育成するのにも期間が必要です。候補者をちゃんと見定め、しかるべきタイミングに備えて準備をしておかないと、いきなり創業者と同じ振る舞いを求められても難しいので、経営が一気に傾いてしまうリスクがあります。
とはいえ、すぐに都合よく候補者が見つかるわけでもないので、国も様々な支援を行っていますが、苦しい状況を抱えているのが中小企業の問題というわけです。
製造業をとりまく新しいパラダイム
製造業は、グローバル化の進展によって大きく状況が変化しました。
かつて、高度な摺合せと技術が必要とされる「垂直統合型」を得意としていた日本は、高い品質と安い価格で成長しました。しかし、グローバル化とIT化の進展に伴い、製造部品をモジュール化し、それを組み合わせる「水平分業型」が隆盛してきました。
「水平分業型」では、どんどん製品が陳腐化するサイクルが早い世界でも負けない開発力と、安い製造コスト、それを実現するための大きな資本力が求められます。日本の製造業、特に中小企業は、そのパラダイムシフトに置いていかれた格好になっています。
上記の構造について、参考になる資料がありましたので、リンクを貼っておきます。
製造業のグローバル競争構造の変化と産業政策への課題(PDF)
本書では、そのような苦しみの状況から、さらに新しいパラダイムシフトを迎えようとしている流れが描かれています。著者は、恐らくそこに活路を見出したのでしょう。
これ以上はネタバレになるので、本書を読んでもらえばと思います。
最後に、著者のこの「スパイラル」に関するインタビューから引用しておきます。
今、日本に最も足りていないのは、職人技ではなく、技術や自分たちがかつて開発した特許をもう一度よみがえらせ、全く別のものを作り出せるプロデューサーです。若い職人を育てるために技術を継承したとしても、実はそれだけでは何も生まれません。
『ハゲタカ』著者・真山仁さん「中小企業再生の難しさを描きたかった」|THE PAGE × DIAMOND ONLINE|ダイヤモンド・オンライン
中小企業は難しい状況に置かれているのですが、そこに必要なものはオリジナルなものを生み出せるプロデューサーである、ということです。
[amazon_link asins=’4478029377′ template=’Original’ store=’tob-22′ marketplace=’JP’ link_id=’35ceffe0-5b0e-40b1-920d-a1967691c63e’]