ナレッジマネジメントを加速させる「場」のつくり方

最近、オックスフォード大学から「あと10年で消える職業」というのが発表され、注目を集めていました。

オックスフォード大学が認定 あと10年で「消える職業」「なくなる仕事」702業種を徹底調査してわかった  | 賢者の知恵 | 現代ビジネス [講談社]

コンピューターの進展によって、これまで人間が担っていた作業が機械に代わられてしまうというのが主旨になっています。そういう中で、人間はアイデアを創造し、付加価値を付けて仕事をしていかなければいけません。そして、そのために情報を素早く共有し、創造的なアイデアを事業に転換していくための組織はどう作るべきか、というのは新しい組織の課題になっています。

そんな中で、「知識経営のすすめ」という本の中で、ナレッジマネジメントの代表的なSECIモデルに従って、組織に知識を浸透させていくための「場」をつくる具体的な内容が書かれていました。

SECIモデルは、こんな感じです。

SECI

この各フェーズに応じた「場」の特徴を、ひとつずつ紹介していこうと思います。

 

「共同化」の場

「共同化」とは、誰かの暗黙知が別の誰かの暗黙知として伝達されることを指します。そのためには、明確な形ではなく、いろんな会話や情報の触れ方から、様々な情報を受け取れるような「場」が必要になります。

「知識経営のすすめ」では、以下の通り書かれています。

創発場顧客との接触の場、あるいは社内でのトップの歩き回り、休憩室や喫煙室での雑談、あるいは、アフターファイブのパーティなどが、そうした機能を果たす場合もあるでしょう。それは経験、思いなどの暗黙知を共有する場です。

昔から、「タバコ部屋で仕事は決まる」と言われることがあり、僕はタバコを吸いませんが、一時期真剣にいろんな人と雑談することを理由にスモーカーになろうか考えていました。それぐらい、雑談から生み出される意見交換、アイデアの創出は重要なわけです。

また、ヒューレット・パッカードは、経営者の歩き回りなどオープンなコミュニケーションを生み出す企業文化を作り出しました。これは、「MBWA(マネジメント・バイ・ウォーキング・アラウンド)」と呼ばれています。

参考:日本HP HPの歩み-1940年代

知識の共同化を促進するためには、このようなフラットで気軽なコミュニケーションを実現するための「場」を作ることが求められます。

 

「表出化」の場

「表出化」とは、暗黙知から形式知へ転換するフェーズです。そのためには、各自が持っている暗黙知が柔軟な形で発想され、表現される場が重要になります。

「知識経営のすすめ」では、以下の通り書かれています。

対話場積極的なプロジェクト・チームの「場」です。概念創造の場です。各自が暗黙知を対話をつうじて言語化・概念化していくための場です。また、対話場には、きちんとしたミッションがなければなりません。ここでいう対話は、お喋り、あるいは逆に、理詰めのディベートではなく、建設的対話、ディスカッションです。

ここで重要なのは、言語化・概念化です。それこそが機械ではなく人間ならではの強みです。そのためには、アイデアを生み出しやすい環境を作り出すのが有効です。雑談ではなく、でもかしこまった会議でもない。その中間のような、フラットに意見を出し合える場です。

ブレインストーミング、ワールドカフェなど、生産的かつ創造的にアイデアを生み出せる会議方法があります。

 

「連結化」の場

「連結化」は、形式知が整理され、組み合わされるフェーズです。そのためには、各自が持っている形式知を集約できる場が必要になります。

「知識経営のすすめ」では、以下の通り書かれています。

典型的にはサイバー・スペース、ヴァーチャル・スペース(仮想空間)上の場、たとえばイントラネットやグループウェアですが、そこで形式知を相互に移転、共有、編集、構築する機能が重要なエッセンスになります。

具体的に、ICTを使うことが指されています。確かにイントラネットやグループウェアなど、ICT技術や形式知となった情報を整理、蓄積しているのに向いていると思います。

ひとつ付け加えるのであれば、最近は社内SNSが活発になっており、新しいコミュニケーションや情報共有の動きが生まれています。Yammerなどのチャットツールを活用することで、よりフランクに情報を共有したり、ネット上で議論することも可能です。「○○さん、お疲れ様です」からはじまる決まり文句を省略したり、スレッドに気軽に書き込む、という行為によって、情報を共有するハードルはぐんと下がっていると思います。

 

「内面化」の場

「内面化」は、形式知を暗黙知へ転換するフェーズです。形となった知識を、本当の意味で人に理解してもらい、新たな知識習得を促すことが重要になります。

「知識経営のすすめ」では、以下の通り書かれています。

実践場たとえば学習の場、あるいは最近重視されてきた企業大学(コーポレート・ユニバーシティ)のような研修のための場といった制度的なものが含まれます。また、ビデオ会議室やプレゼンテーションルームといった物理的な場もあれば、ネットワーク教室のように物理的・仮想的の混合した場もあるでしょう。

形式知を改めて研修しなければいけないのは、文脈を含めて理解してもらう必要があるからだと思っています。知識は断片的にみれば「情報」ですが、その背景や業務における位置付けなどの「文脈」を理解すると、本当の意味で使える知識になっていきます。そういうのを伝えるのに、文章や画像などの情報だけでは限界があり、人が伝えるのがいまだに有効だからだと思っています。

ただ、上記にも書いてある通り、ビデオ会議、ネットワーク会議など、人が伝達するにしても効率的に行えるICT技術は実用レベルになっています。東進衛星予備校のビジネスモデルなんかもまさに、少数のスーパー教師が効率的に多数の生徒に知識を伝達する仕組みを構築していてすごいな、と感心します。

 

4つのパターンごとに必要な「場」を整理してきました。目的に応じて、情報が集まり伝達するスポットをつくることは、ナレッジマネジメントを推進するリーダーに求められます。僕がこれを整理した理由は、実際の組織の中で、これらに該当するような場がどの程度作られているのかを考えてみたかったからです。個人的には、新しいヒントが見えました。

 

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