Google会長であるエリック・シュミット初の著書として話題になった「第五の権力」は、これからもっとインターネットが普及していった先には、どういう社会が待っているのか示唆してくれます。
この本を読んで、「統治機構の運営がインターネットのせいでどんどん難しくなっている」と感じました。ここでいう統治機構とは、国や地方自治体もそうですし、企業などをイメージしています。集団を形成し、ルールのもとで統制する機構のことです。
コンシューマライゼーションが予測不能をもたらす
2007年頃から「コンシューマライゼーション」という言葉が聞かれるようになりました。「ビッグデータ・アナリティクス時代の日本企業の挑戦」では、コンシューマライゼーションをこう表現しています。
コンシューマライゼーションは単に「技術導入の変化」だけでなく、私はもっと大きな意味があると考えています。それはコンシューマライゼーションは「将来予測を難しくしている」ということです。 コンシューマライゼーションの重要な点は、政府による制御が利かないということです。軍が研究する技術であればすべての動向は政府が把握することができます。
つまり、インターネットの普及によって、民間企業や一般市民が先に新しい技術・製品を手にしてしまい、デファクトスタンダードが作られていきます。統治する側としては、これほど厄介なものはないですね。
インターネットが始まるまでは、企業が投資した技術・製品の方が進んでいましたし、コントロールしやすいものでした。それが、企業が使っている製品より個人が使っている製品の方が便利で使いやすいものになっています。これが、管理する側に対して「予測不能」な状態をもたらすわけです。
新たな統治のかたち
今はアメリカを中心に、インターネット網が張り巡らされているのですが、国によっては自由に大量な情報を与えることを規制したいと思うところがあります。エジプトの失敗事例などもこの本には書いてありましたし、少し前にトルコが発表した「ttt」構想も、まさにインターネットを分断し規制しようとする流れです。
トルコ、独自URLのttt検討 wwwやめて管理強化:朝日新聞デジタル
日本に住んでいると、あまり実感できない状況ですが、ソーシャルメディアなど自由な情報の流通は、統治する側の対応を難しくしている面はあるのでしょう。
一方で、新しい統治のアプローチも生まれています。それがビットコインです。厳密にはビットコインに代表される、ネット上での「権利の移転」に関する証明方法です。
ビットコインが注目されているのは、仮想通貨が目新しいからではありません。「貨幣の信用」を国家などの統治機構が主体にならなくても実現できることを、デジタルな仕組みによって実証したからです。
ベンチャーなどがこぞって、いろいろな仕組みの仮想通貨を生み出していますし、今後は貨幣にかぎらず様々な「デジタル取引」に関するビジネスが生まれていくんだろうと思います。
結局、本を読んで感じたことは、先行きが見えづらい世の中になっているのは間違いないなっていうことと、新たな統治の仕組みや規制が出てくる中で、企業としてもうまく順応していくことが求められるということでした。国の制度が変わるときこと、大きなビジネスチャンスが生まれるのが世の常です。