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ビッグデータが新しい課題解決アプローチとしてビジネス上注目されていますが、課題解決アプローチはそれだけではありません。
「行動観察」というアプローチは、データ分析や論理的に考えるだけではなく、新しい発想によって課題を解決するためのひとつの方法です。IDEOというデザインコンサルタント会社が、行動観察によって問題を解決する手法をとっています。
地下鉄の自販機の売り上げをアップさせた、IDEOのユニークな行動観察調査手法 – Feel Like A Fallinstar
そして、行動観察をより理解するための一冊が本書です。
行動観察は仮説をつくるために行うもの
本書は行動観察のエキスパートが書かれた体験と、それを裏付けする理論やアプローチを説明するものです。行動観察というのが、なぜ注目に値するアプローチなのかは、この言葉から理解することができます。
では、なぜ行動観察という手法が注目されているのか?その理由は「経験を科学すること」が重要になっているからだ。
「経験を科学する」という表現が何となくピンときづらいかもしれませんが、行動観察は、人間が何となくやる行動をつぶさに観察することで、その理由や背景、解決策などの仮説を導くことを目的とします。単純に行動を観察して何かヒントを得よう、というだけではなく、行動を観察して得られた結果と、認知心理学や社会心理学などの知識を組み合わせて、「この行動を人々がとる理由はこうで、もっと良くするためにはこうすれば解決するはずだ」という仮説を組み立てることに、行動観察の目的があるわけです。
そこで必要なのは、人々の行動を「ストーリー」として捉える力です。「なぜ、この人はこういう行動をとるのか」ということを、理由や背景などを合わせてストーリーとして構築する力が求められます。
ビッグデータとはある意味対極的な課題解決手法
ビッグデータは、全量データを分析することで、因果関係ではなく相関関係で答えを導くことができると言われています。「なぜ起こるのか」を考えなくても、「実際起こっている」という関係性が導ければ良いという考えもできます。
一方で行動観察というのは、人が実際に行動を観察するわけですから、おのずと観察データに限界があります。統計学でいえばほとんど有意にならないぐらいのデータでしょう。しかし、それでもひとつの有効な手法と考えることができます。
それは、「深く知ることで、仮説をつくる」からです。対象を深く知り、人間の想像力を高めて、洞察を得ることで、新しい何かを生み出すことができます。少ないデータから仮説を組み立て、課題解決を図ります。
ビッグデータを否定するものではありません。アプローチが異なる、ということと、それぞれに得意とする分野が違うということです。行動観察は、データ化しづらい領域(店舗での人の動き)などに向いているのだと思います。実際、本書で登場してくる例も、それが多いです。
実際に「行動を観察することで、問題が解決できるのか?」と思っていましたが、本書では、ひとつひとつのアプローチや、著者の実際の悩み、解決するまでのプロセスが細かく書かれているので、「行動観察とはこういうものだ」ということが、読書を通じて理解できると思います。
ということで、いろんなことを課題意識を持って観察すること、それをストーリーとして想像することが、新しい課題解決手法を生み出すきっかけになるでしょう。